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Heavens Under Construction(EP5)  作者: 高山 理図
Chapter.3 Under clinical trial in virtual space
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第3章 第5話 Black swan◇

 私と二人きりだと先輩風を吹かせるエトワール先輩も、素民の前で私と話すときは猫かぶってる。

 天使役の演技中は、終始敬語で私を色々手伝ってくれるんだ。

 なので今は先輩がサチを引き受けてくれてる。


 先輩はそういう役どころだ。

 天使って、神様の使いっていう意味だよね。

 だから先輩も私に使われて(サポートして)こその天使であってそれが先輩の仕事。

 先輩後輩の間柄なんだけど、あべこべだな。

 私は先輩に対して非常に申し訳ない気持ちになりつつ、インフォメーションボードで進路を取ってざくざくと歩みを進める。

 サチはエトワール先輩の黒い翼をいじり倒してた。

 先輩は意に介しない、といった顔をしていても内心迷惑そうだ。


『神様、少しお尋ねしたいのですが』


 先輩は恭しく、遠慮がちに私に話しかける。

 素民の前ではおっとりとした上品な口調なんです。

 私と同じく監視員に査定されているので、先輩もニコニコと演技だ。

 でも先輩気づいてますか? 

 演技とはいえ、その笑顔危険ですよ、ユイさんがくらっときてるじゃん。

 不倫とかやめてくださいよ、先輩にはリアル妻が、ユイさんにはハクさんという素敵な夫がいるんですからね。


 先輩の監視員は西園さんではなくて黒澤さんだ。

 前に先輩のインフォメーションボードを見せてもらったら、赤いサングラスをかけ赤い水玉のネクタイをして黒いスーツを着た髭の立派な細身のナイスミドルが葉巻ふかしながらモニタ見てた。

 健康志向なこのご時世、葉巻吸う人って珍しい。

 私が眉間に皺を寄せて彼を見てたら『よう、頑張れよ新神! 期待してるぜい!』と激励してくれた。

 私は『はい、頑張ります』と返事したけど、何で監視員が髭もじゃのオッサンなんだろう。

 よくモチベ維持できてましたねエトワール先輩。

 贅沢言わせてもらうと、男性じゃなく女性監視員に見守ってほしい。

 私ら性別ないですけど、多少テンション違うと思うんだよ。

 職務に対する意欲向上にもつながるよ。

 こんなこと言ったら昨今のご時世、大変なことになるかな。


 黒澤さんが誰に似てるかって百人に訊いたら百人とも板垣退助だって言いそう、ってぐらいお髭が立派だ。

 サングラスかけてるんで顔はよく分からない。


 挨拶して、髭のことを褒めといたら気をよくしてたけど、黒澤さんをおだてても先輩の減給は是正されないらしい。

 なら私の給料で補填してくださいって黒澤さんに申し出たら、認められないって。


『おめえさんは気にしなくていいんだぜえ? エトワールの失態なんだからよう。テメエの尻はテメエで拭えってんだ』


 がっはは、と豪快に笑い、大量の煙を吹きながら黒澤さんはそう仰る。

 べらんめえ調で話す人とか初めて見たよ。

 名前つながりで世界のクロサワに影響受けちゃった人なのかもな。


『するってえと何かい? これからエトワールが口を滑らす度におめえさんが身銭を切るってェのかい? やめときな、すっってんてんになっちまうぜぃ?』


 何か黒澤さんと話すとどっと疲れたので、適当なところで引き下がった。

 先輩への補償が認められないなら、現実世界に出て個神的に色々お礼をするからもういいよ。


 黒澤さんは二十七管区の、甲種二級以下の五人もの構築士の監視員をやってるらしい。

 人数が多すぎて黒澤さんの目が行き届かないから、担当する構築士たちの仕事内容も”ざっと見”らしい。

 私だけですか、西園さんにモニタ前で張りつかれてマンツーマン監視なのは。

 ある意味役得ですね。

 神様役は厚労省に重用されて、何から何までサポートして見守ってもらえてる。

 心強い。


 千年も生身の人間を監禁状態にするんだから、精神疾患になったり後遺症が出ないように、だって。

 他の目的もあるみたいだけど。

 治験がどうとか言ってたしな。

 黒澤さんの背後を歩いて横切って行った人がモニタ越しに見えた。

 見えたのは首から下だけ、青のネクタイでグレーのストライプの入った黒いスーツを着た、スリムな人だったな。


 二十七管区プロジェクトマネージャーの伊藤嘉秋いとうよしあきさん、らしい。

 事実上、現実世界側から二十七管区全ての構築士、構築士補佐たちを束ねるトップだ。

 伊藤プロマネって呼ばれてる。


 アガルタに入って九年目。

 西園さんのモニタの背後には一度も映ったりしなかったから知らなかったよ。

 伊藤プロマネが、私らが勤務中に飲食していいか決める偉い人なんですかね? 

 って聞いたらそうだって黒澤さん。

 ちょ! 伊藤プロマネー! 赤井から大事なお話があるんですと呼び止めたかったけど、私は西園さん以外とは話せないらしい。

 なるほど……今後は伊藤プロマネのご機嫌を取ればいいわけなのか。

 お中元の贈り先が増えたな。

 なんて思っていると……。


『神様、私の話を聞いていらっしゃいますか?』


 先輩が私を呼んでたんだ。


『すみません、少し考え事をしていました。どうしましたかエトワールさん』


 先輩に対する言葉遣いは、先輩は部下だから命令口調でいいって言ってくれたんだけど、何となく丁寧語にしてる。


『旅程は二日とのことですが子供もいますし、徒歩では皆さんも大変でしょう』


 大変ですけど、他に交通手段ないですし。


「大丈夫だよえとわあるさま、皆、そんなに疲れてないよ!」


 満場一致で君が言うなだよサチ。

 歩かずに先輩に背負ってもらって楽してる君が言っちゃダメでしょ、と私は苦笑しながら


『そうですね、ですのでゆっくりと休憩を挟みつつ往こうと思いますよ』


 遠足気分で、まったり行けばいいと思う。


『ではひとつ、私が一肌脱ぎましょう』


 先輩、いきなり気合を入れて腕まくり。何が始まるんだろう。


『すぐに着きますので、私の背に乗ってください』

「サチ、えとわあるさまの背中に乗ってるよー」

「どういうことです?」


 ラウルさんは首をかしげてる。


『それは名案です。お願いしますエトワールさん』


 先輩の変身能力を活用するって意味ですよね。

 変身して巨大化した先輩の背に乗ってグランダまでひとっ飛び! ってことですよね。

 いやでも先輩何に変身するつもり? 

 ギメノグレアヌス翼竜形態だったら皆が阿鼻叫喚だ。

 相当邪悪な姿してたしサチは大泣きだ。

 先輩はサチを背から降ろしユイさんに預けると、ふわりと飛翔して湖面に着水。


 そして……水の上でインフォメーションボードを操り、生体構築バイオコンストラクトモードを立ち上げてる。

 自分の体を生体構築で魔改造して血管や神経系も全部繋ぎ換えてるらしい。

 確かに、医師じゃないとそういうの分かんないよね。

 適当にやっても生物として成り立ってないと即死するし熟練の技だ。

 危険かつ繊細な技術だよ。

 自身への魔改造が進むにつれ先輩の体は白く発光しはじめ――。

 そして先輩の身体は忽然と消えた。

 湖水にぷかぷかと優雅に佇んでいたのは……全長八メートルぐらいの巨大な黒鳥コクチョウ! 


 白鳥じゃないよ黒鳥だ。

 形や大きさはまんま白鳥だけど色が黒のやつ。

 赤いクチバシに褐色の瞳、風切羽根の先っちょはちょびっと白い。

 凛々しいお姿です。

 黒鳥コクチョウってのは白鳥の突然変異とかじゃない。

 れっきとしたオーストラリアの固有種でハクチョウ属の仲間だ。


 どうでもいいけど、私の脳内で「白鳥の湖」のBGMが再生された。

 違うか、黒鳥の湖か。


 素民の皆は手荷物を落して面食らってる。

 アイも怖気づいて尻尾を丸めてる。

鳥やモフモフの獣がいない世界だから、鳥は初見だ。

ぷかぷか浮かんで気持ちよさそうですね先輩、井の頭公園のスワンボートみたいじゃないですか! 


”スワンボートっておい赤井君……”


 黒鳥姿の先輩が長い首を「2」の字にした。

また心の中読まれてたよ、先輩の堪忍袋の緒、いつか切れるなこりゃ。

てか何ですかそのリアクション、鳥形態だから怒ってるのか恥らってるのかリアクションが分かんないよ。

 でも怒ってますよね。てなわけで私は即謝罪。


”すみませんすみません!”


 おちょくってるつもりはないんです! 美しいですよ先輩! でもその愛らしさといい、癒しキャラ具合といい……どうみてもスワンボートなんです!


”まあいい、早く乗りなさい。本当は白鳥にしたいところだが、懲戒中なので黒だ”


 先輩、懲罰で翼を黒くされてるからハクチョウになれないんだな。

 というわけで先輩の背に乗せてもらう私たち一行。

先輩は翼を湖岸に差し伸ばして桟橋の代わりにしてくれた。

男性陣からおっかなびっくり先輩の黒い翼の上を歩き背中に乗船。

アイも乗船して体を丸めて先輩の背で寝た。

女性陣は喜んで先輩の背中で飛び跳ねてる。

こらこら、人……トリの背中では静かに!


 素民と私を乗せ、エトワール号はカルーア湖沖へと出航。

私達は先輩の背中の上に背中合わせに座り、ずり落ちないように羽根をつかんでるけど、乗り心地は快適だ。

サチが先輩の首に自作の赤いマフラーを巻いて蝶ネクタイみたいにした。

蝶ネクタイ付きスワンボートとか……いいよ、すごくいい。私が一人、鳥形態の先輩に胸キュンしてたのは内緒だ。


「おー! エトワール様、とても速いです! こんなに速いなら、エトワール様と同じ形のものを作ってみましょう」


 ハクさんが木の皮のメモ用紙に先輩の全体像をスケッチしてる。

ハクさんはここ数年、造船にも興味を示してたからな。

自作のイカダみたいなの作ってたけど、推進力がないから川上から川下に流されるだけだった。

しまいにゃ、紐の強度が足りなくてイカダが分解してバラバラ事件になってた。

 最近では上流で伐り出した木材を川に流して運んで建材にしてるみたいだけど。

でも先輩のシルエットと同じ船にしたらやっぱりスワンボートができてしまう……。


『ハクさん。しかしエトワールさんと同じ形のものにしても、人力で漕がなければそれは進みませんよ』


 と指摘すると、ハクさんが顎を弄りながら唸ってた。


「では長い棒で底をついて進めばいいと思います!」

『このカルーアの水たまりはとても深くなり、棒では底に届きませんよ』

「えー、そうなんですかー!?」


 棒一本で意気揚々と沖合まで行ったら、急に深くなって戻れなくなって沖で立ち往生するよ。

ハクさんには久しぶりの宿題だ。

オール的なものを思いついてくれればいいんだけど。ハクさんがヒントを下さいというので


『あなたが泳ぐとき、どうやって水中を進むのですか?』

「手でかいて進みます」

『ではその手の役割をするものがあれば推進します。あとでエトワールさんの脚を見せてもらってください。参考になりますよ』


 大ヒントだ。

あとはハクさんや大工さんたちで案を練って考えてね。

うちの集落は造船技術だけまだ紀元前レベルだ、帆船的なものもない。

釣りがメインだったし湖の向こうに渡ろうなんて発想がなかったからそこは仕方ない。

でも湖の対岸のグランダとの交易で造船技術が発達してくれたらと私は密かに期待している。

物資の輸送にも便利ですからね。


「こんな手触り、今まで知らなかったです! あったかいのでここでずっと寝たいです~」


 私とハクさんの問答の横で、メグたちはキャーキャーはしゃいで感動してる。

いわば天然の羽毛布団だ、気持ちよくないわけがない。

というわけで私もごろんと寝そべる。皆で「川川川川川」の字だ。すごく具合がいいです先輩!


「エトワール様、あとでこのふわふわした黒いの、もらっていいかな? これで掃くと仕事がはかどりそうだ」


 束ねて羽箒にして使うようだ。

コンビニ店員じゃないんだから。

あまりむしりすぎないであげてくださいね、先輩だって北京ダック状態になると辛いと思うんだ。


『ありがとう、エトワールさんのおかげで快適です!』


 私今まで猫や犬的なモフモフばかり追求してきたんだけど、羽毛という一大ジャンルを忘れてた。

鳥様に失礼でしたよ。

先輩の背中、ふわっふわです。

スワンボートの硬いベンチなんかメじゃないよ先輩の背中の方が断然快適ですよ。なにより……


『漕がなくていいですからね! 楽ちんですよ』

”……。もっと他に言うことはないのかね”


 褒めてるんですよ、ベタ褒めてるつもりなんです! 

しかも先輩の羽根、艶々してて綺麗だし、いい香りがしますよ。

柔軟剤とか使ってます? 


”しかしスワンボートか。あれは意外といい運動になるよな。先週妻とこいできたばかりだ”

”……”


地味にダメージを喰らう私。

二人して何イチャラブな週末を過ごしてるんですか。

 こっちは彼女いない歴もうすぐ十年目ですよ。

 あれ、そういえば変身しても先輩普通に私と話せてる? 

 レベルアップしたんですね、頭脳が人間でよかったですよ。

 トリ頭でグランダに降ろしてもらえなかったりすると困る。


”おいこら、トリ頭て! どこまで私をおちょくる気だ君は”

”ひー、滅相もないです!”


 そんなかけあいをしつつ先輩のお尻のあたりに座ってたら。

 仕返しとばかり、プリプリっと尾羽をかわいらしく振られて水中に落された。

 鳥フェチ悶絶の腰つきだ。


「エトワール様ああ、止まってくださいー! あかいかみさまが落ちました―!」


 メグが驚いて私に手を伸ばしてくれてるけど


『キュウン、キュウーン』

”あ、落ちたかすまん”


 先輩が長い首を上に伸ばして一声鳴いた。

 今の絶対わざとでしたよね? 

 ずぶ濡れになりながら飛翔で追いかけて、落とされてなるものかと今度は先輩の首の付け根のあたりに居座る。

 赤い嘴でつつかないでくださいよ。

 先輩の背に乗り、時間にして十五分ほど。


「グランダの岸が見えたー!」


 先輩も鳥形態のまま首を伸ばして懐かしそうにグランダを見てる。

 でも先輩が壊滅状態にしてしまったんですよね。

 先輩の悪逆非道な攻撃によって崩れた城壁は数日のうちにすっかり取り払われ、城塞都市グランダは風通しがよくなっていた。

 オープンで明るい雰囲気だ。

 前の閉鎖的でどんよりした雰囲気は一掃されている。


「赤井――! 待っていたぞー!」


 キララがばしゃばしゃと湖に駆け込んできて、大手を振って出迎えてくれた。

 彼女、以前のように黒衣ではなくて白衣を着てる。

 ギメノさんから改宗して、赤い私のテーマカラーに因んでのつもりなのか、赤いネックレスを首からかけてる。

 そういうとこ、けなげだ。


 グランダに近づいてくるスワンボート、いや黒鳥姿の先輩を見て、グランダの皆も岸にわらわらと集まってきてた。

 私達は上陸して荷物を降ろし、グランダの復興を手伝う大工さんたちをその場でグランダの民に紹介。

 ハクさんたちの住まいも提供してもらい、好意的に受け入れてもらった。

 人型に戻った先輩も『初めまして、赤い神様の使いの者です』と挨拶してたけど、どことなく後ろめたそうだったな。

 でも皆は先輩が元ギメノさんだったなんて知らない。子供たちを中心に懐かれて、過去の悪事もばれずほっとした顔をしてた。


「建物のことはいいので、まず病人を癒して下さい! 神様のお越しをお待ちしていたんです」

「薬花で体の痛みは取れるのですが、やはり辛いままです。赤い神様、どうかお願いします」


 と、皆はさっそく神頼みだ。

 とはいえ、私は鉱毒に冒された民を救う方法を心得てはいない。

 ここからの領分は現実世界でも内科医であり生体構築を駆使する先輩の仕事だ。

 専門なことは専門家に任せたいところ。


『私ではなく、今回はエトワールさんがあなた方を癒してくれます』

「家で寝ている病人を、たたき起こしてきましょうか」


 誰かがそう尋ねるとエトワール先輩、


『その必要はありません。寝ている病人はそのまま家で寝かせていてください』


 と頼もしい。

 一軒一軒癒して回るつもりなんでしょうか。

 でもその心配はなかった。


 先輩は手慣れた動作でインフォメーションボードを起動。

 私はすぐ横で先輩のボードを見学。

 メニュー画面の「生体構築バイオコンストラクト」を選び、「奪収スナッチ」モードを選択してる。

 メニュー画面内にはポップアップウィンドウが開き、人体の3Dモデリングが回転しながら表示されている。

 人体のうち、どこか奪収するパーツを選択しろってことだ。

 これ、もしかして「腕」とか選択したらその人の腕がもげちゃうような恐ろしいモードなんでしょうか。

 こわいこわい。


 奪収物質:カドミウム 

 奪収率:100%

 

 と入力し決定ボタンを押すと人体モデリングは消失し、対象選択の段となる。

 【 範囲指定 】/【 対象指定 】


 の二択が出た。

 先輩は範囲指定を選択し、先輩がぷいっと上を見上げるので私もつられて見上げると、グランダの街を覆うように赤い三次元グリッドが出現していた。

 メグたちも私たちにつられて見上げてるけど、きょろきょろして見えてないみたいだ。

 おや、サチだけぎょっとして腰抜かしてる。

 やっぱあの子は見えてるんだな、霊感が強い子みたいだ。

 上空にはX、Y、Z軸と表示がある。

 一つの格子は五メートル四方だ。

 彼は指先で空に立方体を描き、奪収スナッチを行うため適用範囲を絞り込む。

 細々と設定を終えた先輩はふう、と安堵のため息をつき……


【 実行 】


 すっと伸ばした指先で迷いなく実行ボタンを押す。

 すると一辺数キロの立方体の中にフラッシュが迸り、実にあっけなく、何事もなかったかのように奪収スナッチは終了。

 すげー静か。

 フラッシュも素民たちには見えていないみたいだ。

 サチだけはフラッシュが眩しかったのか、目をこすっている。

 一方の素民たちは先輩が何をしたのか分からず、きょとんとしてる。


「な、何か起こりましたか? 何も見えませんでしたけど」


 インフォメーションボードを閉じ、ぽかんとするグランダの素民たちに先輩は優しく微笑みかける。

 何気なくふわっと微笑んでるけど、懺悔の表情が見え隠れしてる。

 『長い間、苦しめてすまなかった』という先輩の心の声が聞こえた気がした。


『この地を蝕んでいた毒を抜き、人々と、そして大地の浄化を終えました。もう、苦しみはは去りましたよ』


 彼はそんな言葉で締めくくり、鉱毒病におかされた病人の治癒とともにグランダ全体の土壌、水源の浄化も一度にやってのけた。

 キララは首を傾げながら先輩のことをまじまじ見てたけど、初対面ではない気がしているみたいだ。

 先輩の正体、バレてはいないようだけど。


 この救済措置をもって、第一区画は本当の意味で解放されたことになる。

 甲種二級構築士、エトワール先輩。そしてグランダの民のみなさん。


 心機一転、共に新たな歴史を創り上げてゆきましょう。

 とか思ってたら……。


 異様な視線を感じ、はっと横を見ると、怪しい人と目が合った。

 あれ? 人!? 現代人!

 この人どこにいたの? さっきまで私の左隣、誰もいなかったのに……。


 私はぽかんと口を開け、しばし謎人物とお見合い。

 黒帽子をかぶり、黒いサングラスかけた黒スーツ姿の背の高い人が真横で無言で私のこと見てる。

 どこのエージェントですか? 

 何でここにスーツ着た人がいるのよ、ここマヤ文明あたりの文明レベルなのに。

 仮想空間中では現実世界のコスチュームは自重……って、この人身体が透けてる。

 シルエットとネクタイに見覚えありまくり。

 思わず声をかけようとしたら、彼は人差し指を立てて、しーっ、とやった。


 この人ヤバい……直視するにもヤバいくらいの神通力持ってる。

 彼の放つアトモスフィアっていうか気圧が半端ない。

 その力量はきっと私の比、エトワール先輩の比でもない。

 何千、何万人分ぐらいの神通力を秘めてる。


 まさか私がモンジャモンジャ言ってたから、真面目にやれとお灸をすえに来たとか――!?


 えーと、お初にお目にかかります。私赤井ですけど

 あなた様はもしや、伊藤 嘉秋いとうよしあきプロマネですよね? 

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