懇願するだけで
さて。日にちは過ぎて、千夏の誕生日。
「ほえぇ、今日ね、ウチの誕生日・・・・・」
部屋の中に飾られているカレンダーを見て、千夏はホッとため息をついた。
去年は家族で楽しい日であったが、こんなプラネタリウムっぽい神秘的な場所で
過ごすのも、悪くはないのかもしれない。
千夏はベッドに倒れこんだ。
「はぁ~・・・。なんか退屈のような」
ということでカラオケ機能を出して、歌ってみた。
「踊る君を見て 恋が始まって 貴方の髪に触れ 私ができること
何だか分かった」
「今逢いたい 貴方に 伝えたいことがたくさんある ねえ逢いたい
逢いたい」
「愛だの恋だの わざと避けてた 振り回されて流されただ繰り返す」
「あ~私の恋はぁ~南の風に乗って走るわぁ~」
とにかく歌う。歌いまくる。
コンコンコン。誰かが私の部屋のドアをノックした。
「あぁ~青い風~切って走れあの島へ~♪」
私は熱唱していたことで顔を赤くし、玄関へと走った。
「はあ~い?・・・って広人。なんかあった?」
「あ~、え~と、・・・・・」
とても言いにくそうだ。手を後ろに回して何かを隠し持っている。
「ちょっと?何隠してるの?」
「え、いや、・・・・・」
「ったく、モゴモゴしてるなんて広人らしくない!」
千夏はそう言って広人の手から何かを奪った。
「え、あっ、オイ!!」
「ふっふ~ん、何だろう?」
手の中のものをマジマジと見てみる。小さな箱だ。
いったいこんな箱に何が入っているというのか?
「広人、見ていい?」
「いいよ。もうバレちゃったし」
首をかしげながら箱にかかっていたリボンを解く。
箱には有名アクセサリーショップの名前が書いてあった。
「何これ?」
広人はまだ気づかないのかという視線を千夏にぶつける。
箱のふたをあけた。
中に入っていたのは――――――。
「鍵・・・・・?」
銀の鍵の形をしたネックレスだ。適度な大きさで、付けやすい。
「可愛い・・・・・」
「一応、誕プレってことで」
広人が恥ずかしそうに言う。
「これ、鍵だけ?」
千夏が問いかけると広人は首にかかっているネックレスを千夏に見せた。
「俺のは錠のネックレスでね・・・」
そういうと、広人は自分のネックレスをはずして、飾りの錠の穴の部分に
千夏の飾りである鍵を鎖した。鍵はちゃんと穴にはまり、広人は得意げに
言った。
「つまり・・・対ってわけだ。多分、ペアネックレスだよ。
気に入ってくれた?」
千夏は心の中が広人への想いで満杯になって思わず広人に抱きついた。
「わっ!千夏!」
千夏は広人に抱かれながら涙を零した。
「ありがとう、ありがとう・・・」
広人も何も言えなくなってただ千夏の背中を優しく叩くことしかできない。
千夏が尋常ではない喜び方をしてくれたので、広人も嬉しかった。
広人は千夏の泣きが収まってから肩を叩きながら震える唇に自分の唇を押し付けた。
千夏はただ目を瞑っているだけである。
広人は口を離してから、千夏に向けて微笑した。
千夏は広人のことを愛しくてたまらなくなって、ずっと見つめているばかりだ。
「もう一回、一回だけ・・・」
千夏が広人にお願いする。広人はそれに応えてキスをする。その繰り返しだった。
ちょっと吐き気がしてきたような。いや、言っちゃ悪いけど、
広人と千夏のいちゃつきにね。ちょっと・・・。
でも二人が幸せなら、いいやぁ。 by姫ちゃん