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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第六章

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第23話

『応答しろっ!! 通信機器は生きているなっ!?』

「──は……はいっ!」


水鏡の向こうから聞こえてきたレオンハルトの叫びに、エンデ政庁を占拠している配下が我に返り応答する。


彼らは建物に頭を突っ込んできた地竜に腰を抜かし、一部の者は舌でじゃれつかれ意識を失っていたものの、全員の身動きが取れないわけではなかった。


『ならば外壁の部隊に指示を出し、件の兵器でその竜種と地上に開いた穴を撃て!』

「は──……は?」


不敬であるとは理解していたが、覆面の男はレオンハルトの指示の意味が理解できずつい問い返してしまう。


水鏡越しに聞こえてくるレオンハルトの声は苛立ちを隠そうともせず、語気を強めて言った。


『その兵器は元々エンデがこうした最悪の事態に備え、迷宮を力づくで塞ぐために開発した物だ! 地上に迷い出た亜竜ごと迷宮の穴を撃ち砕き、蓋をせよ!!』

「────」


覆面の男はレオンハルトの言葉の意味を理解するのに数秒の時間を要し、その後思考力が回復すると『そんなことをして大丈夫なのか?』と当然の疑念が生じる。


しかしそれを口にするより早く、叩きつけられたレオンハルトの言葉が彼の身体を動かした。


『動け! 責任は指示を出した私にある!! 貴様は別働隊に今の指示を伝えた後、捕虜を連れて一刻も早く安全な場所に退避せよ!!』

「は、はっ!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


水鏡越しに配下への通信を終えたレオンハルトは続けざま傍に控えていた護衛騎士に指示を出した。


「スターク、いつでも現地に向かえるよう転移呪文の使える術師に準備をさせろ! マグナスは部隊編成だ! 治療師一名、護衛三名の四人部隊フォーマンセルを可能な限り作らせておけ!」

『はっ!!』


護衛騎士たちが陣の外へと駆けだし、初動の指示を出し終えたレオンハルトは落ち着きを取り戻した──あるいは取り繕った表情で皇帝とオッペンハイム公に向き直る。


「……お見苦しいところをお見せしました。些かトラブルは起きておりますが、これに関しては私が責任を持って対処させていただきます。準備が整い次第私も現地に入り直接指揮を執らせていただくことになりましょう。話し合いの途中で中座させていただく無礼を、先にお詫び申し上げます」


優雅に一礼したレオンハルトに顔を見合わせる皇帝とオッペンハイム公。


代表して口を開いたのはオッペンハイム公だ。


「……それは構わぬが、大丈夫なのか?」

「勿論です。現地の人間もこの非常時に協力を惜しむほど愚かではありますまい。少なくとも現場の人間は、今回の独立騒動について罪に問わぬことを約束してやれば素直にこちらの指示に従うでしょう」


叛徒への寛恕は皇帝の専決事項だが、今の口ぶりではゴドウィンたち叛乱の首謀者は含まれていないようだったので、敢えてオッペンハイム公は揚げ足を取ろうとはしなかった。


そもそも問題はそこではない。


「そうではなく、あの兵器を都市の内側に放って大丈夫なのか? 勿論、ある程度威力の調整は可能なのだろうが、それにしてもたった今、騒動により迷宮に不具合が起きたばかりなのだぞ。この上、更に衝撃を加えては致命的な崩壊を招く恐れがあるのではないか?」


それはその場にいたほとんどの人間が抱いていた不安だった。


確かにあれだけの威力の攻撃であれば竜種にも──亜竜程度なら致命傷を与え、迷宮に開いた穴を塞ぐことができるのかもしれない。


だが人が起こしたちょっとした騒動でこのような不具合が起きているこの状況。この上そんな衝撃を加えては、今度こそ迷宮が完全に崩壊してしまうのではないか?


「ご安心ください」


しかしレオンハルトは自信たっぷりに胸を叩く。それが心からのものなのかハッタリなのか、オッペンハイム公には判断がつかなかった。


「迷宮の構造体はその内部に棲みついた魔物の魔力によって維持されており、数百を超える竜種が棲みつく大迷宮の強度は例え神であろうと破壊することはかないません。恐らく今起きている障害は偶々迷宮の基幹部に近い場所で騒動が起きた結果でしょう。あの兵器を最大威力で放っても迷宮の外殻が一割削れるかどうか。上層部に軽い振動が伝わる程度です──そう、試算済みだろう、カノーネ?」

『────』


いきなりレオンハルトに話を振られたカノーネに、その場にいた者たちの視線が一斉に集まる。


ゴドウィンやワルターたちエンデサイドの一部の者は『聞いてないぞ!』『また隠れて何か企んでいたのか!?』と目を血走らせて彼女を睨みつけ、またその中にはカノーネがエンデを裏切りレオンハルトと通じていたのではとの疑念も僅かながら混じっていた。


カノーネは心底迷惑そうに顔を歪めるが、しかしこれだけ注目が集まっては黙っている訳にもいかず、渋々といった態度で口を開く。


「……確かに、万一の場合にはそういう使い方もあり得るかもって、シミュレーションで安全性は確かめてるわ──ただ、評議会にも具体的な話は上げてないのに、どうして貴方がそれを把握してるのかしら?」


カノーネの問いにレオンハルトは唇を吊り上げ何も答えず、オッペンハイム公と皇帝に視線をやり表情だけで『そういうことです』と自信を見せた。


『…………』


皇帝とオッペンハイム公は顔を見合わせ、レオンハルトの言葉をどう評価すべきか脳内で算盤を弾いた。


やや怪しい点はあるが、レオンハルトと元賢者の塔の部門長であったカノーネの言葉には一応の筋が通っている。テロでダムハイトが奪われた場合など事前にあらゆる可能性を想定するのは当然のことだし、迷宮に致命的な損傷を与えるものではない、という部分には信憑性があると考えてよいだろう。ただそれも絶対に正しいという保障があるわけではない。


逆に僅かなりともリスクを冒すべきではない、と判断するとして、その場合どのような選択肢があるのか?


エンデの近くに潜ませている軍を侵攻させ対処に当たらせるというのが正着であろうが、竜種が地上に出てきている現状で人間の軍が役に立つかどうか。ただ兵を損なうだけならまだマシで、現地の人間と衝突して混乱を拡大させるだけとなる可能性もあった。いや、そもそも竜種が出没している場所に突入しろと指示されて、部隊がその通り動けるかどうかすら怪しい。


ゴドウィンたちエンデの人間に全てを託すという選択肢もないではないが、レオンハルトに指揮系統をズタズタにされた今の彼らに何ができるかは更に怪しいところだ。皇帝もオッペンハイム公もゴドウィンたちの能力をそれほど高く見ている訳ではない。


またあまり手をこまねいていては事態が更に悪化する可能性もあった。


となると、これといって有効な手段が見えない以上、多少のリスクには目を瞑って一先ずレオンハルトに任せるというというのが一番現実的に思える。彼が失敗したら改めて両者協調してエンデに軍を進める他あるまい。


それは裏を返せばこのレオンハルトの失態に対し挽回のチャンスを与えるということでもあったが──


『────』


二人は無言で頷き合い、それを許容する。


「よかろう。この件を無事に収めることに成功すれば、我は貴様がエンデの統治者となることを黙認する。兄上もそれで宜しいな?」

「うむ。ただし失敗すれば──分かっておるな?」

「はい」


皇族間で勝手にエンデの処遇が決められてしまうが、ゴドウィンたちはそれに口を挟むこともできない──いや。


「──失礼ながら、有事に付き発言のご許可を」


ウルが挙手して発言の許可を求める。


皇族に対して些か礼を失した振る舞いではあったが、先ほど皇帝から話を振られた流れを踏まえれば咎めるかどうかは微妙なラインだ。宰相や周囲の貴族が判断に迷っている間に、皇帝が先に口を開いた。


「許す。申してみよ」

「ありがとうございます」


ウルは軽く一礼し、レオンハルトに感情の見えない視線を向けて続けた。


「この問題は対処を誤れば大陸全土を危機に晒しかねない一大事。問題解決にあたってはあらゆるしがらみを捨て考え得る最上の選択肢を採るべきと考えますが、その実行部隊となるエンデの住民からすれば皇太子殿下は侵略者であり部外者です。殿下がいかなる手段を用いてエンデの機密情報を入手したのかは存じ上げませんが、住民の指揮やダムハイトの運用に関して、ゴドウィン代表より適任とは思えません」

「不要な心配だ」


その言葉をレオンハルトは鼻で嗤った。


「既にエンデ政庁と正規兵は掌握済だ。件の兵器の運用担当者含めて、寛恕と引き換えに私に忠誠を誓う旨を宣言している。彼らも影響力を失ったゴドウィンの指揮で今後に不安を抱えながら動くより、私の下で功を上げる方が働き甲斐があろう」

「この短時間に……ですか?」


自信たっぷりに言うレオンハルトにウルは目を丸くする。この短時間、しかも遠隔地の掌握にレオンハルトが自信を持っていることにウルは素直に驚くが、ゴドウィンやワルターは政治家の中にレオンハルトの内通者がいたことを察し、表情に怒りを浮かべた。


レオンハルトはそれ以上語るに及ばずと彼らから視線を外し、水鏡の向こうの配下に語り掛ける。


「手筈はどうだ?」


水鏡に映る景色はいつの間にか一変していた。既に政庁を脱出し別の建物──恐らく衛兵の詰め所──の屋上に移動したらしい。


『少々、お待ちを』


覆面の男は息を切らしながら通信機器を持った別の男に小声で確認を取り、更にその男が通信機器でやり取りを行う。そんな時間が二、三分ほど続き、やがて覆面の男から返答が返ってきた。


『件の兵器の発射準備と目標への照準が完了いたしました』

「うむ。避難状況はどうなっている?」

『竜がとりついた政庁に関しては避難できる者は避難しております。周辺の住民も竜を見て避難しているとは思いますが……』


それはつまり、地竜にじゃれつかれていた人間など一部の者は囮としてそのまま残してきたということだろうが、レオンハルトはそれについては追及せずやむを得ない犠牲と黙認した。


『……魔物が溢れ出した穴については、現在冒険者たちが食い止めている状況でとても避難などできる状況ではありません』

「…………」


レオンハルトはしばし瞑目した後、カッと目を開けて命令を下した。


「──よし。まずは地竜目掛けてダムハイトを発射! 地竜に十分な損傷を与えたことを確認した後、穴周辺で防衛にあたっている冒険者に退避を指示! しかる後にダムハイトで穴を打ち砕け! いくらか魔物が防衛線を抜けることとなろうが、まずは根本を絶つことを最優先とする!!」

『はっ!!』


レオンハルトの指示に従い、覆面の男たちが動き出す。


こちら側では皇帝やオッペンハイム公、ゴドウィン、その他貴族、官僚たちがレオンハルトとその部下たちの一挙手一投足を固唾をのんで見守っていた。



何故かウルたち四人は水鏡から視線を外し明後日の方向を向いていたが、そのことに気づく者はいなかった。



そして全ての準備が完了し、水鏡の向こうから声がかかる。


『殿下! 準備、完了しました!』


レオンハルトは大きく息を吸い、覇気に溢れた声音で最後の指示を下した。


「よし──撃てっ!!」

『はっ! ダムハイト、発射!!』


水鏡の向こうで指示が複唱され、水鏡の端に映る外壁の上──ダムハイトの砲身に魔力の光が宿る。そして十二門の砲身に魔力光が最大限に満ちた瞬間──



──ボスンッ!!!



『……………………は?』


間の抜けた音と煙を上げて、ダムハイトの砲身が一斉に弾けた。

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