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悪役令嬢、婚約破棄されましたが、帳簿だけは正確でした  作者: 南蛇井


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シーン3:レティシア不在の空白

王都は、今日も静かだった。


石造りの回廊を、柔らかな靴音が進む。


聖女ミリアは立ち止まり、かつての執務室の扉を見つめる。


そこは、今は別の官吏が使っている。


整然としている。


書類は積まれ、机は磨かれ、香は淡い。


だが。


何かが足りない。


かつて王都には、ひとりの少女がいた。


レティシア。


公爵令嬢。


王太子の婚約者。


だが彼女の役割は、飾りではなかった。


対立を整理する者。


無駄を削る者。


決断の負荷を引き受ける者。


彼女は、声を荒げることはなかった。


怒鳴りもせず、泣きもしない。


だが会議の流れは、必ず前へ進んだ。


衝突が起きる。


彼女は沈黙を挟む。


論点を分解する。


優先順位を再配置する。


誰の面子も潰さずに、


誰かの責任を明確にする。


痛みを伴う決断も、最後は彼女が引き取る。


彼女は感情を消していたのではない。


感情を流していた。


怒りは滞らせず、


悲しみは沈ませず、


熱は燃料へ変えた。


王都は、揺れながら進んでいた。


今は違う。


会議は整っている。


言葉は柔らかい。


空気は穏やか。


幸福平均化の加護が、波を鎮めている。


均衡はある。


だが、流れがない。


議題は巡る。


だが進まない。


誰も衝突しない。


だが誰も背負わない。


決断は、重いまま机の上に置かれる。


誰も持ち上げない。


ミリアは中庭の池を見る。


水面は静かだ。


風もなく、波紋もない。


完璧な平穏。


だが底に沈んだ落ち葉は動かない。


澱が溜まる。


水は透明なのに、重い。


「……均衡だけが、残っている」


呟きは空に溶ける。


均衡は本来、動くためのものだ。


左右に揺れながら、前へ進むための。


だが今の王都は違う。


揺れない。


だから、進まない。


レティシアがいた頃。


衝突は痛みを伴った。


だが、その痛みは前進だった。


今は痛みがない。


代わりに、停滞がある。


水面は静か。


しかし底は淀む。


王都は壊れていない。


だが、動いてもいない。


そしてミリアは初めて思う。


不幸を均すだけでは、


国は回らないのかもしれない、と。

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