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第9話

爆死のショックで書くだけ書いて投稿するの忘れてました。


……魔法使いも魔女も僕には高嶺の花でした。

「動く前にまず確認して裏を取れって、俺は何度もお前に言ったよな?」

「でもまさかこの家を見ず知らずの他人に貸し出すなんて想像できなかったし」

「でもじゃない。俺は、確認しろと、言ってるんだ」

「だってこういう話は私に一言あってもいいじゃない!」

「だってじゃねぇ。そもそもここはお前には直接何の関係もねぇだろうが」

「はぁ!? かわいい孫にそういうこと言う!?」

「かわいい孫扱いして欲しけりゃもう少し大人しくしてろ。他人だったらオークの里で強制労働させてんぞ」


意識を取り戻したウルは、ミノムシのようにシーツで包まれ拘束され、床に転がったまま黙って目を閉じそのやり取りを聞く。


話の内容からすると、昨夜自分を襲撃した少女は家主である犬ジイの孫。この家を借りた自分を不審者と勘違いして襲い掛かってきたらしい。そして細かい経緯は不明だが、自分がノックアウトされている間に犬ジイに話が行き、誤解だと判明して説教されているといったところだろう。


状況を確認し一先ず危機は脱したと判断したウルは、ぎゃいぎゃいと言い争いを続ける爺と孫に向け口を開いた。


「あの~……」

「ん? 坊主、気が付いたか」

「あ、はい。それで色々行き違いがあったようなんですが、誤解も解けたみたいですし、とりあえずほどいてもらえないでしょうか?」

「おお、すまんすまん」


犬ジイは孫を正座させたまま、自らウルの手足の拘束を解く。


「う、あぁ……」


かなりギチギチに縛られていたせいで、ウルは解放された後もしばらく痺れと急に流れ出した血流の痛みとで呻き声を上げ床の上で悶えた。正直、かなりみっともないが痺れて動けないのだから仕方がない。


犬ジイはそんなウルの様子に苦笑し、改めて謝罪する。


「今回はすまんかったな。身内の不始末に巻き込む形になって。俺がこいつに予め話をしとけばよかったんだろうが──」

「そうよ、連絡漏れじゃない」

「お前が言うこっちゃねぇんだよ!」


正座したまま茶々を入れてくる孫を怒鳴りつけ、犬ジイが溜息を吐く。そしてウルに向き直り頭を下げた。


「本当にすまんかった」

「ああ、いえいえそんな気にしなくても──」


ウルは床にうつ伏せになったまま首から上だけ動かして犬ジイを制止する。そしてその背後にいる孫娘とチラリ視線が合い、昨夜のやり取りと激痛がフラッシュバック。彼女の瞳が何かを期待するような光を帯びたことを察し、キリッとした表情を作り犬ジイに告げた。


「きちんと躾と教育だけしていただければ、俺は別に」

「任せろ。二度とこんなことのないように、徹底的にヤる」

「何でよっ!?」


同じくキリッとした表情で請け負う犬ジイに、何故か孫が抗議の悲鳴を上げる。


「そこは『気にしないでください、誰も悪くない不幸な誤解ですから』『……そう言ってもらえるとありがたい』って、いい感じに収めるところでしょ!?」

『いや、あんた(お前)が悪いんだろ』


勝手なことを言う孫に、ウルと犬ジイが異口同音にツッコミを入れた。


うじうじまだ何か言っている彼女を無視して、ウルはようやく感覚が戻りつつある手足を使って上半身を起こし、痺れている部分を刺激して感覚の回復を促した。


犬ジイは孫にデコピンを一閃「いったぁ~っ!?」、ウルに向き直って事情を説明する。


「今更ではあるが、念のため事情を説明するとだな。こいつは俺の孫だ……一応」

「一応って何よっ!?」

「うるせぇ!──で、今はこの街で冒険者稼業をやってるんだが、俺とは別々に暮らしてる。それが偶々この家に人の気配があるのを見て何事かと思って忍び込んだら、全く見覚えのないお前さんが寝こけてたんで思わず襲い掛かっちまったんだと」

「あ、はい。大体想像通りです」

「……そうか」


ウルの言葉に犬ジイは白髪をかき、若干言い訳がましく言葉をつづけた。


「この家が俺の持ちもんだってのは、その筋の人間は大抵知ってるし、その住人にちょっかい出すバカはいねぇと思ってたんだが……まさか、勝手に住みついてると勘違いして確認もせず襲い掛かる馬鹿がいるとは思わんかった」

「ぐ……」

「こいつの良識を信じた俺のミスだ。本当にすまなかった」

「いやいや、まさか家主に確認もせず、一方的に寝込みを襲う人間がいるだなんて普通は想像できませんよ」

「ぐぬ……」

「……そう言ってくれるか?」

「そりゃそうですよ。それにまともな判断力があれば、ご丁寧に家財道具運びこんでる時点で『あれ、不審者にしてはおかしいな』って気づきますから」

「む、ぐ……」

「そうだよな? 普通ってか最低限、動く前に俺に確認を取るよな?」

「勿論ですよ。言葉の通じないゴブリンじゃないんだから」

「──うがぁぁぁぁぁっ!」


犬ジイとウルのとぼけたやり取りに、我慢しきれなくなった孫が立ち上がり、爆発する。


「しつこいのよ、爺ちゃんも! あんたも! 男が過ぎたことでグチグチと!」


そんな彼女を見て、犬ジイは深々と嘆息。

つかつかと彼女に歩み寄りかなりキツメの拳骨を落とす。


──ゴキン!


「──~~っ! 何するのよ!?」

「何が過ぎたことだ阿呆。謝罪の一つもせず、そのふざけた態度は何だ」


犬ジイはかなり本気のトーンで吐き捨てた。


孫はその様子に怯み、少し涙目になるがウルはフォローせず傍観する。特別恨みや思うところがあるわけでもないが、この状況でここまで一言の謝罪も出てこないというのは流石にない。


「そうやって不貞腐れてりゃ、なぁなぁで終わると思ったか。ヒルダはお前に頭の下げ方も教えちゃくれなかったのか?」

「…………ぃ」


叱られた孫が俯き、何か小声でつぶやく。


「あん? 言いたいことがあるならハッキリ言え」


彼女は顔を上げ、キッと犬ジイを睨みつけて叫んだ。


「──だっておかしいじゃない! ここは先生たちが住んでた場所なんでしょ! 大事な場所だから守ってきたんじゃないの!? 何で見ず知らずの赤の他人に貸したりするのよ! 私が頼んだ時は──!」

「お前には関係ない」


その叫びを犬ジイは表情一つ変えず一言で切って捨てる。大きく顔を歪める孫に、犬ジイは淡々とした声音で続けた。


「ここは俺の持ちもんだ。誰に預けるかは俺が決める」

「なら私でも──」

「俺はお前を認めとらん」

「────」


その端的で容赦のない言葉に、孫娘は絶句した。


「お前がヒルダのとこを飛び出してこの街に来た時、俺は言ったな? 冒険者なんぞ諦めて、家に帰れと」

「それは……で、でも! 結局その一度だけで、その後は何も言わなかったじゃない。それは認めてくれたってことじゃないの!?」

「違う」


温度のない言葉だ。

それを横で聞いていたウルは、それが自分には無関係と理解していながら、この場から逃げ出したくなった。


「俺があれ以上何も言わなかったのは、俺は所詮お前にとって、血が繋がってるだけの赤の他人だからだ。それ以上とやかく言う筋合いじゃないと割り切っただけだ」

「他人って……」


これ、自分が聞いていていい話なんだろうか?

ウルは意味なく視線を天井に向けて、誰が見ているわけでもないのに無駄に無関係を装った。


「──が、お前が俺の血筋だってのをいいことに周りに迷惑を掛けるってんなら、他人だからと無視するわけにもいかねぇわな」


そこで犬ジイは言葉を区切り、瞳に冷たい光を帯びる。


「改めて言うぞ──家に帰れ。この街はお前みたいなガキがいていい場所じゃない」

「────」


孫は再び俯き、肩を小刻みに震わせる。

そんな彼女に、犬ジイは眉一つ動かさず畳みかけた。


「返事はどうした?」

「…………ぃ」

「あん? 聞こえねぇぞ?」


顔を上げた彼女は目から大粒の涙を流しながら、犬ジイを睨みつける。


「うるさい! 誰が帰るもんか、馬鹿ッ!!」


そして一瞬、ウルをギロリと睨みつけると、そのまま踵を返し脱兎のごとく家から飛び出していった。


「おいっ!」


犬ジイが呼び止めるが彼女は振り返ることなく、そのまま走り去ってしまう。


犬ジイは追いかけることまではせず、その場でかぶりを振って大きく息を吐き、ウルに向き直った。


「……いや、重ね重ねすまんかった」

「あ。いえいえ、その……大変ですね」


申し訳なさそうに頭を下げられ、ウルは何と言っていいか分からず、少しズレた言葉を返す。犬ジイはそれにただ苦笑して頭をかいた。


「あいつは俺が捨てた娘の孫でな……今更どう接していいか分からず、つい甘やかしちまう。詫びはまた──いや、そうだな。この埋め合わせは今度また改めてさせてくれ」

「いやいや。元々ここを貸してもらった時点で貸し借りの釣りあいが取れてなかったんですから、気にしないでください」

「そういう訳にゃいかねぇよ」


犬ジイはそう言って、床に転がる割れた瓶とその中身に視線をやった。


「そいつも、あの馬鹿がやらかしたんだろ。あまり見ねぇ代物だが、値が張るもんじゃねぇのか?」

「いやいや」


ウルは手をパタパタ横に振ってそれを否定。割れた瓶と同じ、ベッドの端に置いてあったサンプルを一つ手に取り、安心させるように笑った。


「中身は俺がバイト先からタダで貰ってきた素材で作った消臭剤っすから。試しに作ってみたもんで数もあるし、全然影響はないっす」

「それにしたって作業賃はかかってるだろ。あんま自分の腕を安売りするもんじゃねぇよ」


犬ジイは窘めるようにそう言って、ウルが持つサンプルを興味深そうに見つめる。


「……しかし消臭剤か。坊主、中々面白いとこに目をつけたな」

「そ、そっすか?」

「ああ。売れるかどうかは別にして、少なくともこの街の人間にゃ無い発想であることは確かだ」


犬ジイはウルに断りを入れて、彼が持つサンプルの瓶を手に取りためつすがめつする。


「これはどう使うんだい?」

「えっと、使う時は瓶の蓋を開けて部屋の隅にでも置いておけば、中の消臭剤が揮発して臭いを消してくれる仕組みになってます。どの程度消臭効果があるかはまだ試せてませんけど、効果時間は瓶を開けっぱなしで一週間ぐらいは持つはずですね」

「なるほどな……」


犬ジイはしばし瓶の中身を観察した後、一つ頷いてウルに質問した。


「こいつは幾らで売りに出すつもりなんだい?」

「え? いや、まだその辺りは全然……」

「ふむ……こいつで足りるか?」


そう言って、犬ジイは指でピンと金貨を一枚弾いてウルに投げ渡す。足りるも何もウルのバイト代一〇時間相当、作業時間分の賃金を上回っている。


「いやいや、こんなには……!」

「あの馬鹿が割っちまった分の代金も込みだ。俺にも一つ譲ってくれや」

「は、はぁ……」


これも彼の言う詫びの一環なのだろうと理解し、ウルはそれ以上の遠慮は失礼と金貨を受け取る。


犬ジイはそんなウルに笑みを零し、ポンとその肩を叩いた。


「やっぱりお前さんにここを貸したのは間違いじゃなかった。冒険者として生きていくかどうかは別にして、この街に住むなら金勘定は大事だぜ。どんなに腕っぷしがたとうと、金を稼ぐ発想のない奴は結局何もできずに終わる」

「…………」


何と反応していいのか分からず、ウルは戸惑うように曖昧な表情を浮かべる。


また手が空いたら話をしよう。そう言って犬ジイも家を後にした。

【今回の収支】

<収入>

 金貨1枚

 ・消臭剤サンプル代金

<支出>

 ―

<収支>

 +金貨1枚


<所持金>

(初期)金貨6枚 銀貨21枚 銅貨14枚

(最終)金貨7枚 銀貨21枚 銅貨14枚

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よかったです なあなあですますお話しが多くて読む気無くす事があるのでドキドキしましたが、保護者も主人公もおかしい所はしっかりと言っていてほっとしました。 話しの流れなんかも好きで楽しく読ませて頂いてお…
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