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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第四章

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第11話

『……すげ』

「……え? これ普通に都市一つぐらい落とせちゃいません?」


茂みの中からひょっこり顔を出したウルとリンは、目に飛び込んできた光景に思わず呆気にとられた。


ここは帝都直轄領の端にある草原地帯。全体的に乾燥していて小規模な茂みが点在しているこのエリアは、人が住むには向かず長年放置されてきた。中規模の迷宮が存在し、一時採算ラインに乗るかの検討がなされたこともあるそうだが、結局周辺の拠点化と移送コストの関係で見送られたと聞く。


そんな迷宮の入口があったはずの場所は今、無数のゴーレムたちによって採掘作業が行われていた。


「あのゴーレム……ゴーレムですよね? え? 鉄製? アイアンゴーレムってあんな工事バイトみたいに使っていいものでしたっけ?」


リンの困惑は正しい。

彼らが潜んでいる茂みから約三〇〇メートル前方。そこでは少なく見積もって五〇体はいるだろう鉄製のゴーレムが、その両腕に採掘用のアタッチメントパーツをつけてゴリゴリ地面を掘り起こし、土を運んでいた。


アイアンゴーレムは宮廷魔術師クラスでなければ製造困難とされる鉄巨人。操るにも相当な技量が必要とされ、その戦力は精鋭一個小隊を凌ぐとも。間違ってもこんな雑事に使われるべき存在ではない。


ちなみに周辺には見張りらしき兵士もいるが、採掘現場の規模の割に人数は少なく装備も貧弱。背後のアイアンゴーレムの存在を踏まえて考えれば、彼らが戦闘要員ではなく本当に言葉通り“見張り”でしかないことは明らかだった。


「……正確にはゴーレムじゃなく、私の鎧と同じで死霊を取りつかせて動かしてる」

「そうなんですか? いや、手段はどうあれあの数の鉄巨人を動かしてる時点でちょっとあり得ないんですけど」

「この計画にはカノーネ以外にも複数の高位導師が参加しているのですわ!」


ここまでウルたちを案内してくれたアリーゼたちが、背後の茂みの中からリンの呟きに答える。そのやり取りにウルとリンは都市一つ落とせそうな戦力がここにも一人いたなと、少し落ち着きを取り戻した。


「そんなことより迷宮跡をよく見るのです。気づくことがありませんの?」

「気づく?」

『むぅ……』


ブランシュの言葉に、二人は改めてマジマジと採掘作業現場に目を細め──


『……遠くてよく見えん』

「ですねー」

「無能なのですわ!」


ブランシュは罵倒するが、裸眼で三〇〇メートル先となると、何となくゴーレムが作業してるな~とか、人が立ってるな~、くらいは分かるが、細かいところまでは分からない。


「仮にも冒険者なら遠隔から偵察する手段ぐらい準備しておけ、ですの!」

『──っ、仕方ねぇだろ! 持ってた魔道具全部あのチビエルフに没収されたんだからよぉ!!』


ブランシュの呆れ混じれの叱責に、ウルはつい感情的に反駁する。


今更言うまでもないことだが、ウルが作製し所持していた魔道具はカエルに変えられ檻に入れられた際、全て没収されてしまった。


このシチュエーションで有効な魔導ゴーグルも、移動・輸送・護衛と頼りになるガーディアンも、大金と時間をかけてカスタマイズした魔導銃も、不意打ち防止の魔石も、携帯用工具も、炸裂弾他消耗品の類も何もかも。


忘れていた──敢えて目を逸らしていた記憶。これまで自分が魔導技師として築いてきた財産の大半を失ったという事実を思い出し、ウルは籠の中で感情も露わにバタバタ飛び跳ね『ゲコォッ!!』と叫ぶ。


そんな見苦しい様に、ウルの戦力が削がれた方が立場的にむしろ都合がよいリンは嘆息。


「いや、道具があってもカエルじゃ使えませんよ」

『そぉいうことじゃねぇんだよぉぉぉっ!!!』

「お静かに」

『ゲコォッ!?』


いい加減鬱陶しくなったのか、騒ぐウルの籠をブランシュが横から揺らし、強制的に黙らせる。


すっかりカエル(ウル)を雑に扱うことに慣れてしまった女性陣は『ゲコ……ッ』という呻き声を無視して話を続けた。


「それで“気づくこと”って何ですか? 学院は迷宮から効率的に資源を回収する方法を模索している。この崩壊した迷宮跡はその実験結果の一つで、潰れた迷宮跡からはゴーレムが資源を採掘中。状況的におかしな点は思い当たりませんけど……あ! 資源を回収するのに迷宮を潰してたんじゃ、迷宮資源が尽きちゃうんじゃないか、ってことですか?」


未だ人類は迷宮の仕組みを解明できていない。そして迷宮にまつわる謎の一つが、迷宮が鉱物なども含め多種多様な資源を()()()()()()()()()ことだ。


迷宮を構築する魔術式の一つが迷宮周辺の物質を集積、変質させているだろうことまでは分かっているが、そもそも何故迷宮にそんな機能が備わっているのかは謎。学者の中には元々迷宮は古代人の資源生産プラントだったという説をぶち上げた者もいたが、生産プラントとするには迷宮の構造は複雑で非効率に過ぎ、強力な魔物ばかりが棲みつく理由が説明できない。


ともかく効率的に資源を回収するために、資源を生み出す迷宮を潰してしまうというのは矛盾している。リンはブランシュたちがそのことを言っているのだと考えたが──


「いえ、恐らくこの遺跡は目的を達成するための実験場ですわ。最終的には迷宮を潰すことなく資源を回収する方法を見つけ出すか、あるいは資源を生み出している魔術式を解析するつもりなのでしょう」

「なるほどー……ん? じゃあ別におかしな点はないような気が……」

「まぁ、貴女方の視力では気づかないかもしれませんわね」


目を細めて現場を睨むリンに、ブランシュは腰に手を当てて答えを言う。


「あそこで採掘されている資源、あれは全て鉱物資源ばかりなのですわ」

「ふむふむ、なるほど……なる、ほど?」


リンはブランシュの言葉に頷き──首を傾げた。


「……迷宮が崩壊したなら魔物の類は潰れてるだろうし、別におかしなことではないのでは?」

『いや、おかしいだろ』


スタンから回復したウルがリンの言葉を否定する。


『迷宮には竜種なんかの討伐不能種アンタッチャブルだって棲みついてるんだぞ。その素材は下手な鉱物資源よりよっぽど価値がある。潰れて死体も残らないなんてことがあるもんかよ』

「棲みついてるんだぞって、流石に大量の土砂に押しつぶされたら──」

『竜種がその程度でどうこうなるわけねーだろ』


冒険者としての免許はあっても本格的な活動経験のないリンは竜種の脅威を理解しておらず、ウルの言葉に懐疑的な反応を示す。


ウルはそんなリンの反応を無視して何かに気づいたように言葉を続けた。


『──いや、そうか。そもそもあそこが中規模迷宮だって言うなら、死体がどうこう以前にこの状況自体があり得ないのか』

「? どういう意味ですか?」


ウルは首を傾げるリンではなく、背後からこちらを観察していたアリーゼとブランシュに視線を向け、答え合わせをするように口を開く。


『中規模迷宮の定義は“二十一層以下の下層が存在する”迷宮だ』

「ですね。まあ正確には“五〇層より下の深層が存在しない”ことも条件ですけど」


揚げ足を取るリンを無視。ウルは無言でこちらの答えを待つアリーゼとブランシュの反応をうかがいながら続けた。


『下層には純血の竜か、それに匹敵する化け物が必ず棲みついてる』

「それが何か?」

『純血の竜は神殺しの獣だぞ? たかだか土砂ごときで死ぬもんかよ』

「────」


至高神の信徒であるリンは、その言葉に咄嗟に反論することができなかった。


各宗派により伝わり方は様々だが、かつて地上を支配する巨人であった神々──その肉体を滅ぼしたのが「竜」であることは、どの神話においても一致している。そして肉体を失う以前の神々の力は絶大で、巨大な山を遊びでぶつけ合ったという逸話も伝わっており、それを裏付けるような地層や地形も残されている。


少なくともリンは、幼い頃からそうした神話を“事実”として教え込まれて育っており、それ故に神を殺した「竜」の力を否定する言葉を咄嗟に発することができなかった。


『例え亜竜クラスでも土砂で死ぬとは考えにくい。いや、死ぬ個体もいるかもしれんが、地の属性竜なんかは大地を自在に操る能力を持っているから確実に生き残る。そして一体でも生きて地上に出てくれば大騒ぎだ』

「……だけど今のところそんな話はない。崩壊したのは小規模迷宮中心とは言え、亜竜クラスは確実に存在しているはずなのに」


アリーゼとブランシュは顔を見合わせ、二人の結論に満足そうに頷いた。


そして代表してアリーゼが口を開く。


「……うん。それが最大の問題。竜種以外にも、性質的に絶対に土砂や物理攻撃じゃ死なない魔物はいる。だけど今のところ、崩壊した迷宮周辺で魔物が暴れてるって話は聞かない」

「なら問題は──」

「──じゃあ魔物はどこへいったの?」


問題はない、と言いかけたリンの言葉を遮り、アリーゼは続ける。


「……私たちで対処できるレベルの魔物ならまだいい。でも、竜種は? 大精霊、死霊の王、神の血を引く巨人たちは?」

「…………」

『…………』

「……カノーネたちがそれをコントロールできてるのならいい。でも、もしそうじゃなかったら……」

「なかったら?」


アリーゼが濁した言葉の重みにリンは気づかず、聞いてしまう。


「──世界が滅びる、かもしれない」

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