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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第二章

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第6話

「ははぁ、六層にゴブリンですか……」


どこか呆れた様子の担当ギルド職員──ロイドに報告したウルは、ズッシリ膨らんだズタ袋を指さし、補足する。


「俺らの証言だけじゃケチがつくかもしれないと思ったので、念のためゴブリンの首も持ち帰ってます」

「ああ、それは助かります。お二人がどうとかではなく、物証がないと痕跡確認に人をやる必要がありますので」


エレオノーレからズタ袋を受け取り、ロイドは嬉しそうに微笑む。


受け取った瞬間、見た目以上の重さに一瞬よろめくが、体勢を立て直して袋の中身を確認。すぐ袋の口を閉じて大きく息を吐いた。


「……確認しました。恐らくこの後、群れの規模を確認するために調査隊が派遣された後、その規模によっては改めて駆除隊が組織されることになると思います。発見者であるお二人には協力要請があるかもしれませんので、その際は宜しくお願いします」

「了解です」


エレオノーレは話の展開について行けずキョトンとしているが、後で聞けばいいと考えているのか口は挟んでこない。


ロイドはズタ袋の中身だけを後方に控えていた職員に引き渡して袋をエレオノーレに返却。ゴブリンライダーと遭遇した詳しい場所や状況などについてウルから聴取していった。


ひとしきり説明が終わったタイミングで、先ほどの職員がトレーに金貨を載せてロイドのもとに戻ってくる。


「……主任」

「お、ありがとう。──それではウルさん、エレオノーレさん。これが今回の情報に対する報奨金になります」


トレーの上にあった金貨は五枚。

背後でエレオノーレが息を呑んだのが気配で分かった。


「ありがとうございます。そんじゃ、また何か追加で聞きたいことがあれば」

「はい」


ウルは何でもない風を装って金貨を懐に収め、立ち上がる。


手続きを終えてロイドは少し気が緩んだのか、ウルの背に呆れ交じりの軽口を投げた。


「しかし、昨日の件といい、今回のゴブリンといい、ウルさんは何かと話題に事欠きませんねぇ」


──あんたが言うな。


ウルは反射的に出そうになった言葉を呑み込み、困惑した様子のエレオノーレの肩を叩いて冒険者ギルドを後にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あれはどういうことなんだ?」


場所をギルドから行きつけの酒場へと移し、飲み物と料理と注文したタイミングでエレオノーレが口を開いた。


ちなみに今日は探索をかなり早めに切り上げたこともあり、時刻はまだ夕方。いつも探索終わりの冒険者で賑わっている店内も人影はまばらだ。


「どういうこと、とは?」


ウルはエレオノーレの質問の意図を概ね察してはいたが、敢えてそう問い返す。


「あの報奨金だ。ゴブリンの発見報告が冒険者の義務だというのは聞いたが、どうしてあの程度の情報に報奨金が出る? いやそもそも、高々ゴブリンごとき、どうしてそんな気にする必要があるんだ?」


ふむ、とウルは考えるようなそぶりをし、懐から先ほど受け取った報奨金金貨五枚をテーブルに置いた。


「そうだな。とりあえず忘れる前に分配を済ませとこうと思うが、まず霊薬ポーション代一枚を経費として差し引いて、残りを二等分。こいつが君の今日の報酬だ」


目の前で分かりやすく金貨を動かし、五枚の内二枚をエレオノーレの方に押しやる。彼女は少し戸惑った様子でそれを受け取った。


「あ、ああ……ありがとう」


彼女はそれを意外にかわいらしいウエストポーチに収めた後、ふと我に返る。


「いや、報酬はそうなんだが、そうじゃなくて──」

「はいはい。質問の答えだろ。──まぁ一言で言うと、厄介なんだよ、ゴブリンは」

「厄介? あの矮小な小人がか?」


そのエレオノーレの反応に、ウルは『あ~、やっぱりその辺りの認識が全然違うんだ』と、頭をかいた。




ゴブリンに対する一般の認識は“小柄”で“非力”、数こそ多くてたちが悪いが、総じて“弱い”魔物といったところだろう。


その認識は決して間違いではなく、ゴブリンは基本的にヒューマンと比較してあらゆる面で劣後する種族だ。ただ、その能力は個体差が大きく、中には平均的なヒューマンを上回る体格と技量を持つ戦士や魔術を使いこなすエリートも存在するため、一概に弱者とは限らない。


またその繁殖力の高さは驚異的で、数を武器にかつてはこの大陸に王国を築いていた例もあったとか。


奴らはここ数十年、地上で大規模な駆除が行われめっきり数を減らしたが、それでも油断するとどこにでも湧いて繁殖を繰り返す。


そして一番厄介とされているのが、ゴブリンたちが人の手の及ばない迷宮内に棲みついたケースだった。




「君の言う通りゴブリンは弱い魔物だ。中には油断できない突然変異イレギュラーもいるけど、数としちゃそう多くない。普通に考えれば、もっと強くて警戒すべき魔物が他にいくらでもいるだろうさ」


ウルの説明を、エレオノーレはうんうんと頷きながら傾聴する。


「だけどゴブリンには他の魔物にはない厄介な特徴が二つある」

「二つ?」


エレオノーレは少し考えこみ、口を開いた。


「……一つは繁殖力だな?」

「そうだ。あいつらはとにかくあっという間に増える。単純に弱くても数が増えれば厄介だってのもあるが、放置すれば際限なく手ごろな獲物を食い尽くして、迷宮の資源を台無しにしかねない」


特に弱くて狩り易い手ごろな魔物が食い尽くされるのは、レベルの低い冒険者にとっては致命的だろう。


「もう一つは?」

「ゴブリンには迷宮のルールが通じない」

「ルール?」


意味が分からずエレオノーレは眉をひそめた。


「ああそうだ。迷宮に棲む魔物は、原則として一定のルールに基づいて活動してる。代表的なとこで言えば、階層フロアを跨いで移動することはない、とかな」


仮にそうしたルールが存在しなければ、今頃地上は迷宮から魔物が溢れ出て大混乱となっていただろう。


だがどうしてそのようなルールが存在するのか、あるいは存在するかのように魔物が行動しているのか、その理由については今のところ解明されていない。ただ皆、雨が大地に降り注ぐように“そういうものだ”と割り切っている。


「だけどゴブリンはそうじゃない。階層を跨いで移動するし、平気で迷宮の外に湧き出てくる。迷宮内の生態系なんか知ったこっちゃないし、あいつらに触発されて他の魔物も異常行動を起こすようになる」

「異常行動?」

「これは又聞きだけど、昔ゴブリンが梟熊アウルベアとか鋼猪メタルボアとか中層の魔物を飼いならして浅層を荒らしまわったことがあったらしいぞ」

「それは……確かに厄介だな」


彼女にとって現実的な“敵”を示され、エレオノーレもゴブリンの厄介さを理解した様子で頷く。


「なるほど。それでギルドはゴブリンを見つけたら最優先で報告させ駆除しようとするのだな。高々あの程度の情報に報奨金が出るのも理解できる」


そこでエレオノーレはふと気づいた様子で新たな疑問を口にする。


「しかしあのゴブリンどもは一体どこから迷宮に潜り込んだのだろうな。エンデの迷宮の入口は全て都市によって管理されているはずだろう? リーダーの話ではゴブリンが紛れ込んだのは今回が初めてではないようだが、こんなことが頻繁に起きるものなのだろうか?」

「さぁ? 俺らが発見してない入口が都市の外にあるのか、それとも迷宮の中層以降に隠れて生き延びてる個体がいたのか、ゴブリン本人にでも聞かないとその辺りのことは分からんよ」

「……それもそうだな」


エレオノーレはあっさりと頷き、それ以上の疑問を口にしなかった。


ちなみに今ウルが彼女にした説明は全てレーツェルに聞いた受け売りなので、今言った以上のことを説明しろと言われても不可能。彼は密かに胸をなでおろしていた。


そうこうしている間にテーブルに料理と飲み物が運ばれ、二人は初めての探索成功に軽くジョッキを打ち合わせ祝杯をあげる。


「それじゃ、君には少し物足りなかったかもしれんが、お疲れさん」

「うむ。お疲れ様だ。正直、戦い足りなかったのは確かだが、色々勉強になった一日だった」

「そりゃ良かった。ま、ここは奢るから、遠慮せず食べてくれ」

「かたじけない」


年上らしく見栄を張って言うウルに、エレオノーレは屈託なく頷き食事を始めた。


──色々と課題も見えたし、とりあえず明日明後日はコイツ向けに使えそうな魔道具の試作だな。バイトもあんま休んでばっかじゃ拙いし、スラムの方にも顔出しとかなきゃ。となると次の探索は最低四日後とかだけど、俺はともかくその間コイツの収入をどうするかって問題もあるのか。


いざパーティーを組むとなれば、お試しであれ考えることは多い。


早速色々頭を悩ませるウルだったが、差し当たっての問題は、凄まじい勢いで食事をし、空の皿を積み上げるエレオノーレの食事代が果たしてどれほどになるか、というものだった。

【今回の収支】

<収入>

 金貨2枚 銀貨8枚 銅貨4枚

 ・情報料   金貨3枚

 ・素材売却代 銀貨8枚 銅貨4枚

<支出>

 金貨1枚 銀貨15枚

 ・生活費(二日分) 銀貨6枚

 ・霊薬代(補充)  金貨1枚

 ・打ち上げ代    銀貨9枚

<収支>

 +銀貨3枚 銅貨4枚 


<所持金>

(初期)白金貨21枚 金貨14枚 銀貨 2枚 銅貨13枚

(最終)白金貨21枚 金貨14枚 銀貨 5枚 銅貨17枚

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