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3・永遠の輝く砂城で

『――生きている限り、絆を深めよう。ずっと、一緒に生きていよう。生きるまで、死ぬまで、それまで、永遠に』



 窓からは、黄色に染まった光が斜めに差し込んでいる。窓の外は、冬の色に染まって白く輝いている。

 ……静かだ。

 眠りから目覚めた彼女はそう思った。彼女は、寝床から出て、部屋を見回した。

 ……誰もいない。

 この薄暗い部屋には、誰もいなかった。

 部屋にたくさんある水槽は、ジジジと小さな音をたて泡を作り出している。彼女は、4号水槽にも誰もいないことに気がついた。部屋のドアが開いている……おそらく、部屋の外へ行ったのだろう。

 彼女は、目覚めたばかりで、はっきりしない意識の中、ぼんやりと誰もいない4号水槽を見つめながら、その水槽の住人を待つことにした。


「ただいまよ〜ん」

 待ち始めて数刻後、聞きなれた声が、彼女の耳に届いた。よんよんが部屋に戻ってきたようだ。

「おかえりヨン」

 彼女は、そう彼に向かって言った。

「ここよん! おみやげだよ〜ん」

 よんよんは、ここよんと言う同属の魚にお土産を手渡した。

「ありがとうヨン。ちょうど、おなかすいたところヨン」

 よんよんのお土産を見たとたんに、彼女の胃が目覚めたのだ。


「そうだ。ここよん、こっちに来るよ〜ん。お外、見てみるよ〜ん」

 よんよんは先程カナンから、ある情報を聞いていたのだ。ここよんと、それを一緒に見たかったのだ。

「何が見えるヨン? 今、行くヨン」

 よんよんのいる窓辺に向かう。二匹のいる部屋は高い階層にあり、そこからは、外の景色が一望できた。外は変わらず雪が降っている。

「とくに、かわったようすはないヨン」

「きっと、もうそろそろだよ〜ん。……ほら、はじまるよ〜ん」

 よんよんが跳ねた。外でちらついていた雪が、ぴたりと止んだのだ。それのために降雪機械をとめたのだ。そして同時に太陽光がかすかに強まる。ほんのり光に色づいた空間に、突然、青や赤や緑の煌く透明な粉が、瞬き飛び回りはじめた。それは大気中の水蒸気が昇華してできた、ごく小さな氷晶、きらきらと舞う細氷(ダイヤモンドダスト)である。


「わぁ! こおりのひかりがきれいだヨン。氷の妖精さんが舞っているみたいだヨン」

「すごいよ〜ん! きれいだよ〜ん! きっと、まほうつかいが、こおりのまほうをつかったんだよ〜ん」

 よんよんが、カナンから聞いた情報。それは、「細氷展覧会(ショー)」があるという情報(こと)。よんよんは、 細氷と雪の違いがわからなかったが、カナンがとても綺麗だと言っていたので、ここよんと一緒にそれを鑑賞したかったのだ。

 二匹は、すっかり人工細氷に釘付けで、窓硝子に顔をくっつけている。おそらく、硝子に二匹の鱗のあとが残っているだろう、それほど、夢中になって眺めているのだ。


「たとえ、このうつくしい世界が、ほろんでも、おいらは、さいごまで、ここよんと、ずっといっしょに、いたいよ〜ん」

「うん、あたいも、ずっといっしょに、いたいヨン」

 ダイヤモンドは永遠の輝き。その魔法は、永遠の絆。

 きらめく氷の細。冬の太陽に照らされた二匹の影は、窓辺でいつまでも寄り添っていた。

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