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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第二章

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第1話

「すいません、買い取りお願いします」

「かしこまりました」


顔馴染みのギルド担当者は、ウルがズタ袋から取り出しカウンターに置いた六体のマンドラゴラを確認し、チラリと袋の中に残った膨らみに視線をやる。


「……そちらは宜しいので?」

「ああ。残りは自分で使う予定なんで」

「承知いたしました。それでは査定を行いますので、少々お待ち下さい」


担当者はそう言ってマンドラゴラを籠に移し、別のギルド職員を呼んで査定へと回した。




ウルが迷宮都市を訪れてから既に三か月以上の時が流れた。


冒険者となるべくやってきた彼だが、その在り方は当初の思惑とはやや外れた方向へと進んでいる。


何故かスラムの人間と組んで商品開発や製造販売の顧問をすることになったり、魔導技師(アーティフィサー)として個人的に依頼を受けるようになったり、いつの間にか活動の比重は冒険者より作り手の方が大きくなっていた。


一方冒険者としては変わらずソロ活動継続中。

ガーディアンに自分の身を守らせ、浅層で無理のない範囲で狩りや採取を行っている。ただこの冒険者活動も製作した魔道具の試験の意味合いが強く、これ単体では基本的に赤字。魔道具をレーツェルや、彼女を通じて他の冒険者に販売したり、空いた時間に素材買い取り所でバイトをするなどして何とか生計を立てていた。


まあ、実際は少し前のカーバンクル狩りでしばらく働かなくても何とかなる位の貯えはできたので、色んな経験を積んで技術を高めることを重視した結果、ここ一月ほどは散財による赤字が続いている。駄目だとは分かっていても、あると使ってしまうのが大金を持った貧乏人のサガである。


ソロで大型の灰色熊を倒したり、レーツェルと組んで荒稼ぎしたりと、冒険者の間で一時期話題に上っていたウルだが、噂の旬は既に終わり。アンタッチャブルとされる犬ジイの関係者であるとの情報が出回ったこともあり、今では囃し立てたりちょっかいをかけて来る者はほとんど現れなくなった。ただ、時々迷宮内でよく分からない魔道具を持ち歩き、方々で爆発を起こしたりしていることもあってか、得体の知れない変わり者、酔狂人として微妙に距離を置かれている。




「査定完了いたしました。少し傷があるものもありましたので、全部で銀貨八枚、銅貨四枚でいかがでしょうか?」

「あ~はい。それでお願いします」


収入としては一日バイトした場合とほぼ同額。

今回はレーツェルに頼まれていた魔道具のテストが主目的だったので、金額的に不満は全くなかった。


現金での受け取りを希望し担当者が買い取り金を準備している間、ウルはさて夕食をどこで食べて帰ろうか、あるいは節約のために自炊しようかと思考を巡らせる。


「それでウルさん。ご相談があるのですが、少し宜しいでしょうか?」

「はい?」


ギルドの担当者が珍しくあちらから話しかけてきた。


何事だろうと少し身構えるウル。担当者の表情からすると、別段悪い話というわけではなさそうだが。


「実は、一部の方からウルさんの魔道具を販売していただけないかという相談を受けていまして……」

「はい?」


先ほどと同じ返事を、先ほどより二オクターブほど高い声音で発する。


「いや、意味が分かんないんですけど?」

「はは……まぁ、そういう反応になりますよねぇ」


眉を顰めるウルに、ギルド担当者はその反応を予想していたように曖昧に苦笑した。


ウルは反射的に眉間に浮かんだ皺を一層深くし、ムッとした表情になる。


「いえ、すみません。別にからかっている訳ではないんですが……」

「……はぁ」


ロイド自身もどこから説明したらいいのか困った様子で頭をかいている。微妙に毒気の抜かれたウルは、しかめっ面を維持したまましっかり説明してくれと訴えた。


「正直、事情というか、そこに至る流れがサッパリ理解できないので、一から説明してもらえませんか? 大っぴらに宣伝してるわけでもない俺の道具をどうして買いたいなんて人間が出てくるのか。しかもその話をわざわざギルドが仲介するのか」

「ごもっともです」


殊勝な表情で頷きを一つ、ロイドはウルの疑問に答える形で説明を始めた。


「話の切っ掛けは、ウルさんが最近注目を集めていたというのもありますが、それ以上にレーツェルさんの存在が大きいですね」

「あいつの?」

「ええ。彼女が最近よく、他の女性冒険者パーティーに混じって活動していることはご存じですか?」


ウルは無言で頷き肯定する。

レーツェルは以前組んでいたパーティーを離れ、現在はウルと同じソロ活動中。彼と違うのは、彼女にはこの街の女性冒険者のグループと強い繋がりがあり、スポットでパーティーに混じり、活動しているという点だ。


「そこでレーツェルさんは時折ウルさん作った魔道具を使っていたそうなんですが、そのグループ内で同じものが欲しいと話題となったようで……」

「ああ、そこまでは分かります。確かに逃走用のアイテムなんかをお守り代わりにいくつか持っておきたいって、あいつを介していくつか注文を受けましたよ」


だがそれはあくまで女性冒険者という狭いコミュニティの中での話にとどまっていたはずだが。


「どうも他の冒険者も、その女性たちが魔道具を使用しているところ目撃して興味を持ったようでして……」

「……まぁ、そういうこともあるかもしれませんね」


そう言いつつもウルは『俺程度が作ったアイテムにそんな興味を持つか?』と胸中で首を傾げる。実は冒険者が興味を持ったのには、この迷宮都市特有の事情が影響していた。


以前にも少し述べたが、この迷宮都市は冒険者の街であり、冒険者は探索にかかるコストをリスクと捉え嫌う傾向がある。昨今の安全を重視し浅層で小銭を稼ごうとする者が大部分を占める冒険者業界においてはその傾向が特に顕著だ。


そして基本的に魔道具とは高価なもの。命を懸ける装備にさえ金を出し渋る冒険者を相手にしていては商売にならないと、大半の魔導技師(アーティフィサー)は迷宮都市に寄り付かなくなってしまった。


例外はウルのように、そのあたりの事情を把握しないまま『迷宮都市なら素材に事欠かないだろ』と安易な発想で訪れた者ぐらい。この街の冒険者にとってはウル程度のひよっこが作った魔道具であっても十分目新しい代物だった。


「レーツェルさんたちが使っていた魔道具が比較的安価だったというのも大きいでしょうね。その程度なら保険としていくつか持っておくのもいいかもしれないと考える冒険者が一定数いたようです」


レーツェルがウルから購入した魔道具は、彼女がこれなら購入しても元が取れると判断したものばかりだ。それが他の冒険者の琴線に触れたというのは、まあ分からなくはない。


「……そこまでは分かりましたけど、そこにどうして一々ギルドが入ってくるんです? 欲しいなら直接俺に言ってくればいいじゃないですか」


この件における最大の疑問にロイドは苦笑を漏らす。


「そこは何と言うか……実態がどうかは別にして、傍から見れば貴方はあの元締めに“囲われている”職人なんですよ。皆迂闊にちょっかいをかけてあの方の勘気を被るのは御免被りたい、ということです」

「……すげー風評被害」


思わず呆気にとられるウルだが、しかし言われてみれば確かにそう見えないこともない。


ウルはスラムの元締め──犬ジイが所有する一軒家を無償で貸し与えられており、しかもその孫娘とも親しくし魔道具を卸している。スラムの人間と協調して商品開発も行っており、やっていることは完全に彼のお抱え職人だ。なるほど、確かに犬ジイの影響力を考えれば直接声をかけるのは憚られる。


ロイドはウルの表情に理解の色が浮かんだのを見て続けた。


「私はある程度、貴方とあの方との関係性を理解していますが、他の人間はそうではありませんからね。直接声をかけても差し支えないと、私が彼らに伝えるのもそれはそれで問題になりそうでしたし」

「あ~……すいません。気を遣わせちゃいました?」

「いえいえ。冒険者の保護もギルドの業務の一環ですから」


つまりロイドは、冒険者たちが直接ウルに話を持ち掛けるようになれば、それはそれでウルの負担が大きいだろうと敢えて冒険者の勘違いを否定せず、ギルドとして仲介に入ることを選んだということだ。


ギルドからすれば間に入っても手間なだけでほとんど何の旨味もないだろうに……事情を理解したウルは申し訳なさそうな表情で頭をかいた。


ロイドはウルに気を遣わせまいと柔和な笑みを浮かべ、話を本筋に戻す。


「それでウルさん。魔道具の販売について、いかがお考えでしょう?」

「そうですね……」


口元に手を当てて一瞬考える。

話自体はありがたいことだが、自分の身体は一つきりで、対応できることには限界がある。レーツェルに対する義理もあるし、自分自身の研鑽の時間も削りたくない。安易にできるとは答えられなかった。


「その冒険者がどんな品をどの程度必要としてるかによりますね。需給があまりにかけ離れてるようなら、ハッキリお断りした方が後腐れがないでしょうし。それに今仕事を受けてるところへの義理もあります。そっちにも事前に話は通しておきたいですね」

「ごもっともな話です。となるとまずは、こちらで簡単に必要とされている品の種類と量をある程度整理してから、改めてご相談させていただいても?」

「そうですね。俺もその間にあいつらに話を──」


と、ウルとロイドの話が一先ず前向きな形でひと段落しようとしたタイミングで、ギルド内に唐突な演説が響き渡った。


「たのもう!」

『────!?』


良く通る女性の声。その場にいた者全員の視線が、声の主に吸い寄せられた。


そこにいたのは、ロビーに仁王立ちする槍を持つ女戦士。


「私は牙の氏族の戦士、エレオノーレ! 此度、冒険者となり、迷宮へと挑むことと相成った! ついては私と共に迷宮へと挑んでくださる方を探している! どうか私と共に戦ってくださる勇者はいらっしゃらぬか!」


拙いながらも堂々たる宣言。

まるで御伽噺の女騎士を見ているようだ、とウルは思った。


『…………』


周囲の冒険者たちは戸惑い、勇ましく立ち尽くす女戦士を遠巻きに見つめている。


彼女の宣言が時代錯誤だというのもあっただろうが、そこは意外に気の良い人間の多い冒険者のこと。こうした変わり者に対しても、常であれば一人二人は笑いながら話しかけて世話をしてやる者が現れていただろう。


しかし今この場にそうした気配はない。


「どなたかいらっしゃらぬか!」


改めて宣言する女戦士。

しかし、それに答えるものは現れない。


その理由はただ一つ、彼女の異様な風体。


冒険者たちは突如ギルドに現れた豚頭の獣人──オークの女戦士を、困惑と共に見つめていた。

【第一部終了後の収支】

<収入>

 金貨2枚 銀貨92枚

 ・素材・魔道具売却益 金貨2枚 銀貨11枚

 ・バイト代 銀貨81枚

<支出>

 金貨56枚 銀貨97枚 銅貨5枚

 ・生活費(一か月分) 銀貨93枚 銅貨5枚

 ・実験費用など雑損  金貨3枚 銀貨4枚

 ・個人用魔道具製造費 金貨53枚

<収支>

 ▲金貨54枚 銀貨5枚 銅貨5枚 


<所持金>

(初期)白金貨26枚 金貨18枚 銀貨 7枚 銅貨18枚

(最終)白金貨21枚 金貨14枚 銀貨 2枚 銅貨13枚

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