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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第一章

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第17話

少しだけタイトル回収。

魔物とは何か?

それは生命活動に魔力を活用する術を獲得した生物の総称だ。この生物の定義には不死生物アンデッドや魔法生物なども広く含まれる。


ここで言う活用とは魔力で一時的に肉体を強化する、といったレベルの話ではなく、常時肉体が魔力を帯び、魔力と生命が不可分となることで初めて魔物と呼ばれるようになる。つまり魔力を扱えるからと言って人間はあくまで人間、魔物には分類されないということだ。ここにはある種の例外も存在するが、それは今回の話とは直接関係がないため割愛する。


そして狼や熊などといった獣は魔物ではないが、環境によっては魔物にもなり得る生き物だ。


通常の環境で獣が魔物化することはほとんどないが、迷宮のように大量の魔素に満ちた空間で暮らす場合はその限りではない。迷宮内の獣の大部分は魔物であり、地上にいる通常の獣とは別物と考えた方が良い。


では、通常の獣と魔物化した獣とでは具体的にどのような違いがあるのだろうか?


魔力を宿したとは言え所詮は獣。大半の個体はその魔力を十全に活かすことはできず、瞬発力──筋力や速度にはさほど変化がない。精々、通常の個体の一、二割増しといったところだろう。


だが一方で、魔力を帯びるだけで機能が向上する生命力や持久力は魔物化により格段に向上する。魔力が少ない環境では消耗が激しいという欠点はあるものの、迷宮のような周囲に魔力が満ちた環境において魔物と化した獣は、地上の獣とは比較にならないほどタフでしぶとい。


それは例えば、元々一分以上全力疾走可能な持久力を持つ熊であれば、最高速度で延々獲物を追い続けていられるほどに。




『グオォォォォッ!!』

「しつけぇ……っ!!」


ウルは振り落とされないようガーディアンの背にしがみつきながら、背後から追いかけてくる灰色熊に悪態をついた。


熊の走る速度は、時速四〇キロ以上で走るガーディアンよりも早く、彼我の距離はぐんぐんと詰まっていく。ウルは徐々に大きくなる灰色熊の姿に「ヒェッ!」と引きつった悲鳴を漏らした。


「速すぎんだろ……!」


熊の走る速度が人間より速いということはウルも知っていたが、具体的にどれほどの速さかまでは理解していなかった。大型の熊は最高速度で時速五〇~六〇キロ以上をゆうに出し、大型の犬や狼より速いのだ。


約八〇メートルあった距離は既に半分以下にまで縮まっており、このまま行けばあと一〇秒か二〇秒か後には追い付かれてしまう。


「クソが!」


ウルは首と魔導銃を持った右手だけを背後に回し、引き撃ちを試みた。攻撃が通るかどうかわからないし、下手に刺激すれば余計に怒らせて止まらなくなるかもしれない。更に悪魔犬の時とは違ってガーディアンの速度を緩めるわけにはいかず、背中がガタガタ揺れて狙いが定まらない。


それでも何もせずに追いつかれるよりマシと魔導銃の引き金を引く。


──バシュゥン!


発射の瞬間、ガーディアンの背中が大きく縦に揺れ、一射目はまるきり明後日の方向へと飛んで行ってしまう。


焦りが増す。だが悠長に狙いを定めている余裕などないし、揺れを把握してコントロールする技術もない。精一杯丁寧に。二射目は灰色熊の左に逸れ、最後の三射目──


──バシュゥッ!!


『グオッ!?』


運良く三射目が標的の頭部にヒット。灰色熊が驚いたように悲鳴を上げ、一瞬のけ反りその足が止まる。


──やった!?


喜色を浮かべるウルだったが、それはすぐさま絶望へと変わった。


『グルル……ッ!』


頭部にヒットしたにも関わらず、灰色熊が怯んだのは一瞬だけ。眉の上に当たった跡は残っているが、ほとんどダメージが通った様子がない。しかもそれまで反射的に追いかけてきていただけの灰色熊の瞳に明確な怒りの色が宿る。


『グガァァァァァァァァッ!!!』

「ひぃ──ッ!?」


咆哮を上げて再び猛烈な勢いで駆けだした灰色熊に、ウルは短く悲鳴を上げて身体を固くした。


不運だったのは、その硬直のタイミングと地面の凹凸でガーディアンの胴が大きく跳ねたタイミングが重なってしまったこと。


「────あ」


ウルの身体はフワッとガーディアンの背中から離れて浮かび上がり、その左手がガーディアンの一本ヅノから滑って抜ける。


──ドサァァァッ!


「ぐっ! が──だっ!?」


高速で移動していたガーディアンの背からウルの身体は放り出され、地面に激しく打ち付けられた。衝撃で意識と視界が明滅する。世界がグルグル回って音も気配も分かったものではない。


だが自分を襲う敵がいて、このままではマズイという焦りだけはウルの脳にこびりついていた。


「うぁ……ぁ……?」


精一杯自分を急かして──傍から見ればヨタヨタと──身体を起こし立ち上がろうとするウル。その目に飛び込んできたのは、あと一歩で自分を引き裂ける距離にまで近づいてきた灰色熊の姿だった。


『グォォォォォ──ッ!!?』


──ドゴォン!!


間近に迫った灰色熊が突進の勢いそのままに牙を剥き出しにし、『死んだ』と飾りのない諦観をウルが抱いた瞬間、灰色熊の肉体に衝撃が奔る。


『俺を守れ』──半ば無意識のウルの命令に従ってガーディアンが方向転換。斜め横から灰色熊に体当たりし、その突進を食い止めていた。


しかし両者の重量差は歴然。ガーディアンは灰色熊をその場に足止めしたものの、自身は大きく後ろに弾き飛ばされてしまう。


「────ッ!」


ウルはガーディアンが破壊されたのではないかと喉の奥で掠れた悲鳴を上げる。ガーディアンに特に呼び名を決めていなかったので、こんな時に叫ぶ言葉を彼は持たなかった。


ウルが心配したのはガーディアンそのものではない。例え破壊されても、ガーディアンは時間さえあれば修復可能。問題は今ここでガーディアンが破壊されてしまえば、自分を守るものが何もなくなってしまうということだった。


『────』


弾き飛ばされたガーディアンは頭部の一本ヅノがひしゃげ、肩の装甲の一部が破損していたが、直ぐに立ち上がってウルを安堵させる。


灰色熊はこの場で警戒すべきはウルではなくガーディアンと認識。隙だらけのウルに攻撃してくることもなく、ガーディアンを睨みつけていた。


──ドゴォン!


再び灰色熊とガーディアンがぶつかり合う。

先ほどと違うのは、ガーディアンは弾き飛ばされることなく、両者ががっぷり四つにその場でもみ合っているところ。


これは別にガーディアンの力が増したわけでも、灰色熊が弱っているわけでもない。単純に、突進する距離が短かったので勢いがついておらず、また灰色熊がガーディアンを逃がすまいと締め付けていたためだ。


灰色熊のベアハッグがギリギリとガーディアンを締め付ける。鋼鉄のボディの上げる嫌な悲鳴が、みっともなく地面を這って距離を取るウルの耳にもはっきりと聞こえた。


一〇メートルほど距離を取り、ようやくウルにも背後の様子を確認する余裕が生まれる。


『グルゥ……ガグ、ガヴ!』

『────』


圧倒的な体格、パワーの差もあり、ガーディアンは灰色熊に完全にオモチャにされていた。それでも破壊されることなく灰色熊の腕の中でガーディアンがもがき続けているのは、シンプルに鋼鉄製のボディの頑丈さと、思考をウルの脳内に構築した疑似回路で代用しているが故の機構の単純さによるものだろう。


だがそれは長くは持つまい。


──逃げるのは……意味がない。


ガーディアンを囮に、このまま自分一人が逃げ出す決断を、ウルは無意味と断じた。


──この隙に魔導銃でチクチク攻撃するのもないな。あいつの意識が俺に向いたら間違いなく死ぬ。


今ウルが生きているのは、灰色熊の関心がウルではなくガーディアンに向いているからに過ぎない。ウルが逃げ出せば先ほどのようにまた追いかけてくるかもしれないし、そうでなくともウルが安全圏に逃げるまでガーディアンが持つまい。


魔導銃の攻撃が灰色熊の厚い体皮に有効でないことは既に実証済みだし、ガーディアンを放り捨ててウルを攻撃してきたら終わりだ。


以前、大蝙蝠の群れから逃げ出すときに使った炸裂弾は準備してきたが、あれの利点は威力ではなく攻撃範囲。この灰色熊に致命傷を与えるのは難しいだろう。



絶体絶命の状況。

しかし、この追い詰められた状況こそが、ウルに一つの覚悟を決めさせた。


──仕方ない。やるか。


静かな決断と諦念。ベルトポーチから一発の弾丸を取り出し、魔導銃に装填する。


魔導銃は矢弾の消費無しに遠距離攻撃を行うことができるのが強みだが、それは実在する弾丸を放てないという意味ではない。特殊な弾丸を使用することで、魔導銃は瞬間的に従来の性能を超えた威力や効果を発揮することができる。


──弾丸はこれ一発きり。外したら終わり。


幸いなことに標的はガーディアンに夢中。その場に立ち止まって意識を逸らしており、ウルの射撃の技量でも外す心配はほとんどない。


そしてこの弾丸を使用すれば、例え灰色熊だろうと一撃で致命傷を与えられるという確信がウルにはあった。


──『仮想術式弾・貫く者(タスラム)』。

高純度の魔石をそのまま加工した弾丸の機能はただただシンプルに対象を穿ち貫くこと。ウルでも作成可能なほどに単純で、余計な性質がないからこそ威力は絶大。


「クソが……もう、最悪だ……!」


ウルの喉から怨嗟が漏れる。

切り札として準備はしていたものの、使うつもりはなかった。この弾丸の使用は、彼にとって迷宮探索の失敗と同義だった。


この仮想術式弾の欠点──それは高純度の魔石を使用しているため、一発が恐ろしく高価なこと。


使用した瞬間、この探索の大赤字が確定する。


『グルル……ッ』

「調子に乗りやがって……!」


だんだん楽しくなってきたのか完全にガーディアンにじゃれついている灰色熊を睨みつけ、ウルは魔導銃を構える。攻撃態勢に移ってなお、それを脅威でないと判断しているのか、灰色熊は全く気にする様子を見せなかった。


「──っ、喰らえケダモノ! これが金貨五枚アタックだぁぁぁッ!!!」


──ブォォォォォンッ!!


唸るような音を立てて、魔弾が放たれる。いや、音は魔弾が通り過ぎた後、遅れて聞こえてきた。


『────?』


灰色熊は何が起きたか分からずキョトンと目を丸くし、立ち尽くす。


そしてウルと数秒見つめ合った後、自分が額を貫かれ死んでいることをようやく理解したかのように、ドサリと地面に崩れ落ちた。

【今回の収支】

<収入>

 ―

 ※灰色熊の素材は未換金

<支出>

 金貨14枚 銀貨12枚

 ・生活費(四日分) 銀貨12枚

 ・解体道具  金貨5枚

 ・術式弾頭  金貨5枚(使用済)

 ・炸裂弾×3 金貨3枚

 ・霊薬    金貨1枚

<収支>

 ▲金貨14枚 ▲銀貨12枚


<所持金>

(初期)白金貨 2枚 金貨8枚 銀貨 2枚 銅貨10枚

(最終)白金貨 1枚 金貨2枚 銀貨10枚 銅貨10枚

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