表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、婚約破棄されましたが、帳簿だけは正確でした  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/44

【第三幕】辺境の呼吸 シーン1:霧雨の町

辺境の朝は、いつも湿っている。


空は晴れきらない。

雨は降りきらない。


細い霧雨が、絶えず町を包んでいる。


石畳は乾くことを知らず、

踏めばわずかに水を含んだ音を立てる。


木造家屋は色を失い、

本来の塗装よりも一段くすんで見える。


煙突から上る煙も、まっすぐには伸びない。

湿気に押され、低くたゆたう。


人々の声も、同じだ。


高く響かない。


市場の呼び声も抑え気味。

笑い声は小さく、長く続かない。


怒号もない。


活気もない。


慎重に、生きている。


この町は、貧しくはない。


飢える者はいない。


だが“余裕”がない。


収穫は足りる。

けれど少し多い年には倉が湿り、穀物は傷む。


逆に少し少ない年には、皆で我慢する。


余剰は腐り、不足は忍ぶ。


誰かが損をするほどではない。


だが、誰も得をしない。


物資も、魔力も、人手も。


常にわずかに噛み合わない。


パン屋は昼前に売り切れ、

夕方には棚が空く。


薪は冬の終わりに足りなくなり、

春先に余る。


水路は流れるが、雨が続けば溢れ、

晴れが続けば濁る。


町は壊れていない。


だが整ってもいない。


呼吸が浅い。


吸う量と吐く量が、いつも少しだけずれている。


そのずれに、人々は慣れている。


「こんなものだ」


それが合言葉。


霧雨は今日も降る。


石畳は湿り、

木造家屋は黙り、

町は静かに息をしている。


まだ、整える者のいないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ