表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

最終海・湖の海の舟

『予測された未来はいまだ解釈の一つに過ぎず、可能性は千変万化の万華鏡(カレイドスコープ)のように、予知された時点ではどのようにでも再構築できる次元にある』



 船はこの世界唯一の湖を帆走(はし)っている。2本のマストに白い帆をたたえた縦帆船は、太陽によく映える。

 セムは風に漂うおもちゃの船をひたすらに見つめていた。


 太陽が輝く白い空は、そろそろ夕焼けの色を映し出す。映像(いつわり)の空とはいえ、夜はやってくる。

「そろそろ、家に帰らないとなぁ」

 セムは湖の端に浮かべた船を手に取った。今はまだこの模型のような小さな船しか作れないが、いつの日か本物を作って浮かべたい。それがセムの夢である。

 


 夕闇に染まっていく空の下、セムは家路についた。

「あれ、父さん帰ってきたんだ」

 月に長期赴任していた父親が久しぶりに帰ってきていたのだ。

 そして、セムは父から「その日」が来たことを聞いた。


 都市と湖一つしかないこの箱庭に住まう人たちの、選択の時がきたのだ。箱の中の世界にとどまる人たちと、何世代もかけて進展地を求める者たちと、選ばなくては行けない時が。

 そして彼ら一族は、海に沈んだこの地を捨て、新たな星に移住することを選んだのである。



「僕たちは長い旅に出るんだ」

 セムは部屋に戻るとよんよんとここよんに語りかけた。

「おつきさまにいく話かヨン?」

 ここよんはそう覚えていた。月へ行き、月の海でよんよんにお姫様抱っこしてもらうのだ。


「月にも少しだけ滞在するけれど、もっと遠くへ行くんだ」

 月は中継地点に過ぎない。

 その星は今、地球に向かって進んでいる。あと数ヵ月もすれば、地球に最も近づく位置に来る。その時に、移住者は月からその新たな地に移動するのだ。

 地球には天気があり、それに左右され飛行に支障が出る。計算された時間を逃すとそれだけでロスになる。

 それに重力に逆らうために多くの燃料が必要で、その時は何十という宇宙船がフル稼働でその地へ向かうので、一定量しか作り出せない燃料が足りなくなるのである。

 しかし、大気もなく重力の弱い月ならば地球から同じ量を運ぶよりも少ないエネルギーで済むのだ。

 人々は各々の時期に定期便で月へ行き、そこで数ヵ月過ごしたあと、その時まで待つのである。



「もっと遠くへ、行くのかよ~ん」

「どこへいくヨン?」

「僕らが住める海がある場所へ」

 この黒くよどんだ海に浮かぶ小さな故郷を捨てて、外の広大な世界へ海を求めて旅立つ日が来たのだ。


「海をさがしに行くのかよ~ん」

「もちろん、その時はよんよんもここよんも一緒だよ」

「みんなと、いっしょだヨン」


 閉ざされた空。偽りの太陽……管理された箱の中の世界。

 それは変わらないが、今、人はひとつの世界を破り、小さな星の船に乗り、ゆらゆら揺れる宙の空、海を求めて旅立つ。


 新たな星が見つからないかもしれない。

 見つからないかもしれない。


 箱の中に唯一残された……未来と言う名の希望でさえ、失うかもしれない。


 宙を漂う箱が、たどり着くのはどこなのか。


 ここから分岐する未来は、 いくつもの次元と、ありとあらゆる時間軸が複雑に絡み合って存在している。




 セムは窓の外を見上げた。

 すっかり暗くなった空には、星が映し出されている。

「宙に浮かんで見る星は、きれいだろうか」


 北の空には、織姫星(リュラ)がかがやき、南の空には水先案内人(カノープス)が、航海の女神(ポールスター)となって輝く時代。

 星の位置を測り方角を導く船乗りにとっては、女神と案内人が空に在り航海を見守るすばらしい時代に、宙を帆走る音を聞くことができるのは、すばらしいことなのだろうか。



 その宙に浮かぶ船へ行ったら、何をしよう。

 このおもちゃの船ではなくて、本当に人を乗せることができる大きな船を作ろうか。白い帆船を、たったひとつの湖に浮かべるのだ。


 宙を帆走る船の中に浮かぶ船、なかなかシュールですてきじゃないか。



「おおうなばらへと、たびだつよ~ん?」


「そうだね、遥かなる星の海へ」

 物語は、



 みずうみのうみの船-ぷかぷか-

(http://ncode.syosetu.com/n8695h/ )



 あるいは、



 そして、神はいなくなった。

(http://ncode.syosetu.com/n1294n/18/ )


 へ、時代は続く。



 それらの2つ世界観を補完する、ひとつの物語(プロローグ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ