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第31話

「ご無事ですか、殿下っ!?」


ウルたちとレオンハルト一派の間に割って入ってきたのは一〇名ほどの獣人と卑民の混成集団。


その先頭にいる狐耳の女にレオンハルトは見覚えがあった。


「カタンかっ!?」


救出に向かおうとしていた味方から逆に思わぬ救援を受け、レオンハルトたちは驚きと歓喜に目を丸くする。


カタンは胸に右手を当て頭を下げると謝罪の言葉を口にした。


「……ご下命を全うできず無様に虜囚の身となったこと、お詫びいたします。処分は後から如何様にも。しかしこの場は共に戦うことを──」

「許す! 良くぞ生きて戻った!」


謝罪を遮り歓喜するレオンハルトに、カタンは頭を上げ申し訳なさと嬉しさがないまぜとなった顔に涙を滲ませた。


「しかし、どうやって逃げ出してきた? お前さんらはギルドの死体安置所に仮死状態で保管されてるって話だったが……」


そこに割り込み疑念を口にしたのはゾッド。

彼は当初レオンハルトからカタンたちの救出を命じられていたこともあり、カタンが自力で逃げられるような状況になかったことを把握していた。


「……アタシたちもさっき意識を取り戻したばかりだから状況全てを把握してるわけじゃないんだけど──ギルドの前で騒いでた同胞がいたでしょ?」

「ああ」


ギルドの動きを牽制するためゾッドたちがけしかけた獣人や卑民の移住希望者たちのことだろう。


「どうもアタシがそいつらの仲間だと思ったみたいで、司法取引って言うの? 上手く宥めたら刑を軽くしてやるってアタシ含めて何人かを蘇生したのね。それで、適当に話を引き延ばして情報を引き出してたら、今度は街中で魔物が暴れだしてギルドの連中もそれどころじゃなくなったみたいで……監視の目が緩くなったタイミングで逃げ出してきたの」


なるほど筋は通っているとゾッドは頷き、もう一つ確認する。


「……逃げ出したのはお前らだけか? 三〇人以上いた筈だが、他の連中は?」

「人数まで確認してないけど、多分ギルドに捕まってた連中は全員逃げれたと思う。ただ足腰弱って動けない奴も多かったから、そいつらは一旦身を隠して、動けるアタシらで情報を集めようとしたらアンタらと出くわしたってわけ。──そんで、そっちはどういう状況よ? 計画はどの段階? 何でこんなところに殿下がいるの!?」


一通り脱出の経緯を説明すると、今度は逆にどうして殿下を危険に晒しているのかとゾッドに非難の目が向く。


しかしそれに関してゾッドはカタンと同じ立場だ。レオンハルトがここに来る原因を作ったカタンに避難される謂れはないのだが、止められなかった若干の気まずさから視線を逸らしボソボソと答える。


「……計画は失敗した。殿下はお前らを救出するためにここにおいでだ」

「はぁ!?」


カタンはゾッドだけでなくマグナスら他の部下たちをぐるりと見渡し、


「ふざけてんの!? 何で殿下を止めないの! 止めなさいよ! 殿下の無茶を諫められないで何が側近よ!」

『…………』


ぐうの音も出ない。

その原因を作ったカタンに言われるのは甚だ遺憾だが、任務失敗と殿下を諫められなかったこと、彼らの中でどちらがより罪が重いかというと間違いなく後者である。


「それぐらいにしてやってくれ、カタン。私が無理を言ったのだ」

「……殿下」


割って入るレオンハルトに、カタンは『アタシは貴方に一番怒っているんですよ』と言いたげな視線を向けるが、しかし彼がそういう人間だと理解していたため何も言えず押し黙る。


「それより、ゲルルフたちを見なかったか?」

「ゲルルフ? あいつらも捕まって──いえ、他の連中のことはまだ何も」


レオンハルトはそれに関してはやむなしと即座に切り替え、ウルたちをぐるりと見渡す。


外壁の外の後続は炸裂弾で壁が崩れるリスクを考慮し一旦下がらせ合流できていないが、カタンたちの合流によりウルたちとは人数においても五分となった。


総合的な戦力ではレオンハルトがいる分、こちらが圧倒的に優位。


ただし戦いが長引き騒ぎが大きくなればエンデ側の増援があるかもしれない。


ウルたちがそうした戦況を理解していないとは思わないが──


「痛っぅ~……見て見て。ナイフが刺さって骨が見えてる」

「え? それ骨じゃないって。脂肪とかでしょ? ってか、今まで散々死にかけたことあるのに、ちょっと刃物が掠ったぐらいで騒ぎすぎ」

「いやいや、魔物にやられて死にかけるのとはまた別だって。ほら、殴られるよりドアに指挟んだ時のが痛いみたいなアレ」

「あ~……分かんなくはないけど」


ウルとレーツェルはカタンの合流を邪魔するでもなく、カタンの投げナイフに抉られたウルの右手について呑気に話していた。


他のゴロツキたちも敵の人数が増えたことで多少警戒を強めてはいるが、特に動じた様子はなく、助けを呼びに行こうともしていない。


──この余裕。何かある、と考えるべきだが……カノーネや他の特級戦力が隠れているのか? しかし、もしそうならこんなやり取りをする意味はない……狙いは時間稼ぎか。


レオンハルトはウルたちの狙いをそう推測し、素早く頭の中で今後の行動に修正を加えると部下たちに号令を下した。


「──総員、傾聴! これより目の前の一団を撃退! 同胞たちを回収した後、エンデを離脱する! スピードが勝負だ! 増援を呼ばれる前に片づけるぞ!!」

『はっ!!』


戦闘態勢をとるレオンハルトたち。更に──


「正面の子供二人は人質として確保する。何をしでかすか分からん相手だ。生け捕りにしろとは言わん。死体にして持ち運び、後で蘇生させる」


その宣言にウルとレーツェルは目を丸くして顔を見合わせる。


「あれま。もしかして子供って俺らのこと?」

「中身とっちゃんぼーやは後ろにたくさんいるけど、あれを子供とは呼ばないでしょうね」

「何で人質?」

「そりゃ会談やら何やらでちょっと目立ち過ぎたからじゃない?」

「う~ん」

「悩まれても。むしろメインはそっちで、私は巻き添えでしょ」


ふざけているように見えるが、その態度があからさまに“罠”の存在を匂わせ、レオンハルト一派の踏み込みを躊躇わせる。同時に周囲のゴロツキたちも油断なく二人をガードしていた。


「……仲間の回収だけで満足するなら見逃してあげてもよかったのに」


独り言のように呟くウルに、レオンハルトは全身に魔力を漲らせながら応じる。


「当然仲間は回収するが、この混乱の中我々が一人一人探して連れて行くのは難しそうなのでね。君たちには交換材料になってもらおう。それに、今回君たちは随分と暗躍してくれていたようじゃないか。是非とも詳しい話を聞かせてもらいたいね」


重要な場所に度々顔を出し、しかし権力の中枢に関わる存在としては明らかに不自然な少年少女。


彼らがエンデの重要な秘密を握っていることは明らかであり、上手く使えばこの状況からでも逆転の目があるかもしれない。


「皇子様の誘いとしては紳士さに欠けるなぁ」

「他の男のついでって時点で論外ね」


肩を竦める二人を無視し、レオンハルトは大きく息を吐き集中力を高める。


──罠があるなら踏みつぶすまで。流石にこの状況を最初から想定していた筈がない。


即席の罠程度、魔力でガードし吹き飛ばせば防ぐことは難しくない。


レオンハルトが先陣を切ってゴロツキたちを薙ぎ払おうと姿勢を低くした瞬間──


「というか、危機感が足りてないんじゃありません?」

「……?」


憐れむようなウルの声音にレオンハルトは眉を顰め、一瞬突撃を躊躇ってしまう。


「俺は物語の敵役でも英雄でもない。そんな奴が、どうして貴方の前で呑気にしてられると思います?」

「何を──」


「とっくに、勝負がついているからですよ」


──ザシュ


レオンハルトの背中に熱い衝撃が走り、後ろを振り返る。


「カタ、ン……?」


目に写ったのは獣人の女と、彼女が持つ血に濡れた小ぶりなナイフ。


一瞬遅れてその血が自分のものだと理解した瞬間、レオンハルトの意識は闇に落ちていった。

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