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悪役令嬢、婚約破棄されましたが、帳簿だけは正確でした  作者: 南蛇井


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シーン5:政治的影響

崩れは、まず数字に現れた。


次に、空気に現れる。


● 貴族の反応


昼の小会議室。


葡萄酒の香りと、低い声。


「最近、調整が雑だな」


誰かが、何気なく言う。


以前なら、こんな言葉は出なかった。


気づかれなかった。


気づく必要がなかった。


「公爵家は……意外と重要だったか?」


慎重な言い回し。


名指しはしない。


断罪は正しかった、という前提は崩さない。


だが疑念は混じる。


「いや、偶然だろう。人が変われば多少はな」


そうまとめる者もいる。


まだ確信はない。


断罪を否定するほどの証拠もない。


だが空気が、変わり始める。


“公爵家が強すぎた”という以前の論調が、


“公爵家は必要だったのでは”に揺らぐ。


評価は静かに反転する。


誰も公言しない。


だが目線が変わる。


王太子を見る目が。


宰相を見る目が。


国政を見る目が。


● 聖女の違和感


聖堂。


陽光がステンドグラスを透かす。


孤児院建設計画。


地方支援拡張案。


書類の端に、保留印。


「予算再調整のため一時停止」


侍従が申し訳なさそうに告げる。


「再開はいつになりますか?」


「……未定でございます」


聖女は小さく息をつく。


祈りは続けている。


民衆の支持も変わらない。


だが支援は、止まる。


以前は、滑らかだった。


申請すれば、動いた。


どこからか、整えられていた。


「……どうして?」


彼女は初めて疑問を持つ。


だが誰も答えられない。


答えられる立場の者も、答えを持たない。


あるいは――


答えに触れたくない。


■ 第二幕クライマックス

王都北門


夕刻。


北門上空。


王都を覆う結界が、わずかに明滅する。


一瞬。


光が揺らぐ。


それだけ。


破られたわけではない。


侵入もない。


だが、見えた。


目に見える形で揺らいだ。


門前の商人が顔を上げる。


衛兵がざわめく。


子どもが指をさす。


「今、光った?」


噂は広がる。


実害はない。


だが“見えた”。


見えてしまった。


王城に報告が入る。


アルドリックは窓辺に立つ。


遠くに、薄く残る結界の残光。


胸の奥が冷える。


数字ではない。


帳簿でもない。


目に見える揺らぎ。


その瞬間、初めて思う。


――自分の決断が。


――制度の歯車を、一枚抜いたのではないか。


だが。


その考えを、すぐに押し込める。


「再発防止策を急げ」


声は強い。


震えていない。


まだ認めない。


認めれば、崩れる。


威信が。


判断が。


自分が。



深夜。


執務室。


灯りは机上のランプのみ。


アルドリックは、静かに座っている。


机の上。


未押印の予算書。


整えられた文字列。


完成している。


だが、最後の一手がない。


彼は印章箱を開く。


中は、空。


再発行手続きは進行中。


だが未完。


その空白が、重い。


ただの木箱。


ただの制度。


だが今は、それが象徴のように見える。


あの夜の言葉が、蘇る。


「では来季予算案は、宰相閣下へ」


なぜ、あの瞬間、胸が止まったのか。


なぜ宰相が沈黙したのか。


彼は箱の内側を見つめる。


空白。


何もない空間。


そして思う。


「……彼女は、本当にただの令嬢だったのか?」


答えは出ない。


まだ。


だが崩れは始まっている。


静かに。


誰も叫ばず。


誰も断罪せず。


制度だけが、わずかにきしみながら、回り続けていた。

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