喧嘩、そして仲直り
千夏はいろんなところを回り、感心した。
本当に綺麗で千夏の曇っていた心も晴れにしてくれるようで、気持ちよかった。
「もうそろそろ戻ろう。全部回ったみたいだし・・・・」
千夏はそう呟き、獅子座の部屋まで戻ろうとして、廊下を歩いていたときだ。
「おーい。千夏?」
ふいに声が聞こえた。
勝弘は自分のことを『さん』付けで呼ぶし、となると残りの人物は・・・・。
視界にその人が目に入った。
驚きで目を見開く。
「広人・・・・・?」
気持ちかまわず声が出た。
広人はちょっと気まずそうな顔をすると、背筋を伸ばしてこう言った。
「話があるんだけどさ・・・」
話?話って何のこと?まずその思いが頭を過ぎった。
「話・・・?」
心とは裏腹にやけにしっかりした自分の声が千夏の耳に聞こえた。
「うん。ついて来てくれないか?」
そう言って廊下を歩き始めた。私はモニターをドアの外に置いて、広人の後ろを歩き始めた。
「話って何?」
千夏が広人に聞いた。
「・・・・・」
広人は、答えなかった。
「ここが俺の部屋。入って」
広人が鍵を開けて千夏を中に入れる。
千夏の獅子座と同じように星座が天井に映し出されていた。
「話・・。なんだけど」
「うん」
「俺、謝りたくて」
千夏はポカンとした。まさか謝られるとは思っていなかったのだろう。
ましてや責めることなど、広人の頭の中にもなかった。
「え・・・?」
「お前、勝弘のこと好きだったのか?」
自分の発言に一番自らが驚いた。自分が言いたかったのはこんなことじゃない。
なのに口が勝手に動いて止まらなくなる。
「どうして・・・?」
千夏は憤慨しているようだった。そのような気持ちは全くない。
広人を好きでい続けているのに。なんでこんなこと言われなくちゃいけないの?
「あのカッコイイ勝弘はお前にキスしたんだもんなぁ。そりゃ誰だって惚れるよ」
うんうんと頷きながら広人は言った。
「俺よりカッコイイしね。もちろん千夏は俺より勝弘を取るよな?」
「何それ・・・」
「だったら行けよ。愛しい人の元へな」
「いい加減にして!私をからかってるの?」
「そんなことない」
なんでだ。なんで口が動いちまうんだ。こんなこと言いたいわけじゃないのに。
これではまた千夏を傷つけてるだけだ。何も変わらない。
「広人は・・・広人は私が勝弘のことを好きになれって言うの?」
「好きも何もないだろ。もともと好きなんだから」
「広人は・・・っ。車で言った言葉を覚えてないの?」
千夏の心は今にも引き裂かれそうだった。
謝るとか言って、実際勝弘と付き合えというのを促してるだけ。
「何だったっけ?」
本当は覚えてる。自分から告白したくせに、忘れろといっているようなもので。
だけどそれを言うのを口が許さない。口が違う、といっている。
「覚えてないの?だったら言うわよ。貴方が先に私に言ったのよ。
『俺、千夏のことが好きなんだけど』って。あれは嘘だった?
私はそれを信じちゃったのね。OKした私が馬鹿だったわ!」
「ふん。お前は勝弘とキスしたんだ!それで俺はそれを見た!
勝弘の体を突き放せばよかったのに、お前は放さなかった!」
「それは勝弘の力が強かったからよ!放したかったけど、振り払えなかった!」
千夏の声はもう半分涙声だった。
「そんな言い訳したって通じねえよ」
「貴方は私に広人のことを諦めろって言うの?あなたから言って来たくせに!」
「そんなこと知らない!お前が俺のことを好きだろうと、好きじゃなかろうと、
俺には関係ない!」
違う。本当は千夏のことが好きなんだよ。
なんで俺には関係ないんだ?自分で言った事を何故考えている?
そうだ。
炎のようにメラメラと突き上げてくる気持ちは『嫉妬』なんだ。
勝弘に対しての。
千夏とキスしたというその事に。
ものすごい嫉妬を感じているんだ、自分は。
「広人なんて嫌い!最悪!」
千夏は床に崩れて泣き始めた。
「違うよ・・・・・」
広人が声を絞り出した。
「俺は・・・・・。お前のこと好きだよ・・・」
やっと口が喧嘩心を解いたようだ。もう言っていいと頭の中で誰かの声がした。
おれ自身のかもしれないが。
千夏は広人のほうを振り返った。
その頬にはいくつもの涙の跡がついていた。
「え?」
「好きだよ。ちゃんと。千夏のこと」
「ねえ。騙してるの?」
「違うよ。あれは・・・。勝弘に対する嫉妬だよ・・・。
言いたくなかったのに、口が勝手に動いて・・・。あんなこと言った後に
こんな事言うなんて、馬鹿だよな」
千夏はその言葉を聞いて安心したらしい。
広人のほうに近寄ってきた。
「本当に・・・?騙してない?」
「騙してない。好きだよ。ちゃんとな」
千夏が広人の胸に飛び込んだ。
広人は慌てて千夏の体を支える。
「広人に言われて・・・。悲しかったの・・・。広人のこと、諦めろだなんて・・・。
信じられなかった・・・・・」
ヒック、ヒックと千夏が嗚咽した。
「ごめんな。本当に。酷いことを言った・・・」
広人が千夏を抱き締める。
千夏は嬉しそうに、しかしくすぐったそうに体を捩らせた。
「なあ・・・・・。ここに来て、できなかった事やろうぜ」
広人が千夏に囁いた。
「なあに?」
千夏が聞き返してくる。
「キス」
広人のその言葉に千夏が顔を赤くした。
「え・・・っと」
「ここに来たらさせてくれるって言う約束だろ」
「う・・・・・」
「もしかしてしたくないのか?」
「そんなわけないじゃ・・・」
言いかけた千夏の口を広人の唇が塞いだ。
甘いキスだった。それは、二人の初キスであり、記念すべきキスだった。
時間がとまったような感覚――――――。
やがて二人は唇を離した。
そして笑いあい、広人が口を開いた。
「もう、絶対に、絶対放さない。ずっと一緒にいよう」
「うん。ずっとよ。一生・・・」
こうして二人は容疑者と人質という異様な関係で再び結ばれたのであった。
っていうか千夏が広人に心開くの早くない?と思った。
でもまたそこで気まずくさせてたら作者の「てめーらいつまで気まずく恋愛ごっこ
やってるんだよ!!(怒)」という怒りの鉄拳が飛んできますので(笑)
だから無理やりにでもくっつけないと・・・。接着剤ででも!
by姫ちゃん