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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第一章

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第22話

「それでは買い取り価格は金貨五三五枚になります」

『────』


いつもの中年男性とは違う、女性の買取り担当者。

その金額を耳ざとく聞き取った周囲の冒険者たちの間に一瞬ざわめきがはしるが、しかしその受け取り主の正体を知った瞬間、直ぐに鎮まる。


「はい、どうも~」


レーツェルはホクホク顔で明細に目を通し、ギルドの買取り担当者に指示を出した。


「それじゃ、二五〇枚ずつを私と彼の口座に分けて入金して、残りは現金で」

「……かしこまりました」


ウルが口を挟む余地もなく、彼の知る冒険者稼業とは桁の違う取引が粛々と行われていく。カーバンクルの買い取り価格については何となく予想はしていたというか、そもそも金額が大きすぎて感覚が麻痺し、実感も驚きさえも感じることができずにいた。


ただ、こうした金の話に敏感な冒険者たちがレーツェルの顔を見るなり口を噤んだのを見て、ウルは『あれ? 多分爺さん関係なんだろうけど、こいつって実は結構やべー奴?』と目の前の少女に対する認識を少しだけ改めた。


「──さ。それじゃ行きましょ」




ウルとレーツェルが狩ったカーバンクルの素材は金貨五三五枚という高値で取引された。カーバンクルの相場として高いのか安いのかは分からないが、これは平均的な冒険者が得られる報酬の凡そ一年分に相当し、超一流と呼ばれる冒険者であっても一度の探索でこれだけの報酬を得ることは稀だ。


普通新人でこんな荒稼ぎをした者が現れれば『何やったか教えろ』『一枚噛ませろ』『仲間にしてやる』などと面倒な連中が蟻のように集ってくるもの。ウル一人であれば間違いなくケツの毛一本残らずむしり取られていただろうが、今のところギルドを出てもそんな気配は露ほどもない。改めてこの冒険者界隈における犬ジイ──レーツェルの祖父──の影響力の大きさを実感した。


「──で、この端数から魔道具代を差し引いて残りは金貨二七枚。割り切れないから、余りの一枚は今日の打ち上げにパーッと飲んで使っちゃいましょ」


足りない分はお姉さんが奢ってあげる、と上機嫌に言いながら、レーツェルはテーブルに置かれた三五枚の金貨の内、一三枚をウルの方へと押しやった。これで先ほど口座に振り込み手続きをした分と合わせて、今回の探索は個人として金貨二六三枚の黒字だ。


「…………ほぁ~」


未だ夢見心地で、のそのそとした動作で金貨を懐にしまうウルを尻目に、レーツェルは慣れた様子で店員を呼び、料理を注文する。


「すいませ~ん! こっちエールジョッキ二つとソーセージとハムの盛り合わせ、あとお任せでサラダと……モツ煮もお願い!」

「かしこまりました~!」


若い女性店員の元気のよい返事が店内に響く。

ウルたちがいるのは、彼らが普段使いしている所より一つ二つグレードの高い酒場。多少値は張るがその分客層が良く、ゆっくり落ち着いて食事を楽しむにはうってつけだ。


店を経営しているのは引退した女性冒険者でレーツェルとも顔馴染み。稼ぎが少なかった頃はこの店でウェイトレスとして働いていたこともあるらしい。


「──それじゃ、今日の冒険の大成功を祝って、乾杯!」

「乾杯!」


席料代わりのナッツとエールが先に運ばれてきたのを受け取り、レーツェルの音頭でジョッキを軽く打ち合わせる。


酒にあまり強くないウルは三分の一ほどを飲んでジョッキをテーブルに置き、レーツェルは豪快に一息で飲み干した。


「すいませ~ん! おかわり!」

「は~い!」


そして順番に運ばれてきた料理で腹を満たし、足りない分を追加注文。場も落ち着いたタイミングで、ウルはチビチビとエールを口にしながら未だ夢見心地で口を開いた。


「……しっかし、今でも少し信じられないな。まさかたった一回の探索でこんな稼げるなんて」

「はは、まだ言ってる」


実は今日何度目にもなるウルの呟きに、レーツェルはブルーチーズをつまみながら苦笑する。


「いや、だってさぁ……!」

「はいはい。もう分かったっての」


軽く流されて不満そうなウルを宥めるようにレーツェルは続けた。


「まぁ実際、運が良かったのは確かね」

「……運?」

「そ、運。偶々私がカーバンクルの住処を知ってて、ウルが特攻魔道具を準備できてそれが上手く効果を発揮して、他の魔物の介入とか大きなトラブルもなく狩りを完遂できた」


レーツェルは指折りしながら、今回の一件がいかに幸運に恵まれていたかを確認する。


「ついでに言うと私らが気軽に行ける範囲じゃ他にカーバンクルの棲家はないし、何度も挑める狩りじゃないわ。その一度をモノにできたことは大きいわね」

「いや、中層って時点で俺にとっちゃ全く気軽に行ける範囲じゃなかったんだけどな?」


ろくな説明もなく連れていかれたことは忘れていないぞ、とつい恨み節を漏らす。


レーツェルは軽く肩を竦めてそれを流し、今回の探索を総括するように締めくくった。


「ともかく、確かに今回は運が良かった。だけど、その運を引き寄せたのは間違いなくあんたの作った魔道具よ。あれが無ければ、そもそも勝負を挑むことさえできなかったんだから」

「────」


正面から称賛されて、思わず言葉に詰まる。


「そ、それを言ったらレーツェルの知識と先導あってこそだろ。俺一人じゃそもそもカーバンクル狩りに挑むって発想がなかったわけだし」

「ま~ね~」


顔を逸らしながら言ったウルの称賛を、レーツェルはふふんと胸を張って受け入れる。


そして彼女はグイっと手に持っていたジョッキを飲み干し、ニヘラっと笑ってウルの頭を撫でた。


「何にせよ、あんたの作る物にはこれだけの可能性があるってことだから。失敗はあるかもしんないけど、もっと自信持ちなさい」

「……わかったよ。ってか、頭撫でんな」

「ニャハハハハ」


ウルに手を払われたレーツェルは上機嫌に笑い、店員を呼んで追加注文をする。


「…………」


味わったことのない達成感と美味しい食事。

この迷宮都市に来て初めてかもしれない充足した時間。


しかし。


結局その日、打ち上げが終わって解散するまで、レーツェルの口からウルが予想していた言葉が告げられることはなかった。

【今回の収支】

<収入>

 白金貨25枚 金貨13枚

 ・カーバンクル素材売却代

<支出>

 銀貨9枚

 ・生活費(三日分)

<収支>

 +白金貨25枚 金貨13枚 

 ▲銀貨9枚


<所持金>

(初期)白金貨 1枚 金貨 5枚 銀貨16枚 銅貨18枚

(最終)白金貨26枚 金貨18枚 銀貨 7枚 銅貨18枚

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