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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第四章

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第5話

『…………誰?』

「それはこっちのセリフなのですわ!」


ウルの至極当然の疑問に、白いコボルトは腰に手を当てぷりぷりしながら言い返してくる。


──え? これ俺がおかしいの? 何の前触れもなく牢屋に見知らぬコボルトが湧いて出たら『誰?』でおかしくないよな? むしろ幽霊ゴーストとか化け物呼ばわりしないだけ丁寧な対応じゃね? 何で俺が怒られてんの?


心底意味が分からず混乱するウルに、コボルトは更に被せるように続けた。


「ブランシュたちを訪ねてきた方がいるというのでわざわざ出向いてきてみれば、喋るカエルと教団関係者じゃありませんの! 何の冗談かと思って小一時間隠れて様子を観察させられて、無駄になった時間を返して欲しいのですわ!」

『そりゃ……すいません?』


理不尽な物言いではあったが、カエル化しているウルはサイズの差に圧倒されてつい謝ってしまう。


この時彼の頭の中は『ずっとここにいたの!?』とか『コボルトなのにやけに流暢な共通語だな』とか、様々な思考が渦巻き混乱中。


『え? ていうか、訪ねてきた? 俺らが、君を?』

「ですわ!」


何を今さらと頷く白いコボルト──名前はブランシュ?──を頭のてっぺんからつま先までギョロリと観察し、ウルはゲコッと身体を傾げた。


パピヨンのような大きな耳と赤いリボンが特徴の長毛種のコボルト。本来コボルトの性別は他種族には判別しづらいが、服装や喋り方から年頃の女の子であることが窺えた。


話の流れからするとこのコボルトがウルたちが合う予定だった犬ジイのツレということになるのだろうが、しかし事前に犬ジイから聞いていた名前や種族と目の前の彼女は全く合致しない。


『人違いじゃ──』

「そんなわけないのですわ!」


被せるように否定され戸惑うウルと、ガルルと彼を睨みつけるブランシュ。


そこに助け舟を出したのはそれまでやり取りを黙って見ていたリンだった。


「……ひょっとしてその娘、『犬』が面倒見てたコボルトの一人じゃないですか?」

『犬ジイの?』


ウルが確認するように視線をリンからブランシュへ移動させると、ブランシュは肯定するように「ワフッ」と胸を張った。


「『犬』が都市郊外にコボルトの集落を作って面倒見てるって話は知ってますよね? そこのコボルトは基本的に集落内で農作業や簡単な内職なんかを請け負って生活してるんですが、適性があるコボルトには『犬』が直々に斥候の技を手ほどきしてるって話を聞いたことがあります。そういうコボルトは普通、スラムで『犬』の下働きをしてるはずですが──」

「ブランシュはお爺様の一番弟子なので、お姉さまたちのお手伝いを任されたのですわ!」


ブランシュがリンの推測を肯定するように言葉を継ぐ。その尻尾は誇らしげにパタパタ激しく動いていた。


つまり彼女は犬ジイのツレ本人ではないが、その手伝いとして同行しているコボルト。突如背後に現れたその手口や“お爺様の一番弟子”という発言からすると、かなり腕の良い斥候職なのだろう。


──自分たちを訪ねてきた人間がいたと聞いて、確認のためにわざわざここまで会いにきたってことか?


ブランシュがどうやって学院の地下牢に忍び込んだのかといった疑問は残るものの、概ね彼女の正体と事情を理解したウル。


しかし逆にブランシュは、ウルたちの事情が分からず聞きたいことが山盛りのようだった。


「──と、それよりも確認ですわ! そこのカエルはお爺様の使い、こっちの小娘がその護衛役で間違いないのです?」

「こむ──っ?」

『ああ。俺らは犬ジイの使いで、君の言う“お姉さまたち”とやらに会いに来たんだ』

「分かりにくいのですわ!」


ウルの答えにブランシュはぷりぷり頬を膨らませて不満を吐いた。


「怪しすぎなのです! お爺様の使いならちゃんとそれらしくして欲しいのですわ!」

『……言いたいことは分からんでもないけど、カエルに変えられたのは不可抗力だし、教会関係者を護衛につけたのは犬ジイなんだ。文句は学院か犬ジイに言ってくれ』

「お爺様に文句!? 不遜ですわ!」


ウルの返答にブランシュが歯を剥き出しにして凄む。元が可愛いので凄んでも怖くはなかったが、ウルは言い合いをしている場合ではないと五体投地で謝罪した。この程度カエルとなった今では何の屈辱も感じない。


『……いや。すいませんでした。俺が未熟なのが全ての原因です』

「分かればいいのですわ!」


ブランシュは満足そうに頷くと、恐らく彼女にとって本命の質問を口にする。


「それで、お爺様の使いとは何なのです?」

『ああ。君のお姉さまがたがこの間、犬ジイ宛に出した手紙の返信なんだけど』

「ふむふむ。それでその手紙はどこに──」


そこでブランシュは裸一貫で何も持っていないウルの姿に何かに気づいた様子で言葉を途切らせ、


「────!?(バッ!)」

「…………(フルフルフル)」


慌ててリンに視線をやるが、リンは無言でかぶりを横に振ることでブランシュの懸念を肯定した。


『見ての通り、カエルにされた時取り上げられちゃった(てへけろ)』

「バカ者なのですわぁぁぁっ!!?」


──ガシガシガシ!


ブランシュは目をむき、ウルの入った籠を激しく叩いて絶叫する。


「お爺様の大切な手紙を学院の連中に奪われるとかどういう危機管理をしているですのぉっ!? 奪われるぐらいならせめて爆散して手紙が連中の手に渡るのを防ぐぐらいしやがれですわぁぁっ!!」

『────』

「何のために助けに来てやったと思ってるですの! 肝心の手紙がないんじゃ、全く意味がないじゃありませんのぉっ!」

『────』

「この無能ガエル! お爺様のお役目いったい何だと──」

「ストップ、ストップ」


ヒートアップするブランシュの肩を叩き、リンが割って入る。


「この性悪小僧を誅したい気持ちは痛いほどわかりますけど、それぐらいにしとかないと──」


──死んじゃいますよ?


ブランシュが我に返ると、籠の中のウルは叩かれ揺らされた衝撃でひっくり返り動かなくなっていた。


「ふぎゃぁぁぁぁっ!? 勝手に死ぬんじゃねぇですわっ!? お姉さまに怒られちゃうですのぉっ!!」

『…………』


この時ウルは意識朦朧としながら内心で嫌がらせのためだけに死んでやろうかな~、と考えていた。




その後、ウルがまともに喋れる状態になるまで五分ほどの時間が経過した後。


『……あ~、まだ頭がクラクラする』

「気のせいなのですわ! そんなことよりお爺様の手紙の話なのです!」

『…………』


厭味ったらしく呻くウルの言葉を胸を張ってスルーしたブランシュ。


ドギツイ文句がウルの頭の中に無数に浮かんだが、視界の端でリンが『押さえて押さえて』と宥めるような仕草をしているのを捉え、ウルは話を進めるため怒りを収めた。


「手紙の内容は知ってるんですの?」

『いや……そっちからの連絡を受けて、最近エンデで起きた事件について記してるとは言ってたが、詳しいことは……』

「役立たずなのです!」

『…………』


言いたいことは腐るほどあったが、役立たずと言う意見も状況的に間違いではなかったので、一先ずグッと堪えて受け入れる。


『……ミスをしたのは事実だし、叱責は甘んじて受けるよ』

「当然なのですわ!」

『ただ俺らも最近のエンデで起きた出来事については把握してるし、犬ジイが伝えたかった内容についても心当たりがないわけじゃない。助けてもらえれば必ず役に立ってみせるよ』

「むぅ……」


ウルとリンにとってブランシュはドン詰まりの状況で見つけたただ一つの蜘蛛の糸だ。見捨てられるわけにはいかないと、ハッタリも交えてブランシュに有用性をアピールした。


「──そういえば」


不審げな表情を浮かべるブランシュに、リンはパンと手を叩いて疑問を口にする。


「ブランシュさんはどうやってここに忍び込んできたんですか? 学院の設備は無数の魔術による防御と探知で護られていると聞きます。いくら貴女が一流の斥候職でも、忍び込むことは困難だと思うんですけど……」

「──ふふん。ブランシュたちを舐めてもらっては困るのですわ!」


ブランシュは自身の赤いリボンを指さしながら自慢げに続けた。


「このリボンはお姉さまからの贈り物で、結界系や探知系の魔術をすり抜ける効果があるのですわ! 学院の護りは魔術頼りなので、それさえ誤魔化してしまえば忍び込むことは難しくないのです」

「へぇ、凄いですねぇ~」

「そうなのです、お姉さまは凄いのですわ!」


密かに自慢したかったのだろう。ブランシュはリンにおだてられて得意げな様子だ。


ウルはリンがさりげなくブランシュの思考を自分たちを助ける方向に誘導していることに気づいたが、都合が良いので黙して見守る。


「じゃあそれがあれば私たちが脱出するのは簡単ですね!」

「それは無理なのですわ」


しかしそんな二人の思惑を覆すように、ブランシュはあっさりと首を横に振る。


「……え? でも──」

「このリボンは着用者にしか効果がないのです。このまま貴方方を連れ出すことは不可能ですわ!」


どんでん返しに言葉を失うリンに代わり、ウルが口を開く。


『……でも、君はさっきに“助けにきた”と口にした。君には俺らをここから出す手段があるんだろう? もったいぶらないで、どうか助けてくれないか』

「…………」

『悪いのは捕まった俺達とは言え、犬ジイの使いを見捨てるのは君にとっても面目が立たないんじゃないかい?』

「むぅ……」


ウルの懇願にブランシュは少しだけ躊躇う素振りを見せ──しかしすぐに仕方ないなと溜め息を吐いた。


「──まぁ、貴方方がお爺様の使いと言うのは確かなようです。どんな役立たずではあっても、お爺様の知人を無碍にはできませんわ」

『……助かるよ』


ホッと安堵の息を吐くウル。


「それで、具体的にはどうやって脱出するつもりなんですか? 先ほど、そのリボンで誤魔化せるのは一人だけだと仰ってましたけど……予備とかあるんですか?」


リンの疑問にブランシュはかぶりを横に振る。


「いえいえ。どちらにせよこちらのカエルの方には強力な魔術がかかっているのです。誤魔化したところで移動すればすぐに痕跡を辿られてしまうのですわ!」


それは確かに、とウルとリンは頷く。


「なるほど。つまりこの人を見捨てて行こうということですね?」

『ぶん殴んぞ』

「それも解決策の一つなのですが、今回はもっと単純な手を取るのです」


──単純?


その言葉の響きにウルは何故か不穏なものを感じ、咄嗟にブランシュに問いただそうとする。しかしそれより早くブランシュは耳につけたイヤリング──恐らく通信用の魔道具──に触れ、空間を隔てた何者かに話しかけた。


「お待たせしましたお姉さま。一暴れお願いするのですわ」

『──くふっ。了解』


イヤリングから漏れ聞こえた不気味な声がウルたちの耳に届くとほぼ同時。


──ドグォォォォォォォォォン!!!


『────!!?』

「────!!!」


凄まじい轟音と衝撃が地下牢を──いや、学院の建物全体を大きく揺らし、ウルたちはその場に這いつくばり身を固くした。


そして一〇秒ほどが経過、衝撃が通り過ぎ揺れが収まると、崩れ落ちた天井から魔術師たちの阿鼻叫喚の悲鳴が漏れ聞こえてきた。


状況が理解が出来ずにいる二人に対し、白い毛並みのコボルトは天使のように可愛らしい笑顔を浮かべ、シレッと告げる。


「つまり、学院の魔術師たちからこちらに意識を割くリソースを奪った上で、堂々と逃げればいいのですわ!」

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