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加護は用量用法を守って正しくお使いください

作者: 高瀬あずみ

導入シリアス、中身コメディ?


 今まさに、都市は滅びようとしている。

 この急峻な山々という天然の要塞すら破竹の勢いで迫りくる敵によって。



 私は長衣の裾を片手にたくし上げて、長い階段を駆け上る。岩肌に直接刻まれた階段は狭く、また不均衡な段の高さが登りにくいことこの上もない。手すりなどなく、足を滑らせば、空中に身体は放り出されて死ぬだろう。それでも足を止めるわけにはいかない。

 まるで天に至るかのように聳える岩山の頂上まで続く階段に、息は切れ、足は重く。進む速度はどんどん落ちて。ついには両手を使って這うようにしか進めなくなっても。それでも先に向かわねばならない理由が私にはあった。




 ラディーケース・モンテス。

 そう呼ばれるのは、峻厳な山脈の中の高地に栄える都市。

 天空の神を祀るために集った人々が、岩を穿ち、そこを祈りの場所としたことが起源。後に続く者たちがそこに留まり、やがて巡礼も訪れるようになり、祈る人を支えるために家や畑も作られ、いつしか都市として発展した。


 どこの国にも属さない。どこの国の者であっても、天空の神に祈るためであれば拒まない。

 大神官を頂点にして、緩やかで穏やかな暮らしの約束された場所。

 喧騒と奢侈とは縁遠い、清貧な場所。

 それは土からの恵みが少なく、麓から遠いという立地にあることが第一だが、特別な産業もなく、巡礼の落とす寄付が主な財源であることにも原因があった。


 ところが数年前、この都市の足元とも言うべき場所にて金鉱が発見され、事態は急変する。

 金鉱のある場所は大神官以下、神官たちと一部の住人にのみ明かされて、秘されていたはずだった。過度な発掘は避け、神殿と都市のためだけに使われていたが、どんな秘密であっても漏れる時は漏れる。ことに黄金は古くから人を狂わせるものだ。それは近隣の国々に知られ、攻めるための軍隊が派遣されるのは時間の問題だったのかもしれない。


 ラディーケース・モンテスには兵力なぞない。攻め込まれれば一瞬で終わるだろう。

 祈るためだけに建てられた神殿も、ささやかに人々が暮らす家々も。蹂躙され荒らすだけ荒らされて、血に染まる未来しかない。

 麓から、大軍が攻め入って来ようとしているという知らせが都市に齎されたが、対抗策のひとつも持たない住民たちは、ただ神殿に集まって祈るのみ。



 でも私は、ただ神殿で祈るだけでは我慢できなかった。

 軍隊に攻められた場合、若い女がどんな目に合うかなぞ、簡単に想像できるというものだ。仲間たちはそれに怯えて奥院にて泣くばかり。


 ラディーケース・モンテスでは、八歳から十八歳までの娘すべて、奥院にて神に仕える巫女として祈りの日々を送る決まりだ。天空の神が、ことに乙女の祈りを喜ばれることからこの制度ができた。巫女として仕える間は、大神官と家族以外の男性と会うことすら禁じられており、もちろん全員独身。巫女を辞して世俗に戻ってから婚姻するのが普通だ。中には女性神官として勤める者もいるが、その数は少ない。たいていの巫女たちは、還俗して嫁入りする日を待ち望みながら祈りの日々を過ごすのだ。


 私は十七歳。巫女として後一年仕えれば、父の決めた相手と結婚することになるだろう。運が良ければ麓からの商人や巡礼に見初められて、ラディーケース・モンテスから出られるかもしれない。

 ここでの暮らしが嫌いなわけではない。けれどあまりにも代わり映えのない日々に飽きていたことも確かだ。もう少し刺激的な何かが欲しい。そう夢想するくらいは許されても良いだろう。


 ただし。こんな殺伐とした刺激を求めたことなど一度もない。


 抱き合い、互いに慰めあうだけの仲間たちから離れて、私は奥院から更に続く山頂への階段へと向かったのだった。

 奥院までであれば、巫女たちの世話をする女性神官は出入りできるが、この階段からは大神官と巫女たち以外の立ち入りが禁止されている。所謂禁足地だ。年に数度、山頂の祠にて特別な神事を行う時以外、巫女たちですら上ることを許されていない。



 だが今は非常時。こんな時にくらい力を貸してくれなくて、何が神だ。

 そんな気力だけで私は長い階段を昇りつめた。




 山頂にただひとつ建つ祠は、壁を持たない。円形に石積みの柱が並び、丸い屋根を持つが、それだけだ。

 祠の床へと這いあがって息を整えてから、跪き、首を垂れ、祈りの言葉を口にした。


「天空の神たるカエルムよ。どうかあなたさまの巫女の祈りにお応えください。ラディーケース・モンテスは、他国の軍に攻め滅ぼされようとしております。どうぞそのお力でもって、この地に安寧を齎してください。無力な私たちをお助けください」


 何度も、何度も繰り返し祈った。祈りのために組んだ指に力が入り、白くなっても。声が段々と掠れていっても。


『我が愛しき乙女に応えよう。我こそはカエルム。天空を支配する者』



 天空の神は実存する。



 山頂での特別な神事の際にのみ、お声を賜れる。そしてラディーケース・モンテスの民を祝福してくださるのだ。その祝福がなければ、このような高地にて人が暮らし続けることは出来なかったかもしれない。

 ラディーケース・モンテスは奇跡の地。神の祝福に満ちた地。そう呼ばれるだけの理由があった。雲海すらその下に見るラディーケース・モンテスは絶景の地との呼び声も高い。だが決して、人が住むに向いている場所ではないのだ。それこそ神の庇護下にでもなければ。



「偉大なるカエルム。どうぞ攻め入る軍をお止めください」


 さらに頭を低くして床に付くほど下げる。助かるためにならば矜持なぞ捨てるのも容易い。長く伸ばした黒髪が床に広がる。

 そして常の神事であれば、神はこちらの祈りに応えて祝福の光を降らせて去られる、のだが。



『んー。ほっといても自滅しそうだけど、あれ。ほら、見てごらんよ』


 妙に気安いお言葉に驚いて顔を上げると、そこからでは見ることなどできぬはずの光景が空に写されていた。


 ラディーケース・モンテスに至る山道の途中で、軍隊が留まっている。よく見れば顔色の悪い者が多い。蹲り、嘔吐している者もいる。


『あれね、高山病。一挙に高所に移動しようとするから、ああなる。主な症状は頭痛と吐き気とめまい、疲労や倦怠感。睡眠障害も出るし、重度なら呼吸困難に歩行困難、更に意識が朦朧としたり錯乱したり?』


 訪れる商人も巡礼も、少しずつ日を重ねて休み休み山を登って来ると聞いている。そうでないと、命に関わるからと。

 それを押して急襲しようとしたからああなっているのかと納得した。ここで生まれ育った私には実感はできないが知識はある。軍を動かした国にはそんなことも予測できなかったのだろうか。黄金はそこまで人を狂わせるのか。けれどそれよりも蹲っている者ばかりでないのが気になった。


「ですが、無事な者もおります。ラディーケース・モンテスに住まう者は戦うことを知りません。ですから、少人数であっても攻め込まれれば無事ではすまないと思うのです」


『んー、確かに? でもなあ。直接介入はできないんだよね、神様ってやつは。あ、そうそう、君の名前教えてくれる?』

「ラピス。ラピス・ソロリーブスでございます」


 ソロリーブスは巫女の間にだけ名乗れる姓だ。姉妹という意味らしい。


『うん、ラピスちゃんね。覚えたよ。

 ラピスちゃんさ、僕と契約しようか? そしたら加護あげられるよ』

「加護! 加護をいただけるんですか!?」

『契約に同意してくれたらね。一方的にはあげられないんだ』

「ぜひ! ぜひお願いします!」


 食い気味に私は畏敬も忘れてその話に飛びついた。加護―――それは神からいただける最大の力。祝福のような薄く広く与えられるものではなく、個人にのみ与えられ発揮できるもの。かつて聖人・聖女と呼ばれた偉人たちが賜ったという、人を越えた力。それがあれば、きっと。


『じゃあ契約内容なんだけど』

「後でいいです!」

『そ、そう? いいの?』

「はいっ! 早くください!」

『じゃ、じゃあ。はい』


 額が熱くなって、そこから一挙に身体中に自分のものでなかった力が巡って、私の中に溶けて行った。

 ああ、なんとなく理解した。どうすれば使えるのかが分かる。


『それじゃあ使い方なんだけど』

「分かったんで、行ってきます!」


 両膝を曲げて、両手を上げて。そうして私は神の声すら置き去りに、空中へと飛び出して行ったのだった。






 そのまま、山中で行軍している一団の上空までひとっ飛びして見下ろす。見回して一番偉そうで服にごちゃごちゃ付けてる人物に目をつけた。

 私は天空の神の巫女。加護を授かりし神の代理人。口調は尊大に、厳かに。


「ここで一番偉いのはおまえ?」

「な、なんだっ!? 浮いてるぞ、この娘!」

「私は天空の神の巫女。ラディーケース・モンテスに攻め入ることは許さぬ」

「なんだとっ! おいっ、この娘を倒せ!」


 加護の力に満ち溢れた私は、剣や弓矢では傷つかない。指先から風を起こしてやると、攻撃してきた兵士たちが、ばたばたと倒れて行く。


「ラディーケース・モンテスは神の加護と祝福を受けた地。その平穏を破る者は神の怒りを受けるだろう」


 そのまま風を操って、兵士たちを一挙にまとめて掬い上げ、山から遠く離れた地まで飛ばした。ひとまず、これで当面の危機は去ったが、こういうのは大元を叩かないとまた来そうだ。

 私はひとり残した偉そうな男を宙に浮かして質問する。


「おまえの国はどこ? 王はどこにいる?」


 逃れようと手足をばたつかせるだけの男の頭から情報を得ると、その国の王宮まで転移した。

 玉座にふんぞり返っている王の前に出ると、案内させた男だけを床に落とす。そして再び巫女らしくふるまって脅しにかかった。


「ラディーケース・モンテスに手出しは無用。逆らえばこのように神の怒りをかうであろう」


 近くに見えた塔に雷を落としてやった。一応、人がそこにいないことは確認している。巫女が人殺しするわけにはいかないから。

 玉座周辺の人間たちは、怯え、私に向かってひれ伏した。その中には玉座から転げるように駆け寄った王も含まれる。


「さて、王よ。そなたのようにラディーケース・モンテスを手に入れようとしている国は他にもあるか?」



 王から情報を抜き取って、それから周辺国の王宮に転移して同じことを警告して回った。雷も大盤振る舞いすると、驚くほど簡単に彼らは戦意を失う。これだけ脅しておけば大丈夫だろうか? あとは悪意あるものを通さない結界を山全体に張り巡らせる。しかし、さすがに力を使いすぎて、いささか身体が重くなってきたので、ひとまず神と邂逅した山頂まで転移で戻った。





「ただいま帰りました、偉大なる天空の神カエルム」

 すぐに応える声が響く。


『あー、おかえり。なんか派手にやってきたねえ?』

「あれくらい脅しておかないとと思いまして」

『うん、まあお座りよ。お疲れさん』


 神のお言葉に甘えて祠の床に座り込んだ途端。

 一挙に疲労がのしかかって、座るどころか床に突っ伏すはめになった。手も足も重すぎて動かせず、酷い頭痛で頭が割れそうだ。


『やっぱりねえ。使い方教える前に飛んで行っちゃったし、あんなに、ばかすか使ったから、まあ、こうなるわな』

「こ、これ、は……!」

 声をなんとか絞り出すが、それ以上は無理だった。どこかのんびりした神の声は私の様子に頓着した様子もない。


『加護ってね、人の身には大きすぎるんだよ。それを無理やり使えるようにするから、どうしても負荷がかかる。だから普通はちゃんとこっちの説明をしっかり聞いて、小出しにゆっくり使うもんなんだよ。それをラピスちゃん、普通の加護持ちが数年かけてやるような奇跡、一度に大盤振る舞いして使っちゃったでしょう? しばらくはその状態のまま動けないよ』


「う、ううっ……!」

 説明を受ける時間も惜しかった。そして加護を受けた瞬間に何でもできる、という全能感に支配されてしまったのだ。そのツケを今、払っている。自分の愚かさのせいで。


『でも、私欲の為に使ったんじゃないことは分かってるし。最短での各国の抑え込みは効果もあったし。だから、まあ? 今回だけ特別に緩和してあげるよ』




 声と共に身体が金色の光に包まれると、それまでの痛さが消えて、自力で動けるようになった。身体を起こして座り込み、神のお声のする方角に視線を向ける。


 そこには、一人の青年が胡坐をかいていた。見た目の年齢は私とそう変わらないくらいだろうか。根本は黒いのに毛先は金色という、変わった髪色をしている。肌の色は私たちと似た黄味がかった白。瞳は焦げ茶色という、どこか親しみやすいものだった。



「カエルム……?」

『うん、そう。僕が当代のカエルム。こっちで姿を見せるのは初めてだよ』

「こ、光栄にございます」


『ああ、そう硬くならないで。威厳ないからなるべく姿はみせるな、って言われてただけだし。

 それでさ、ラピスちゃんが後で、って言った契約について話してもいいかな?』

「はい。その節はご無礼を」

『まあ、それはいいんだ。僕としては契約内容に反対されずに済んだし。でも今後はちゃんと内容を聞いてから契約するんだよ? ラピスちゃんは加護を受け取って使ってしまったから、僕が課す契約を断れないのは承知してね?』

「はい……」


 何を言われるのだろう。命を差し出すくらいの覚悟はしていた。ラディーケース・モンテスを救えたのだ。後悔なぞするものか。


『じゃあ、ラピスちゃんは僕と契約して花嫁になってよ』




「はい……?」

 何を言われたのか、正直、頭が理解を拒んでいた。


『うん、了承ありがとう。まあ、断れないんだけどさ。ということで、ラピスちゃんは今から僕のお嫁さんということで』


「―――り」

『え、何?』

「無理です、無理、無理ーっ!!!」


『ええっ、何でよ? 大事にするよ?』

「無理です! 処女厨の上に一夫多妻の神のお相手なんて無理っ!」

『ちょっ、何それ、風評被害だよっ!』


「じゃあどうして、未婚の娘ばっかり集めて巫女にしてるんですかっ!?」

『それは、まあ? 野郎より女の子に祈って感謝される方が嬉しいからで……』

「やっぱり処女厨!」

『違うって!』

「それなら別に、もっと年上とか既婚者でも構わないはずじゃないですか!」

『そんなの、経験豊富な女性って怖いし!』

「神様が何言ってんですかっ!?」

『今は神様だけど、その前は普通に人間やってたし、しかも代替わりしてからそんなに経ってないよ!』


 勢いで怒鳴りあうように会話をしていて、ふと神の言葉が引っかかる。

「前は人間……?」


『そう。他の世界でだけどね。あっちで死んだあと、この世界の神様の総元締めに拾われてさ。前任者が辞めたがってるから代わりに神様やってくれって。それでまあ、受けるしかないよね。その代わり、いくつかこっちの要望も聞いてもらったけど。なので、君の言うような事実はありません! あっても前任者! 僕は嫁以前に、あっちでも、こっちに来ても、女の子と手を繋いだこともない清い身です!』


 あまりにも必死な様子に、信じてもいいかと思い始める。

「他に嫁はいない?」

『いません! ラピスちゃんがはじめて!』

「でも、今後増やしたりしたいんじゃ?」

『それ、は、願望がないとは言わないけど無理だから! そういうのは経験豊富で女性の扱いに慣れてないと、できないんだからね! 陰キャにはハーレムとか無理!』


「じゃあ、今後、慣れたら増やすんだ?」

 ジト目で睨むと目を反らされた。

『……ラピスちゃん、そういうの、嫌?』

「絶対、嫌」

『……断言されちゃった。うん、分かった。ラピスちゃんだけにするから!』


 簡単に絆される気はない。それこそ契約にしてしまおうか。そんなことを考えつつ。気になったことを質問する。

「でも、私は加護貰っても普通の人間だから、結婚しても、すぐに年取って死んでしまうのに」


 複数嫁の追求から逃れたことに安心したのか、神様はほっとした顔で説明しだした。

『あ、それ大丈夫。双方の同意があれば、僕と一緒に年も取らずにずっと一緒にいられるから。寿命もなくなる。総元締めに頼んだ案件、それなんだ。お嫁さん貰ったら若いまんまでって。だから、安心してお嫁に来て!』

「必死すぎてちょっと怖い」

『必死にもなるよ! あっちでも彼女作る前に死んだんだよ!? で、こっちで神様やるようになって、そしたらこっちでも出会いがなくてっ!』


「数十人の巫女、侍らせておいて?」

『侍らせてないし! 神事(しごと)でも大神官(ほごしゃ)同伴で、しかも終わったら皆、さっさと帰っちゃうじゃないか! 僕はこの頂上にしか人間界では降りられないのに!』


「え、じゃあ、お嫁入りするにしても、どうしたら? 奥院で暮らして、私がここまで通うの?」

 この階段を毎日上る通い婚とか、ものすごく嫌だ。加護の力をそういうものに使うのも違う気がするし。


『通わなくて大丈夫。僕専用の空間があるから、そこで一緒に暮らせるよ! てか、一緒に暮らそうよ! 前世の暮らしを再現してるから、超快適だから!』


 と、言われても、神様が前世でどんな暮らしをしているのか知らないのだが。けれど、階段を上り下りしなくて良いならば嬉しい。


「仲間や家族と会うことはできるの?」

『それはできるけど、でも大神官(じいさん)に神事の時にお告げしてからね。

 あと、挨拶はしないといけないよねえ。お義父(とう)さんとお義母(かあ)さんには夢枕で挨拶かなあ。「お嬢さんをください」なんって。うわっ、照れる』


 そう言うと神様は本当に顔を赤くしていた。さんざん嫁、嫁、言ってたくせに。

「どうして契約でいきなり嫁? 恋人からじゃなくて?」

『契約で縛っとかないと、相手にされないんじゃないかと思って……』


 あらためて神様の顔を見ると、ものすごく顔がいい、とかではないけれど、悪くもない。親しみやすくて好感が持てる顔だ。しかも、どことなくラディーケース・モンテスの住人に似ていて、この人(?)に嫁げと親に言われても受け入れられそうな感じ。だから素直にそう口にした。


「そんなに自信がないの? 私、結構、神様、いいと思うけれど」

『本当に!? お世辞じゃない!?』

「ない、ない。好きな感じの顔」

『生きててよかった! ラピスちゃんみたいな可愛い女の子に、好きな感じって言われるなんて!』


 泣き出してしまった神様の背中をぽんぽんと軽く叩く。可愛い女の子、と言われてこちらも照れ臭い。何しろここ十年弱、女ばっかりで暮らしてきたから、男性からどう見られるか、よく分からないけど。可愛いってことは私で嫌じゃないってことだと思っても良いだろうか。条件に合っただけで選ばれただけなら嫌だな、と思う。どうせなら好かれた相手に嫁ぎたい。


「でも、ちゃんと神様やってね? ラディーケース・モンテスは私の生まれ育ったところで、大事な人たちが暮らしてるんだから」

『うん、任せて! ラピスちゃんの大切なものも守るよ!』

 ちょっと頼りないところはあるけれど、加護の力は本物だったし、神様であることには違いない。


『じゃあ、ラピスちゃんがこれから暮らすところに案内するね。えっと、手、繋いでいい?』

「うん。どうぞ。あ、私、神様のこと、なんて呼んだらいい? あと、すっかり雑な話し方してるけど、これもいい?」

 手を繋いであげると、ふにゃりと相好を崩す神様は少し可愛い。

『話しやすいから今みたいにお願い。あと、名前は、あっちでの名前で呼んでくれる? 僕の名前はね―――』





 私はこうして、還俗する十八歳を待たずに、お嫁入りすることになってしまった。今はまだ、手を繋ぐだけで真っ赤になる私の神様に。

 永い永い時を過ごすことになって戸惑うばかりだけれど、大切な故郷を守れたから後悔はない。


 ラディーケース・モンテスでは、私は聖女に選ばれて神の花嫁になったと伝えられてから、なんだか私を拝む人も出て来るようになった。特に若い女性―――かつての巫女仲間をはじめとして―――から、良縁を結ぶだの、恋愛成就だのの女神扱いされている。


『そのうち、ラピスちゃんも祈られているうちに神様になるよ?』

 とは夫の弁である。この調子だと縁結びの女神になる日も本当に来そうだ。


 けれど未来の縁結びの女神としては言いたいことがある。

 そろそろ、手を繋ぐ以上のことに進みませんか、旦那様?


ラディーケース・モンテスのイメージはマチュピチュです。

なので、住民はモンゴロイド系。で、神様も元日本人なので双方親しみやすい感じでした。染めた髪の根本が黒くなったプリン状態で死んで、ほぼ元の身体のまま神様業をやってます。

神様が直接介入すると、力が大きすぎて山くらい軽く吹っ飛び、大地に亀裂が入り……とかになるので禁止されています。


「僕と契約して―――」が書きたかっただけのお話でした。

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神様がんばえー
作者はミューズか何かかしら? 神様、俺、この話すきです 『んー。ほっといても自滅しそうだけど、あれ。ほら、見てごらんよ』 から流れがガラッと変わるの、お見事でした。 導入部で『若い女ばかり侍らせ…
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