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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第四章

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第15話

状況は動く。ある日突然、人間の思惑を無視して。


「はぁ!? 竜種が迷宮外に出現したっ!!?」


ウルたちが学院の地下から救出され半月が経過。

特にこれといった進展もないまま潜伏活動を続けていた彼らは、大陸亀ザラタンが守る森で早めの夕食を取りながら、帝都での情報収集を終えて帰還したブランシュの報告を聞いていた。


「そうなのですわ。まぁ出現場所は人里からは大分離れていますし、今のところ移動する様子もないので大きな問題にはなっていないようですけれど」

「大きな問題になってないって──えっ!? それでいいんですか!?」


頬張っていた猪肉の串焼きをポロリと地面に落とし、リンがブランシュに詰め寄る。


ブランシュは行儀が悪いと一瞬顔を顰めるも、特に咎めることなくそれに答えた。


「一応、関係者には緘口令が敷かれているようで、それを知っているのは学院や軍官僚の一部のみとなっていますもの。帝都の住民には今のところ何の影響も出ていませんわ」

「はぁ、それなら──っていやいやいや! 竜種ですよ!? 討伐不能種アンタッチャブルの代表格! 貴女たちこの間、竜種が地上に現れたら『世界が滅びる……かもしれない』とかキメ顔で言ってましたよね!?」


それを言った当人であるアリーゼはリンのモノマネを無視して呑気に木の枝の先にハエを刺し、それをウルに食べさせようとつんつんウルの頬をつついていた。


「落ち着きなさいな」

「落ち着くって──えっ? 何でみんなそんな普通なんですか? 私の反応がおかしいの?」


他三人の反応が薄いのを見て、リンは自分がおかしいのかと目を白黒させる。


だが当然そんなことはない。ウルたちもその話には驚いていたし一大事だと認識してもいる。ただリンとは異なり『起こるかもしれない』とその事態を予め想定していた。


「以前アー姉さまが『世界が滅びる』と言ったのは迷宮から大量の竜種が地上に溢れ出るようなことがあれば、ですわ。今回現れたのはたった一体、しかも純血ではなく混血ですの」

「な、なるほど……?」


ブランシュの説明にリンは少しだけ落ち着きを取り戻す。


「竜種と言っても混血、しかも一体だけならそんな大事には──」

「まぁ万が一にも帝都に襲来することがあれば普通に帝国が滅びるかもしれませんけれど」

「落ち着かせたいのか脅かしたいのかどっちなんですかぁぁぁっ!?」

「──メンゴ、ですわ」


涙目になって抗議するリンに、ブランシュは可愛らしく舌を出して謝る。そのあざとさに心を撃ち抜かれ「ぐっ……!」と胸を押さえるリンを横目に、ウルは口元にしつこく突き出されるハエを仕方なく舌で舐めとり、アリーゼに素朴な疑問を口にした。


『実際問題、竜種と帝国の戦力比ってどんなもんなんですか?』

「……と言うと?」


ウルにハエを食べさせるミッションを終えて満足したアリーゼは、自身の夕食である乾燥ナッツの袋を開けながらコテンと首を傾げる。


『俺らは竜種は混血であっても単独で一国を滅ぼせるレベルの化け物だって教わってきましたけど、一口に一国って言っても程度差があるじゃないですか。例えばアリーゼさんも、その気になれば小さな国の一つぐらい簡単に滅ぼせますよね?』

「……うん」


アッサリと肯定するアリーゼに、リンが「滅ぼせちゃうんだ」と恐れおののいているが無視。


『逆に帝国は大陸最大最強の国家です。軍は精強だし、賢者の塔にはアリーゼさんと互角に渡り合える呪文遣いが少なくとも八人いる。混血の竜一体ぐらいなら案外何とかなっちゃうのかなぁ、と思ってみたり』


要は実力差があり過ぎて、どっちの化け物がどれ位強いのか分かりません、という話。


ウルの疑問にリン──そしてブランシュも興味津々といった顔でアリーゼを見つめた。


「う~ん……昔、何度か混血と戦った──っていうか襲われたことがあるけど、その時の感覚で言うと三倍、かなぁ……」

『アリーゼさんの三倍、ってことですか?』

「……ううん。その時のパーティーメンバーが三倍いれば、相討ちぐらいには持ち込める……かも?」


つまり人類最高峰の英傑である彼女と同格の戦士が、ダース単位で挑んでようやく相討ちに持ち込めるかも、というレベルということか。純血でもない混血でそれ──やはり竜種は桁が違う生き物なんだな、とウルたちは認識を新たにした。


「……万が一その混血が帝都を襲撃するようなことがあれば、その時は学院が矢面に立つだろうし、精々帝都が半壊するぐらいで済むんじゃないかなぁ……」


言いながらアリーゼは自信なさげに「危なくなったら逃げ出すかもしれないし、どうなるかは分からないけど」と首を傾げていた。


「……何にせよ、竜種は基本的に“敵”がいないから、刺激しない限り無闇やたらと暴れたりはしない。出てきたのが一体だけなら、よっぽど早まった真似をしない限り、ほとんど危険は無いと思う」

「その点は問題ないかと。私自身が現地を見たわけではありませんが、どうやら現地は学院の人間が広域結界を張って厳重に隔離しているようです。最低限の危機管理はできていると思いますわ」


その結論にウルとリンは顔を見合わせ『結局、そう大きな問題ではないのかな?』と曖昧に頷き合う。


『……となると、問題はその原因が何なのか、ですね。今まで迷宮の崩壊跡に魔物は出現してませんでしたけど、今回は何かの事故でそうなったのか。それとも実験による意図的なものなのか。はたまた今まで魔物が出現していなかったことのぶり返しで、今後は魔物の出現が抑えられなくなるのか』


これが学院側にとっても想定済み、コントロール可能な範囲のリスクならまだ良い。だがそうでないなら至急何らかの手を打たなくては本当に帝国が壊滅的な被害を被るかもしれない。


──捉えようによってはこれはチャンスか? 帝国としても無駄なリスクは抱え込みたくないはずだ。話の持って行き方次第じゃ学院と帝国の関係に亀裂を入れることもできるか……


そのためにはまず、この事態に対する帝国側の受け止めを確認する必要がある。それと帝国で誰がこの件を主導してるか、その人柄もだ。下手に突けば口封じやらでこちらに矛先が向くかもしれない。また自身のカエル化を解呪させるためには、あまりカノーネを追い詰めすぎるのも良くない。万が一にも彼女が粛清されるようなことがあれば確実な解呪の手段が失われてしまう。理想はカノーネに対する交渉材料を見つけて解呪させることだが、ウルでは現状カノーネと対等に話をすることもできない。弱みを握るだけでは足りない。力は無理にしても利や大義──彼女を動かす何かを準備しなければ。


そんなことを考えながらウルが自分たちの今後の方針について話し合いを主導しようとしたタイミングで、ブランシュがサラリととんでもないことを口にした


「──ああ、いえ。今の話は前置きで、今後のことを話し合う前に皆さんにご報告しなくてはいけないことがあるのですわ」

『────』


ウルやリンだけでなくアリーゼまでもキョトンと目を丸くする。


地上に帝都を半壊させ得る竜が現れた──その話が前置き、とな?


「実はその竜の出現について軍官僚の間で噂が流れていますの」

『噂?』


ブランシュ自身もその情報の判断に困っているのだろう、珍しく躊躇うように続けた。


「……ええ。その竜が出現してしまったのは、先日学院を襲撃した者たちの仕業である、と」

『…………は?』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「何か申し開きはあるか、アイゼン」


学院本部・伝承科部門長の執務室で、部門長カノーネの高弟カトルがドワーフの妖術師アイゼンを詰問する。


術師としての格はアイゼンが僅かに上だが、降霊科に属するアイゼンはこの場においては雇われの身であり、学院内での序列もカトルの方が上。下座で憮然と立ち尽くすアイゼンをカトルは厳しく睨みつけた。


「申し開き? 何の話だ?」


しかしアイゼンは一切悪びれることなく、その詰問を鼻で嗤う。それを自分ではなくカノーネへの非礼と取ったカトルは更に目つきを鋭くし、追及を重ねた。


「とぼけるな! 担当区域に出現した亜竜に関し、貴様があらぬ噂を流したことは分かっているのだぞ!」

「……ああ、そのことかい」


アイゼンは肩を竦め、皮肉気に口元を歪めて応じる。


「何か問題があるか? 不測のトラブルに対し、帝国のお偉いさん方の疑いがこちらに向かないよう対処しただけだ。学院側の管理にミスがあったと疑われて困るのはお前さんらも同じだろう?」

「問題にしているのは故我々に断りなく勝手な噂を流したのかということだ!」

「時間がなかったからな。学院に疑いの目が向いた後で噂を流しても効果は薄い」


カトルの追及を余裕たっぷりに躱すアイゼン。そして彼は心外そうに片眉を上げ、皮肉るように続けた。


「なんだい。まさかと思うが、あの竜を処理しそこなったのは儂のミスで、儂が取り繕うために噂を流したとでも疑ってるのかい?」

「……そうは言わん。だが──」

「むしろ文句を言いたいのは儂の方だぜ? 詳しい事情も知らされず、安全だからと言いくるめられて都合の良い労働力として使われたかと思えば、あんな化け物とニアミスするはめになったんだ」

「……今更契約に文句を言うつもりか?」

「言わせてるのはお前さんたちの方だろう? 帝国の疑いが学院に向けば、その矛先が真っ先に向くのは現場責任者の儂だ。──いや、何の実権も詳しい情報も与えられていない名ばかりの責任者ではあるがな。その中で自分の身を守る行動をしたとして、お前さんらに文句を言われる筋合いがあるか?」

「…………」

「…………」


無言で睨み合うカトルとアイゼン。


その睨み合いはたっぷり二〇秒ほども続いただろうか。それまで二人のやり取りを席に腰掛け、行儀悪く机に足をのせて黙って聞いていたカノーネが口を開く。


「──アイゼン。今回の一件、貴様は自分の身を守っただけであり、噂を流したことに他意はない。そう主張するのだな?」

「…………ああ」


小柄なエルフの詰問に、先ほどまでと打って変わって冷や汗を流しながら短く応じるアイゼン。


カノーネは冷たく目を細めアイゼンを見据えると、数秒の──アイゼンにとっては永遠にも感じる──沈黙を挟んで、裁決を下す。


「分かった。今回だけは不問とする」


アイゼンがホッと胸を撫でおろし──


「──ただし今回だけだ。今後、いかなる独断専行も認めん」

「それは──」

「良いな?」

「──……うむ」


アイゼンは反射的に浮かんだ感情を隠すように頭を下げ、短くカノーネの言葉に応じる。


──クソッ! 何故儂ばかり、こんな化け物どもに……!

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