切なくて、もどかしいのは何故?広人ver~
分かっているつもりだった。それとも、分かっていなかったのか。
『自分は犯人という穢れた存在』にあることが。
本当に悪いのは、兄貴のほうだ。それを信念に今まで警察の手から逃れてきた。
そして、さらに自分を勇気づけてくれたのは、千夏の存在だった。
『貴方は犯人じゃない』と。『広人は悪くないでしょ』と。
『私はいつでも傍にいるよ』と。千夏は更なる光だった。
しかし、千夏までもが、それは勘違いなのだと教えられたような気がした。
千夏は、自分の全てを理解してくれていると思った。
怒りの気持ちは無かった。千夏のことを怒ろうとか自分は好きで逃亡者になった訳では
ないと怒鳴りつける気持ちも無かった。
ただ、寂しかった。
千夏に自分のことを受けられていると思っていたが、そうではなかったのだ。
本音を思わず口にして、慌ててフォローした・・・、というような具合だろう。
千夏とは、たくさんのことを話し合った。
冗談、真面目な話、自分は成人になったら選挙は誰に投票するか、などなど。
その話の中心に、自分達はどうなっていくのかということが置かれていた。
千夏は言ってくれた。『広人は悪くないんだからさぁ、広人の疑いが晴れたら、世界一
素敵な結婚式を挙げようね!!』
『私だけは、広人のことを信じているからね!!』
その言葉は嘘だったのであろうか?心の中が深い闇色になる。
信じたかった。でも、信じられなかった。
子供のころから、お前は悪者だという目で見られていた。
この世の正義に追われていた。自分は何もやっていなかったのに。
時々、こう思うときがある。
『何故、自分は追われているのだろう』と。
自分は何もしていないのに。ただ責任を押し付けられただけなのに。
それと、こうも思う。
『自分は誰にも、心を開いていない』のではないかとも。
千夏には自分の全てを開いているような気がした。いや、そう思い込んでいただけ
なのかもしれない。
子供のころから、自分という人間を信用してくれた人間なんていなかった。
嫌悪、あるいは哀れみ、まるで自分をウイルスのように扱っていた。
それから俺は、他人のことを信用できなくなっていった。
『人が死にました』――――それが何だってんだ?俺はもっと辛い思いをしているのに。
『人が自殺しました』――――死にたい奴は、さっさと死ねよ。後で自分が後悔するだけだぜ?
なんてしか関心を持っていなかった。
そんな俺が笑顔で笑って話せるようになったのは、勝弘と千夏のおかげだ。
無論、『人の死』に対しての考え方が変わった。
『人が死にました』――――悲しい。何故死んでしまったんだ?その理由は?
『人が自殺しました』――――俺もそういうときがあった。死んでしまいたいと。
でも死ねなかった。大切な人たちに出会った。その人はそういう
人達に会わなかったんだな。元気になれよな。
そういう考え方を二人に教えてもらった。
だからこそ、その大切な人に言われた言葉はどれも重量感がある。
もちろん、さっきの千夏の言葉も。ショックを残していった。
千夏に言われた事は――――ただ、寂しく、悲しいだけだ。
ふう、やっと来れました。時間の合間を縫って、ね・・・(笑)
なんか今回の内容は地味でした。そう思った方、申し訳ありません。
話もだんだんクライマックスへと近づいてきています。
ちゃんと完結できればいいのだけれど。