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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第一章

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第19話

「“鋼鉄の守護獣を従える若き鋼の賢者”……だってさ! キャハハハハハ!」

「…………」


自宅のテーブルに突っ伏し腹を抱えて笑うレーツェルに対し、ウルは苦虫を噛み潰したような表情で腕組みし、黙ってそれを受け入れた。


二度目の迷宮探索から一週間後。

ソロで大型の灰色熊を狩ったウルの噂は、原型がないほどに脚色され冒険者の間で広まってしまっていた。


倒した灰色熊のサイズが倍近い四メートル超に脚色されているぐらいはかわいいもの。そもそも灰色熊でなくオーガに代わっていたり、群れを討伐したことになっていたり、知らない内に新人冒険者パーティーを助けて名も名乗らず立ち去ったことになっていたり、途中から明らかに面白がってる奴いるだろ、とツッコみたくなるレベルの改変がなされていた。


たかだか浅層の灰色熊を倒した程度で何を大げさな、と思われるだろうが、これには迷宮と冒険者にまつわるある要因が影響している。


その要因とは冒険者全体の戦闘力低下。

迷宮攻略が夢物語とされる現代の冒険者にとって、最も必要とされる能力は戦闘力ではなく危機回避能力。いかに危険を避けて安全に迷宮の素材を入手するか、そのための技術と知見が重要視されている。


もちろん魔物素材を専門に扱う冒険者も存在するが、そうした者たちの多くは多人数で罠や仕掛けを駆使して狩りを行っており、彼らがやり方は戦いというよりむしろ作業に近い。


その結果、現代の冒険者の戦闘力はここ数十年で大幅に低下。この現象をある者は「練達したレベルの低い冒険者が増えた」と評したそうだ。


まあ人類がどんなに鍛えようが本物の化け物には絶対に勝てないのだから、その進化の方向性は間違っていない。


ともかくそうした“戦いの不得手”な冒険者が増える中、突如現れたソロで大型の灰色熊を狩った新人。しかも詳しくを語らず何事もなかったかのように立ち去ったその振る舞いは、名を上げて成り上がろうとする者の多い冒険者の中ではとても珍しく映った。まるで“灰色熊程度は些事だ”と言わんばかりに。


一部の上級冒険者はウルが相当な対価を払って灰色熊を倒したことに気づいていたようだが、停滞した業界が活性化するのは歓迎とむしろ面白がって話を盛る側に回っていた。


「ひぃ、ひぃ……! 今時“鋼の賢者”とか、カッコよすぎる……ぷぷっ!」

「いい加減にしねぇとマジでぶん殴るぞ」

「待って! おな、お腹が痙攣して、笑いが止まんな…………ぐふっ」

「…………」


レーツェルは完璧にツボに入ってしまい、もはや笑いを自分で制御できない状態に陥っている。


ウルは刺激するのは逆効果と諦め、彼女の痙攣が収まるまでたっぷり一分ほど沈黙を維持した。


「ひぃ、ふぅ……で、でも良かったんじゃない。これで名前と顔が売れたわけだし、色々やり易くなるかもよ?」

「んなわけあるか」


ウルから前回の探索の顛末を聞いているレーツェルはそうフォローしたが、ウルは憮然とした表情で即答する。


「前回は結局、術式弾タスラムやこいつの修繕費差し引いたら金貨三枚近い赤字だぞ。どう考えても大失敗だ。勘違いで名前が売れても迷惑なだけだよ」

「ま、皆は冒険の中身までは知らないからね~。話が大きくなるのが嫌なら、ちゃんと事情を説明したら?」

「…………」


ニヤニヤと笑うレーツェルから、ウルは心底嫌そうな顔で目を逸らす。


周囲に大赤字を出して灰色熊をギリギリ討伐したのだと説明しても、ウルにはデメリットの方が大きい。事情を説明すれば真っ当な冒険者は「一緒に稼ぐには不適格」と距離を取るだろうし、逆に声を掛けてくる者がいるとすればウルを都合よく利用し搾取しようとしている可能性を警戒した方がいい。


ついでに言うなら──どちらかと言えばこれが本音だが──自分の失敗談が広く知れ渡るのは恥ずかしい。これだけ広まった噂を打ち消そうとするなら猶更だ。


「ま、人の噂は一四日〆って言うし、もう少しの辛抱よ」

「あと一週間か……なげぇなぁ」


ウルはバイト先でもからかわれるんだよなぁ、と遠い目をして溜息を吐いた。


ちなみにレーツェルが口にした言い回しは、迷宮内で死亡した者が蘇生不可能になるまでの期間がおよそ一四日間であることに由来し、それ以上誰かのことを気にするのはやめようという迷宮都市特有の言い回しだ。


「にしても術式弾タスラムねぇ……魔導銃が私には使えないってのは納得したけど、なんか代わりに私でも使えるような切り札っぽいものってないの?」


レーツェルは手元の羊皮紙の束に書かれた内容に目を通しながら、そんなことを口にする。


彼女がウルの自宅にいるのはいつも通り遊びに来ている──からではなく、以前話題に挙がった彼女用の魔道具製作の相談のためだ。


術式弾や前回の冒険の話をしていたのもその流れ。

レーツェル向けに役立ちそうな魔道具をリストアップし、その説明をしていたところ、彼女から噂になっている灰色熊殺しはどうやったのだと追及があった。


術式弾が金貨五枚と高価な使い捨ての道具であることは説明したにも関わらず、レーツェルは興味津々の様子だが……


「あるよ」

「あるの!?」


あっさりと答えたウルに、レーツェルは羊皮紙の束から顔を上げ意外そうに目を丸くした。


「え!? 誰でも使えて格上殺しができるような凄い切り札だよ? ホントにあるの!?」


テーブル越しに詰め寄ってくるレーツェルから背をのけぞらせて距離をとり、ウルは首から上だけを小さく縦に振る。


「うん。そりゃあるだろ」


ウルは両手で落ち着けとレーツェルを押し戻す仕草をし、互いの姿勢をフラットに戻す。そしてウルが口を開こうとしたタイミングで、待ちきれないレーツェルが先んじて質問を口にした。


「そんな都合のいい魔道具なんて聞いたことないんだけどホントにあるの? ひょっとしてレシピはあるけど難しくて誰も作れないとかそういうオチ?」

「んな訳あるか。素材と設備さえ準備できれば、作るのはそんな難しくねぇよ……まぁ、誰も作れないってのは少しかすってるけど」

「……どういうこと?」


ウルは顎を指でなぞるような仕草をし、少し言葉を整理してから口を開いた。


「さっき“誰でも使えて格上殺しができるような切り札”って言ったけど、そこには当然但し書きがつく。大きくは三つ、かな」


三本指を立てて見せたウルに、レーツェルはそれは当然と無言で頷き、続きを促した。


「一つ、値が張ること。二つ、使い捨てであること。三つ、何にでも通用するわけじゃないこと」

「…………それだけ?」


説明を聞いたレーツェルは拍子抜けした様子で首を傾げた。


「それだけとは何だよ?」

「いや、だって……何か当たり前って言うか改めて言われるまでもないっていうか……」


その反応にウルは分かってないなとかぶりを振る。


「そうか? なら、具体的にどのぐらい値が張るのかも想像がつくか? 例えばオーガやミノタウロスを倒せる切り札を作るのにいくらかかると思う?」


ウルが口にしたのは、灰色熊とは格が三つ、四つ違う魔物。一流の戦士であっても、一対一では不覚を取る恐れがある怪物だ。


「え? そうだね……術式弾が金貨五枚って話だから……金貨一〇、いや二〇枚ぐらい?」

「残念。最低その十倍からだな」

「ウソッ!? 高すぎでしょ!!」


目を剥くレーツェルに、ウルはまあそういう反応になるよな、と胸中で頷いた。


「結局、魔道具の威力を上げようとすれば、高くて質のいい素材を使うのが一番手っ取り早いんだよ。で、いい素材ってのは値段が指数関数的に跳ね上がっていく。例えば魔石でも、一の魔力のクズ石一〇個買うより、一〇の魔力が籠った石一つ買う方が遥かに値が張るだろ?」

「そりゃ、まぁ……」


その理屈は分かると、顔を顰めながらレーツェルが頷く。彼女も冒険者として活動している以上、その辺りの素材の相場は熟知しているのだろう。


「でも、流石にそれはコスパ悪すぎじゃない? それなら使い捨ての道具じゃなくて、もっと値が張るにしても魔導銃やガーディアンみたいに恒常的に使える道具の方が使い勝手がいいでしょ」

「俺もそう思う。だけど、さっきも言った通り、切り札として使えるだけの出力を確保しようと思えば、どうしたって使い捨てにならざるを得ないんだ」


そしてそれこそが魔導技師アーティフィサーが冒険者に向いていない理由でもある。


「今、レーツェルが言ったようなことは誰もが思う。高価な使い捨ての道具を作るぐらいなら、もっと値が張っても恒常的に使える道具を一つ作った方が効率がいい、ってな。だけど実際、伝説に語られるような例外を除いて、そんな魔道具なんて見たことあるか? 話にでも聞いたことがあるか?」


ウルの問いかけに、レーツェルは少し考えるようなそぶりを見せて口を開く。


「え? う~ん……私の先輩が魔法銀ミスリル製で雷のエンチャントがかかった魔剣を持ってたけど……あれ確か、金貨一〇〇〇枚以上したって噂だった」

「じゃあ例えば、その剣を使えばあんたでもオーガをサシで倒せると思うか?」

「それは……無理」


恒常的な魔道具の典型例と言えば魔剣だが、大抵の場合こうした魔道具の瞬間出力は大したことがない。考えてみれば当然だが、魔剣といっても基本は頑丈で、切れ味が良く、羽のように軽くて属性が付与されているとかそれぐらい。精々が使い手の技量を一、二段上に引き上げる程度で、あれば勿論便利で見栄えもするが、それ一つで戦況を変えられるという程ではない。


では単純な性能向上ではなく特殊な機能をつけてはどうかという発想になるが、当然それは難しく、リソースの関係でやはり出力が落ちる。


魔導銃のようなチャージタイプにしたとしても、エネルギーを蓄積し、放出する機構やそれに耐える躯体の問題があるため、どうしたって恒常的な魔道具を使って出力を出すのは難しい。


「恒常的に使える魔道具ってのは、言い換えれば長く使えることにリソースの大半を割かなきゃ成立しないんだよ。一〇のリソースを使って魔道具を作る時、使い捨てならリソースの九を出力に割り振れるけど、恒常的に使える物を作ろうと思えば逆に九以上を出力じゃなく維持に割かなきゃならない。ほら怪我を治す薬を作ることと、触れただけで怪我を治す魔法の杖を作ることは全くの別物だろう?」

「なるほど」


そこまで説明されてレーツェルは大きく頷く。


「三つ目の“何にでも通用するわけじゃない”っていうのもリソースの問題?」

「だな。物理耐性とか属性耐性とかがある敵には、それ用のアイテムを別途用意する必要がある」


ふむふむと理解した様子を見せるレーツェルに、ウルは肩を竦めて付け加えた。


「まあ、要するに魔道具みたいな外付けの力でどうにかしようってのは、基本コスパが悪いって話さ」


前回の冒険だって結局金貨三枚の赤字。これはほんの少し前のウルにとっては大金だ。不運もあったとはいえ、冒険者という見栄のために飛んでもない出費だとウルは自分の財布の紐の緩さを反省していた。犬ジイから慎重に使えと忠告されたばかりだったというのに……


しかし、レーツェルの感想は違ったようだ。彼女は真面目な表情でかぶりを振り、ウルの自嘲を否定する。


「でもそれって、言い換えれば、金さえあれば大抵のことはどうにかなるってことでしょ?」


ウルは一瞬何を言われたか分からず、戸惑い気味に頷く。


「あ、ああ……でも、それこそ当たり前の話だろ?」

「うん。でもウルは、普通の人よりその“大抵のこと”の限界が大きい。それって実は、結構すごいことなんじゃないかな」

「…………」


何を言われているのか理解できず、ウルは顔を顰める。

レーツェルはそんなウルの戸惑いを無視して、何か考え込むようにその場で何度か頷き、顔を上げて一つの提案を口にした。


「──ねぇ、ウル。一度私と組んで迷宮に潜ってみない?」

「…………は」

【今回の収支】

<収入>

 金貨1枚 銀貨26枚

 ・バイト代(四日分)

<支出>

 銀貨21枚 銅貨2枚

 ・生活費(一週間分)

<収支>

 +金貨1枚 銀貨4枚 銅貨8枚


<所持金>

(初期)白金貨 1枚 金貨4枚 銀貨12枚 銅貨10枚

(最終)白金貨 1枚 金貨5枚 銀貨16枚 銅貨18枚

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