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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第三章

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第8話

二〇層の安全地帯で休憩を入れ、一行は下層へと進出する。


休憩時には往生際悪く「俺はここで待ってるから!」とウルが下層へ向かうことを拒んだりもしたが、薄ら笑いのレーツェルから“()()()()()()()()()()()()()()”ことを懇々と教えられ、直ぐに観念していた。


二十一層はオーソドックスな岩盤エリア。

かつてはここに進出できれば冒険者として一流と評価された魔境。そこに足を踏み入れたウルとエレオノーレは、しかしその実態に少し拍子抜けしていた。


「……何か、思ってたよりアレだな?」

「うん。下層と言っても、その……」


二人の言いたいことを察してカナンとエイダは顔を見合わせ苦笑する。


「散々脅かされた割に中層と大差ないって?」


カナンの言葉に、ウルとエレオノーレは躊躇いながらも頷く。


下層に入って一行は既に二度戦闘を経験していた。

一度目は大蜥蜴ジャイアントリザード、二度目はハーピィの群れ。そのどちらも中層にも生息している魔物であり、魔力濃度の影響か中層のそれに比べ多少サイズや強度は増していたが、特別苦戦することなく倒している。


下層に入ったらとんでもない化け物がウロウロしているものとばかり思っていた二人にとっては、正直拍子抜けだ。


「中層だ下層だなんてのはあくまで人間がつけた区分だから、階層が一つ下がっただけでそんな劇的な変化はないわよ」


気持ちは分かると笑いながら、前を行くエイダが下層初体験の二人に講義する。


「迷宮で階層ごとに棲みついている魔物の強さに差があるのは、迷宮は下に行くほど魔力濃度が高くなって、強い魔物ほど魔力が濃い場所を好むからだと言われてるわ」

「ふむ? 魔力濃度が高い環境にいると能力が向上するからではないのか?」


エレオノーレが自分の知っている知識との差異に疑問を口にする。


「確かにそういった傾向はあるけど、その影響は微々たるものね」


エイダは人差し指を立て、少し興が乗った口調で続ける。


「魔物にとって大気中の魔力は栄養補給手段の一つ。確かに栄養豊富な環境で育てば、そうでない環境で育った個体より多少は強くなるでしょうけど、それが種の壁を超えるような劇的な変化をもたらすことはないわ」

「なるほど。魔力を食事と考えればわかりやすいな」


ふむふむと納得した様子でエレオノーレが頷く。

食事は丈夫な体を作り強くなるために重要だが、それだけで劇的に強くなれるわけではない。


その理屈は理解した上で、今度はウルが根本的な疑問を口にする。


「じゃあ下層っていうのは具体的に中層と何が違うんです? 人間が勝手につけた区分だとは言え、区分してるってことはそこには意味があるわけでしょう?」

「いい質問ね。下層と中層の違いは大きく二つ」


エイダは肩越しに二本指を立てて続けた。


「一つは階層支配者フロアマスター。先にも少し触れたけど、下層より下の階層支配者は全て純血の竜かそれに準ずる化け物よ」


階層支配者とはその階層の中でも別格の力を持つ魔物の主。中層では主に混血の竜種がその役割を担っていた。


「もう一つは、階層支配者以外にも人類じゃ討伐困難なレベルの魔物が出没すること」

「それは……竜種が複数出没するってことですか?」

「それもある」


エイダは頷きつつ、それだけではないと続ける。


「竜種以外にも、高位精霊や巨人の成れの果て、古代の技術で作られた複合魔獣キメラ、都市一つぐらい簡単に滅ぼせるレベルの化け物が普通に徘徊し始めるわ」


──勿論このフロアにも。


『────!?』


ウルとエレオノーレはビクリと肩を震わせ周囲を警戒した。


そんな二人を安心させるように、カナンは努めて軽く笑って見せる。


「はは、安心しな──ってのもおかしいね。警戒は必要だけど過度に緊張する必要は無いよ」

「いや、でも──」

「だからこそのレーツェルだ」


そう言ってカナンは真剣な面持ちで先頭を歩くレーツェルを顎で指し示した。彼女は下層に入って以降、全くこうした雑談に参加することなく周囲の警戒に専念している。


「中層までは極端なことを言えば所在が明らかな階層支配者にだけ遭遇しないよう注意してれば何とかなる。そもそも階層支配者は自分の縄張りから積極的に動くことはないしね。だけど下層より下は、それ以外に階層を自由に移動するフィールドボスを避けて行動しなくちゃならない。そしてそのボスの数は下へ行くほど多くなる」

「それは……」


ここまで説明されてようやくウルとエレオノーレは下層の恐ろしさの意味を理解し、絶句する。


遭遇したら逃げるしかないフィールドボス──それが複数徘徊しているというのは、ただ生息する魔物のレベルが全体的に上がるより遥かに危険だ。


理想はボスに見つからないよう立ち回ることだが、ボスの感覚器官が人より劣っているとは限らないし、人より足が遅い個体ばかりでもないだろう。それが複数存在するとなれば、普通に考えてどこかで必ず詰む。


近年、下層に進出する冒険者がほとんど見られなくなり、一部の上級冒険者が変人扱いされる理由がよく分かろうというものだ。


「えと、そのフィールドボスの対処法みたいなのは確立されてるんですよね?」

「一部は」


そうであってくれと縋るような声音で尋ねたウルに、エイダは忖度なく回答した。


「中には行動範囲やパターンがハッキリ分かってるボスもいるけど、大半はそうじゃないわね。そもそもどのフロアにどんなフィールドボスがどれだけいるのかも定かじゃないの。上級冒険者でさえ当人たちの経験則で対処してるだけ。下層での活動はいつだって命の危険がつきまとうわ」

『…………』


それはもはや自力だけではどうしようもない領域。

実力に加えて相当な幸運に恵まれ経験と実績を積むことが許された者たちだけが上級冒険者と呼ばれているということか。


改めて、何で自分たちがこんなところにいるのだろうと、ウルだけでなくエレオノーレでさえ疑問を持ち始めていた。


エレオノーレは血潮を滾らせる熱い戦場を好むが、それは無謀な戦いを是とするものではない。戦闘種族であるオークだからこそ、戦いにすらならない存在がいるということを彼女はよく理解していた。


そもそもカナンやエイダが弱いとは言わないが、この間ゴブリンヒーローの一件で肩を並べた上級冒険者パーティーと比べれば実力は一、二段劣る。


レーツェルに調査依頼が来てたとか、ウルがうっかり「竜種を見てみたい」と発言したとか、そんな軽い理由でGOサイン出していい仕事じゃないだろうと、ウルとしては聞けば聞くほど彼女たちの正気を疑わざるを得なかった。


「いや、言いたいことは分かるけど、その目は止めなって……」

「…………」


ウルの胡乱な視線に苦笑して、カナンは先ほどと同じ言葉を繰り返す。


「安心しろとは口が裂けても言わないけど、そこまで緊張する必要は無いよ。その為のこの娘だ」

「…………」


そう言って視線でレーツェルを示す。

レーツェルは無言で、しかし軽く右手をプラプラして後ろに愛想を振って見せた。


「この娘はあのご老体から下層について指導を受けてるって言っただろう? フィールドボスの生態や行動パターンに関しちゃ下手な上級冒険者よりはるかに詳しい。あたしらも初めてって訳じゃないし、よほどのことがない限り死体も回収できず全滅するなんてことはないよ」


さりげなく一人二人の死人は想定内であることへのツッコミは堪えて、ウルは声には出さず疑わしげな表情を見せる。


「…………」

「だからそんな顔しなさんな。もしこの娘の能力や経験が不足してるとしたら、ご老体がどこかで止めてるよ」


まあそれは確かに、と少し納得する。


更にそこにエイダが安心材料を補足した。


「それに今回の調査範囲は二十一層から二十五層まで。この辺りのフィールドボスの数は一フロアにつき五体前後と言われてるわ。そもそも普通に行動していても、よほど運が悪くない限りフィールドボスに出くわすことなんてないわよ」

「なるほど」


説得力のある言葉にウルとエレオノーレの表情が明るくなる。



だが、ここに識者がいればこう指摘しただろう──それはフリだぞ、と。

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