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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第六章

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第4話

「俺は席をはずそうか?」

「いえいえ。出来ればフーさんも一緒に話を聞いてくださいな」


エックハルト委員を帰した後、そのままギルドの応接室に残って話があると言い出したレーツェル。フルウは恩師である犬ジイの孫に気を遣ってそう言うが、レーツェルはフルウにも話を聞いて欲しい様子だった。


「で、何だよ? 委員の話に関係することか?」

「う~ん……それはどうか分からないけど、ちょっと爺ちゃんから相談を受けててね。今の話を聞いて少し気になることがあったのよ」

『犬ジイ(御大)からの相談~?』


レーツェルの口から飛び出した言葉にウルとフルウは同時に顔を顰め、心底嫌そうに呻いた。


「ちょっと~。何よその反応は?」

「いや……だって、ねぇ?」

「ああ。御大がわざわざ相談って……なぁ?」


半眼で睨むレーツェルに、ウルとフルウは顔を見合わせ曖昧に弁解した。


レーツェルもそれ以上ツッコむことはせず、苦笑して「まぁ、気持ちは分かる」と言いたげに頷く。


「爺ちゃんも身体は一つしかないんだし、そりゃ手が回らなけりゃ人に相談ぐらいするでしょ」

「……まぁ、理屈の上ではそうなんだが」

「それにしたって改まって“相談”って言われると、ちょっとな」


エックハルトから話を聞くとき以上に身構えている二人に、レーツェルはこれ以上前置きを入れるのは逆効果だな、とズバッと本題に切り込んだ。


「で、その相談内容なんだけど──」

「おい! まだ話を聞くとは言ってねぇぞ!?」

「止めとけウル。こいつはきっと、聞かなかったら聞かなかったで後で後悔するヤツだ」

「うう……っ!」


年長者らしく幾分悟ったことを言うフルウに肩を叩かれ、ウルは渋い顔で項垂れる。


レーツェルはそんな男二人のやり取りを無視して話を続けた。


「前々から分かってたことだけど、都市内にもかなりの数、密偵や工作員が入り込んでるみたいでね。爺ちゃんが迷宮基幹部の警護をしながらローグギルドやスラムの手下と連携してそいつらの対処をしてるって話は前もしたよね?」

「ああ。この状況で犬ジイが迷宮から目を離すわけにもいかんし、どうしたって対処が後手後手に回って困ってるっつー話だろ?」


今ウルたちが最も恐れているのは迷宮基幹部で何かしでかす人間が現れることだ。それは悪意を持った外部の工作員に限らず、好奇心に駆られた研究者から迂闊なギルド関係者まで、様々なパターンが想定された。


これまでは迷宮基幹部には認証を受けた特別な人間しか立ち入りを許されなかったが、現在はシステムの解析のため人の出入りが増えセキュリティが甘くなっている。


その為、現在犬ジイは迷宮基幹部から離れることが出来ず、都市の防諜役としての役割はある程度人任せにせざるを得なくなっていた。


「まぁ密偵や工作員の疑いがある奴はどんどん捕まえてきゃいいんじゃね? こんなご時世だし、多少強引な手段も止む無しだろ」

「いや、そいつは悪手だな」


とにかく今は都市の守りを固めるのが最優先と強硬な発言をするウルを、フルウがさらりと窘める。


「そいつらが実際にクロだとしても、確実な証拠なんざそうそう見つかるもんじゃない。横の繋がりでそいつらを一網打尽にできれば話は別だが、そうじゃなけりゃ警戒されて余計やり辛くなるだけだ。この手の連中は大抵、何班かに分かれてて他の班の情報は一切持ってないってのがセオリーだしな」

「ふむん……逮捕は官憲にさせて、そっちに注意を向けさせるってのは?」

「余計にマズい」


要はローグギルドや犬ジイの手下から注意を逸らしつつ動ければいいのでは、というウルの提案を、フルウは一も二もなく却下した。


「この状況で官憲が明確な証拠もなしに逮捕なんかしたら、独立反対勢力を弾圧するための不当逮捕だ魔女狩りだのと騒ぎ出す奴らが現れるぞ。工作員は勿論だが、実際都市内には不満を溜めてる奴らも少なからずいる。地元に家族を残してエンデに出稼ぎに来てる連中なんてのは特にな」

「……むぅ」


フルウの指摘はもっともだった。


色々と事情はあったし、必要なことではあったと思うが、自分が強引な手段でエンデを独立させたことを恨んでいる人間もいるという当たり前の事実を突きつけられウルは呻き声を押し殺した。


そんなウルの反応を見て見ぬふりしてフルウは更に続けた。


「それに逮捕するとしても、その法的根拠は何だ? 元々帝国では法の執行権は貴族にある。エンデの執行権はあくまで皇帝から委任を受けてのものだろう。共和国として独立した今、そのあたりはどうなってる?」

「それは……今は帝国時代の法を準用するって形になるんじゃ」

「それを議会で正式に議決したのか? 市民に公布したか?」

「それは──……」


共和国の法体制の不備を指摘され、ウルは言葉に詰まる。


そう言えば最高評議会でホーウッド法務委員がその辺りのことを言っていたが、結局今そこに時間を割く余裕はないと棚上げされていた気がする。


「屁理屈だと言えばその通りだが、扇動された市民が暴動でも起こしたら元も子もない。市民感情を考えれば今は公権力の行使は極力控えるべきだろうな」

「……なるほど」


少し暗くなった場の空気を切り替えるように、フルウはレーツェルに話を戻した。


「それで? 御大からの相談事ってのは何なんだ?」

「──ああ、はい。爺ちゃんは要人周りの警護をメインに、一般人に偽装した連中は可能な範囲で監視していくって方針で動いてるんですけど、どうも冒険者の中にも工作員が紛れ込んでるんじゃないかって話でして」

「冒険者に?」


フルウは疑わし気に問い返す。


「迷宮で活動するのはリスクが高いし目立つだろ。登録時の身元確認もあるし、あまり賢い選択とも思えんが……まぁ迷宮探索経験のある工作員ってのも、いなくはない、のか?」

「もちろん一組や二組、怪しいパーティーがいるぐらいなら爺ちゃんたちも気にしなかったでしょうけど、どうも結構な数が紛れてるっぽいんですよね」

「……その根拠は?」

「爺ちゃんの手下がマークしてる工作員と思しき人間と接触した冒険者が、少なくとも五つのパーティーで確認されました。接触した人間だけがそうなのか、パーティー全員がそうなのかは分かりませんけど、少し数が多すぎるかな、って」


それは確かにその通りだ。

まだエンデが独立を発表してから半月程度しか経過していない。となると独立前から冒険者の中に工作員が紛れ込んでいた可能性が高いが、皇帝にしろオッペンハイム公にしろ、それだけの数の工作員を、まだエンデにさほど注目が集まっていなかったタイミングで送り込んでいたことになる──少し考えにくいことだ。


「……楽観的に考えればエンデは冒険者の都市だし、怪しまれないように冒険者に偽装した工作員が多かっただけって可能性はあるよな? ちょうど少し前からスラムの人間中心に新規で迷宮に潜る奴は増えてたわけだし」

「まぁね~」


ウルの言葉にレーツェルは「その可能性ももちろん有る」と頷く。


「ただ怪しい動きであることは確かだし、今の状況を考えれば一般階層とはいえ迷宮に工作員が出入りするのはあまり気持ちのいいもんじゃないわ。爺ちゃんも余計身動きとりづらくなってて、どうにか上手く隔離するなり排除するなりする方法がないか検討して欲しいって言ってるのよ」

「簡単に言うなぁ……」


ウルは思わず溜め息を吐くが、解決策が既にあるのなら指示があるだろうし、犬ジイでも解決策が思いつかないのだから最初から難題であることは分かっていた。


フルウは腕組みし、困った様子で首をひねる。


「とは言っても、冒険者──特に中堅以下の不安定な立場の連中は、下手に突くと一般市民以上に危ないぞ。元々、冒険者になろうなんて奴は脛に傷のある連中は珍しくない。過去を詮索するのはご法度っていう暗黙の了解もあるからな」


かくいうフルウもその脛に傷のある連中に属している。怪しいからと他者をつつけば、それが藪蛇になって自分に返ってくる可能性もあった。


「爺ちゃんもそれを心配してました。あとひょっとしたら、ワザと冒険者に目を向けさせて、本当の狙いから意識を逸らすことが目的なのかもって」

「陽動か……あり得ることだ」


どうしたものかと考え込むフルウ。


一方でウルは今の二人の話と先ほどのエックハルトとの話が繋がり、レーツェルの言いたいことに気づいて声を出した。


「──ああ。それでさっきの賊の話か」

「うん、そういうこと」

「ん? どういうことだ?」


フルウは二人のやり取りの意味が分からず首を傾げる。


「つまり、この敵はこっちの警戒網を広げて注意を分散させようとしてる可能性があるわけですよ。ならひょっとして、都市外で動いてるこの賊とも裏で繋がってるんじゃないか、って話じゃないすか──だろ?」

「うん」


二人の推測に、フルウはしかし懐疑的に眉をひそめた。


「……少し強引過ぎないか? いくら何でも憶測に憶測を重ねすぎてるだろう。それに賊は卑民や獣人が中心だったと聞く。皇族や貴族がそんな連中を使うか? 卑民はまぁ、偽装することも不可能じゃないが……」


それはその通り。だからこそエックハルトも早々に皇帝やオッペンハイム公の工作という可能性を排除していた。


「それはもっともな話なんですけど、そもそも普通の賊が、情勢が不安定になって食うもんに困ったとしても今のエンデ周辺に来ますかね? この辺りはただでさえ商隊の数が減ってて、普通は護衛も強化されてると考えるのが自然です。実際は都市防衛のために護衛に人を割く余裕がないわけですけど、そんなの外部の賊には想像できないでしょ?」

「……確かに不自然ではあるな。賊に情報を流した人間がいる、か──」

「あるいは、賊そのものが工作員と繋がってるか、ですね」


ウルの説明でフルウの瞳に納得の光が宿る。


レーツェルは二人と視線を合わせて軽く頷き、改めて自分の考えを口にした。


「賊の身柄をどう扱おうがどこからも文句は出てこないでしょ。それに賊が卑民や獣人だっていうなら、話の持っていき方次第でこっちに寝返らせるのも難しくないんじゃないかしら?」

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