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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第三章

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第4話

──ゴクゴクゴク……


「──ぷはぁ~……っ」


ジョッキに注がれた液体を勢いよく飲み干して、ウルは深々と息を吐く。


ここはレーツェルたちがよく行く小洒落た酒場でも荒くれ者の冒険者が集う大衆食堂でもない、家族経営の小料理屋。バイト先の上司に連れてきてもらった店の一つだが、値段も手ごろで静かに食事を楽しめるこの店はウルの密かなお気に入りで、製作で煮詰まった時などよくこうして一人店を訪れていた。


飲んでいるのはエールではなく蜂蜜酒ミードのお湯割り。よほど上等な店でもない限りノンアルコールは腹を下すリスクがあるが、ウルは酒があまり得意ではない。その為、周囲に合わせて酒を飲まなければならない時を除いて、一人の時はアルコールをギリギリまで薄めた飲み物を好んで飲んでいた。


「くそぉ……あの女、正論ばっか言いやがって……」


彼の口から漏れるのは今日の探索の愚痴。主に探索後半、自分に斥候の技術を指導したレーツェルに対する恨み節だ。


別に彼女から理不尽な指導を受けた、というわけではない。


むしろその逆。レーツェルの指導は厳しくはあっても実践的で、短期間で“使える”技術を習得させるための指導としては極めて理に適っていた。だが。


「あまりに真っ当すぎて文句も言えねぇし、周りもちっともフォローしてくれねぇ。まさかもう少しバブバブ甘やかしてくれとも言えねぇしなぁ……」


本音を言えば思いきりバブバブ甘やかされながら、ぬる~くゆる~く斥候とは何ぞやを学びたかったのだが、自分から教えてくれと言っておきながら、だけど甘やかして欲しいと言う胆力はウルにはない。


実際、レーツェルの指導は厳しくはあっても厳しすぎはしなかった。こちらがミスや見落としをすれば痛い目を見るよう立ち回ってはいたが、ちゃんと致命傷までは負わないようフォローしてくれていた。


繰り返すが、ちゃんとした指導をしてくれている人間に、直接文句を言ったりもっと甘やかしてくれと言う図太さはウルにはない。


レーツェルが四六時中不機嫌だったのもウルの内心の甘えを見抜いてのことだろうし、むしろこちらが『迷惑かけてごめんなさい』と頭を下げねばならないことも理解している。


だがそれはそれとして──


「うぅ……もっと優しくされてぇよぉ……!」


それが人情というものである。


ウルがカウンターでとても知り合いには聞かせられない愚痴を言いながらくだを巻いていると──


「────あ」


すぐ近くから驚いたような声が聞こえて、ふとそちらを向く。


そこにはつい最近どこかで見た覚えのある若い五人組の姿があった。




「すいません。お邪魔じゃなかったですか?」

「あ、いえ。全然。一人で暇してただけですし、はい」

「そうですか……」

「はい……」

「…………」

「…………」


カウンターで読頃並びに座った若者とウルとの間に微妙に気まずい沈黙が流れる。そんな二人の様子を、若者の横に座った少女が『なんだコイツら?』と横目で気味悪そうに見つめていた。


小料理屋で遭遇した五人組の正体は、つい先日のゴブリンヒーロー討伐作戦で一緒になった若手冒険者パーティー。


他の上級冒険者の陰に隠れていたため、ウルは彼らを『誰だっけな?』と忘れかけていたが、向こうは作戦を指揮したウルのことをしっかり覚えていたようだ。


リーダーで戦士のレヴに、女性魔術師のエーラ、ドワーフのギル、斥候職のトルドに小柄な女性エルフのキルシュ。


狭い店で顔を合わせれば無視するわけにもいかず、流れでそのまま一緒に食事を、という話に。だが他に客もいたため全員が卓を囲めるような席はなく、ギル、トルド、キルシュの三人は少し離れた別の席に、レヴとエーラの二人がカウンターのウルの隣に分かれて腰を下ろした。


「…………」

「…………」

「…………」


ただ実際、食事と飲み物が運ばれて乾杯した後、いざ歓談をという段階になってさあ驚いた。話題がない。気まずい。なんか変な緊張感がある。


この沈黙は特別二人のコミュ力に問題があったわけではなく、双方のちょっとした認識の違いに起因していた。


ウルからするとレヴたちは若手とは言え自分より経験豊富な先輩冒険者。しかも先日はやむを得ない状況だったとはいえ後輩の分際で自分が作戦指揮まで取っている。突然話しかけられ、何か因縁を付けられるのではないかと身構えていた。


逆にレヴはウルがまだ冒険者になって半年足らずのひよっこだということを知らない。彼から見たウルは、上級冒険者も参加する作戦の指揮を執り、都市を機能不全に陥らせたゴブリン事案を解決に導いた実力者(?)。しかも彼らは一度ウルたちに命を救われている。決して腕が立つようには見えないが、だからこそ余計に不気味で、距離感や接し方を測りかねていた。


「…………」

「…………」


互いにチラチラと伺うような視線を向けながら、何か口を開こうとしては閉じる付き合いたての男女のような沈黙が続く。


そんな少年二人の気持ち悪いやり取りに業を煮やしたのは、それを横目で見せつけられていたエーラだった。彼女が隣に座るレヴを肘で乱暴につつき、


「……ちょっと。何もじもじしてんのよ」

「え? いや別に……」

「別にじゃないわよ。自分から話しかけといて黙り込むのは失礼でしょ。ってか、聞きたいことがあるんじゃなかったの?」

「あ、ああ……」


──聞きたいこと?


その言葉につられて見たエーラの表情には、ただ気まずさを嫌がる以上の不機嫌さが見てとれた。


疑問をウルが口に出すより早く、レヴが覚悟を決めた様子で口を開く。


「その……レーツェルは、元気ですか?」

「…………は?」


何を言われたのか理解できず、間の抜けた声を上げマジマジとレヴを見つめる。


何故彼らの口からレーツェルの話題が出て、しかもそれを自分に聞くのか。全く意味が分からずキョトンとしてしまう。


レヴはその反応をウルが気分を害したと勘違いし言葉に詰まってしまうが、そこにエーラが助け舟を出した。


「ほら、あの娘から聞いてません? 私たち、ちょっと前まであの娘とパーティー組んでたんですよ」

「……ああ。なんか、前は固定パーティー組んでたって話は聞いたことあります。そうか、皆さんがそうだったんですね」


レーツェルの話題が出た理由が腑に落ちてウルの表情が緩む。


実はウルはレーツェルが彼らのパーティーを抜けるその場面を目撃しているのだが、そのことは全く覚えていない。


「はい。といっても、彼女とパーティーを組んでたのは僕とエーラ、それにあっちにいるドワーフのギルの三人で、残りの二人は彼女が抜けた後に加わったメンバーなんですけど」

「へぇ……」


相槌を打ちながらウルは彼らが話しかけてきた理由に得心する。


直接本人にではなく人伝に話を聞こうとするあたり、レーツェルの離脱は決して円満なものではなかったのだろう。その後偶々レーツェルと組んでいると思しきウルを見つけ、思い余って尋ねてみたというところか。


「それで、あの娘は元気でやってます?」

「ええ。元気だと思いますよ。──俺はあいつとパーティー組んでるわけじゃないんで、あんまり詳しいことは言えませんけど」


応えると同時、多分彼らが勘違いしているのだろう部分をさりげなく否定する。


案の定、レヴとエーラの二人はウルの言葉に目を丸くした。


「そうなんですか? えと、彼女とパーティーを組んでないって……」

「ですね。というかあいつ、正式には誰ともパーティー組んでないんじゃないかな」


ウルは彼らに自分がレーツェルと知り合い臨時パーティーを組んだ経緯をざっと説明する。そして説明しながら今更なことを自覚する。


──あれ? そもそも俺とエレナもお試しパーティーだし、何となく惰性でつるんでたけど、今日潜った面子で正式にパーティー組んでるのってカナンとエイダのとこだけか?


「へぇ、そうなんですね。いえ、あのオークの娘にリーダーって呼ばれてたから、てっきり貴方があのメンバーを纏めてたのかと」


レヴの意外そうな声に我に返り、ついでにもう一つ気になっていたことを訂正する。


「リーダーって呼んでるのはあいつだけですよ。それと敬語は止めてください。多分俺のが年下だし、冒険者としてのキャリアもそちらの方が上でしょう」


その言葉にレヴとエーラは顔を見合わせ、エーラの方がハッと思い出したように口を開く。


「あ。確かにあの会議の時に“ひよっこ”だって言われてた。え? でも私たちより──?」

「俺、まだ冒険者になって半年も経ってませんよ」

『嘘!?』


状況が状況だったとは言え、仮にも上級冒険者が参加する作戦の指揮を執っていた人間だ。“ひよっこ”と呼ばれていても、自分たちよりは目上の人間に違いないと思い込んでいた。


その驚きもあってか一気に二人の言葉から丁寧さが抜け、詰め寄るように問いかけてくる。


「え? ホントにまだ半年? 僕らより経験が浅いの?」

「この街に来る前に他所で経験積んでたとかじゃなくて?」


ウルは苦笑しながらかぶりを横に振る。


「マジもんのひよっこですよ。エンデに来る前は物作りしかしたことなかったし、冒険者稼業なんて全くの未経験です。ついでに言うなら、物作りやバイトも並行してやってるんで、普通の冒険者半年分の経験があるかも怪しいですね」

「えぇ……嘘だろ? それであの作戦の指揮を執ってたって言うのか」


愕然としているレヴ。


「軽い気持ちでアイデア出したら周りに押し付けられたんですよ。そのアイデアも、冒険者っていうより魔導技師──製作者としての意見でしたしね」

「……マジなの?」

「マジですね。ま、相手が非常識だったんで、いっそ冒険者の常識がない奴の方が上手くいくとでも思われたのかもしれません」


ウルの発言に嘘偽りは一切なかったが、それは冒険者としての常識では考えにくいことだったのか、二人の表情は未だ半信半疑だ。


それを見たウルは軽く肩を竦め、この際全部言ってやると自ら自虐ネタをぶっこんだ。


「と言っても流石にこないだのことで、俺も冒険者として最低限のスキルやノウハウは学んどかなきゃ駄目だろって思い直しまして」

「半年近く経ってかい?」

「半年近く経ってです。で、今日はレーツェルたちに頼んで実地で色々教わってたんですけど……サッパリでした」

「サッパリなの?」


キョトンとツッコミ混じりの相槌を打つレヴとエーラに、ウルはワザとらしく大きく頷いて続けた。


「もう、ものすごく。特にレーツェルからはボロカスに言われましたよ。指導もスパルタで今日だけで普通に何度死ぬかと思ったことか……」

『──分かる!』


何故かその言葉に大きく頷くレヴとエーラ。


「うわ、あの娘やっぱ変わってないんだ……」

「僕らも元パーティーメンバーで、正式に冒険者になったのは彼女と同時期だったんだけど、ほら。彼女って元々お爺さんの指導を受けてて迷宮に関しちゃ僕らよりずっと詳しかったんだよ。だから僕らも彼女と組んですぐのころはかなり扱かれてさぁ……」


二人はウルもレーツェルの扱きを受けているという事実に共感。


ウルに親近感を抱いたらしく、口々に溜まっていたレーツェルへの不満を吐き出し始めた。

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