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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第四章

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第21話

「竜種──しかも翼竜!?」


遥か彼方の上空を舞う真紅の飛行物、その正体を見て取ったリンは思わず悲鳴染みた声を上げた。


「ちょ、マズいですよ! アレは本気で帝国が滅びかねないんじゃ……!?」


咄嗟に口を突いて出た言葉は決して出鱈目ではなく確かな根拠あってのものだった。


だが既に帝都周辺には迷宮産の竜種の出現が確認されている。そこに新たにもう一体が加わったからといって、何故リンは──この場にいる者たちはここまで動揺しているのか?


その理由はあの竜種の外観的特徴にあった。



一般人にはよく誤解されがちだが、竜種──特に混血種はあまり飛ぶことが得意ではない。純血種のように物理法則を超越した化け物は別にして、同じ化け物でも混血種は物理法則に──ある程度は──縛られている。彼らにとってもその巨体を宙に浮かべ、高速で飛行することは決して簡単なことではないのだ。


混血竜の半数程度は全く飛行能力を持たず、残る半数の内九割は馬程度の速度で一定時間低空を飛行できる程度。あのようにはるか上空を高速で移動可能な個体は極めて稀だ。


更にその姿を見ただけでリンが脅威と結び付けることができたのには理由がある。


それはこの大陸で約三〇〇年前に実在した或る小国の伝説。大陸外から飛来した一体の翼竜が国中を狩場として荒らしまわり、人口の五割以上を失い国が滅んだという史実に基づく理解だった。


飛行能力と引き換えに幾分戦闘能力がオミットされているとはいえ竜種は竜種。まともに戦って人間が敵う相手ではない。機動力と戦闘力の組み合わせがどれだけの脅威か、この大陸に住む者は三〇〇年が経過した今も忘れてはいなかった。


ちなみにその時は、王都が騎士団ごと焼け野原にされ、当時の至高神の総大主教が魂の消滅と引き換えに【神降ろし】を行うことで撃退したと伝わっている。



「散々私を買い被って下さったようですが、()()は私の仕業ではありませんよ?」


その場にいた者たちが茫然と宙を見上げる中、ブランシュはそう言って立ち上がり服の汚れを払う。動揺しているためか、カノーネがかけた【魔法の綱】はいつの間にか解けていた。


「距離的にも時間的にも私には不可能。勿論、アレを遠隔でどうこうできるような技量は私にはありません」


流石にそこまで買い被っていただけるとは思いませんけれど──と、薄く笑うブランシュに、非難するような声を出したのはリン。


「そんなことを言っている場合じゃないでしょう! 早く何とか──」

『何とかも何も、どうしようもねーだろ』


非常事態にも関わらず気の抜けた態度をとるウル。リンは八つ当たりぎみに地団駄を踏んだ。


「それはそうですけど! 何でそんなに落ち着いていられるんですか!?」

『そりゃ明らかに自分の領分を超えちまってるからな』

「ですわね。何もかも抱え込もうとしても自分が苦しいだけですわ」

「~~っ! ですけどもっ!?」


落ち着いているのではなく諦めている。そんな二人から目を逸らし、リンはこの場で一番の実力者であり、かつ最もこの事態に詳しいだろうカノーネに視線を移す。


「──嘘……」


しかし彼女が浮かべている動揺はリンや他の者たちの比ではなかった。


「嘘……嘘よ、あり得ない……」


カノーネは信じられないものを見たかのような目で翼竜を見上げている。


リンはカノーネの肩を掴み、彼女の目を覗き込むようにして叫ぶ。


「しっかりしてください! あり得ないも何もあれが現実なんです! 自分がしてしまったことから逃げたくなる気持ちは分かりますけど──」

「違う! 私のせいじゃない!!」


カノーネはリンの手を振り払い、駄々っ子のように髪を振り乱して否定した。


「私のせいじゃないって……この状況でそんな言い訳が通じる筈がないでしょう? 仮に貴女がさっき言ってたように誰かの妨害工作があったのだとしても、迷宮を破壊してその原因を作ったのは確かなんですから!」

「違う!!」


イラッとしたリンは思わず手が出そうになるが、それより早くカノーネが続けた。


「私は実験には細心の注意を払ってる! 対象の迷宮は事前に調査して、万一外部に魔物が流出してもコントロール可能な迷宮しか実験対象にしてないの! 私が破壊した迷宮に、あんな翼竜なんていなかった……!」

「それは……」


意外な反論にリンの勢いが削がれる。


しかし直ぐに気を取り直して続けるが──


「いやでも、あの翼竜を見落としたまま実験をしていた可能性も──」

「虫や小動物じゃないのよ!? あんなデカい魔力見逃すはずがないじゃない!」

「…………」


そう言われると専門ではないリンには反論しづらい。何かミスや見落としがあったとしか思えないし、それを口にすることは簡単だが、論理的に説明できるかというと……


大声で叫んだことで却って少し落ち着いたのか、カノーネは上空の竜を睨みながら続けた。


「それに、あの翼竜の魔力波長には覚えがあるわ。あれは私が実験実施を見送った小規模迷宮の主の一体……私たちは手出ししてない」

「え……?」

「それは本当ですの?」


リンだけでなくブランシュもその発言に驚いた表情を見せる。


「ええ。こんなすぐにわかる嘘はつかないわ」


確かに。事実かどうかはあの翼竜がいたという迷宮を確認すればすぐにわかる。


そのやり取りを黙って見守っていたウルは翼竜が久方ぶりの大空を楽しむように飛び回っている姿を見て口を開いた。


『まぁ、今すぐあの翼竜をどうこうする手段があるわけじゃない。今すぐ襲い掛かってくる気配もないし、先にその迷宮とやらを確認してみませんか?』


視線を下ろすと、ボコボコにしたカノーネの弟子を片手で引きずるアリーゼが、こちらに小走りで近づいてきていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


時は少し遡り、場所はカノーネが口にした翼竜が棲むという迷宮。


採算が取れないと冒険者たちから放置され、学院からも実験には不適格と判断された全十二層からなる小規模迷宮だ。


人里や街道からも距離があり、普段は全く人気ひとけがないこの場所に、怪しげな影が複数。


「……改めて確認するが、この資料は本物なんだな?」

「しつこいぞ。内容の精査はお抱えの魔術師にさせたんだろう。今更儂から“本物だ”という以外の反応が返ってくると考えておるのか?」


人影は全部で九つ。八つと一つに分かれていた。


一方の八人組は、黒を基調としたフード付きの制服を纏った一団。その立ち振る舞いは専門の訓練を受けた軍人のものだ。


もう一方は灰色の粗末なローブを身に纏い、顔や全身を覆い隠した呪文遣い。声からすると男のようだが、ヒューマンにしてはかなり小柄でノームやドワーフなのではと相対する軍人は推察した。


「確かに我々の部隊の魔術師にも、上官を通じて宮廷魔術師にも内容は確認させた。だが、何分未知の技術で真偽の確認まではとれていない。我々としても慎重にならざるを得んのだ」


軍人の言い分に、小柄な呪文遣いはローブの奥で呆れたように溜め息を吐いた。


「……塔の部門長の研究資料だぞ? 未知の技術であることなぞ当然だろうが。この世の誰もその資料が正しいかどうかの保証なぞできはせん。儂はそれを本物だと考えておるが、贋物を掴まされた可能性は否定できんし、そもそも研究途中の代物だ。資料が間違っていることもあり得るだろう」

「今さら──」

「そのリスクを承知で真偽を確かめようというのがお前さんらの上司の判断で、言われた通り実行するのがお前さんらの仕事だろう。この期に及んでくだらんことを口にするな」

「…………」


呪文遣いの無責任ともとれる正論に軍人たちのリーダーは押し黙る。


確かに実施の是非についての判断は既に上が済ませている。どれほど不安と疑問があろうとも、自分たちはただその判断に従うしかないのだ。


軍人はフードの奥で諦観の溜め息を噛み殺し、部下を引き連れて迷宮内に足を踏み入れた。

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