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第30話

今からやろうとしてることは大勢には影響しねぇ些事だ。だが潰しちまった方が楽だし後腐れがねぇってのは改めて言うまでもねぇ。お前さんがそこまでしてあの坊やを気に掛ける理由はなんだ?


え? 別に気にかけてるつもりはないですけど……ほら、俺、自分のエゴと人生で手一杯なんで。他人の人生や想いとか背負いたくないタイプなんです。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「う、撃てっ!! 接近される前に弓で射落とすのだ!!」


そのゴブリンは元々どこにでもいる凡庸な個体に過ぎなかった。


戦場に放り込まれて生きるために肉を鍛え、仲間を守るために刃を砥ぎ、同胞を導くために種の限界を超えただけの、どこにでもいたただのゴブリン。


かつては“ゴブリンヒーロー”などと呼ばれ、エンデの冒険者たちを恐怖のどん底に突き落とした彼も、最終的には人間の悪辣さの前に敗北した。


そこで素直に死ねていればまだ良かったのかもしれないが、何の因果か彼は生き延びてしまう。幼い同胞たちと共に邪悪な魔女に囚われて。


その後、魔女は幼い同胞たちの命を人質に、彼を神知じんちの及ばぬ迷宮深層に放り込みこき使った。


やれ『真竜の糞を掃除しろ』だの、やれ『嵐巨人ストームジャイアント炎巨人ファイアージャイアントは相性が悪いから誘導して引き離せ』だの『死霊王リッチの根城から瘴気が漏れないよう壁を修繕して──仕上げが雑! やり直せ』だのと本当にもう好き勝手。


いっそ殺してくれと毎日のように後悔しながら彼は社畜のごとく働き続け、その結果更に芸達者になり、もっと過酷な環境に放り込まれるという悪循環。


デスワームからの決死の逃避行と共に潜り抜け唯一無二の相棒となった鷲獅子グリフィンを魔女の暴虐に巻き込んでしまった時は涙が止まらなかった。


目も虚ろにいつかあの魔女をぶん殴ると自分に言い聞かせ辛うじて自我を保っていた頃──唐突に彼の飼い主が替わる。


新たな主は小柄で痩せ細った老人。

迂闊にも自分の前に姿を見せたその老人を噛み殺し自由を手にしようとした彼は、気が付いた時には地面に転がり天を仰いでいた。


手も足も出ない──ではない。勝ち目が薄いとか無いとかですらなく、そもそも勝ち負けを判定することさえ許されない隔絶した格の違い。


彼は老人に屈服し、忠実な部下となった。

あくまで実力を認めたからであって、魔女との待遇の差に感動したからではない。


ともかくそんな過酷な環境に置かれてきた彼からすれば、今眼下に広がっているそれは戦場というのも烏滸がましい穏やかな昼下がりだった。


「なっ! か、かすりもしないだと!?」


地上の人間たちから放たれた無数の矢の雨を鷲獅子の機動力で潜り抜け、その軍勢をなめるように低空飛行し羽ばたきで彼らを吹き飛ばす。


「ぐ、ぐあぁぁっ!?」


相棒と彼であれば眼下の人間どもを蹂躙するなど造作もないが、老人からは『極力殺すな』と指示されている。彼らは直接的な攻撃を加えることなく、彼らの軍勢を撫でるように風圧で引き裂き、転がして足を止めるだけに留めていた。


勿論、人間たちも無策でやられているばかりではない。


「呪文遣い! 翼だ! 翼を封じろ!!」


指揮官の指示で五名の術師が詠唱を始める。呪文詠唱はバラバラで、古代語を解しないゴブリンは詠唱内容から内容を予測することはできない。しかし彼は深層で磨き上げられた観察眼で、術師の視線や意識の流れからそれぞれの狙いを看破した。


攻撃呪文三、その他デバフ──恐らく拘束系呪文が二。


彼は攻撃呪文への対処は鷲獅子の機動に任せ、それ以外の呪文を準備する術者二名──と、指揮官に砥いだ石のナイフを投擲し、行動を阻害する。


「ぎゃぁっ!?」「ぐっ!」


遅れて放たれた炎の矢や氷の嵐は鷲獅子の羽ばたきを超えることが出来ず霧散した。


「……ギギィ」

『クケェェッ!!』


人間たちの陣形をバラバラに引き裂いたことを確認し、彼は一息つこうと相棒の首を撫でて上空へと退避する。


さて。命令通り足止めはしたが、これをどれだけ続ければいいのだろう。


続けろと言うなら半日でも続けられるが、先に相棒が飽きてしまうかもしれないし、あまり続けると結局人間たちを全滅させかねないが……



──キラッ



「ギィッ」


外壁の上で光った合図に、彼は鷲獅子の首を撫で高度を上げさせ退避行動をとる。


仕事は終わった。後は事後確認も兼ねて相棒を少し散歩させ、それからノンビリ帰還しよう。



数十秒後。エンデの外壁から放たれたダムハイトの砲撃が平原で暴れ回る魔物の群れを薙ぎ払い、帝国軍を撤退させた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「なっ──故障したのではなかったのか!?」


ダムハイトの砲撃に驚いたのは皇帝やオッペンハイム公の軍だけでなく、レオンハルトが率いる一団も同様だった。


「予備部品があったようです。全門ではないものの、一部の砲台は修復可能だと……」

「馬鹿者っ! 何故それを先に報告せんのだ!」


都市内でゴドウィンの放送を聞いていたゾッドがその疑問に答え、護衛騎士のマグナスが叱責する。


ゾッドとしては状況の変化が激しすぎてとてもそこまで意識が回らなかったのだが、ミスには違いない。素直に謝罪しようとした彼を遮ったのは主君であるレオンハルトだった。


「構わん! それより見ろ、父上と叔父上の軍の足が止まった! 今のうちに都市内に突入するぞ!!」

『──はっ!』


ダムハイトは放たれた砲門の角度に見て、外壁に接近したレオンハルトたちのポイントには届かない。


帝国軍が足止めされている今が好機と、彼らは勢いを増して魔物の群れを突き破りエンデの外壁へとたどり着いた。


「進入路は!?」

「櫓の下の囲い──崩れた箇所を修復したように偽装しています!」


ゾッドは自分たちが都市から脱出してきた抜け道へとレオンハルトたちを先導する。


「ここです!」


辿り着いた場所は確かに外壁の一部が崩れ、人一人が出入り可能なスペースがあった。


「ここは西地区に通じています。裏道を行けばギルドまではほとんど人目に付かず移動できるかと」

「よし! ゾッドとマグナスは私と共に先行しろ! 残りは小隊ごとに続け! 後続の指揮と殿はスタークが!」

『はっ!!』


ゾッド、マグナス、レオンハルトの順で隙間を潜り抜け都市内に侵入──外壁を潜り抜けた先は倉庫街のようだ。周囲に人気はない。


念のためゾッドに周囲を警戒させ、後続が追いついてくるのを待つ間、レオンハルトは頭の中でこの後の流れについて算段を巡らせる。


目的は部下たちの救出──だがその難度には濃淡が存在した。


ギルドに囚われた者たちは居場所が分かっている。迷宮の対処で手薄になったギルドから彼らを救い出すことはさほど難しくないだろう。


問題はこの戦いの中で敵の手に落ちた、あるいは負傷し動けなくなった者たち。彼らを自分たちで全て見つけ出すのは現実的ではない。


──二手に分かれるか。


ギルドへの救出とは別に、戦後部下たちと交換するための取引材料を確保する。


──ニコラウスの裏切りは既に露見しているだろうが、奴は曲がりなりにもエンデの重鎮の一人。無碍な扱いはされていまい。議員──可能なら最高評議会委員を人質として確保し、ニコラウスを通じて交換を持ち掛ける。


エンデ側から見た人質と捕虜との重要度──相手さえ間違えなければ交換は上手くいく可能性が高い。


──恐らくエンデにはまだ我々の知らない裏がある。出来ることならそれも合わせて探りたいが……いや、欲張るべきではないな。今回の一件が表向きどのように決着しようと、父上も叔父上もエンデへの警戒を緩めることはあるまい。経済面でエンデが影響力を強めれば皇家に背く地方貴族も現れるだろう。帝国の地盤が不安定になれば、巻き返す余地は必ずある。


その為にもまずは部下を救出し、求心力を維持するのだとレオンハルトは自分に言い聞かせた。


「殿下っ!」


思考に没入していたレオンハルトの意識を、ゾッドの叫びと体当たりが現実に引き戻す。


「何を──!?」


──トス、トス!!


「ぐぅっ!」


突然ゾッドに地面に引き倒され、のしかかられる。困惑するレオンハルトに答えたのは、飛来してきた矢に背を刺されたゾッドの苦悶の呻きだった。


「ゾッド!?」

「だ、大丈夫です……それより、申し訳ございません」


接近に気づけませんでした──そうゾッドが謝罪するのと同時、建物の陰からぞろぞろとローグと思しきゴロツキたちが現れる。一〇、いや二〇ほどか。


「殿下をお守りせよっ!!」


マグナスが剣を抜いて前に出る。現時点で外壁をくぐり都市内に侵入を果たした皇太子一派の戦力は一〇名強。だが相手は所詮ゴロツキ。突破は難しくない。だが──


「守るのは皇子だけでいいのかな~?」


そんなのんびりした少女の声と共に、拳大の球体がレオンハルトの頭上を越えて外壁へと飛来する。


──マズい!


その判断はただの直感だった。


レオンハルトは腰に下げていた予備の小剣をそれ目掛けて投擲──空中で見事命中した瞬間、飛来物は激しい音を立てて爆発する。


──ドォォォォンン!!


「ぐ──っ!?」


飛来物の正体が爆弾で、その狙いが外壁の外にいる部下たちとの分断、あるいは彼らを生き埋めにすることだとレオンハルトは遅れて理解する。


「……すご。何であの体勢から当てれるんだろ」

「ホントな。こりゃ人数差があっても力押しじゃ勝ち目ねぇわ」


どこか呑気な声。ゴロツキどもの中から現れたのは見覚えのある少年少女。


──確かカノーネと共に会談にも同席していた……ウルとレーツェル、だったか? ニコラウスの話ではローグギルドの代弁者でかなりエンデの中枢に食い込んでいるという話だったが……


レオンハルトは彼らの動きに警戒しながら立ち上がる。


マグナスたち部下は先ほどの爆発に驚き、またレオンハルトを守らねばという意識から迂闊に動くこともできず、相手の動きを窺っていた。


練度ではこちらが勝ろうとも敵の数は倍。しかも──


「どうも、皇太子殿下。先ほどぶりですね」

「あ。動かない方がいいですよ~? まだまだ炸裂弾はたくさんあるので~」


ウルとレーツェルが両手に炸裂弾を見せつけ、牽制している。


レオンハルトの技量であれば突破自体は難しくないが、部下には相応の犠牲が出るだろうし、爆発で外壁が崩れれば壁外の部下と分断されかねない。


レオンハルトはウルたちの意図と隙を窺うべく、笑みを取り繕って口を開いた。


「やあ。ウル君とレーツェル嬢で良かったかな?」

「おや。覚えていただけてましたか」

「はは、何度か会っているし、色々と噂も聞いているからね。それで、これは一体どういう歓迎なのかな? 我々は先ほど会談の場でも言ったように、この街で起きている問題を解決するためにやってきたつもりなんだが」


いけしゃぁしゃあと言うレオンハルトに、レーツェルが苦笑する。


「貴方が起こした問題を、この期に及んでエンデの統治権を奪うために?」

「……少し、誤解があるようだね。だが今は問題を放置すれば無辜の市民にも被害が拡大しかねない非常時だ。過去の遺恨は一旦忘れ、問題解決のために協力すべきではないかな?」


じりっとやり取りの横で彼らにとびかかる隙を窺うマグナスを、ウルが手に持った炸裂弾と視線で牽制した。


「ご心配なく。魔物の流出はゴドウィン代表の指揮の下、間もなく収まる見通しですので」

「……そのようだ。件の兵器も壊れていなかったようだし──すっかりしてやられたよ」


レオンハルトのカマかけに、ウルは肯定も否定もせず肩を竦めた。レオンハルトはその態度やトップ会談でのウルたちの振る舞いを思い返し、ゴドウィンを裏で操っていたのは彼らだと確信を持つ。


「こんな状況です。お互い詰まらない探り合いはやめて腹を割って話しませんか?」

「いいね。私も上辺だけの会話には飽き飽きしていたとろだ」


周囲から突き刺さる『どの口が?』という視線を無視して二人は続けた。


「こちらの要求は一つ。御身の命は保障しますので、大人しく捕まって下さい」

「……はは。実に簡潔だ。しかし些か簡潔すぎやしないかい? まさかそう言われて私が『イエス』と答えるとでも?」

「この状況でそちらに選択肢があると考えているわけじゃないでしょう?」

「君たちを倒して押し通るという選択肢はどうかな?」


レオンハルトの言葉にウルはワザとらしく失笑した。


「はは。高名な剣士であらせられる殿下ならそれも可能かもしれません。ですが、部下の方々はどうでしょうか?」


言われるまでもなくマグナスやゾッド含め部下たちは命を落とす可能性が高い。


またこの場を切り抜けられたとしても、エンデにいる敵は目の前の彼らだけではない。カノーネのように個としてレオンハルトより強い者もいる。増援がくればその時点でゲームセットだ。


「部下を失い、敵地に孤立して、たった一人で何かできると夢想しているわけではないでしょう? 心配しなくてもゴドウィン代表も帝国の皇太子を無碍に扱ったりはしませんよ」

「どうかな? 私は随分彼に迷惑をかけたし、恨まれているんじゃないかな」

「エンデを乗っ取ろうとしたことですか? 心配はいらないでしょう。確かにしてやられた恨みはあるでしょうが、ゴドウィン代表は根っからの商人です。交渉の余地はあると思いますよ」


レオンハルトがエンデに捕縛されれば、筋から言えば彼の身柄は帝国に引き渡されることになる。そうなればレオンハルトの将来は閉ざされる可能性が高い。


だが帝国は未だ皇帝とオッペンハイム公の争いに決着がついていない。レオンハルトの身柄を帝国に引き渡さぬよう話を持って行くことは十分可能だろうと思えた。だが──


「──その場合、私の部下たちはどうなると思うね?」

「彼らはエンデの秩序を乱した罪人です。エンデの法に基づき裁かれることになるでしょうね」

「エンデでは未だ明確な刑法が定められていないはずだか?」

「ええ。ですから処罰されるのはそうした手続きが完了した後になります」

「刑法を過去に遡及する、と? それは法秩序を歪めることになるのではないかな?」

「その是非を決めるのはエンデの市民です。少なくとも、国家の移行期間で法的根拠が喪失しているというだけの理由で彼らが罪に問われぬとすれば、それこそ秩序の崩壊を招きかねませんよ」


よく弁が立つ、とレオンハルトは唇を歪めた。


「その理屈で言えば、私も罪人ということになる筈だが?」

「そうですね。ですが先の会談を受けて帝国とエンデの間には停戦が結ばれました。帝国内での紛争処理の前例に倣えば、軍事活動に従事していた捕虜は身代金と引き換えに返還されることになるでしょう。正直、殿下が“帝国”の軍事活動に従事していると言えるかは怪しいところですが、皇族である以上、独自裁量権がないわけではありません。──まぁ、その理屈をこねれば殿下の部下も捕虜と言えなくはないでしょうが、引き渡し先は“帝国”です。どこで裁かれるかの違いしかないとは思いますね」

『…………』


ゴドウィンも皇帝も、公人としてレオンハルト個人に利用価値を見出し、助命することはあるかもしれない。だが、散々事態をかき乱したレオンハルトをそのまま許容することはありえない。最低でもレオンハルトの部下たちは斬首に処し、二度とこんな企みを巡らせられないようその手足をもごうとするはずだ。


つまり、降伏すればレオンハルトは助かるかもしれないが、部下たちは確実に死ぬ。


「……殿下」


ウルと睨み合うレオンハルトに、マグナスが横から小声でささやく。


「我らのことはお気になさらず。降伏いたしましょう」

「──っ、馬鹿な!」


顔を歪めるレオンハルトに、今度は反対側からゾッドが続ける。


「もはや勝ち目はありませぬ。抵抗したところでゴドウィンの心証を悪くするだけ。どうかこの場は屈辱に耐え、再起を」

「卿らは……」


レオンハルトが部下たちを見渡すと、彼らは全てを理解した上で穏やかな笑みを浮かべていた。


そしてそこに、ウルが決断を促すように告げる。


「別に悩む必要はないでしょう? 貴方は皇族だ。臣民の命を背負い、生きる義務がある」

『…………』


その通りだと、部下たちの目が言っている。


生きて帝国を変えることこそが部下たちの忠誠に報いることなのだと、理性が訴える。


部下を庇って命を投げ出すなど、ロマンチシズムに塗れた逃避に過ぎない──



「貴様ごときが我らを語るなよ」



──が、それがどうした。


レオンハルトは地面に突き立てていた剣を抜き、一歩前に出た。


「皇族であれば臣民の命を背負う義務があるだと? そんな当たり前のことを良く恥ずかしげもなく吠えたものだ──ああ、その通り。我ら皇族の命は民草のそれより遥かに重い」


周囲を取り囲むゴロツキどもが厳しい視線で彼を睨みつける。


「民草は愚かだ。大局を見ず、目先の利益に囚われ、どこまでいっても自分の狭い視野でしか物を考えることができない。貴族も、官僚もそれは変わらぬ。どれほど賢しげに振る舞ったところで、そこには国を背負うという覚悟も気概もない。我ら皇族以外に誰が帝国数百万の命を背負えよう」


ウルとレーツェルは感情の見えない視線でレオンハルトを覗き込んでいた。


「──だからこそ、私が彼らを背負うのだ」


レオンハルトは真っ直ぐに前を向き、宣言する。


「舐めるな小童こわっぱ! 私はこの帝国の皇太子だ! この地に住まう全ての民を守り導く義務がある! 民草の命は私の血であり肉そのもの! この身に背負った無数の命を、貴様ごときが散らせると思うな!!」


『…………』


啖呵を切ったレオンハルトを前後左右から様々な感情が籠った視線が突き刺す。


その全てに──思わず笑ってしまうような清々しさが混じっていた。


「……殿下」

「すまぬ。卿らの気遣いを無駄にした」


近づいてきたマグナスとゾッドに謝罪するが、彼らは笑いながら首を横に振る。


「……いえ」

「まぁ、奴らも殿下の命まではとらんでしょう。最後に殿下と一暴れするというのも悪くありません」


例えこの場で抵抗したところで、結論は変わらない。


レオンハルトは捕縛され、仮に死んだとしても蘇生されて交渉材料に使われる。部下たちは助からない。


結局レオンハルトの決断は何の意味もない悪あがきでしかなかったが──部下たちは皆、それを笑って受け入れた。


「…………」


部下たちの覚悟に頬を緩ませ、剣を構えるレオンハルト。


そんな彼らの姿に、ウルはゴロツキたちに指示を号令をかけるべく右手を掲げ──


「そっすか。そんじゃ、面倒だけど仕方ありませんね。や──」


──ヒュン!


どこからともなく飛来したナイフが、その右手を貫いた。

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