表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢、婚約破棄されましたが、帳簿だけは正確でした  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/26

【第一幕】断罪は制度である ――灰雨王国・王城大広間―― シーン1:準備されていた舞台

春季社交シーズン最終夜会。


灰雨王国では珍しく、雨は降っていなかった。

それでも空は薄曇りで、星はにじんでいる。


王城大広間の窓には、乾ききらない夜気が貼りついていた。


本来ならば今夜は祝祭だ。


来季予算発表前の顔合わせ。

貴族同士の思惑を擦り合わせ、

新しい季節に向けて穏やかに笑い合う――


そういう“政治の夜”。


だが、空気は重かった。


音楽は鳴っている。

弦楽器は正確に、丁寧に、音を刻む。


それなのに、誰も心から聴いていない。


談笑はある。

グラスは触れ合う。

笑みも浮かぶ。


だが、どれも少しだけ遅れている。


王家は財政難だった。


それは公にはされていない。

しかし貴族たちは知っている。


結界維持費は増大。

辺境の魔物討伐費も膨張。

穀物備蓄は想定より少ない。


帳簿はまだ破綻していない。


けれど、余裕もない。


貴族間の対立も、じわりと浮き出ていた。


古参派は言う。

「王家は弱腰だ」


改革派は言う。

「財務の透明化が必要だ」


そしてその中心にいたのが、

公爵令嬢レティシア・グレイヴェル。


彼女は王太子妃候補でありながら、

来季予算案の実質的な取りまとめ役だった。


名目上は助言。


実際は、調整。


誰もが納得する数字を、

静かに並べる役割。


だが最近、その均衡が揺れていた。


聖女ミリアの人気が急上昇している。


彼女の祈りは穏やかで、

争いを鎮める力があった。


王都は落ち着きを取り戻し、

民衆の支持は聖女へ向かう。


その分だけ、王太子アルドリックの存在感は薄れた。


剣は強い。

誠実でもある。


だが今の王国が求めているのは、

強さではなく、象徴だった。


そして象徴には、

わかりやすい“決断”が必要になる。


誰かが、責任を取る姿。


誰かを、切り捨てる姿。


空気がそれを欲していた。


音楽がひときわ大きくなる。


王太子が立つ。


視線が集まる。


まだ、何も起きていない。


それでも多くの貴族は、

薄く息を止めていた。


今夜はただの顔合わせでは終わらない。


何かが示される。


何かが整理される。


そしてその“何か”は、

もう決まっている。


舞台は整っていた。


あとは台詞を言うだけだ。


誰も止めるつもりはない。


誰も望んだわけでもない。


けれど、


この国は今、

象徴的な断絶を必要としていた。


そしてその役を与えられたのが――


悪役令嬢、レティシアだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ