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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第四章

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第22話

「これは……?」


カノーネの転移呪文で辿り着いたそこは酷い有様だった。


迷宮跡──でいいのだろうか? 荒れ野の一角がおよそ一〇〇メートル四方に渡って陥没し、そこから大量の魔物たちが土砂をかき分け溢れ出ている。


状況から推察するに、魔物が内部に取り残されたまま迷宮が崩壊し、生き残った一部の強靭な魔物たちがそこから這い上がってきているのだろう。


──ああ。中心部の縦穴はあの翼竜が飛び出してきた跡かな?


現実感のない地獄のような光景を見下ろしながら、ウルがボンヤリそんなことを考えている、と──


「──カノーネ。色々言いたいことはあるだろうけど、まずはこれを始末しよう」


一番最初にショックから立ち直ったアリーゼが魔物を顎で示してカノーネの肩を叩く。


「──そうね。八つ当たりの一つもしてからじゃないと、冷静に話も出来そうにないわ」


そして一先ずではあれ行動指針を与えられたカノーネも何とか持ち直し、アリーゼに不敵な笑みを返した。


「……足、引っ張らないでね?」

「はっ。あんたこそ、血に酔って暴走するんじゃないわよ」

「…………」

「何故そこで目を逸らす!?」


そんな緊張感のないやり取りを交わしながら、アリーゼとカノーネは他の者たちを一顧だにせず陥没した迷宮跡へと飛び込んでいった。




二人の姿が視界から外れて数瞬後。


「カ、カノーネ様っ!?」


茫然としていたカノーネの弟子──カトルという壮年の男が慌ててその後を追いかけようとする。


「お待ちください! わ、私も──ぐえッ!?」

『はいはい。ストップ、ストップ~』


ウルがリンダの腕を操ってカトルの襟首をつかみそれを押しとどめる。


そのせいで首が締まりカエルが潰れたような悲鳴を上げたカトルは、首をさすりながらウルに抗議した。


「何をする貴様っ!? この期に及んで邪魔をするなら容赦せんぞ!」

『邪魔はあんたの方でしょ』


凄んでくるカトルに、ウルは嘆息代わりにゲコッと一鳴き。リンダに指で迷宮跡を差して呆れたように続けた。


『あの人外どもについて行けんの?』


──ズバァァッ! チュドドドドォン!


そこから聞こえてくる形容しがたい轟音と魔物たちの悲鳴。人類最高峰の戦士(?)と魔術師による虐殺だ。一流の戦士でも巻き込まれれば命はない。


「────」

『自殺願望があるなら止めやしないけど、そうじゃないならここで俺らを見張ってなよ。それも大事な役割でしょ』

「あ、ああ……」


ウルの説得に応じて──あるいは単に怖気づいて──カトルは自分たちの身を守るようにその場に結界を張る。


この辺りもいつ魔物が到達するか分からず決して安全ではない。監視役の名目で護衛を確保し、ウルは胸中でホッと安堵の息を吐いた。


「それでこれは……どういう状況なんでしょう?」


ようやく意識が追いついてきたリンがウル、ブランシュ、そしてカトルに困惑の視線を向ける──が、誰も正確な答えなど持っていよう筈もなく顔を見合わせる。


だがこうして皆で突っ立っていても仕方ない。ウルはリンダをその場に座らせ、その手で地面を叩いた。


『まぁ座れよ。体力は温存した方がいい』

「…………」


その呼びかけに応じて地面に腰を下ろしたのはリンとブランシュ。カトルは立ったまま彼らを警戒するように睨んでいた。


だがこの状況でウルたちに出来ることなどなく、また彼がウルたちを害せるはずもない。ウルは開き直りノンビリとした態度で口を開いた。


『取り合えず状況の整理といこうか。俺たちはあの翼竜出没の経緯を確認するため、カノーネさんが心当たりがあるっていう小規模迷宮に跳んできた。あの翼竜はそこに棲みついていた個体のはずだって言うんでね。で、いざ来てみたら迷宮はぐちゃぐちゃに壊れてて魔物が溢れてる。あの縦穴とこの状況を見るに、あの翼竜がここから飛び出してきたことはまず間違いない』


ここまではいいか、とウルが他三人に視線を巡らせる。


当然ながら誰も異論はないようだったのでウルはそのまま続けた。


『本来なら、あの翼竜にどう対処するかを考えるべきなんだろうが、それは俺らの手にはあまりそうだし置いておこう』

「正しい判断だと思いますわ」

『うん。で、次に考えるのは、何故こんなことになっているのか。その原因の追究だ』


自分たちを囲う結界のほんの数十メートル先には強力な魔物たちが跋扈しているのだが、荒れ狂う二体の化け物が次々とそれを駆逐していて、こちらに魔物が襲い掛かってくる気配はない。魔物よりもあの二人の攻撃に巻き込まれる方が怖いな、とウルはカエルの皮膚に脂汗を浮かべ恐怖から気を逸らすように続ける。


『迷宮がこんな状況に陥った原因について、考えられるのは大きく二つ。自然現象か人為的なものか』

「後者ですわね」

「後者だな」


ブランシュとカトルが異口同音に答える。


二人は一瞬顔を見合わせ、カトルが代表して口を説明した。


「迷宮が自然崩壊する事例はこれまでにもいくつか確認されているが、それらの事例では迷宮の崩壊と共に内部の魔物たちも消滅している。人為的にガワだけ壊すようなことでもしなければ、こんな惨状は起こり得ない」

『なるほど』


カトルの分かりやすい解説にウルとリンは頷き納得する。


『じゃあ人為的なものであることは間違いないとして、次に問題になるのは誰がやったかだ』

「…………」

「…………」


それを口にした瞬間、再びブランシュとカトルが視線を交わし睨み合う。だが忌々し気なカトルに対し、ブランシュには明らかに余裕があった。


「先に言っておきますけれど私たちではありませんわよ。ここに来る前にも申し上げましたが、距離的にも時間的にも私たちには不可能ですわ。そもそもちょっとした嫌がらせ程度ならまだしも、こんな大掛かりな真似をする技量は持ち合わせていませんもの」


カトルはブランシュの言い分そのものは認めつつも、疑わし気な態度を崩さなかった。


「ふん、どうだかな。お前にその技量がないという点は同意するが、姿を見せないあの女がしでかしたのではないか?」

「……確かに。クー姉さまなら可能かもしれませんわね」


ブランシュはカトルの主張を首肯しながら馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「先ほどカノーネは私たちの前で『逃走中で使用できる呪文に制限のかかったあの子じゃ私たちの目を盗んで妨害工作なんてできっこない』などと自信満々に吠えていたわけですが……クー姉さまは優秀な魔術師ですもの。カノーネの目を掻い潜ってこの程度のことはやってのけるかもしれませんわ」

「な!? ぐぬ……っ」


アリーゼに凹られていて師のその発言を聞いていなかったカトルは、本当かと確認するようにウルとリンに視線をやり、二人が首肯したのを見て苦虫を噛み潰したような表情で口を噤んだ。


「まぁ、実際出来る出来ないは私たちには分かりませんが、もし出来たとしてもその魔術師さんがこんなことをする理由がないんじゃないですか? いくらカノーネさんたちの計画に疑念があって止めさせたかったとしても、流石にこれはやり過ぎでしょう。火事を消すのに隕石を落とすようなものです」

「…………ふんっ」


険悪になりかけた空気をとりなすようにリンが割って入り、カトルが渋々矛を収める。ウルはその間ジッとブランシュの表情を窺っていた。


「念のため確認しますが、学院の誰かがやった可能性は? カノーネさん自身やその部下の方でなくても、その研究資料を盗んだ誰かがやったという可能性はありませんか?」

「む…………」


リンの指摘にカトルは口元に手を当て真剣な面持ちでその可能性を検討する、が──


「──いや、無いな」

「それはどうして?」

「カノーネ様の研究成果を盗み、実行できるだけの技量を持った術師は学院内でもごく僅かだ。そしてそれだけの技量を持った術師にとって、この研究は盗んだところで何の旨味もない」


カトルの言葉にリンは意外そうに目を丸くした。


「そうなんですか? 帝国の上層部も興味を持ってる研究……なんですよね?」

「それはあくまで経済的な意味で、だ。カノーネ様の研究は“迷宮を安全に解体する”ためのもの。それ自体は素晴らしいことだし、副産物として迷宮資源の確保も見込めるが、魔術的に迷宮を解体したところで何か益があるわけではないからな。いや、金銭や研究資材の確保という点で全く無意味ではないが、カノーネ様クラスの術師にとっては幾らでも代替できる程度のものでしかない」

「ははぁ……」


金銭的な利益を些事と切り捨てる殿上人の感覚に共感しづらかったリンはカトルの説明に曖昧な反応を返す。


「それにこの状況は学院の術師が実行したにしてはあまりにお粗末だ。カノーネ様の研究は迷宮内の魔物を亜空間に放逐することで結果的に迷宮を解体するというもの。失敗したとして何も起こらないか、魔物が幾らか消失する程度だ。間違ってもこんな結果にはなり得ない」


カトルは言いながら嫌な想像に思い至ったように顔を顰める。


「これではまるで、意図的にこの結果を引き起こしたとしか……」

「この結果を? 何のために?」

「…………」


リンの疑問にカトルは黙り込む。


それに代わって話を続けたのはブランシュだった。


「実行者の意図は一先ず置いておきましょう。ともかく実行者が私たちでも彼らでもないとしたら「3-2」は「1」。残る関係者は一つですわ」

「それって……」

「帝国上層部が研究資料を盗み、この結果をもたらしたということになりますわね」


ブランシュの指摘にカトルは肯定も否定もせず、半信半疑の様子で考え込むように独り言染みた言葉を漏らす。


「……確かにその可能性はあるが、素人同然のあの者たちにカノーネ様の研究資料を読み解くことなどできるのか? 仮に読み解けたとして、それだけの能力があるならこんなお粗末な結果には……少なくとも自分たちの手に負えないことぐらいは分かりそうなものだが……」


ブランシュはそんなカトルの態度に肩を竦め、大分破壊音と魔物の悲鳴が散発的になってきた迷宮跡へと視線をやる。


「どちらにせよ誰がやったかは調べてみるしかありませんわね。これだけ大掛かりなことをしでかしたのです。痕跡はそう簡単に消せるものではないと思いますが……」


ブランシュは言いながらチラリとカトルに流し目を送り、


「まぁ、帝国の仕業であるという証拠が見つかることを祈っておくといいですわ」

「何だと?」

「分かりませんの? 証拠が見つからなければ、この状況で疑いが向くのは間違いなく貴方方なのですわよ」

「────」


危機感と理解力の無さに呆れた様子で溜め息を吐く。


「翼竜の出現、帝国の存亡を揺るがしかねない重大事態──貴方方の命程度で片付くかしら」

「いや、だが……」


ブランシュの言葉を否定できず、カトルは言いかけた言葉を噤む。そしてそんな彼に、ブランシュは更に追い打ちをかけた。


「それに帝国がやったという痕跡が見つかったとしても、貴方方への疑いが晴れるとは限りませんわ」

「それは、どういう──?」


ブランシュはカトルの疑問に答えることなく、黙って迷宮跡を見つめていた。




──なるほどな。そういう筋書きか。

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