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第7話:リザルト発表

※初めての方は【目次】から ep.1 推奨。なお ep.2 から異世界編(本編)です。


「ようこそお戻り下さいました。お帰りなさいませ、リア様、シン様」


 ギルドに入ると、カウンターで待っていた受付嬢が深々とお辞儀をした。

 マリエラさんでも、ユリエラさんでもない。


「本日はどの様なご用件ですか?」


「戻ったニャ、ルーエラ。クエスト完了報告をお願いするニャ」


「畏まりました」


 彼女はルーエラというらしい。本当に何人いるんだ、このドール姉妹。

 俺は背負っていた、泡を吹いて白目を剥いている大男ザキを床にドサリと下ろした。


「こちらに冒険者カードをお乗せ頂けますか」


 ルーエラが示したのは、カウンターに置かれている薄っすらと青く光るお盆のような装置だった。

 俺とリア、そしてピクリとも動かないザキのポケットから抜き取ったカードを、そのトレーに乗せる。


 ブォン。


 すると、空中にウィンドウモニタが浮かび上がった。

 デカデカと『RESULT』の文字。

 完全にゲームのリザルト画面だ。


 ==========

 Target: Goblin

 Count: 68

 Assessment: S

 ==========


 討伐した魔物の名前と数がカウントアップされ、それに伴って経験値バーのようなゲージがギュイイイイン!と音を立てて伸びていく。

 ゲージは一本では止まらず、二本目のラインも突き破った。


 ピロリン♪


『Rank Up!』


「おめでとうございます。規定の貢献値を大幅に超過したため、冒険者ランクがFからDに昇格されました」


「やった! いきなり2階級上昇だぜ!」


 俺は思わずガッツポーズをした。

 Fランク(見習い)から、Eを飛ばしてD(一般)へ。

 ゴブリンを絶滅させる勢いで狩り尽くした甲斐があったというものだ。


「……ところで」


 ルーエラが、その無機質な瞳を俺の足元に向けた。


「ザキ様の意識レベルが著しく低いのですが、大丈夫ですか?」


 彼女の視線の先には、口から泡を吹き、手足があり得ない方向にダラリと投げ出されたザキが転がっている。


「大丈夫です」


 俺は即答した。


「大丈夫ニャ。さっき広場で錯乱したから、麻痺毒を打って黙らせたニャ。生命活動に問題はないニャー」


 リアも平然と答える。

 あの後、「結婚するんだー!」と領主の娘に突撃しようとしたザキの首筋に、リアが隠し持っていた針を突き刺したのだ。

 お陰で事なきを得た。ナイス判断だった。


「ああ、一切なんの問題もないよ。こいつは寝れば治る」


「そうですか……。必要であれば治療師を手配も可能ですが?」


「お気遣いありがとうございます! でも結構です!」

「ありがとうニャ!」


 これ以上騒ぎを大きくしたくない俺たちは、満面の笑みで断った。


「承知しました。それでは、こちらはクエスト報酬と魔石買取精算金です。お確かめ下さい」


 ルーエラから革袋を受け取る。


「おお……ズッシリくるな」


 掌に心地よい重み。

 ゴブリン一匹の単価は安くても、六十八匹ともなれば結構な金額になる。

 これならしばらく食うには困らないし、ザキの新しい剣も買えるだろう。


「よし、帰るぞ」


 俺は報酬を懐にしまい、ぐったりしているザキの襟首を掴んだ。

 ズルズル……。

 床を擦る音と共に、肉塊と化した親友を引きずってギルドを出る。


 周囲の冒険者たちが「あいつら何者だ……?」「死体遺棄か……?」とヒソヒソ囁いているが、気にしないことにした。


 俺たちは夕日の中、新たな拠点であるクランハウス『風のしっぽ』へと帰宅した。

一方その頃。

 城塞都市アーデルハイドの中枢――領主館の執務室にて。


 コンコン、と重厚な扉が叩かれた。


「失礼します!」


「入れ」


 領主ベンクローム・アーデルハイドが許可を出すと、伝令の兵士が慌ただしく入室し、片膝をついた。


「ご報告します! 『魔の森』における警戒態勢が、『予兆確認』から『初動発生』に引き上げられました!」


「……始まったか」


 ベンクロームは眉間に深い皺を刻んだ。予想より早い。


「初動発生時の魔物は、アーデルハイド騎士団にて討伐完了しております! 幸い、市街地への侵入は許さず、損害は軽微です!」


「そうか、まずは重畳ちょうじょう。……で、報告はそれだけではないのだろう?」


 兵士の表情に、微かな戸惑いがあるのをベンクロームは見逃さなかった。


「はっ。……それと、ちょっと気になることがございまして」


「なんだ? 言ってみろ」


「はい。スタンピートの先触れとして、初期発生に多く見られるはずの『ゴブリン』が、ほぼ確認できなかったとの事です」


「ゴブリンがいない、だと?」


「はい。全体的な魔物の数も、想定よりかなり少なかったと報告を受けております」


「ふむ……」


 ベンクロームは顎髭を撫で、思考を巡らせた。


(別動隊が隠れているのか? いや、我が騎士団の索敵から逃れられるほどの知能が、下級魔物にあるとは思えん。では、今回は発生規模自体が小さいのか?)


 いや、それもおかしい。

 報告によれば、オークやウルフなど、他の下級魔物は多数確認されているのだ。

 生態系の底辺に位置し、最も繁殖力の高いゴブリンだけが「すっぽりと抜け落ちている」など、あり得ない。


(他の下級魔物が多く居るのに、最下級のゴブリンが少ない理由にはならんな……情報不足か)


 まさか、「たった二人の新人が、通りすがりで壊滅させた」などとは、夢にも思わないベンクロームであった。


「わかった。引き続き調査を続けよ。報告ご苦労! 下がってよい」


「はっ! ……あ、それともう一点、報告が御座います!」


 立ち去りかけた兵士が、思い出したように声を張り上げた。


「以前より打診していた援軍要請に、神聖教会がついに応諾! 教会の誇る精鋭『モントハーゼ騎士団』200騎を、すでにこちらに向かわせたと報告が入っております!」


「なんと!」


 ベンクロームが椅子から腰を浮かせた。


「ここ最近で一番の朗報だな! そうか、アリスセレーネ様がご尽力くださるか!」


 神聖教会の神敵討伐官、アリスセレーネ。

 教会内部でも最高位の武力持つ彼女が、この辺境都市のために動いてくれたに違いない。


「希望が見えてきたわ……。これなら、あるいは耐えきれるかもしれん」


 ベンクロームの顔に、久方ぶりに安堵の色が浮かぶ。


「以上です! ベンクローム卿、失礼します!」


 兵士が退室した後、ベンクロームは窓の外――魔の森がある方角を見つめた。

 ゴブリン不在の謎と、強力な援軍の到着。

 吉凶入り混じる情報の中、運命の歯車は確実に回り始めていた。


「ここだ」


 ワルダーさんが足を止めたのは、またしても冒険者ギルドの前だった。


「冒険者ギルド?」


「ああ。ギルドの地下は酒場兼、食事処兼、ギルド員の会議所になってるんだ」


 言われてみれば、入り口の脇に地下へ続く階段がある。

 降りていくと、そこは一階の静けさが嘘のように活気に満ちていた。

 ジョッキをぶつけ合う音、肉を焼く匂い、笑い声。


「まあ、飲み食いしながら情報交換をしたり、パーティーの戦術、作戦を話あったりする場所だ。そして何より、ここはギルドの管理下だ。酔い潰れても財布をスられる心配がない」


「なるほど、冒険者専用の社員食堂みたいなもんか。それはありがたい」


 俺たちは空いているテーブルに陣取り、エールと肉料理を注文した。


 一通り注文が出そろい、喉を潤したところで、ワルダーさんが真剣な顔で話を切り出した。


「さて……ザキの野望の話だったな。まず知っておいて欲しいのは、この領地は他の所と違い、少し特殊なんだ」


 ワルダーさんが地図を描くようにテーブルを指でなぞる。


「この国の最も西に位置するこの領地の先は、『魔の森』と呼ばれる広大な森が広がるのみだ。そこから数年から数十年に1度、『スタンピート』と呼ばれる魔物の雪崩(大暴走)が起こる」


「スタンピート……」


 さっき、リアが報告していたやつだ。


「それを防衛し、国へ魔物を漏らさないために建てられたのが、この城塞都市アーデルハイドだ。そのため、領主が治める街もここ一つだけ。まあ、小さな村は点在するがな」


 要するに、ここは国土防衛の最前線基地というわけだ。


「そんな過酷な土地だ。アーデルハイド家は代々、長女には『強い血』を取り込むという家訓がある。そのため、あえて最下級爵位である『騎士爵』であり続けているんだ。本来なら、これだけの兵力動員権を持っていれば伯爵クラスでもおかしくないのにな」


「強い血……騎士爵……」


 俺は顎に手を当てて考えた。

 爵位が高くなれば、国政や派閥争い、政略結婚に巻き込まれる。

 あえて下の位に留まることで、しがらみを排除し、純粋に「強さ」だけを求めて婿を取るということか。


「つまり……名声と実力を認められれば、平民だろうが冒険者だろうが、ワンチャンあるってことですか?」


「まあ、そうだな」


 ワルダーさんがニヤリと笑う。


「だが、次期領主の夫になるわけだ。武力だけじゃなく、政治経済の力も見ないわけじゃないからな。おそらく、性格や人望もな」


「だが、チャンスはあるってことだな!」


 ザキがテーブルをバンと叩き、目を輝かせた。

 ポジティブだ。都合の悪い部分は全部耳から抜け落ちて、「チャンスはある」という言葉だけを抽出している。


「いや、ザキ……」


 俺は呆れて、エールを一口飲んだ。


「今の説明が本当なら、お前にチャンスはないんじゃないか? 主に『政治経済』のあたりで」


「あ?」


「お前に領地経営ができるか? 税金の計算ができるか? 貴族との腹の探り合いができるか?」


「……」


 ザキが固まる。


「あと『性格』な。さっき不審者ムーブかましたばかりの奴が、人望を得られると思うなよ」


「ぐぬぬ……!」


 ザキは唸り声を上げ、ジョッキを一気に煽った。


「うっせぇ! 細かいことは後だ! まずは強さだろ! 強さなら誰にも負けねぇ!」


「はぁ……。まあ、その強さを見せる機会は、嫌でもすぐに来そうだけどな」


 俺とワルダーさんは顔を見合わせ、苦笑した。

 スタンピート。

 ザキの恋路がどうなるかは知らないが、この街を守りきらなければ、結婚どころか明日はないのだから。


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