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lal(ラル)  作者: シーマ
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lal(ラル)第5話:誕生日

第5話:誕生日


「私はオブリビオン。」


岬達の前に現れたリゲインの名はオブリビオン。


オブリビオンは細身で3m程と、少し大きく全体的に薄い水色をしており、どこか飄々としている雰囲気がある。目の部分は角の様な物で隠されており見えない。唇はうすーい紫色をしており舌が長くギザギザの歯をしている。頭部には髪の毛ような触手が生えており、透明感があり静かに波打つように動いている。腕と脚両方共にかなり長い上爪も長く綺麗で美しい。胸に張りがあり大きいがそれに対してお腹やおへその下あたりの肉が少なく骨が見えている。


簡単に言うとオブリビオンは完全な異形ながらどこか神秘的な美しさを感じる見た目だ。


「私には感情と言う物を理解出来ません。」


「この、人達との戦いで何か分かるといいですが...」


「ムカつく野郎ね、皆...行くよ!」


岬の言葉にカイ、リナ、蓮は頷きシフトギアを発動させる。


「さぁ...私に感情を教えてください...」


岬は下がり蓮は後方射撃を行いリナとカイは左右に回り攻撃を行う。


ババババババババ


リナは左手のシールドをいつでも展開出来るように構えつつライフルで射撃を行う。


「わっ!」


オブリビオンの長い腕と爪がリナの目の前まで来たがなんとか体を後ろに反らし回避する。


カイは両手から炎を放ち攻撃をするがオブリビオンは再び腕を振りカイに爪が迫るがパワーを溜めた炎の拳で弾いた。


弾かれたオブリビオンはよろけてしまうその隙を見逃さず蓮はビームを放つ。


「うぅっ...良い連携ですね...」


落ち着いた様子でそう言い放ち姿勢を立て直し後ろにフワッと下がる。


シュルシュルシュルシュル


頭部に生えてる髪の毛のような無数の触手を伸ばし4人に攻撃を仕掛ける。


カイは炎の拳で殴り焼き、リナはシールドを上手く使いながら的確に触手を撃ち抜く。


蓮は迫る前に触手を撃ち抜き岬を守る。


「...ッ!触手からエネルギー反応あり!」


岬の警告から瞬く間に触手からビームが放たれる。


蓮のような威力の高いビームではないが細く連射性能が高く対処が出来ない。


「まっまずい受け切れっ...!」


シールドを使いなんとか防ぐリナであったが限界が来て左腕と体に数発ビームを食らってしまった。


「リナッ!」


負傷したリナを見てカイは歯ぎしりをしファイアブレイザーの力を溜め地面に解き放つ。


ボゴォーーン


爆炎と共に辺りに煙がモクモクと立ち込める。


「むぅ...何も見えないです。」


煙で辺りが見えなくなったオブリビオンは腕をがむしゃらに振り回す。だが何も当たらないため腕を下ろし耳を澄ます。


ボォウッ


なにか炎のような音がしたと思った瞬間

目の前にメラメラと光る赤い炎が飛んできた。


「蓮!ここだァ!」


ヂュゥーンッ


立ち込んでる煙がオブリビオン目掛け一直線に開き連の強烈な一撃が頭部に激突する。


がッ


「...ッ!全然効いていない!?...出力30ッパーじゃあだめか!」


「蓮...という方、中々良い攻撃です。なにか...心に来る...そんな不思議な感じがします。ですがその攻撃じゃあ私は倒せませんよ。」


オブリビオンの言葉にはどこか不気味な響きがあった。傷ついた様子もなく、飄々としている。


「そろそろ私に感情というものを教えてもらいます。」


そう言うと息を大きく吸い唇を丸め息を吐くと周囲に何か淡い光が漂い始める。


「なんだ、これ…?」岬が眉をひそめる。

光はゆっくりと拡散し、まるで霧のように周囲を覆い始めた。その瞬間、リナが叫ぶ。


「なっなにこれ...頭が!」


リナだけではなかった。蓮やカイもその光の中で頭を抑えていた。岬はなんとか周囲を見渡そうとするが苦しむ


「これが私の能力です。名付けるならば、消える思い(ルクス・オブリビオン)


オブリビオンの声が周囲に響き渡る。声の方向さえ掴めない状況に、岬たちは一瞬の戸惑いを見せる。


「くそっ、みんな冷静になれ!」


カイが拳を握りしめながら叫ぶ。

しかし、その声もやがて霧に飲み込まれ、消えていくかのようだった。




気づくと、岬は一人で暗闇に立っていた。周囲には誰もいない。仲間の声も、足音も聞こえない。それにシフトギアが使えない。


「これもオブリビオンの仕業か…?」


岬がそう呟いた瞬間、奥から誰かが近づいてくる。


「…誰だ!」


暗闇から現れたのは…


「私!?」


何とその正体は岬と瓜二つの女性だった。

その女性は下を俯いたままなにかを呟き出した。


「……好き…蓮…好き…かっこいい…」


「!?…なッ…なにを言ってッ」


女性は依然として呟きを辞めない。


「大好き…結婚したい…毎朝5時半に起きて味噌汁作りたい…」


"これはあなたの欲望です..."


前方でも後方でもないどこかからオブリビオンの声が脳に響き渡る。


「ふざけるな! お前が、私の事知るわけないだろ!」


岬がいくら叫んでも女性は呟くのを辞めない。


「…好き…大好き…エッチしたい…ベロチューしたい…他の女と話さないでほしい…私だけを見てほしい…!」


「ふざけるな!こんな淫らなことなんか考えてない!」


岬の叫びも虚しく女性は口を閉じずオブリビオンは冷静に観察を続けた。


"これが…感情なのですね。嫉妬…怒り…それに性的興奮まで……!興味深い…"


"…んぅむ…性欲が満たされた時の感情はなんと言うのでしょうか…?"


"そうだ…今満たして貰いましょう…"


「は...何を言ってッ」


その瞬間暗闇からまた何かが近づいてきた。


「今度は誰だ!」


コツ…コツ…コツ…コツ…


「蓮…!?」


「岬…!?」


何と蓮本人が岬の目の前に現れたのだ。


"蓮さん…岬さんはあなたとエッチしたいそうです…"


「ちッ違う!これはこいつの嘘よ!」


「岬…?」


「私は断じてそんなこと思っていない!」


"往生際が悪いですね…そうだ蓮さんにもあなた同様に欲望をさらけ出して貰いました...蓮さんの欲望聞きたいですか?"


「蓮の…欲望…?」


「まッ待て!」


"岬とエッチしたい。だそうです…"


「えッ…蓮…?」


「こんなのアイツの嘘に決まってるだろ!なぁみ…さき……?」


暗闇の中で蓮の声が途切れた。蓮の向いた先にいた岬の顔は少し赤らみとろけており呼吸もまばらだった。


「れん…私…あなたと…エッチしたい…」


その言葉に蓮も火照り心拍数が上がり呼吸が大きくなる。


"人は皆、心の奥底に秘めた欲望を持っています…それを隠すのは何故でしょうか…恥ずかしいから?それとも相手に拒絶されるのが怖いから?"


"お互い欲望をさらけ出せば楽になれるのに……やはり感情は大して必要ないのではないでしょうか"


蓮と岬はオブリビオンの言葉を無視しおでこをくっ付けお互いの身体をまさぐり合う。


"しかし…興奮や安心などは子孫繁栄に必要だと思いますが恐怖…嫌悪…恨み…嫉妬心…悲しみ…絶望…これらは必要ないと私は思います。"


"それらがなければ今のあなた方のように幸せになれるのに"


"さぁ…快楽に身を委ねて……"


2人の脳内に響く声は右往左往し掻き乱されるような感覚だった。


"2人の今の感情は…安心…期待…興奮…優越感...幸福…!"


"すごい…!これが感情…!理解してきました…この感覚が幸せ…!"


そのまま2人の唇が近づきキスをしようとした時オブリビオンはなにか疑問を抱いた。


"む…これは…不安…?…蓮さん何が不安なのですか…このままいけば快楽を得られるのですよ"


その時蓮は憂いを帯びた顔でふらついてる岬の肩を突き放し寝かせ、オブリビオンに向かって語り掛ける。


「分かってないなぁ…何も分かってわいない…!」


"………"


"いえ...私はたった今理解しました。人間の感情を…"


「いいか、よく聞けよ。人間は正の感情だけじゃあ成長出来ない。」


蓮は何処かに居るはずのオブリビオンに指を刺し言葉を掛けた。ハキハキと。ドウドウと。


「負の感情があるからこそ成長できる。不安を感じた時、恐怖を感じた時、それらを乗り越えようとする『意志』が人を成長させる…!」


「負の感情を感じた事の無い人間はきっとダメなヤツになる。成長するには必ず恐怖の試練を乗り越えなくちゃあならない。」


「俺にとってそれは今だ。圧倒的恐怖に絆されて目の前の快楽に目が行ってしまった…」


「試練から逃げてしまったんだ。いっときの感情でな…」


「見せてやるよ…人間が恐怖を感じた時どおするのか、大切な人を守る為どおするのかをよぉ!」


ガシャンッ!


連は右腕を伸ばしシフトギアを発動させ歩き出す。


「お前も一度死ぬ恐怖を………色んな感情を教えてやる!!!」


"………"


「さぁ出て来いオブリビオン…恐怖を乗り越えた勇気の力…限界突破の120パーセントをぶつけてやる…!」


"何故……何故そのような勇気を出せるのですか?あなたは今何が出てくるか分からない暗闇で、どこからともなく声が聞こえ、目の前には意識が朦朧としてる大好きな人が居るというのに…"


「俺はな岬を守る為ヒーローになるって誓ったんだ。父さんと母さんそして…優雅と!」


"だからって痛い思いを…"


「我慢…」


オブリビオンの言葉を遮り1つの単語を口にした。


「俺の得意分野だ。」


"そう…ですか…"


"まぁいいでしょう…私の目的はあくまで感情を知る事…倒すことが第一では無い。"


"負の感情も知ってみましょうか…"


納得した様子のオブリビオンは暗闇からすっと蓮の目の前に現れた。


「私のコアは胸中央の奥にあります。あなたのビームをずうっと当て続ければ私は死ぬでしょう…」


オブリビオンの言葉を聞き蓮がフェイズライフルをチャージし始める。


「あなたの今の感情は勇気と感謝…?」


「ん……あぁ、お前のおかげで岬の気持ちに気付けて試練も乗り越えられた。そこは感謝してる。」


「そうですか…」


蓮の言葉にオブリビオンは淡々と応えた。


「そろそろ120パーセントに近付いてきた…さっきまで全身に激痛が走ってたのに今はもう何も感じないな。」


フェイズライフルをチャージしている時、二人の間に冷たい空気が流れていた。


「よしチャージ完了だ。俺の力は感情その物だそれをお前にぶつけてやる。」


「来てください…私の胸はここです。」


連はゆっくりと片膝を着きフェイズライフルを構えた。


「岬………」


「誕生日おめでとう………」


その時暗闇に眩しい光が蓮とオブリビオンを線で繋げるように現れた。


ジュゥゥゥゥゥッ!


その光は収まる事を知らず長い間輝きを続ける。そしてその光は増していき暗闇が晴れ元の場所に戻る。


「もどった…のか………なんだ!あれは!蓮か!」


カイとリナも元の場所に戻っていた。


「んん……蓮?」


その時朦朧としてた岬は意識を取り戻し辺りを見回していた。


「え…あの光は………蓮?えっ!待って!蓮!うそっ!蓮!」


蓮はビームの熱で身体を溶かされようとも衝撃で身体が崩れようとも撃ち続けるのを辞めない。辞めるつもりなんかない。


「やめて!蓮!死んじゃう!蓮!お願い…!だから…!や…めて…!」


「蓮!一緒にヒーローになるって言ったじゃないか!」


「なんで…なんで…男ってそういつも自分を犠牲にするのカイだってそうだった………もう…わかんないよ!」


そして蓮とオブリビオンを包む程の光は収まり煙が立ち込めていた。


「蓮…?」


岬が見た先には蓮の姿はなくただただ焦げた後だけが残っていた。


「やはり…負の感情は要らない…」


「…ッ!?オブリビオン!!」


そこにはボロボロになりながらも立ち続け蓮が居た場所を眺めてるオブリビオンがいた。


「蓮さんは最後の最後で不安と言う感情を感じたせいで照準がズレた。」


「疑問なのが恐怖ではなく不安な事。まあズレたことには変わりませんけどね」


「貴様ぁ!蓮を侮辱する気か!」


「蓮さんはもう居ないじゃないですか。」


その時岬の右腕が光り輝き新たなシフトギアが発現した。


岬はすぐさまレールガンのような物をオブリビオンに向け、


「うおあぁぁぁ!!!」


発射した。


ッスドンッッ!


その弾はオブリビオンのコアには当たらず右腕を掠めた。


だがその威力は凄まじく掠めた腕は削り取られていた。


そして過度な興奮と大砲の強力な衝撃で気を失った岬は後ろに倒れようとしていた。


「…!?この感覚は………」


シュルッ


後頭部をぶつけようとしていた時オブリビオンは何かを感じたのか触手を伸ばし岬を支えた。


「オブリビオン!?」


一部始終を見ていたカイとリナは岬の元に近付く。


「………」


「オブリビオン!岬をどぉするつもりだ」


カイはシフトギアを発動しいつでも攻撃できるように構えオブリビオンに近付く。


「なにか岬に危害を加えたら即撃っちゃうからね。」


リナもライフルを構え警告する。


「………」


オブリビオンは無言のまま岬を地面寝かせ触手を離す。


カイとリナは警戒を解かないまま、その奇妙な行動を見つめていた。


「私はただ岬さんを助けたいだけです。」


「………は?」


オブリビオンは姿勢を直し二人の方を向き喋り出す。


「蓮さんの攻撃を受けた時、私の中に彼の意識が入り込むのを感じたのです。」


「その意識が私の心と交わった事により少しだけ感情を理解出来ました。」


「大切な物を失う怖さを。」


「…だから私は蓮さんに代わり岬さんを助けたのです。」


「……???どーゆー事?」


リナはまっっったくオブリビオンの言葉を理解出来ずにいた。


「すみません…私も初めての事で何が何だか分からず上手く説明出来ないのです…」


「つまり……これからは俺らの味方って事か?」


「え?」


カイまで意味の分からない発言をしリナは困惑する。


「ええ…そう言う事です。」


「えぇ???」


「俺もな…意志を継いだ者なんだ……だからオブリビオンの事が良く分かる。」


リナ未だに先の見えない話に困惑していたがどうやら諦めるようにしたらしい。


そういう私もあまり理解していない。

普通に考えて有り得ない事だからな。


「えっ…と……オブリビオンはもう敵じゃあ無いって事になるの?」


リナの質問にカイは「ああ。」とニヤけた表情で返事をした。


「よろしくお願いします……!」


オブリビオンも丁寧にリナに向かってお辞儀をし仲間である事を示した。


「でも岬はどーするの?オブリビオンの事そーとー恨んでたよ。」


「それは……」


ムクリ…


するとカイの言葉を遮るように岬が目を覚まし起き上がった。


「んん………私は………何を………」


岬は目を擦りながら辺りを見渡す。するとピタリと視線が止まり歯を食いしばった。


「オブリビオンッ!!!」


「まっ待て!岬…!」


激昂する岬をカイは何とか押さえつけようと奮闘する。


「離せ!!アイツを!殺さないと!!」


いつもの落ち着いた岬の面影は無い。


今の岬は怒りに支配されていた。


「落ち着け!岬!!」


カイは必死に岬を押さえつけるが、その力は想像以上に強かった。


「アイツはもう敵じゃあない!」


「ふざけるな!!蓮を殺した奴が敵じゃないだと!?」


岬の目には怒りと悲しみが入り混じった感情が渦巻いていた。


「違うんです、岬さん…」


オブリビオンは静かに言葉を紡いだ。


「私は……あなたを助けたい。」


「ふざけるなッ!!だったらなぜ蓮を殺した!?」


岬はカイの腕を振りほどくと、再びレールガンの様なシフトギアを発現させ、オブリビオンに向かって駆け出した。


「殺してやる!!!」


その瞬間。


「やめて!!!」


リナの叫びが響く。


同時に、オブリビオンは動かず、ただ岬をじっと見つめていた。


岬の攻撃がオブリビオンを貫こうとしたその刹那、目の前に蓮の姿がよぎった。


蓮が最後に見せた、微笑み。


「っ……!」


岬の手が、止まる。


震える腕。汗ばむ手。


激しく鼓動する心臓。


「な……んで……っ……!」


オブリビオンはただ、その場に立ち続ける。


「私は、蓮さんの意志を……彼の気持ちを受け継ぎました。」


「そんなこと……信じられるわけ……っ!!」


涙が、零れ落ちる。


カイとリナは黙って見守るしかなかった。


オブリビオンは静かに言葉を続ける。


「私には感情がなかった。でも、今は分かる。」


「蓮さんは、あなたを想っていた。」


「だから私は、あなたを殺さない。」


岬はその場に崩れ落ちた。


「………なんで……っ……」


岬のシフトギアは風のように消え強く握りしめていた拳を解き両手で涙を拭う。


「あの時蓮さんに殺意は無かった………」


「え…?」


「私を殺したいから撃つのではなく………私に『感情』を知って欲しかったから撃った………」


「………大切な人を守りつつ………私に感情を教える為に…自分を犠牲にする………」


「なんとお優しい方なんでしょう………」


「そうだよ………蓮はッ………蓮は優しいんだよ………ッ!」


岬は言葉が詰まりながらも小さい頃からさっきまでずうっと側で見てきた蓮に対する思いを吐き出す。


「蓮は…いつもご飯作ってくれるし……いつも助けてくれる……いつも……いつも…!私の事を思って行動してくれる……!」


「うぅっ……うぅぅ………」


声を抑えようとするもどうしても零れてしまう。蓮の事を思う度に声も涙も零れてしまう。ヒクヒク体を震わしながら呼吸も乱れ俯きながらも、ただただこの世にはもう居ない蓮の事を想い続ける。


「岬さん………」


トットットットッ


重苦しい空気が流れてるこの空間にグラヴィエルとの戦闘を終えた、勇雅、なぎさ、千弦、蘇芳の四人が戻ってきた。


「おい!リゲインの前で何してる!」


事情を知らない四人はオブリビオンを見るなりシフトギアを発動させ臨戦態勢をとる。


「待てお前ら!こいつは敵じゃあない!」


カイは四人の前に立ちはだかり静止させる。


「むっ?何を言ってるの?アイツはリゲインだよ?」


千弦も状況を理解出来ずにいる。


「本当なんだ!アイツはオブリビオン。もう敵では無い!俺が保証する!」


リナは俯き、岬はリゲインの前でうずくまっており、蓮の姿は無い。


「そう…か…カイがそこまで言うなら信じよう。だが蓮は何処だ?何故居ない?」


勇雅の質問にカイは黙り込んでしまった。

その光景に四人は察する。もうこの世には居ないのだと。


「なぁ…オブリビオンつったか?お前は敵じゃあないんだな?」


「信じて貰えないならアトラスの情報をお教えしましょうか?私にとってアトラスは親その物。その親を売ると言ってるのです。証拠には充分でしょう…」


オブリビオンの意外な答えに一同は驚く。


「………分かった。ひとまず帰ろう。オブリビオンも着いてこい。」


「市民にバレない様にしてくれよ…」


「はい。」








「外に来てくれと言われて来たが………何だそいつは……」


勇雅に呼ばれた神埼が見た光景は異質だった。何故なら敵であるはずのリゲインがそこに立っているのだから。


そして何故こうなったのかをカイとオブリビオンから説明された神埼は少々疑問を残しながらも納得はしたようだ。


「な…る…ほど………岬を守る為自信を犠牲にして放った蓮の攻撃はオブリビオンの中に取り込まれ一体化…?した………そう言う事だな?」


「ええ…私の中に蓮さんの意識が入り込むのを感じました。」


「そうか……それじゃあアトラスについて知っている事を洗いざらい話してもらおうか。」


神埼はしばらく考え込んだ内に真剣な表情でオブリビオンに質問をする。


「アトラスの本当の目的はなんだ?」


オブリビオンは空を見上げ語り出す。


「………アトラスは人類を根絶やしにする事を建前に地球を攻め様々な実験を行い最終的に自身の神格化を望んでいます。」


「神格化…?」


「ええ…アトラスはいつも神に成りたいと言っていました。」


「そうか……その実験とは俺ら人間を殺す事なのか?」


「いえ……具体的には私の様なリゲインを人間と闘わせそのデータを集めています。」


「それならわざわざ人間にこだわる必要あるのか?……この宇宙は広いんだ……俺らより強い生命はきっといるはず……」


「はい。でも他の生命ではダメなんです。確かに人類よりも遥か先の技術を持った生命と戦いましたがとても弱かったです…」


「アトラスが真に求めてるのは人間の精神の表れとなる『シフトギア』の力なんです。」


「シフトギアの力……?」


「ええ。シフトギアは人間の感情や意志の力を直接具現化したもの……それは単なる武装ではなく…一種の『進化』とも言える存在です…」


「進化…だと?」


「はい。人間は極限の状況に置かれた時、想像を超えた力を発揮することがあります。そして、シフトギアはその力を最大限に引き出す『触媒』なのです…」


「だからアトラスは人類とリゲインを戦わせ、シフトギアの進化を促している。そして……最終的にそれを自身のものとするつもりです。」


「……つまり、俺たちを利用して『神』になろうってわけか。」


「はい。アトラスは『完全なる意志』を持つ存在になることを望んでいます。そのためには、『感情』と『進化』を自在に操る力が必要です。」


神埼はしばらく沈黙した後、深く息を吐いた。


「ふざけた話だ……俺たちは実験動物じゃあねぇ……!」


カイが拳を握りしめ、苛立ちをあらわにする。


「ですのでこれからも私やグラヴィエルの様な知性があり強いリゲイン…『アークリゲイン』を投下して来るでしょう」


「ほう……結局のところアトラスを止めない限り、ずっと俺らは進化させられ続けるってことか。」


「はい。」


オブリビオンは静かに頷いた。


「アトラスは『神』になるために、シフトギアを極限まで進化させ、その力を自らに統合しようとしています。つまり……『シフトギアを超える存在』になろうとしているのです。」


「……だったら、完全体ではないやつを早いとこ倒すしかないってことか。」


「……いいだろう。アトラスの計画は、ここで止める…!」


「早速これからに向けて新型SGシリーズの開発に入りたい所だがその手伝いをしていた蓮はもう居ない………んーむ………どうしたものか………」


神埼が今後の予定を考えている所、勇雅達の中から一人声が挙がった。


「それなら私に手伝わしてください…!」


そう声を挙げたのは岬だった。


「岬………」


「オブリビオンの事ははまだ許してはいない………けど蓮があなたの事を想って死んだ事は理解した………だからもうオブリビオンの事は恨まない…だけど……だけども!蓮が死んだ事も私の家族が死んだ事も!根源的理由はアトラスにある!」


「だから!!私に出来る事はなんだってする…!蓮のためならば…!」


「そうか………良し!確か岬は新しいシフトギアに目覚めたんだよな。それを応用した新型を造るぞ!」


「はい!」


岬は先程とは違い希望の眼差しを見せていた。


「それはそれとして肝心なのは………」


「オブリビオン………あんたをどうするかだ…」


「あんたは岬を護る的な事を言ってたが具体的には何をするんだ?」


「それはもちろん私も戦います……」


「だが他のラルの隊員や市民はお前の事を見てどう思う?」


「………」


オブリビオンは何も答えられずにいた。


「それにそのボロボロな身体じゃあ戦えないだろ…だから暫くは地下の施設に閉じこもって貰う。」


「その間にあんたの治療や隊員達へ説明をしておく……」


「はい…!」


オブリビオンの返事はいつもより嬉しげであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あららぁ!グラヴィエル負けちゃったし、オブリビオン人間側に寝返っちゃったよぉ」


カチカチ…カチカチ


「グラヴィエルは短気で馬鹿だからなあっさり負けるとは思っていた。」


ショワショワ…ショワショワ


「まぁこれはこれで面白いけどね…!」


カチカチ…カチカチ


「なぁお前………」


ショワショワ…ショワショワ


「どしたんぅ」


カチカチ…カチカチ


「お前その蜘蛛の足で床カチカチするの辞めてくれないか…それに見た目も気持ち悪い。」


ショワショワ…ショワショワ


「はあああ!?しょうがないだろぉ、人間が嫌悪を示す物をベースに作られてるんだからよぉ!ウチの上半身は普通のリゲインだが下半身は地球に生息する蜘蛛の足。そーゆー風にアトラス様に作られたの!」


カチカチカチカチ


「あんただってなんか気持ち悪い羽生えてるし…触覚もデカくて気持ち悪いうえに、ショワショワうるせぇんだよ!どーゆー原理で音鳴ってんだ!」


カチカチカチカチ


「それは………知らない……が!羽が気持ち悪いとは何だ!イカしてるだろうが!」


ショワショワショワショワ


「「ムカつくなぁ!」」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



コツ………コツ………コツ………コツ………


一人で夜道を歩く…


………


ガト………ガト………ガト………ガト………


一人で階段を登る…


………


ガチャ…リ


玄関ドアを開けるといつも暖かい空気を感じていた。でも今日からはもう……感じない。


ただ……ヒンヤリと冷たい空気のみ。


靴を脱ぎ捨て…リビングに向かうと……いつもなら………蓮が……ごはんをっ………つくってっ……まってて………くれ…るっ……


……けど……これ…からは……じぶんでっ……つくッ……つくらないと……いけないっ……


………ごはんをっ……たべおわったらっ………わたしは……しょっきをあらおうと……するけどっ……れんは……いつも………てがひえちゃうからって……かわりにっ……あらってくれるっ……


そのあとはっ……おふろにっ……はいるっ……いつも…れんはっ…さきにはいるっ……わたしにっ……ゆっくりはいって…ほしいからってっ……


おふろから…でた…れんは…いつもいいにおいが…する……わたしとおんなじ…しゃんぷーのにおい……


それで……わたしがっ…おふろから…でると……いつも……あったかい…ここあを…よういしてくれる……


それを…のみながら……おはなし…したり…てれびみたり…すまほみたりする……


そして……ねるときは……


いつも………


いつも…………


いつも………!


おんなじ…ふとんでねるっ…!


だって………


さびしいからぁぁぁ………!


……でもぉっ……れんはっ……もう……いないぃ…!


……いっしょにはもう…ねれないぃ…!


……このおふとん……ぼろぼろだからかえようねって……はなしてたぁっ……


………でもさぁ………


かえれないよぉぉぉ………!


……うぅっ………ぁうぅぅ……


………なんか………もう………いやになってきた………


………やっぱり……わたし……むりだよ……


………れん…がいなきゃ……なにも…できない


………れんのいない……じんせいなんて………なんの…かちも…ない……


………死のうかな………


………そうだね………そうしよう………そうしたら………あのよで…あえるしね………


…………


そのまえに………なにか……たべよ……


………


たしか………きのう……れんが…なにか…つくってたきがしたな……


………


ん………ケーキ…?………あっ………


わたし…きょう…たんじょうびじゃん……


………ってことは……


れんっ…がっ………つくってっ…くれたっ………ケーキ…!


………これ…たべて死のう………


………ん?


これは………


………てがみ?


『岬へ、俺と岬の職業上いつ死ぬか分からないからこうやって定期的に手紙のような日記のような物を残してる。


そして今日は岬の誕生日だ。とっておきケーキを作っておいたから一緒に食おう………と言いたい所だがこの手紙を読んでると言うことは俺はもうこの世には居ないだろ。


だが心配はするな岬には仲間がいる。

勇雅やリナ沢山の仲間がいるじゃないか。

俺が居なくたって岬は元気にやっていけるさ。


だから頑張れよ!


以上!


そしてこれを読んだならクローゼットの隅っこに隠してある箱にこの手紙を入れておいてくれ。俺が書いた今までの手紙が入ってる。でも恥ずかしいから見ないでくれよ。』


………


れんぅぅっっ………


………わかったよぉ………


………


くろーぜっとのすみっこ………


はこ…は……これかな………


…….…


………ほんとだ…いっぱいはいってる……


………


………ん………いちばんしたのこれ………すごいいろあせてる………


………


………みちゃおう


『9月12日


僕はヒーローになると決めた。岬を守るために。


でもその岬もヒーローになると言っていた。


最初は反対だった。岬をきけんな目に合わせる訳には行かないからだ。


だけどいっしょに戦えるのはうれしい。


だって



岬の事好きだから。


岬とならなんだって出来る気がする。


どんなに強い敵でも倒せそうな気がする。


でも岬が死ぬのは何があっても嫌だ。


だから岬がピンチの時は必ず僕が助ける。


栄養があるご飯も僕が作る。


だから全身全霊を尽くして岬が幸せに暮らせるようにする。


それが僕の生きる目的。』


………


………うぅっ………うぅぅぅ……れん……


私も好きだよぉぉぉ………!!!


………


わかった………


分かったよ。


………もう死のうなんて思わない。


………私が今ここで生きてるのは今まで蓮が支えてくれたおかげ。


………その生命を捨てようなど蓮に対する侮辱。


見ててよ………蓮………!


あなたがくれたこの生命!


無駄にはしない!





続く--

ここまで読んでくださりありがとうございます。1話が訳1万文字程度を目指して書いてるのでどうしても遅くなってしまう………申し訳ない。

それはそれとしてオブリビオンの見た目の設定盛りすぎたな。

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