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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第二章

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第5話

ゴブリンはオークやコボルトと同じ人型種族だが、亜人種ではなく“魔物”に分類されている。


独自の言語や文化を持ち決して知能が低いわけではなく、見た目や身体構造的にはむしろオークたちより人類に近い。しかし人類は有史以来、決してゴブリンを“人”とは認めようとしなかった。その理由は一般に「ゴブリンは心根の邪悪な種族で話の通じる相手ではない」ためだとされているが、実際にはヒューマンとの致命的な相性の悪さが原因だろう。


際立った取り柄はないが、貪欲で適応力が高く、諦めの悪い者同士の近親憎悪。


ともかく人類から強烈に敵視されている彼らゴブリンは、地上での住処を失い迷宮に棲みついたという話を偶に聞く。しかし冒険者が頻繁に出入りするエンデの迷宮は彼らにとって地上以上に危険で、敢えてここを選んで棲みつくとも考えにくい。


ウルフを乗りこなす小集団ともなれば、構成的に他に大きな母集団がいる可能性が高いが、この階層フロアにそんな──



「ウォォォォォッ!!!」


雄叫び──女性に対しこの表現が適切かは知らないが──を上げてゴブリンライダーの小集団に突進するエレオノーレの姿に、ウルはゴブリンに関する思考を打ち切った。


──接近前に遠距離攻撃で数を減らしておきたかったのに!


一人で突進して段取りを台無しにしたエレオノーレに舌打ち。しかしそもそも事前の取り決めができていなかった自分たちのミスであると気を取り直し、すぐさま彼女の援護に動く。


──突っ込ませるか残すか、どっちだ!?


ウルが判断に迷ったのは、ガーディアンをエレオノーレの援護に突っ込ませるか、護衛としてその場に留めるかの二択。自分の傍から離すのは不安だが、数で囲まれてエレオノーレが倒されればどのみち終わりだ。護衛としてその場に残せば恐らくゴブリンたちは先に六対一でエレオノーレを圧殺しようとするだろうから、ガーディアンが戦力として浮くことになる。


──最悪一、二体相手なら俺一人でも時間稼ぎぐらいはできる。


結局ウルは一秒にも満たない逡巡の末、ガーディアンをエレオノーレと共に突っ込ませた。


──バシュン!! バシュゥ!


『ギギィ!?』


それと並行して魔導銃を抜き、狙いをつけることもせずゴブリンライダーの足元めがけて連射。一体の動きをけん制し足止めする。


「グルァァァァァァァッ!!!」


エレオノーレの咆哮ウォークライ──そして剛腕から繰り出される薙ぎ払い。


──ドォォォンッ!


『グギャァ!?』

『ギヒャ──ッ!』


先頭を走っていた二体のゴブリンの身体が宙を舞い、乗騎であったウルフと切り離される。内、一体は胴体が半ば両断され一目でわかる致命傷だ。


後続のゴブリンライダーは飛んできた仲間の身体を避けようと足を止める。そこにガーディアンが主を無くして混乱するウルフに鋼のツノを突き立て、そのまま突進して陣形をズタズタにした。


ゴブリンライダーの数と乗騎による勢いの有利は失われ、後は囲まれないよう注意しながら一体一体確実に仕留めていくだけの状況。


「ウラァァァァァッ!!」


しかし戦況が見えていないのか、エレオノーレはより多くの敵を求めて我武者羅に突進した。ウルの位置からは見えないが、その時彼女の瞳は赤く充血し、戦の狂気に染まっている。


『ギギィ!!』


いくら個の力で勝っていようと、数は力だ。ゴブリンライダーは更に一体がエレオノーレの攻撃で殴り倒されるも、その隙に一体が彼女の腕にしがみつき、また背後から主を無くしたウルフが足に噛みつく。


「グルァァァァァッ!!」

『ギャヒィ!?』

『ガル……ッ!!』


ダメージや拘束など何のその。強引に腕や身体を振り回し敵を振り払おうとするエレオノーレと、そうはさせまいと必死にしがみつくゴブリンたち。


ウルフの噛みつきは厚い脂肪と筋肉に阻まれて致命傷には程遠く、恐らくこのまま行けばエレオノーレが体力勝ちするだろう。しかし、エレオノーレのダメージは少ないながらも着実に蓄積しており、攻撃の隙をうかがっている個体の動き次第では万が一もあり得る。


──ああ、クソッ! 援護しないわけにもいかねぇよな!


乱戦の中に矢弾を撃ち込むのは誤射のリスクが付きまとう。援護しようと思えばウルもリスクを負って接近しなくてはならない。


戦術も集団戦もあったもんじゃないと胸中で毒づきながら、ウルは乱戦に向け駆けだした。




およそ一分後。

ゴブリンライダーたちとの遭遇戦は、ウルたちの勝利で終結していた。


「どうだったリーダー。私の戦ぶりは?」


自慢げに胸を張るエレオノーレは全身に大小さまざまな傷を負っているものの、体力的にはまだ余裕たっぷり。その足元には彼女が仕留めたゴブリンとウルフの死体が転がっている。


「そうだなぁ……」


ウルはどっと疲れた表情で溜息を吐く。


精神的な疲れは別にしてウル本人は結局無傷。ガーディアンは背部装甲に一部ダメージを負ったが、ウルが魔力を流して修復機能を作動させており、後数分もすれば元通りに戻るはずだ。


つまり前衛のダメージを除けば、結果的に完勝と言ってよい結果ではあった──が。


「三〇点ってとこだな」

「うわっ!?」


──バシャ


突然ウルから小瓶に入った黄色い液体をぶっかけられ、エレオノーレは悲鳴を上げる。


何をするんだ──と抗議しようとして、すぐにその液体の正体に気づく。


「……霊薬ポーション?」

「相手に遠距離攻撃の手段がなかったんだから、馬鹿正直に突撃する前に俺が攻撃して数を減らすのを待てよ。あと、初撃で勢いをくじくために多少無茶すんのは仕方ないにせよ、その後わざわざ数が多い方に突っ込む必要はねぇだろ。こっちも援護しづらいし、ちったぁ頭使え」


呆れと疲労からウルの言葉遣いは一気にぞんざいなものとなっていた。


褒められるとばかり思っていたエレオノーレは不満そうに頬を膨らませる。


「……仕方ないじゃないか。私は戦いとなると頭がカッとなって細かいことが考えられなくなるんだ。それに勝ったんだから問題ないだろう?」

「血だらけになって問題ないわけあるか、アホ」

「アホとは何だ!? アホはリーダーの方だろ! こんなかすり傷、舐めておけば治る。こんなことで一々高価な霊薬ポーションを使うなんて何考えてるんだ?」


子供っぽく憤慨するエレオノーレだが、彼女の主張はあながち的外れというわけではない。


平均的な霊薬ポーションの値段は凡そ金貨一枚。これは一人前の冒険者一人が浅層で一日探索を行って得られる平均収入に相当する。回復薬のいない初心者パーティーが負傷を霊薬で治療し赤字となる霊薬ポーション赤字は冒険者にとってはあるあるで、初心者は特に霊薬を使い惜しむ傾向があった。なまじ生命力が高く、生活の貧しいオークであれば猶更だろう。


「アホ。怪我を軽く見るな。ちょっとした傷を放置して感染症やらでポックリ逝く馬鹿は珍しくねぇんだぞ」

「む……」

霊薬ポーション使うのがもったいないと思うなら、ケガせんように頭使って動け」

「…………」


納得いっていない顔で黙り込むエレオノーレ。

ウルは説教しながら『まあ、実際には難しいだろうけど』と判明した彼女の問題に内心頭を抱えていた。



狂戦士バーサーク症候群。

戦いを前にすると興奮、あるいは恐怖によって錯乱し、理性と思考力を喪失する戦士特有の精神疾患。


その程度は様々で、エレオノーレのように思考力が低下する程度の者もいれば、完全に敵味方の区別がつかなくなる者もいる。発動中はリミッターが外れ通常以上の力を発揮できるため、必ずしもマイナス面だけではないのだが、パーティーを組む立場としてはやりづらいことこの上ない。


ヒューマンでも稀に見られる症状だが、オークのような好戦的な種族では一〇人に一、二人程度とかなり高い割合でその傾向がみられるのだとか。



──この辺りも、事前にしっかりコミュニケーションをとって確認してなかった俺の問題だろうなぁ……


色々と問題のあった初戦闘だが、ウルにエレオノーレを責めるつもりはなかった。


曲がりなりにもこのパーティーのリーダーはウル。強そうだからとエレオノーレに戦闘を任せる気満々で、確認を怠った自分のミスだ。


「まぁ、不要な突進やケガはともかく、槍の腕前は申告通り見事なもんだったよ。並の戦士と俺だったら、この程度のケガじゃすまなかっただろう」

「うん……?」


突然の誉め言葉に、エレオノーレは不満を忘れキョトンと目を丸くする。


「あと、実際身体は丈夫であの程度かすり傷なのかもしれんが、俺と組む以上、負傷を無視するようなやり方は認めない。怪我したら隠さず言え」

「あ、ああ……」


一転優しい言葉に戸惑った様子のエレオノーレは、何かに気づいた様子でハッとした顔になる。


そして口の中で『だから霊薬を……』などともごもご呟いていたかと思うと、意を決した様子でウルを見つめ、口開いた。


「す、すまないリーダー」

「うん?」

「貴方の気持ちは大変嬉しいのだが、その……私はそれに応えられない!」

「…………は?」


本気で意味が分からず、ウルは顔を顰める。


「私は何と言うか、もっとがっしりした逞しい男が好みで──」

「ちょ、ちょいちょい! 何を言い出してんだ!?」


まるでウルがエレオノーレに好意を伝え、フラれたかのような物言いに、ウルは意味が分からず慌てる。


「む? 何をも何も、リーダーが私に好意を持っているから、貴重な霊薬を使ってまで私を気遣ってくれたのだろう?」

「んな訳あるか! 突然意味不明なことほざくな!」

「隠さずとも良い。私もねんねではないのだ。婆様たちから男は『色白で胸が大きくて目が二重の女』が好きなのだと教わっている」

「他色んな前提条件無視してそこだけ切り取ってんじゃねぇ!!」


確かにエレオノーレは色白というか白い体毛で、胸は種族的な事情もあって大きく、目も二重ではあるが、そこだけ切り取って『自分は種の壁を超えるほど魅力的』なのだと勘違いさせるのは、色んな意味で良くない。


ウルはエレオノーレのプライドを傷つけないように注意しながら、数分に渡り熱弁を振るってその勘違いを正した。


「うんうん。まあ、リーダーもプライドというものがあるからな。これ以上は何も言うまい」

「…………も、それでいいや」


迷宮の中でこんなバカな話をいつまでも続けてはいられない。ウルは自分の名誉を犠牲に話を打ち切り、大きく溜め息を吐いて指示を出した。


「とりあえず今日はもう撤退だ」

「うん? 傷は霊薬ポーションで完治したし、まだまだ戦えるぞ。こんなところで引き返しては大赤字だろう」


不満というか不思議そうにエレオノーレが首を傾げる。


それ自体はもっともな意見だったが、ウルはかぶりを横に振り、撤退だと繰り返した。


「浅層でゴブリンを見つけちまった以上、駆除が始まる。発見報告は冒険者の最優先義務だ」

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