第9話
土日に連続投稿。
ロイドの言う“口が堅くて直ぐに動けそうな冒険者”がレーツェル──と彼女の後ろにいる二人──であることは説明されずともすぐに分かった。
分からないのはウル、エレオノーレ、レーツェル、それぞれが互いに知り合いであるという部分。
『…………』
互いに誰が最初に説明すると視線で牽制し合い、圧に負けてウルが口を開く。
「えっと……こちらつい先日冒険者になったエレオノーレ。登録の場にたまたま居合わせて、そこのロイドさんの紹介でお試しでパーティー組んでる」
「リーダー。名前の紹介は要らないと思うぞ?」
「うっせぇ! なら自分が言えよ!」
自分でもおかしな言い回しだと自覚していたことを指摘され、照れ隠しのように怒鳴る。
それを受けてエレオノーレは自分とレーツェルを指で交互に差した。
「私とレーツェルは彼女のお爺様繋がりで面識があるんだ。我らの氏族はあの方には色々とお世話になっているからな」
なるほど、とウルは軽く頷き納得する。
オークはローグギルドと繋がりがあり、レーツェルの祖父はスラムの顔役だ。接点があっても不思議はない。
続いてエレオノーレの視線を受け、レーツェルが口を開く。
「私とウルも爺ちゃん繋がりね。ウルが爺ちゃんに家借りてて、その縁でたまたま知り合ったの」
忍び込んで寝込みを襲うことをお前は“たまたま”と言うのか、というツッコミをウルはややこしくなりそうなので自重した。
互いの関係性についての情報共有が終わったところで、今度はウルが自分たちがここにいる事情について説明する。
「例のゴブリンを最初に発見したのが俺らなんだ。で、ついさっきロイドさんから調査隊が行方不明って話を聞いて、その足取りを確認する面子に加わってくれないかって誘われてたとこ」
レーツェルが視線でロイドに確認を取ると、彼は頷きを返しそれを肯定した。
「そっちの事情は分かったわ。それで──」
「ちょっといいか?」
レーツェルの言葉を遮り、話に割って入ったのはそれまで彼女の後ろで話を聞いていた黒髪の女性。軽装だが身のこなしからすると前衛職だろうか。斜め後ろにはもう一人、呪文遣いと思しき赤みがかった金髪の女性が控えている。
「事情は大体聞かせてもらった。それでこっちも名乗らせてもらうが、あたしはカナン、こっちの娘がエイダ。今回の調査の予備隊として先に依頼を受けさせてもらった」
「……どうも」
やや威圧的な態度のカナンにウルは軽く会釈する。エイダはそれに無言で会釈を返してくれたが、その態度はどこか壁を感じさせた。
カナンはウルたちというより、その後ろに控えるロイドをギロリと睨みつけて話を続ける。
「あたしらは緊急の案件だからと朝から呼び止められて、もう二時間近く拘束されてる。クランのメンバーに声をかけて仲間を集めようとしたら、そこの担当が『まだ大事にしたくないから話は広めないでくれ。追加の人員は信用できる人間をこちらで当たってみる』って請け負うもんだから、そこは信用して任せてたんだ」
「いや、ははは……そこまで言いましたかねぇ? あくまで浅層の調査だし、いい人がいたら声をかけてみるぐらいのニュアンスだったような──」
「────(ギロリ!)」
「は、はは……いえ、何でも」
冷や汗を流しながら誤魔化そうとするロイドだったが、カナンに鋭く睨まれて引きつった表情で押し黙る。この様子からすると、忙しくて人集めのことは忘れていて、ウルたちと話している内にふと思い出し声をかけてみた、といったところなのだろう。
カナンは髪をかきあげながら溜息を吐き、胡乱な瞳でエレオノーレを睨みながら続けた。
「回りくどいのは苦手なんでハッキリ言うが、今回の件、とてもあんたらが適任とは思えない。連れてけと言うならあたしらは依頼を辞退させてもらう。もちろん、適当な追加人員が見つからないまま調査に向かうつもりもない」
不躾ともいえるカナンの態度だったが、ウルは『そりゃ当然の反応だよな』と胸中で同意していた。恐らくレーツェルの知り合いということで、これでも大分遠慮した言い回しをしてくれている。
そもそもウルたちの未熟以前に、いきなりオークのエレオノーレと組めという話がどうかしているのだ。普通の探索でもどうかと思うのに、今回はゴブリンの裏にオークなど亜人種の介入が疑われている事案。そこに『顔見知りもいるしいいだろ?』と軽く言われたら、そりゃブチ切れて当然。カナンの反応はむしろかなり穏当で理性的なものと言えた。
『…………』
カナンと暗にやり玉に挙げられたエレオノーレが無言で睨み合う。後ろでロイドが一人困った様子で頭をかいているが、困っているだけで特に役には立ちそうになかった。
何となく挟まれた形になったウルは同じ立場のレーツェルに助けを求めるよう視線をやるが、レーツェルも小さく両手を上げてかぶりを横に振る。あちらのリーダーはカナンで自分は物申す立場じゃないという意味か、それとも単純にフォローできないという意味なのか、恐らく後者だろう。
客観的に見ても、この依頼に自分たち──というかオークのエレオノーレが関与するのは問題がある。そもそも自分たちは引き受けると言った覚えもないのだ。
エレオノーレは立場上、引くに引けなくなっているのかもしれないので、ウルは助け舟を出すつもりで睨み合いに割って入った。
「あ~……少し誤解があるようなんですが」
「誤解?」
非友好的な視線で自分を見つめるカナンに、ウルは精一杯愛想良く頷いた。
「ええ。別に俺らはロイドさんからそういう打診を受けただけで、参加するなんて一言も言ってないんですよ。何と言っても経験の浅いひよっこなもんで」
「……つまりその気はないと?」
カナンが確認するように問う。
ウルは答える前に一瞬、背後のロイドに視線をやった。彼的には早めに人を揃えて送り込みたかったのだろうが、この状況でごり押しできないことは理解してる。ウルが断ること自体はやむを得ないといった顔つきだ。
「そう──」
「待って欲しい」
しかし、それまで黙ってやり取りを見守っていたエレオノーレがウルの言葉を遮る。カナンたち周囲の視線が集まるのを待って、彼女は深々と頭を下げた。
「貴女方だけでなくリーダーにも無理を承知でお願いする。どうか私を今回の依頼に参加させていただけないだろうか?」
『────』
その場にいた全員が目を丸くしてエレオノーレを見つめる。少なくともこれまでの話の流れを聞く限り、彼女がこの依頼を受けるメリットは見当たらない。
「────っ?」
何を言い出すんだとエレオノーレを諫めようとしたウルの腕を掴み、制止したのはレーツェル。彼よりエレオノーレと付き合いが長い彼女には、何やら思うところがあるらしい。
「…………」
カナンは感情の読めない眼差しでジッとエレオノーレを見つめ「顔を上げな」と告げた。
「……それは、あたしがあんたの参加を拒否する理由を理解した上で言ってるんだね?」
「うん。単純に我々オークが貴女方から信頼を得ていないというのが一つ。更に今回の場合、裏に私の同族が関わっている可能性が疑われている。真偽はどうあれ怪しい要素を排除するのは当然だ」
目を逸らすことなく答えたエレオノーレに、カナンは頷きを一つ、更に問いかけた。
「その上で無理を通したいと……理由は?」
「このエンデ周辺に住む亜人種で、最も数が多いのが我々オークだ。つまり今回の件で最も疑われやすい立場にある。その疑いを一刻も早く晴らしたいし、万一同族が今回の件に関わっているのなら、私が自ら手を下すことで禊としたい」
「あたしらにゃどうでもいい理由だね」
冷たく切り捨てたカナンに、エレオノーレは動じることなく頷いた。
「理解している」
「…………ふん」
カナンはしばし何かを吟味するように沈黙した後、少し意地の悪い表情を見せた。
「で? 結局あんたにゃ、あたしらを説得する材料が何かあるのかい? あんたを連れてくメリットってやつだ」
「そうだな……もしこの件に私の同族が関わっているのなら、私の姿を見ればその配下であろうゴブリンどもの動きが鈍るかもしれないぞ?」
「……ほ?」
サラリと告げたエレオノーレの言葉にカナンが目を丸くする。そして今度は逆にエレオノーレが意地の悪い表情を見せる。
「私に攻撃されればゴブリンどもは裏切られたと思って動揺するかもしれない。その反応を見るだけで背後にいるものを推測する材料になるだろう。あるいは、ゴブリンどもとそいつらの関係にヒビを入れることができるかもしれないな」
もしゴブリンの背後にいるのがオークならば、オークである自分が前面に出た方が優位にことが運ぶ。
抜け抜けとそう言い切ったエレオノーレにカナンは呆気にとられ──そして爆笑した。
「──クッ、クハハハハハハッ! 良くもまあ抜け抜けと……ククッ」
「なにぶん他に使える物がないのでな。この身を呈して役に立つので使ってくれと懇願しているつもりだ」
「クククッ、そうかい」
カナンはチラリとエイダ、そしてレーツェルに視線をやる。エイダはやれやれと肩を竦め、レーツェルは軽く頷きを返した。
そしてカナンは改めてエレオノーレに向き直り、ニヤリと笑って告げた。
「──気に入った。望み通り連れて行ってやるよ」
「……ありがとう。必ずお役に立って見せる」
固く握手を交わす二人の背後でロイドがホッと胸をなでおろしていた。
「……なぁ。俺の意見が無視されてんだけど、これ俺も行かなきゃ駄目かな?」
「……空気読みな」
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