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第4章 月光の剣④

第四部「月の巫女たち」


光に包まれた感覚が、次第に薄れていく。アカネとユイが目を開くと、そこは不思議な空間だった。


湖底とは思えないほど明るく、月光のような柔らかな光が四方から差し込んでいる。古い神殿の遺構が、まるで水中都市のように広がっていた。


「これが...月鏡の湖の底」アカネが息を呑む。


二人の体は水に浮かんでいるはずなのに、普通に呼吸ができ、声も交わせる。まるで空気の中にいるかのように。


「光の道が、私たちを守っているのね」ユイが周囲を見回す。


二人は手を取り合い、神殿の中心へと泳ぎ進んでいく。途中、壁に刻まれた古い壁画が目に入る。七人の巫女たちが、月光の剣を中心に輪を作っている姿。その周りには、光と闇が渦を巻いている。


「まるで、月影の舞のよう」アカネが呟く。


すると突然、水中に七つの光が灯った。それぞれが異なる色を放ち、二人の周りで輪を描き始める。


光の中から、かすかな人影が浮かび上がる。透き通るような姿をした七人の巫女たち。百年前、月光の剣を封印した時のままの姿で。


「よく来てくれました」

「私たちは、ずっと待っていました」

「光の巫女、そして...」


七つの声が、水中に響く。最後の言葉は、不思議と濁って聞こえなかった。


アカネは思わず、その場に膝をつきそうになる。しかし、巫女たちの表情は厳かでありながら、どこか優しい。かつて祖母から聞いた物語の中の存在が、今、目の前に。


「私たちの選択は、正しかったのでしょうか」新月の巫女が問いかける。


「剣を封印し、そして...百年の時を待つことは」三日月の巫女が続ける。


アカネは胸の内から込み上げてくる言葉を、そのまま紡ぎ出した。


「正しかったと思います。だって...」彼女は短剣を掲げる。「この百年の間に、私たちは学びました。光と影が、どちらも大切だということを」


「そして」ユイが一歩前に出る。「その調和こそが、本当の強さなのだと」


巫女たちの幻影が、優しく微笑む。


「その通り」上弦の巫女が頷く。「光は闇を照らし、闇は光を引き立てる」


「そして今」九夜月の巫女が告げる。「その調和を理解する者たちが、現れた」


巫女たちの輪が、ゆっくりと広がっていく。その中心に、一筋の光が伸びる。そこには...。


「月光の剣」アカネが息を呑む。


銀色に輝く剣身には、七つの月の相が刻まれている。その姿は厳かでありながら、どこか悲しみを帯びているようにも見えた。


「この剣には」満月の巫女が告げる。「光と闇、両方の力が宿っています」


「そして」新月の巫女が続ける。「その力を正しく扱える者だけが、剣を手にすることができる」


アカネとユイは、お互いを見つめ合う。そこには、もう迷いはない。


「行きましょう」アカネが手を差し出す。


「ええ」ユイもその手を取る。


月光の剣が、次第に強い輝きを放ち始める。その光は、二人の舞いに呼応するように、銀色の渦を巻いていく。


「行くわよ」アカネが手を伸ばす。


「ええ」ユイも頷く。


その時、暗がりから冷たい声が響いた。


「月光の剣が目覚めたか...」シャドウの姿が浮かび上がる。「だが、それで何が変わる」


アカネとユイは咄嗟に身構える。シャドウの放つ威圧感は、以前と変わらない。


「お前たちの求める調和など、幻想に過ぎない」シャドウが一歩前に出る。「この世界は、もっと残酷だ」


「違う」アカネが短剣を掲げる。「光は必ず—」


「黙れ」シャドウの声が鋭く響く。「お前に何が分かる。この世界の闇を、この目で見た者の苦しみを」


その瞬間、月光の剣が強い輝きを放った。光は影をも包み込むように、神殿全体に広がっていく。


「...!」シャドウが一瞬、たじろぐ。その目に、僅かな揺らぎが見える。


「これが、お前たちの力か」彼は冷たく言い放つ。「だが、これで終わりではない。必ず...取り戻す」


そう告げて闇に消えるシャドウ。その背中には、固い決意が感じられた。


七人の巫女たちの幻影が、静かに消えていく。最後に、七つの声が重なり合うように響いた。


「光の道は、まだ遠く」


アカネとユイは月光の剣を手に、静かに水面へと泳ぎ始める。町の人々が、そして七つの家の仲間たちが、待っている。


[第四部 完]

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