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第6話:ハイテクすぎる冒険者ライフ

※初めての方は【目次】から ep.1 推奨。なお ep.2 から異世界編(本編)です。


 今日から冒険者ギルドで依頼を受ける約束をした俺は、朝早く、ドカドカという足音と共に叩き起こされた。


「おい! シン早く起きろ! 冒険者ギルドで依頼受けて大活躍だ!」


 枕元で大声が響く。

 俺は薄目を開けて、目の前で無駄に輝いている親友を睨んだ。


「……まだはえーよ。遠足前の子供かよ、お前は……」


 せっかく社畜から解放されて異世界まで来たのに、なんでこんな早朝から叩き起こされなきゃならんのだ。俺は二度寝の権利を主張したい。


「なに言ってんだ! 早起きは三文の徳だぞ! 行くぞ!」


 布団を引っ剥がされ、俺は渋々起き上がった。


 顔を洗い、昨日買った革鎧に着替える。準備を整えて一階のクランホールに降りると、そこでは既にザキとリア、そしてリーダーのワルダーが談笑していた。


「おう、来たな。お前たち、今日が初仕事だってな」


 ワルダーがコーヒー(のような黒い液体)を飲みながら、ニカッと笑った。


「がんばれよ。だが、どんな簡単なクエストでも気を抜くなよ? 油断が一番の死因だ」


「おう! わかったぜワルダーさん!」


 ザキが元気よく返事をする。

 ……本当にお利口さんなお子様だ。こいつの中身が五十歳のおっさんだとは誰も信じないだろう。


 ***


 ワルダーに見送られ、俺たちは冒険者ギルドへと向かった。

 朝の空気は澄んでいて気持ちいい。……が。


「あれ?」


 ギルドの重厚な扉を開け、中に入って違和感を覚えた。

 想像していたよりも、人が少ないのだ。

 昨日の昼間はあんなに賑わっていたのに、今は閑古鳥が鳴いているレベルだ。


「冒険者ギルドって、朝はもっと混んでると思ってたな……」


 いい依頼を求めて、荒くれ者たちが掲示板に群がっているイメージだったのだが。

 首を傾げつつ、カウンターを見ると、昨日対応してくれた受付嬢のマリエラさんの姿があった。


「おはよー! マリエラさん!」


 ザキが元気に手を振って近づく。

 しかし、彼女はキョトンとした顔でこちらを見た。


「……マリエラなら、只今3階資料室の整理を行なっておりますが?」


「へ?」

「は?」


 俺とザキの頭の上に、同時に疑問符が浮かぶ。

 目の前にいるのは、栗色の髪、知的な眼鏡、完璧なプロポーション。どこからどう見てもマリエラさんだ。声も一緒だ。


 フリーズする俺たちに見かねたのか、後ろからリアが助け舟を出した。


「彼女はユリエラにゃ。彼女達は『ドール』という種族で、地域で顔と背格好が一緒の珍しい種族にゃ」


「ドール……?」


「申し遅れました。わたくしは、アーデルハイド冒険者ギルド受付、ユリエラと申します」


 ユリエラと名乗った彼女は、機械のように正確な角度でお辞儀をした。


「冒険者シン様とザキ様ですね。以後よろしくお願いします」


「あ、はい。よろしく頼みます……」


 話を聞くと、このギルドにはマリエラさんとユリエラさんの他に、あと三人、全く同じ顔の姉妹(?)がいるらしい。

 五つ子なのか。


 ……異世界すげーな。こんな種族までいるのか。


「して、本日はどの様なご用件でしょうか?」


 ユリエラさんの事務的な問いかけに、俺はハッと我に返った。


「ああと、そうだった。俺たち、初クエストの依頼を受けに来たんだった」


 俺が言うと、ユリエラさんではなく、隣のリアが不思議そうな顔をした。


「依頼を受けに来たのかにゃ? ……じゃあ、なんでわざわざ冒険者ギルドに来たにゃ?」


「?」


 再び、俺たちの頭に疑問符が浮かび上がる。

 依頼を受けるためにギルドに来る。これ以上ないくらい論理的な行動のはずだ。


「クエスト受注なら、こっちだニャ」


 リアは懐から自分のギルドカードを取り出した。


「カードの裏を……ポチポチにゃ〜。ほら、出たニャ」


 ブォン。


 リアがカードの裏面(黒い鏡面部分)を器用に指でタップすると、空中にホログラムのようなモニターが浮かび上がった。

 そこには『薬草採取』『ゴブリン討伐』といった文字がズラリと並んでいる。


「えええええええ!?」


 俺は叫んだ。


「これ、ここから受注できんの!? てか、タッチパネル式!?」


「そうニャ。ギルドまで来るのは、換金の時か、暇つぶしの時くらいニャ。今はどこでも仕事が探せる時代ニャ」


 マジかよ。

 Uber ○atsかよ。リモートワークかよ。

 

「やばい……元の世界より技術が進んで無いか、これ?」


 俺は戦慄した。剣と魔法の世界だと思っていたら、IT化が進みすぎていた。


 ふと横を見ると、ザキが口を半開きにして、完全に停止していた。


「……ぽち、ぽち……?」


 彼の記憶にある技術は、三十年前――まだスマホも普及しておらず、インターネットが「ピーヒョロロ」と音を立てて繋がっていた時代で止まっている。

 目の前で展開される「空中ディスプレイ」と「タッチ操作」の意味が理解できず、脳の処理落ちを起こしているようだ。


「……おいシン。これ、テレビか? リモコンはどこだ?」


「ザキ……お前はもう、黙って剣だけ振っててくれ」


 俺は親友の肩を優しく叩いた。


 この世界に適応するのは、俺(元社畜・現代人)の方が早そうだった。


「お、これなんかカッコいい名前だぞ! じゃあ早速、これにしようぜ!」


 ザキがモニタの一角を指差した。

 そこに表示されていたクエスト名は――


『魔獣デッド・デボリッション・ザ・キル討伐』


「……は?」


 名前の殺意が高すぎる。

 字面だけで「即死」とか「解体」とか、ろくな意味が含まれていない。明らかにラスボス級、あるいは隠しボス級の響きだ。


「よし、『受注しますか?』……『はい』っと!」


「わーーっ!! ザキてめぇやめろォォォッ!!」


 俺は絶叫し、慌てて止めようと手を伸ばした。

 だが、ザキの指は既に光るボタンを押していた。


 終わった。

 異世界転生、二日目で終了。

 死因:親友の誤タップ。


 ――ピロン♪


 間の抜けた電子音が鳴り、無機質な音声が流れた。


『エラー。現在の冒険者ランクでは、この依頼は受注できません』


「……あ?」


 ザキがキョトンとする。

 俺は膝から崩れ落ちた。


「よ、よかったーー……」


 全身から冷や汗が噴き出した。

 心臓が早鐘を打っている。


「ナイス、冒険者ギルドのシステムさん……GJグッジョブ……!」


 もしシステムによる制限がなかったら、今頃俺たちは「デッド・デボリッション・ザ・キル(詳細不明)」の胃袋の中か、ちりになっていただろう。

 俺はゆらりと立ち上がり、ザキの胸倉を掴んだ。


「ザキ! お前なにいきなりベリーハードな依頼受けてんだよ! 簡単なのからって言っただろ!」


「えー? だって名前が強そうだったから……」


「名前が強そうなら敵も強いに決まってんだろ! 字面だけなら難易度『インセイン(狂気)』じゃねーか!」


 俺の剣幕に、さすがのザキも「す、すまん」と縮こまった。


「まったく……。リア、頼む。こいつに選ばせると明日がない。手頃なやつを教えてくれ」


「わかったニャ。ザキには任せておけないニャ」


 リアが呆れ顔で操作を代わる。


「初心者はこれニャ。『ゴブリンの討伐』。場所も街から近い森の入り口付近だし、練習には丁度いいニャ」


「ゴブリンか。……まあ、ファンタジーの基本だな」


「ちぇっ。雑魚かよー」


 ザキは不満げに唇を尖らせたが、俺とリアの視線に押されて渋々承諾した。

 こうして俺たちは、命拾いをしつつ(主にシステムのおかげで)、無難な初依頼を受けることになったのだった。


初仕事は思ったよりハードだった。


 ゴブリン退治のクエストを終えた帰り道。

 夕焼けに染まる街道を歩きながら、ザキは手元にある「元・剣だったもの」を見つめてぶう垂れていた。


「あーもー! ふざけんなよ! 途中で剣が折れるなんてついてねぇ!」


 彼の手には、剣のつかと、根本からバッキリ折れた刀身だけが握られている。

 安物だったとはいえ、鉄の剣だ。普通はそう簡単に折れるものじゃない。


「いいじゃねーか。お前、その一本でゴブリンを30体以上なぎ倒したんだぞ? 剣の方が過労死したんだよ このブラック持ち主め」


 俺は呆れて慰めた。

 ザキの剣速と馬鹿力に、初心者の剣が耐えきれるはずがなかったのだ。


「シンも異常だニャ。残りのゴブリン10体以上いたのを、全部素手で殴り倒したニャ。……あんた、本当に魔法使いかニャ?」


 リアがジト目で俺を見る。

 ローブ姿の男が、ゴブリンの群れに飛び込んで正拳突きで空を舞わせる光景は、確かに異様だったかもしれない。


「いやー……まだ瞬時に魔法が撃てなくてな」


 俺は言い訳をした。

 エーベに教わった通りイメージ練成を試みたのだが、『魔力を集める』→『イメージする』→『放つ』というプロセスを踏んでいる間に、ゴブリンが目の前まで迫ってくるのだ。

 殴った方が早かった。


「……ま、とりあえずクエスト達成だニャ。さっさと冒険者ギルドに行くニャ。依頼の受注はカードで出来ても、完了報告と素材の換金は直接窓口が原則だニャ」


「へいへい。飯代稼ぎに行きますか」


 俺たちは冒険者ギルドへ向けて足を速めた。


 ***


 街の大通りに入り、中央広場を通りかかった時のことだ。


「ん?」


 広場の一角に、大きな人だかりが出来ていた。

 ざわざわと騒がしい。


(まさか……また、ザキがやらかしたか?!)


 俺は反射的に冷や汗をかき、横を見た。

 ザキは折れた剣をブラブラさせながら、俺の隣を歩いている。

 ……よかった。こいつはここにいる。なら、あの騒ぎはこいつのせいじゃない。一安心だ。


「あれは……領主のベンクローム・アーデルハイト様の娘、セシリア様にゃ」


 リアが背伸びをして人垣の向こうを覗き込む。


「貧しい人たちへの炊き出しを、たまにしてるのを見かけるニャー」


「へー、炊き出しねぇ。貴族のお姫様にしては殊勝なことだ」


 俺も気になって覗いてみた。

 人混みの中心、湯気を立てる大鍋の前に、その少女はいた。


 金の髪を緩く編み込み、質素だが仕立ての良いドレスに白いエプロンを着けている。

 スープを配るその笑顔は、夕日を浴びて聖女のように輝いていた。


「へー……結構な美人さんだな」


 俺は率直な感想を漏らした。

 アイドルとか女優とか、そういうレベルを超えた気品がある。


「ん? おいザキ、お前も見――」


 同意を求めようと振り返った時だ。

 ザキが、石像のように固まっていた。


「……」


 視線は一点、セシリア様に釘付けだ。

 口を半開きにして、瞬きすら忘れている。


「ザキ? おい、どうした?」


 俺は目の前で手を振ってみた。反応がない。

 まさか、腹が減りすぎて思考停止したか?


「ザキよ……炊き出しはお前は食べちゃダメだよ? 俺たちは稼いできたんだからな?」


「お、お、お……」


 ザキの喉から、空気が漏れるような音がした。


「お? どうしたザキ。お?」


「俺は……決めたぞシン!!」


 突然、ザキが復活した。

 そして、広場中に響き渡りそうな声で宣言した。


「俺は、彼女と結婚する!!」


「……は?」


 俺の思考が停止した。

 今、こいつなんて言った?


 ザキは真っ直ぐな瞳で、セシリア様を見つめている。

 その目は、ゴブリンを前にした時の戦意とは違う、もっと暑苦しい炎で燃え上がっていた。


「大丈夫か? お前、頭がゴブリンになったか?」


 俺は本気で心配して、親友の額に手を当てた。

 熱はない。……ということは、正気で言っているのか。

 この身分違いも甚だしい、一文無しの脳筋冒険者が、領主の娘に一目惚れだと?


 前途多難なんてレベルじゃない。

 これは、間違いなく新たなトラブルの幕開けだった。


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