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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第三章

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第9話

「──ストップ」


二十一層に入って以降、黙々と索敵に集中していたレーツェルが固い声音で止まるよう指示を出す。


通常の魔物とのエンカウントなら『戦闘準備』と指示を出すはず。


「大物か?」

「ん……まだその気配はない、んだけど………」


カナンの問いかけに、レーツェルは前を向いたまま気配を探りながら応じた。


「だけど?」

「進行方向に動きのおかしな群れがいる」


今一つ要領を得ない。

レーツェルも答えながらそれを自覚していたようで、近くの岩陰を指さし全員で一旦そちらに移動。少し腰を落ち着けて話をすることにした。




「それで、群れがどうしたって?」


口火を切ったのはカナン。

レーツェルは頭の中で情報を整理し、推論を組み立てるよう視線を虚空に漂わせながら口を開いた。


「……基本的にフィールドボスは同じフロア内の他の魔物を攻撃して捕食する性質があるから、通常の魔物はフィールドボスを避けるように行動してる。普段私はフィールドボスの生態と他の魔物の動きを参考に、フィールドボスの行動範囲を予測してルートを割り出してるわけだけど……」

「その動きがおかしい……つまりフィールドボスに魔物の群れが追われてるとかそういうことかい?」

「う~ん……だと、思うんだけど……」


カナンの問いに、しかしレーツェルの反応は煮え切らないものだった。


カナンたちが苛立ちを口にするより早く、エイダが落ち着いた声音で改めて説明を求めた。


「レーツェル。一人で考え込んでないで、私たちにも貴女が分かってること、引っかかってることを説明して」

「え。ああ、うん。そうだね……」


レーツェルは一瞬目を瞬かせ、コホンと咳払いし気を取り直して続ける。


「まずこの少し先で、四足歩行型の魔獣の群れが結構な数逃げ回ってる。魔獣の具体的な種類までは特定できないけど、足音からすると馬よりちょっと大きいぐらいかな」

「フィールドボスの気配は?」

「……直接フィールドボスの足音みたいなのは聞こえないけど、さっきから魔獣の足音が少しずつ減っていってる。近くに何かいるのは間違いないと思う」

「飛行型か遠距離攻撃タイプってこと?」

「うん。そのどちらかだと思う」


エイダの相槌でレーツェル自身も考えが整理できたようだ。虚空を漂わせていた目の焦点を仲間たちに合わせて続ける。


「問題は、私の知る限りこのフロアのフィールドボスは全て飛行能力のない近接攻撃タイプだってこと」


その言葉の意味するところに気づいたのは、レーツェルに次いで下層での経験が豊富なカナンだった。


「……新しくフィールドボスが出現した?」

「多分」

「ちょ、ちょっと待ってくれ──」


頷くレーツェルに、焦ったのはウル。


「フィールドボスって増えるの!?」

「まぁ、滅多にないけど、なくはないわね」


無知に水を差された形だが、レーツェルは嫌な顔一つせず説明する。


「階層支配者だフィールドボスだの呼ばれてはいるけど、結局は強い魔物が縄張り主張してるだけだからね。繁殖したり漏れ出たり突然変異だとかで増えることは、まあなくはないわ。ただ、基本的に魔物は強力な個体ほど繁殖力が弱い傾向があるから、私も実際にこういう場面に遭遇するのは初めてだけどね」

「……つまり、純血の竜が他の種と交わって混血を生み出すみたいなもんか?」

「うん。純血の竜は繁殖では生まれないから、それが一番多いケースだね」


なるほど、言われてみれば当たり前の話だとウルは頷く。


「話を遮ってゴメン。それで邪魔したついでに、険しい表情なのは単純に警戒が必要なボスの数が増えて厄介だからか、生態が未知だからか、どっち?」

「どっちかと言えば後者」

「つまり行動パターンが予測できないから、かなり遠回りしないと捕まる可能性があるってことか」

「そゆこと」


ここまで説明されてようやくウルはレーツェルやカナンたち先輩の思考に追いつく。ちなみにエレオノーレは最初から思考を放棄し、結論だけ聞こうと割り切っていた。


「それで、レーツェル。上手く避けられそうかい?」

「……出来なくはないけど、二つ問題があるわ」


カナンの問いかけにレーツェルは口元に手を当て言葉を選びながら答える。


「一つはかなり遠回りになる。逃げ回ってる魔物の気配からするとかなり移動速度が速くて行動範囲が広い個体だと思う。これを避けてとなると、予定してたルートを大幅に外れることになるから、今日中に目的の二十五階層まで回るのは難しいわね」

「もう一つは?」

「すり抜けて先に向かったとしても、帰りまたこの階層を通らなきゃいけないでしょ? 今回は私が先に気づけたけど、次もまたそうだっていう保証はないかな」


レーツェルの分析を聞き、カナンは思考を整理するようにしばし瞑目した。


「……ふむ。つまりこれ以上先に進んでも本来の目標を達成するのは難しい上、相応のリスクを覚悟しなきゃならないってことだね」


──進むか、退くか。


言葉に出さない呟きに真っ先に反応したのはエイダだ。


「それならもう撤退一択じゃないかしら?」


仲間たちの視線を受けてエイダは判断理由を口にする。


「階層支配者の定期観察なんて緊急性のない依頼のために無理をする必要は無いでしょ。むしろフィールドボスが増えたって情報を早くギルドに持ち帰って、警告を発する方が重要だわ」


エイダの意見はウルやエレオノーレもなるほどと頷かずにはいられないものだった。


確かに下層の入口に新たな脅威が発生したとなれば、その情報は代わり映えのしない階層支配者のそれより遥かに価値がある。こちらの報告を優先したと言えばギルドに対する名分は立つし、交渉次第で報酬を得られる可能性も高い。


そのエイダの意見に疑義を呈したのがカナン。


「退くこと自体に異論はないが、フィールドボスがどんな奴か確認する必要はあるんじゃないかい? 今の時点じゃレーツェルが『いそうだ』って言ってるだけで、その姿を確認したわけでもない。これで報告しても、ホントにいるかどうか疑われて信じてもらえないってオチじゃないかねぇ?」

「……ま、せめて外見ぐらいは確認しとかないと、ギルドも納得はしないでしょうね」


カナンの視線を受けてレーツェルが肩を竦める。


「その理屈は分かるけど……」


もごもごと言葉を濁すエイダを代弁するように、ウルは小さく挙手して根本的な問題を口にした。


「フィールドボスが見えるところまで近づくって危なくねーの?」

「すっごく危ない」

「……ですよねー」


即答したレーツェルにウルは半笑いを浮かべて呻く。


魔物には人間より優れた五感を持つものが多くいる。今回は向こうが狩りの途中なのか大きな音を立てているためレーツェルが先に気づけたが、流石に目で見える距離まで近づいて見つからないというのは流石に楽観が過ぎるだろう。


そして予測されるフィールドボスの機動力や戦意からすると、見つかったらあっという間に距離を詰められ食い殺されてもおかしくない。


「フィールドボスに限らず、人間が感覚の優れた魔物相手に先手を取り続けるのは不可能だよ。近づくときは見つかって襲われることを前提に動かないと駄目だね」


レーツェルの言葉にメンバーの反応は分かれた。


ウルとエイダはあからさまに嫌な顔。全身から『危ないのヤだ。早く帰ろ』と訴えている。


一方前向きとも後ろ向きとも取れない微妙な表情を浮かべているのがカナンとエレオノーレ。エレオノーレに関しては『判断するのは他の人間の役割』と割り切っているだけだろうが、カナンは目に真剣な色を宿し黙って虚空を見上げていた。


レーツェルはそんなカナンをジッと見つめている。今回の依頼のメインはレーツェルだが、このパーティーのリーダーはカナン。敢えて自分の意見を口にしないのは、判断はカナンに委ねるという意思表示だろう。


しばしの沈黙が流れ、一行の視線が自然とカナンに集まる。そして──


「……撤退する。ただし撤退はフィールドボスの正体を確認してからだ」


結論は出た。

エイダは不満の色は見せず、ただしっかりカナンの目を見て確認する


「カナンねぇがそう決めたなら異論はないけど、判断の根拠は教えてくれる?」

「ああ。一つはさっきもレーツェルが言った通り、今回先にフィールドボスを発見できたのはかなり幸運だってことさ。次もし、あたしらが改めてここに調査に来たとして、また同じように発見できるとは限らない。それはあたしらじゃなく他のパーティーが代わりに調査に来たとしても同じことだ」


正体不明のフィールドボスの存在を、相手より先に感知できたという幸運。この機を逃すべきではないという判断。


「もう一つはメンツの問題。姿も見えない敵に怯えてけつまくって逃げ出したなんて知れたら舐められる。あたしらだけじゃなくウチのクランそのものがね」


この言葉に大きく頷いたのはエイダ。

冒険者にとって本来メンツは二の次、命こそが最重要だが、何事にも例外は存在する。


カナンやエイダが所属するクラン「血盟の乙女」は女性だけで組織された互助組織。男性と比べ身体的に不利な点が多い女性だからこそ、彼女たちは舐められて不利な扱いを受けないよう何よりメンツを重んじる。


元々カナンやエイダが危険なだけで旨味の少ない下層の調査依頼に文句も言わず同行しているのも、実績を積んでクランの立場を強めるためだ。その本来の目的を考えれば、ここで何もせず退くという選択肢はない。


「うむ。メンツは大事だ。婆様も常々そう言っていた」


話の流れが分かっているのかどうか、エレオノーレもメンツという言葉が琴線に響いたのかうんうんともっともらしく頷いている。


カナンはそんなエレオノーレの態度に相好を崩し、ニヤリと笑ってレーツェルに話しかけた。


「──って、ことだけどレーツェル。いいプランはあるかい?」

「勿論。リーダーが仰るならお任せあれ」


余裕たっぷりに微笑むレーツェル。




「…………え~」


そして改めて言うまでもないことだが、ウルの意見は無視された。

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