ポーズ
定刻より少し遅れた電車に乗りこんだ。周りからの視線が私の腕や脚に突き刺さる。ふと視界の端に写った人を見ると、何やらおかしなポーズを取っている。バレリーナのような、舞台俳優のような、はたまたそれらの職業の人間がとるようなおかしなポーズであった。
よく周りを見ると、同じポーズを取っている人が何人もいる。いや、同じポーズというのは適当ではないかもしれない。しかし、それでも何となく全員同じような、似たようなポーズをとっている気がする。
私はある一人の青年に尋ねた。
「なぜあなたはこのポーズをしているのですか」
光の籠らない目、でも確かに私に対して何か侮蔑的な感情を込めた瞳で青年は私を見た。
「なぜと聞かれても、みなそのようにしているでしょう」
「なぜみなしているからという理由であなたもそのポーズをするのですか」
青年はひたすら面倒くさそうに私の傍から離れていく。追いかけようにも、何かが私の邪魔をして進みにくい。誰かに邪魔をされているのかと思って周りを見ると、乗客一人一人のポーズが上手く噛み合って私の進路を塞いでいる。青年は相も変わらずおかしな格好で歩きながらも、その格好は上手く乗客たちを避けることができていた。
私は諦めて、その場にただ立つことにした。釈然としないながらも私は目の前に座る女に話を聞く
「なぜあなたはそのようなおかしなポーズで座っているのですか」
女は私を一瞥したあと、私の足に向かって答えた
「逆にこのポーズ以外でどう座るのですか」
「別にそのポーズでなくとも座ることは可能でしょう。なぜあなた方は自分の方が正しいと私に押し付けるのですか」
女は言葉を発することなく立ち上がり、おかしなポーズのまま別の車両に移動した。どうも落ち着かない心を両手でつかみながら、女を追いかけようと私が歩くと、やはり、ほかの乗客の体や持ち物が邪魔になって追いつけない。
ヤケになって蹴り飛ばしながら歩き始めると、幾分かは進みやすくなった。しかし、私が何歩か歩くと、どんどん人が離れていった。一人、また一人とおかしなポーズで歩きながらも、全く引っかからない。だが、ただ人々を見詰めているだけの私には、とても多くの人々がぶつかってくる。
そして、遂に車両には私一人になった。車両の揺れる音だけが響く空間で、私はただ一人立ち尽くしている。今この瞬間だけは先程までの痛々しいまでの視線を感じない。私は一人で駅におりて、次に来る電車に乗りこんだ。やはりそこでは、みな光のない瞳で意味の分からないポーズをしている。人々の視線が私に向くよりも遥かに早く、私は、おもむろに、バレリーナのように、もしくは舞台俳優のように、はたまはそれらの人々たちがとるようなおかしなポーズを取ってみた。体は呻き声を上げ、瞳の水は心の瞳に涙を持っていかれた。何とも惨めな気分であった。
その時には既に、誰も私に気が付かなかった。心の芯から痛く惨めだったが、私が車両移動しようとバレエのように歩くと、偶然か必然か、私は形の整ったピースのように一切引っかかることなく進むことができた。今、他人の瞳に私は反射していなかった。そのポーズが体に堪え始めたあたりか、それらはひとつのピースのように周りと融合し、ひとつの物体となった。そして最後にはその形態こそが最も自然なものであることが分かるような気持ちになった。それは自然に動き回り、車両から車両へ、車両から駅へ、駅から道へと動いていった。
道端で、小さな子供のように光のある青年に声をかけられた
「なぜあなたはこんなおかしなポーズをしているのですか?」
私は、それが至極当然の事かのように、光の映らない瞳を向け、訝しげな表情を浮かべながら青年に返答をした
「なぜと聞かれても、みなそのようにしているでしょう」
人目につかなくなるまで、体は痛かった。
読んでくれてあざます
感想とかあったら教えてください。あと誤字脱字とかも。




