第14話
「…………出来た」
ウルは眼前に鎮座する鋼の獣を見下ろし、緊張と疲労で震える声を溜息と共に吐き出す。
自宅の作業場の中央に陣取る獣の姿をためつすがめつし、作業漏れやおかしな点がないか最終確認。その後、床に膝をついて両手を獣の頭部に当て、最後の工程を実行する。
「【起動──認証開始。疑似思考回路、接続。拒絶反応確認、異常無し。動力回路起動、異常無し。感覚器起動、異常無し。自己修復機能の作動確認。現状を初期状態として設定……保存完了。全確認工程完了──定義開始】」
『────』
魔導技師独特の詠唱により、鋼の獣に魔力という名の血が通う。製作者であるウルに命を吹き込まれた獣は、声もなく、音もなく、静かにその四肢で立ち上がった。
ウルは立ち上がり、獣から一歩後ろに下がり距離を取ると、端的に命令を下す。
「【歩け】」
『────』
実際には言葉に出す必要はなく、慣れない操作者の思考を補助するためのもの。鋼の獣はウルの思考に反応してゆっくりと歩き出す。関節部が固くややぎこちない雰囲気はあるが、引っかかりや軋みもなく順調な動作でウルの周りを一周。
「【止まれ】」
『────』
元いた位置に戻り、ピタリと制止。
「【座れ】」
『────』
そして『伏せ』をするように身を縮め、待機状態に移行する。
ウルは改めて鋼の獣を様子を確認して不具合がないこと、そして自分自身の体調に異変がないかを確認し──深く、長く息を吐き出す。
「~~~~っ、完成だぁ!!!」
そして感極まったように天に両の手を突き上げ、そのまま満面の笑みを浮かべ作業場の床に仰向けになった。
ウルが今行っていたのは鋼の守護者『ガーディアン』の最終起動試験。
ガーディアンとは魔導技師のみが製作することが出来る自律機動可能な鋼の人形のこと。その形態は多種多彩で、人型二足歩行、獣型四足歩行、昆虫のような多足型から蛇のような足のないタイプまで、そのサイズや素材まで加味すれば魔導技師ごと一つとして同じ物は存在しない。
鋼の人形ということで、魔術師系の呪文遣いが製作するゴーレムと混同する者が多いが、製作者と完全に独立したゴーレムと異なり、魔導技師と疑似回路で直接繋がったガーディアンは、どちらかと言えば鋼の使い魔といった方が表現としては適切だろう。
ゴーレムと明確に異なるのは、魔法生物の脳に当たるコアを魔導技師の脳内に構築した疑似回路で代用しているため低レベルでも作成可能であり、一人につき一体しか起動できない点。
また低レベルの魔導技師が作成したガーディアンは出力・機能共にそれなりでしかないが、魔導技師の成長に合わせバージョンアップしていくことで、同レベル帯の魔術師が製作したゴーレム以上の機能を持ち得る。
非常に便利なガーディアンではあるが、元々は戦争用の兵器であり壁役。軍属の魔導技師にとっては必須と呼べる存在だが、低レベル帯だとできることも少なく、在野の一般的な魔導技師には意外に不人気で製作を後回しにされることが多かったりもする。
実際、今回ウルも作ってみて実感したが、そこそこ材料費がかかる──平均して金貨一〇〇枚前後──ため、財力に乏しい低レベル帯の魔導技師には負担が大きいし、財力が十分にある者の場合は奴隷や人を雇った方が手っ取り早い。逆に一流の魔導技師になると非戦闘用のガーディアンをペット感覚で使役している者が多いのだとか。
そんな戦闘用使い魔とも呼べるガーディアン。今回ウルが製作したのは四足歩行型の比較的スタンダードなタイプだった。
その見た目を一言で表すならば、額に一本ヅノを生やした鋼の犬。サイズは大型犬並で、小柄な人間一人ぐらいなら背に載せることも可能だ。四足歩行型を選んだのは、二足歩行型は道具の使用が可能だが歩行動作に多くのリソースを割かねばならず低レベル帯では中途半端な面が目立ったため。シンプルな四足歩行型にしたことで、ウルのガーディアンはカタログスペック上、ウルを背負って時速四〇キロメートルオーバーで駆けることができるパワーとスピードを確保していた。
……まあ、いざという時の逃げ足にリソースを偏らせた結果、それ以外の動作ががたつき、メインの攻撃手段であった「噛みつき」が上手くできなくなってしまうことに。代わりに「体当たり」の威力を高めるため額に一本ヅノをくっつけるハメになったのは何とも不格好だが、ガーディアンの本領は攻撃役ではなく壁役なので、選択としては間違っていないはずだ。
素材の準備含め、製作期間一週間。製作費はバイト先のコネを使って金貨七五枚に抑えた。
ウルの盾であり守護者たる鋼の獣がここに完成の日の目を見た。
「──あぁ。完成したっつーか……完成しちまったなぁ……」
手持ちのリソースの大半を注ぎ込んでガーディアンを作ったこと、作ってしまったことに、ウルは内心『もう後には引けないぞ』と慄きに似た震えを感じていた。
ガーディアンは戦いの道具である。冒険者として迷宮に潜り、魔物と戦うのでもない限り、今このタイミングでガーディアンを作る意味は薄い。
だがウルには今、自らリスクを負って迷宮に潜らずとも、他の冒険者がとってきた素材を加工して日々の糧を得、魔導技師として経験を積むという道が開かれつつあった。今のところ顧客候補は少なく、必ずしも成功する保証はないが、上手くいかなくても最低限バイトで食いつなげるし、上手くいけば自ら冒険者として活動するより安全で効率的に腕を磨くことができる、はずだ。
冷静に考えて、今リソースを注ぎ込んで冒険者として活動するための準備を整えるメリットはほとんどなく、何なら本格的に冒険者やりたいなら先に仲間を見つけろと自分で自分にツッコみたくなるぐらい。
だが、先日レーツェルに『自分のために魔道具を作ってほしい』と言われた時、思ってしまったのだ。
自分は何も選べていない。
彼女の申し出を今受け入れることは、それが自分にとって冒険者になるより良い選択だからではなく、単に冒険者として脱落した──いや、なることさえできなかった結果の逃避でしかない、と。
故に、これはただの意地であり馬鹿なプライドだと、ウルは自分の動機を自覚していた。
──俺はこの迷宮都市に、冒険者になって金を稼ぐためにきた。
いや、『冒険者になって金を稼ぐこと』は目的ではなく手段であり、本来の目的は魔導技師として腕を磨くこと。目的と手段が混同していることは理解した上で、ウルは選びたいのだ。
冒険者になりたいのではなく、一度決めた道から引き返すのだとしても、そこに瑕を残したくない。
この街でレーツェルたち冒険者と付き合っていくために、そんな劣等感や引け目を残したままでいたくなかった。
──冒険者を諦めたわけじゃないってことを証明する。これはそのための挑戦だ。
……などと胸中では勇ましいことを考えているウルだが、真っ先に自分の身を守るガーディアンを選んだあたり、初めての迷宮挑戦で浅層も浅層の第三層で、大蝙蝠相手に死にかけた経験はしっかりトラウマになっていて。意識してのことかどうか、どうやったら安全に、しかも逃げることができるかを優先した備えだ。
ついでに言うなら、仲間を探すことをしていないところなんかは、やはり他の冒険者に断られまくったことが影響して、最初から諦め気味というかまた断られるのが嫌で、ソロでもどうにかならないかな~、なんて逃げ越しで甘いことを考えている。
つまるところ、彼は何となく悔しくて意地になって、しかも手元にどうにかならなくもない資金があったので暴走しているだけ。
『これはそのための挑戦だ』なんて浸ってるところなんて、後から思い返したら悶絶必死の黒歴史なわけなのだが、ツッコミ不在の状況で、ウルが正気に戻るのはまだまだ先のことになりそうだった。
犬ジイ「金は大事に使えよ」
ウル 「 (。´・ω・)ん?」
【今回の収支】
<収入>
銀貨11枚
・バイト代(一日分)
<支出>
・金貨75枚 銀貨21枚
・生活費(一週間分) 銀貨21枚
・ガーディアン製作費 金貨75枚
<収支>
▲金貨75枚 ▲銀貨10枚
<所持金>
(初期)白金貨10枚 金貨3枚 銀貨11枚 銅貨20枚
(最終)白金貨 2枚 金貨8枚 銀貨 2枚 銅貨10枚




