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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第六章

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第24話

「ど、どういうことだっ!? 何が起こった!?」

『あ……は……いや、その……え?』


レオンハルトが水鏡の向こうの部下に問いかけるが、しかし問われた方も得ている情報はレオンハルトと変わりがない。




──さいきょうへいき「だむはいと」をはっしゃしようとしたら、ぜんぶけむりをふいてこわれてしまいました。




もう何というか「困ったねぇ」としか言いようがないし、何がどうしてそうなったのかも分からない。


整備不良? 耐久限界?


いやいや、流石に都市防衛の要の整備を疎かにすることはあり得ないし、そもそも完成してまだそれほど日にちも経っていないのだ。耐久性もお抱えの技術者たちが公開された設計図で確認し、少なくとも十発や二十発程度は連射しても問題ないことは太鼓判を押している。


それが十二門全て、同時に、故障した?


その結果にレオンハルトやエンデの人間は勿論、ダムハイトを忌々しく思っていた皇帝派、オッペンハイム公派の人間さえ理解が及ばず絶句する。


「おいっ!! どうなっている!? 答えろっ!!!」

『そう、言われましても……』


その場にいた人間が固まっている中、レオンハルトだけが状況を確認しようと騒ぎたてるが、空回りしていることは誰の目にも明らかだ。


配下を問い詰めていても埒が明かないと判断したレオンハルトは、製作者であるカノーネ──厳密には違う──を睨みつけた。


「どういうことだ、カノーネ!? あれは──」

「何? 私が欠陥兵器を作ったとでも言いたいの?」


静かな怒気を漲らせたカノーネの表情と声音に、レオンハルトは思わず怯み勢いが萎む。


「い、いや……そうではないが、何故あのようなことに……?」

「さぁ? 少なくとも兵器自体の構造はシンプルだから多少衝撃を加えたぐらいで故障することはないだろうし、操作ミスったからって爆発なんてしない。あり得るとすれば誰かが意図的に妨害したとかじゃない?」


カノーネはどこか投げやりな態度で吐き捨てる。


「妨害!? 一体誰がそんなことをすると──」

「あのさ」


追及を止めないレオンハルトの言葉を短く遮り、カノーネは目を細め片眉を吊り上げながら続けた。


「人が苦労して組み立てた物を力づくで奪って、壊して使い物にならなくしたあんたが、一体どの立場で私を詰問してるのかしら? 百歩譲って代表のゴドウィンやエンデの人間に言われるならまだしもさぁ」

「い、いやしかし……兵器はエンデの運用担当者によって適切に使用されたのだ。この状況で故障したなら設計や製造段階で何か問題があったとしか──」

「はっ。もしそうならデモ運転の段階で分かりやすい不具合が起きてるわよ。二発目以降で全門同時に壊れるなんてどんな確率だっての」


確かに、そう言われればカノーネの言葉には筋が通っているように思う。仮に不具合があっても、それが偶然全門同時に表に出る可能性は極めて低い。だが妨害といっても一体誰がそんなことをする必要があると──


「──原因追及は後回しにした方がいいんじゃないですか?」


困惑するレオンハルトを宥めるように口を挟んだのは、カノーネの横に立つウルだった。


「壊れた原因なんて分解して詳しく調べてみなきゃわかりませんよ。妨害云々にしたって、ついさっきまで外壁じゃダムハイトを巡って戦闘が起きてたわけでしょ? その最中に実は攻め手がダムハイトの近くに忍び込んで細工をしてたとか、逆に守り切れないかもしれないと思った側が敵に使われるぐらいならって何かしたとか、可能性を言い出せばきりがないじゃないですか」

「それは……」


言葉に詰まるレオンハルトの背後で、皇帝やオッペンハイム公、ゴドウィンら他の面々も顔を見合わせる。


当初外壁を攻めていたのはレオンハルトの配下に扇動された皇帝派、オッペンハイム公派の工作員で、その目的はダムハイトを無力化し外の軍を引き込むことだったのだから、彼らが何か細工をしたという可能性は確かに否定できない。


また外壁の攻防戦ではエンデ側にも相当な被害が出ており、危機を感じたエンデ側の兵士が、保険や嫌がらせ目的でダムハイトに細工をし、そのまま命を落とした可能性もありうるだろう。


「何にせよ、現実問題ダムハイトはもう使えないんです。大切なのは、今ここからどうやってエンデの治安を取り戻し迷宮の機能を回復させるかじゃありませんか?」

『…………』


それは確かにその通りだ。エンデの住人であるウルが落ち着いてそれを口にすることに違和感はあるが、ダムハイトが何故壊れたか議論することはただの現実逃避に他なるまい。


そしてダムハイトによる力技での問題解決が困難となった以上、取れる手段は限られていた。


「兄上」

「……うむ。やむを得まいな」


オッペンハイム公に話しかけられ、皇帝が憂鬱そうに頷く。


その意図を察してレオンハルトが慌てた様子で口を挟んだ。


「お、お待ちください! まだ私は失敗したわけではありません! 今すぐ部下を率いてエンデに転移し──」

「行きたければとっとと行け」


皇帝はこれまで見せたことがない冷たい眼差しと声音で告げる。初めて見る父の姿に愕然とするレオンハルトに、皇帝は淡々と続けた。


「こうなっては犠牲を前提に地竜を引きつけ、街中から魔物を排除し、迷宮に秩序を取り戻す以外に打つ手はない。貴様の僅かな手勢でそれができると思うならやってみよ。あの兵器を失うという失態を犯した貴様にどれだけの人間が従うかは知らんが、我らの手勢の犠牲を最小限に留めるためにも精々奮闘させるがよいわ」

「だが我らもこれ以上貴様に機会を与えてやる理由はない。貴様がどう動こうが、我らは共同でエンデに軍を進めるぞ」

「────っ」


ダムハイトは良くも悪くもエンデ独立の根幹であり、エンデの住民だけでなくレオンハルトの一派にとっても自治を認めさせるために欠くべからざるものだった。それが失われた以上、皇帝とオッペンハイム公の軍の侵攻を止めることはできない。


無論、皇帝とオッペンハイム公も本音を言えば地竜が暴れている都市に軍を向かわせすり潰したくなどないが、状況はあまり猶予がない。それぞれ一個大隊の精鋭が地竜相手にどこまで生き残れるか、あるいは意味を成すのか。


しかし皇帝とオッペンハイム公が部下たちに具体的な指示を飛ばそうとしたタイミングで、更に状況は一変する。



──ズズズズズズズズズ……!



「ぬ……?」

「地震……いや」


皇帝とオッペンハイム公が動きを止め、訝し気に顔を見合わせる。


ただの自然地震にしては些かタイミングが気味悪く、また強さの異なる複数の振動がぶつかり合っているような無秩序さがあった。


皇帝とオッペンハイム公それぞれの視線を受けた宰相とヒルデスハイム伯がその意を汲み取り、それぞれ部下に指示を下す。


「各地に通信を飛ばし、今の地震の震源と被害状況を確認せよ!」

「都市だけでなく、各地に展開している軍にも確認を取れ。大至急だ」


バタバタと帝国側の官僚たち動き出し、レオンハルトもそれに遅れまいと護衛騎士に叫んだ。


「──っ、スターク! 転移呪文の準備は済んでいるな!?」

「は……し、しかし、この状況ではエンデに跳んでも……」

「だからこそだっ!! まだ我らは終わったわけではない!! 何より、この状況で投げ出すことなど許されよう筈がない!!」

『────』


護衛騎士たちがレオンハルトの怒声に背筋を伸ばし、目に光が戻る。


「準備ができた者だけでよいっ!! 一刻も早くエンデに向かい士気を立て直すぞ!!!」

『はっ!』


しかしゴドウィンたちからは、散々かき回し台無しにしておいて何を今さらと白けた視線が向けられる。


このような状況だ。遺恨を忘れてエンデと帝国のためにエンデ側の人間も協力して動くべきではあったのだろうが、計画が破綻した脱力感とレオンハルトらへの忌々しさでとてもそんな気になれない。


レオンハルトが一瞬、何かを期待するような視線を向けてきた時、ゴドウィンがどんな表情を浮かべていたのか──レオンハルトはすぐに俯き目を逸らしていた。


問題解決のため動き出した帝国と、置き去りにされその場に立ち尽くすエンデの使節団。


この時、これまで別行動をとっていたフルウがどこからともなく現れウルたちに耳打ちしていたが、そのことを気に留める者はいなかった。


そして準備を整えたレオンハルトたちが会談場所を離れ、転移陣が張られた場所に移動しようとしたタイミングで一人の兵士が泡をふいて会場に飛び込んできた。


「──大変です!! 直轄領内の迷宮が少なくとも三か所崩壊! うち一か所からは竜種の地上進出が確認されています!」

『────!!?』


エンデだけでも手を焼いているのに、皇帝直轄領──つまり帝都近辺で更に迷宮が三か所崩壊?


予想外の凶報にその場にいた者たちが耳を疑う。


「馬鹿な!! 迷宮に問題が起きているのはエンデだ! 貴様一体何を勘違いしている! そのような報告何かの間違いに決まっている!!」


宰相の言葉はその場にいたほとんどの者の心境を代弁するものだったが、オッペンハイム公の腹心であるヒルデスハイム伯が、自身も部下からの報告を受け冷静な──少なくとも冷静に聞こえる声音でそれを否定した。


「──いや。間違いではないようだ」

「何をっ!?」

「こちらにも同様の報告が入っている。そちらの支配地域とは別に二か所。いずれもここからそう離れていない地域だ」

「────」


異なるルートから同様の報告が上がってきた以上、間違いである可能性は限りなく低い。


「もっと言えば、これらはあくまで現時点で確認できている地域に限られる。実際の崩壊箇所は今後もっと増えると考えるべきだろうな」


ヒルデスハイム伯の指摘は正しい。正しいが、それを冷静に受け止められる者は多くない。


宰相は冗談であってくれと言うようにかぶりを横に振りながら呻く。


「馬鹿な……何故そのようなことが……!?」


その疑問がウルやカノーネたちに向く前に、ヒルデスハイム伯が淡々と意見を口にする。


「元々我々は迷宮という古代遺物を完全には理解できていないのだ。全ての迷宮が契約という形で繋がっている以上、エンデの大迷宮で起きたトラブルが他の迷宮に影響を及ぼした可能性は否定できまい」

「…………」


ヒルデスハイム伯は押し黙った宰相から視線を外し、皇帝とオッペンハイム公の方へと向き直る。


「いずれにせよ、今は原因を追究している場合ではありますまい。このままではエンデと同様に帝都──いや、最悪の場合は帝国全土が迷宮から溢れ出た魔物によって蹂躙されかねませんぞ」

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