表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/12

第4話:要塞ごとき教会と、銀髪の異端児

※初めての方は【目次】から ep.1 推奨。なお ep.2 から異世界編(本編)です。



「いやー、奢ってもらって悪いにゃー」


 リアはそう言いながらも、顔ほどの大きさがある巨大な肉串に豪快にかぶりついた。


「んぐ、むぐ……! うみゃい!」


「はは、いいってことよ。案内のお礼っすよ」


「おう、気にすんな! 金ならある!」


 俺とザキも、同じ肉串を頬張りながら歩く。

 なんの肉かは分からない(オークでないことを祈る)が、スパイスが効いていて美味い。肉汁が口の中に溢れる。


 異世界の風を感じながら、俺たちは観光気分で大通りを練り歩いた。

 武器屋、道具屋、怪しげな露店。活気ある街並みは見ていて飽きない。


 だが――通りがかった広場で、異様な存在感を放つ建物に目が釘付けになった。


「……なんだ、あれ」


 周囲の建物とは一線を画す、巨大な石造りの建造物。


「これは『神聖教会』にゃー」


「これ教会? 要塞じゃなくて?」


 俺は思わずツッコミを入れた。

 屋根には聖印を掲げた尖塔があるが、壁は分厚い石積みで、窓は極端に小さく、高い位置に設けられている。

 装飾的な美しさよりも、徹底して防御力を優先したような威圧感があった。ここだけ戦時中なのかと思うほどだ。


「教会ニャー。神様から『ジョブ』をチェンジさせてもらえるところニャー」


「ジョブチェンジ? 何それ。実にゲームっぽいな」


「ジョブチェンジ? 俺たち、冒険者になったばっかだかんなー。転職すんのか?」


 ザキが首を傾げる。

 俺も同意見だ。冒険者というのが職業じゃないのか?


「ちがうにゃ。ジョブにゃ。職業とは別にゃー」


 リアが串についたタレを舐めとりながら解説する。


「生まれ持った才能や、神様の祝福によって、特別なスキルや技能が得られるときがあるにゃ。それを授けてもらうのがジョブチェンジだにゃ」


「なるほど、クラス(職業)設定みたいなもんか」


「おい、シン聞いたか? 俺たちもジョブをもらおうぜ!」


「え、ちょっ――」


「強くなれるかもしれねぇんだろ!? 行くしかねぇ!」


 俺の返答など聞かず、ザキは飲みかけのジュースを一気に干すと、教会の重厚な門へと走っていった。


「……はぁ。まあ、貰えるものなら否やは無いか」


 俺とリアも、慌ててその後を追う。


 ***


 教会の内部は、外観の武骨さとは裏腹に、静謐せいひつな空気に包まれていた。

 高い天井にはステンドグラスがあり、そこから差し込む光が床の石畳を照らしている。

 多くの信者や、教会の職員と思われるシスター風の女性、神父風の男性が行き交っていた。


「中はすげぇな……」


 俺が荘厳な雰囲気に感心していると、前を行くザキが迷わず一番奥へ進んでいく。

 そこには、一際豪華な法衣を纏った、一番偉そうな老人が立っていた。


「おい、じいさん!」


「っ!?」


 ザキがいきなり話しかけた。

 周囲のシスターたちが「ヒッ」と息を飲む。


「お若い方々、本日はどのようなご用件かな?」


 だが、老人は穏やかな笑みを崩さなかった。

 さすが聖職者、懐が深い。


「ジョブってのが欲しいんだ! 俺たちにもくれよ!」


「ほほう、ジョブチェンジ希望ですな。では、儀式の間へご案内しましょう。こちらへどうぞ」


 ザキの無礼な態度も気にせず、老司祭は丁寧に手で方向を示した。

 出来た人だ。ザキの保護者としては、後で菓子折りでも渡しておきたいレベルだ。


 老人が歩き出そうとした、その時だった。


「神官長。その二人の案内は、ボクがするよ」


 どこからか、鈴を転がすような、しかし妙に響く声が割り込んだ。


「ニャッ!?」


 隣でリアが短く悲鳴を上げた。

 見ると、彼女の尻尾の毛がブラシのように逆立ち、耳がペタリと伏せられている。

 明らかに怯えている、あるいは野生動物が天敵に出会った時のような、最大級の警戒反応だ。


「……?」


 俺たちは声のした方を見る。


 太い石柱の陰から、一人の人物が歩いてくるところだった。

 小柄だ。年齢は十代前半に見える。

 サラサラとした銀色の髪に、色素の薄い瞳。

 ゆったりとした白い神官服を着ているが、少年なのか少女なのか判別がつかない、中性的な容姿をしていた。


 ただ、その美しさは――どこか、作り物めいて見えた。

俺は目を細めた。

 ただの子供ではない。リアの反応もそうだが、この子供が歩いてくると、周囲の空気がピンと張り詰めるような圧迫感があったからだ。


 子供は俺たちの前で立ち止まり、面白そうなものを見る目でニッコリと微笑んだ。


「ようこそ、異界の魂たち。……いや、『プレイヤー』と呼ぶべきかな?」


「……!」


「ボクの名前はエーベルライト。エーベって呼んでくれて構わないよ」


 その少年――エーベが名乗った瞬間、場の空気が変わった。


 先ほどまで威厳を保っていた神官長である爺さんが、まるで糸が切れた操り人形のように膝を折り、うやうやしく額を床に擦り付けたのだ。

 それだけではない。周囲にいた他の神官や信者たちも、一斉にその場に平伏した。


「……おいおい、マジかよ」


 ただの偉いさんじゃない。これは、もっと別の「絶対的な何か」に対する反応だ。

 エーベは周囲の反応など気にも留めず、ニコニコと俺たちを見上げている。


「ここでは落ち着いて話せないし、こちらへ」


「あ、ああ……」


 俺は引きつった笑みを浮かべて頷いた。確かに、全員が土下座している状況では会話もできない。

 俺は、今にも泡を吹いて倒れそうなリアを振り返った。


「リア、ここで待っててくれ。俺たちだけで行ってくる」


「ザキ、行こう」


 リアはコクコクと、目にも止まらぬ高速で頭を縦に振った。本能が「ここから離れたい」と全力で叫んでいるようだ。

 俺とザキは、きびすを返して歩き出したエーベの背中を追った。


 ***


 通されたのは、礼拝堂の奥にある豪奢な特別室だった。

 エーベはソファに深々と腰掛け、足をぶらぶらさせながら口を開いた。


「単刀直入に言うとね、上司からキミたちの事を頼まれていてね」


「上司?」


「ザキ、多分転生時の神様だ」


 俺が助け舟を出すと、エーベは「そそ」と指を鳴らした。


「破壊神『ルイナ』様にね」


「……あの神様、そんな名前だったんか。破壊神??」


 あんな間の抜けた子供(神様)が破壊神。世も末だ。

 まあ、名前はどうでもいいとして。


「……キミたち、ジョブが欲しいんだよね?」


 エーベが部屋の隅にある台座を指差した。

 そこには、人の背丈ほどもある巨大なクリスタルが鎮座しており、内側から淡い光を放っている。


「このクリスタルに手を当ててみて。加護をいただいた神様の司るものに準じて、適性のあるジョブが取得できるから。頭の中に浮かんだなりたいジョブを強く念じてね。さあ、やってみて」


「おおっ! いよいよか!」


 ザキが腕まくりをして進み出る。俺も横に並んだ。


「いくぜ!」


「よし」


 俺たちは同時に、冷たいクリスタルの表面に手を押し当てた。

 ブォン……と低い音が鳴り、クリスタルが淡く輝き始める。


「おし! これだ! 俺はこれにする!」


 隣でザキが速攻で叫んだ。早すぎる。迷いというものがないのかこいつは。


 一方、俺の頭の中にはいくつかの選択肢が浮かび上がっていた。


【武闘家】

【農学博士】

【ひよこの雌雄鑑定士】


「……は?」


 俺は思わず声が出そうになった。

 武闘家は分かる。俺の特技だ。

 だが、農学博士ってなんだ? ワンチャン土魔法とか使えるのか?

 そして極めつけが『ひよこの雌雄鑑定士』。


 魔法使い系がないじゃねーか!

 クッソ、あの破壊神、状況みて悪乗りしてるんじゃねーか?

 こんなファンタジー世界で、ひよこのオスとメスを分ける仕事なんてしたくない!


『……しょうがないのう。今回だけじゃぞ』


 その時、脳内にあの間の抜けた声が聞こえた気がした。

 その瞬間、選択肢が書き換わる。


【賢者】


 ――これだ!

 これしかない! 最上位職キタこれ!


 俺は迷わずそのジョブを強く念じた。

 カッと光が強まり、身体の奥底から何かが湧き上がってくる感覚。


「ふぅ……」


 どうやら無事に終わったらしい。

 俺は安堵の息を吐き、目を開けた。


「それぞれ、ジョブを得たようだね」


 エーベがにこやかに話しかけてくる。


「どれどれー。ザキ、キミなにやってるの?」


「ん?」


 エーベの声色が、わずかに変わった。

 ザキを見て、あからさまに顔をしかめている。あの得体の知れない余裕が消え、困惑の色が浮かんでいる。


「ザキ、お前ジョブ何選んだんだ?」


 俺も嫌な予感がして、スキル『鑑定』を発動し、ザキのステータスを覗きみた。


 ==========

 名前:ザキ

 年齢:16

 ジョブ:『神殺し』

 ==========


「……」


 その文字を見た瞬間、俺は頭を抱えた。

 神様(破壊神)の眷属の前で、なんてものを……!


「ザキ……お前なにやってんの?」


「え? なんか一番強そうだったから!」


 ザキがニカッと笑う。

 俺は深く、深く溜息をつき、エーベの方を見た。

 エーベもまた、頭痛を堪えるようにこめかみを押さえている。


 俺とエーベは顔を見合わせ、全く同じ結論に達した。


((コイツはヤバい))

「うーん……」


 エーベは腕を組み、しばらく何もない空間を見つめて熟考していた。

 どうやら、例の「上司(破壊神)」とやらと念話か何かで交信しているらしい。


 数秒後、彼はパッと顔を上げた。


「上に問い合わせしたけど、問題無しだってさ」


「軽ッ!?」


 俺は思わず突っ込んだ。

 部下の採用ミスみたいなノリで済ませていい案件なのか、それは。


「ただし、条件があるよ。その『神殺し』というジョブ、普段は隠しておくこと。もしバレたら、世界中の教会勢力から『神敵』認定されて、聖騎士団が飛んでくるからね」


「マジ気を付けろよザキ! 頼むから!」


 俺はザキの肩を揺さぶった。

 異世界に来て早々、世界を敵に回すのだけは勘弁だ。


「はははは、大丈夫だって! シンは心配症だな」


 しかし、当の本人はどこ吹く風だ。


「向かってくるなら、すべて倒せばいいだろ?」


「ダメだよ。解決方法が脳筋すぎるよ」


 俺は即座に否定した。


「それ、『神殺し』じゃなくて、ただの『人殺し』になっちゃうから! 大量殺人鬼ルート一直線だから!」


「えー? そうか?」


 俺とエーベ、二人掛かりで説得し、なんとか「人前では絶対にステータスを見せない」「自分から神殺しと名乗らない」ことを約束させた。

 ……本当に守れるのか不安しかないが。


「よーし! じゃ、もう教会には用はないし、武器屋に行こうぜ!」


 ザキがパンと手を叩き、出口へ向かおうとする。

 こいつ、神の眷属からチートジョブを貰っておいて、この言い草である。


「不敬すぎるぞお前! あともうちょっと感謝しろ! 嘘でもいいから!」


 俺はザキの首根っこを掴んで引き戻し、改めてエーベに向き直った。

 まだだ。俺にはまだ、聞かなきゃならないことがある。


「エーベ様。俺、魔法の使い方がわからないんですが……神様ならご存知ですよね?」


 俺のジョブは『賢者』だ。

 殴る賢者も悪くないが、やはり魔法を使ってこその賢者だろう。


「魔法かい? うん、知ってるよ」


 エーベは快く頷いた。


「一口に魔法って言っても色々あるけどね。基本となる『属性魔法』、異界の精霊を使役する『召喚魔法』、一般の人が生活の中で使う『生活魔法』……あと、無機物に命を吹き込む『ゴーレム魔法』なんてのもあるね」


「おぉ……!」


 俺はゴクリと喉を鳴らした。

 実に心躍るラインナップだ。召喚? ゴーレム? 男のロマンの塊じゃないか。


「全部詳しく聞きたいところですが……」


 チラリと横を見ると、ザキが「あー、暇だー」「剣欲しいー」とあからさまに飽き始めて、貧乏ゆすりをしている。

 これ以上長引かせると、暴れ出しかねない。


「とりあえず、『属性魔法』の使い方だけ教えていただけますか?」


「オーケー。要約するとね……」


 エーベは人差し指を立てて説明した。


「属性現象の結果――例えば『火』とか『水』とかを頭の中で強くイメージする。そして、体の中にある魔力を集めて、そのイメージを通して外へ放つんだ」


「イメージと、放出……」


「そう。イメージの解像度が高ければ高いほど、そして集めた魔力が多ければ多いほど、現象は強力になるよ」


 なるほど。

 呪文詠唱が必要なわけではなく、イメージの具現化に近いのか。

 それなら、現代知識(物理現象の知識)がある俺には有利かもしれない。


「要練習だな。……でも、これで俺もようやく魔法を使える!!」


 俺は自分の掌を握りしめた。

 こみ上げるワクワク感。早く試したい。

 

 こうして、俺たちは「神殺し」という爆弾と、「賢者」という可能性を手に入れ、教会を後にした。



読んでくれてありがとうございます。感想・評価お待ちしております。

気にっていただけたらブックマーク登録おねがいします。モチベーション向上のためにも!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ