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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第六章

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第3話

なるほど。ゴドウィンが動いた理由は迷宮資源の独占が目的か。最終的に大陸中の迷宮を破壊し、迷宮資源をエンデに集約すれば経済的に帝国を支配することもできる。奴の欲望を刺激するには十分な内容だろう。


だがそうなればエンデはその利権を巡って否応なく争いの的となる。奴もそれを理解できぬ愚か者ではあるまいし、果たしてどうやって回避する算段か。


仮にどちらかの勢力に肩入れしても、結局誰かの下に付けば利権全てを吸い上げられて終わりだ。とするとゴドウィンとしては両勢力を対立させキャスティングボードを握っておきたいはず。だが単純なコウモリ外交で乗り切れるほど甘い状況でもない。


この状況で奴が採り得る最善策は──地方貴族を支援し皇室の力を削ぐこと、だろうな。


元々帝国では皇室の力が衰退傾向にあった。現在のように国内勢力が二極化したのも、旗色を鮮明にせねば攻め滅ぼされるという恐怖から来たものに過ぎない。そうでなければ大半の貴族は今のように皇室の命に従うことはなかっただろう。ある意味で現在の皇室の権威は、内紛が回復させたとも言えるわけだ。


だがこれは裏を返せば皇室以外の貴族たちの潜在的な力が未だ大きいことを意味し、やり方次第で再び皇室と貴族のパワーバランスを逆転させることも不可能ではない。


取引や支援を材料に地方貴族を味方に付ければ皇室もエンデに対し強引な手段はとりにくくなるだろう。貴族たちにしてみれば取引相手は皇室であるより平民である方がやり易いからな。


状況次第では地方貴族からも独立する勢力が出てくるか──いや、流石にそれはあるまいな。わざわざ独立して周りを敵に回すメリットがない。あくまで帝国貴族として横と連帯し、皇室の力を徹底的に削ぐ方が益は多かろうよ。


暴発させる手段はないでもないが……うむ。迷宮の正体が真実報告の通りであるならば、これを上手く使えば地方貴族どもを独立させ、帝国を解体することも不可能ではない。


そしてその中でエンデは経済力を背景に勢力を拡大していく……


果たしてゴドウィンはどこまで考えているのかな?


奴の本質は所詮商人であり、せいぜい大陸の魔石産業を牛耳る程度のことしか頭にあるまい。だが本質の話をするならば、そもそも商人である奴から国を造るという発想が出てくる筈がなかった。


周囲に奴を唆す人間がいる以上、あり得ないことはあり得ないと考えるべきだろうな。


そして万一エンデがそのような方向に舵を切った場合、大陸には乱世が訪れ、多くの血が流れることとなろう。


それを防ぐためには──……




──問題は圧倒的に戦力が不足していることだ。


軍事力による外への守りはともかく、エンデの内部は驚くほどに強固だ。この状況ではどのような策を用いようと上手くはいくまい。


であればまずは──


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「商隊の護衛……ですか?」

「うむ。最終的には輸送を阻害する要因そのものを排除したいのだが、エンデからの輸入が滞ればインフレに影響がでる都市がいくつかあってね。差し当たってエンデに好意的な領主に宛に喫緊に医薬品などを届ける必要があるのだよ」


冒険者ギルドに詰めていたウルの下にやってきたのは小柄で前髪の薄い初老の男性。


確か最高評議会の委員の一人でエックハルト運輸委員と言ったか。経済活動再開の取りまとめを任されたサバデル財政委員の派閥で、現在はその補佐に回っていたはずだ、とウルは記憶していた。


場所はギルドの応接室。

本来であればこうした話はウルではなくギルド職員が対応すべきなのだが、ロイドを始めとした担当の職員たちは過労で倒れているか、倒れた者の皺寄せで余計に忙しくしており、委員の顔を見るなり厄介事はごめんだと逃げ出してしまった。


なし崩し的に対応を押し付けられたのがエックハルトと接点のあるウルと、偶々そのタイミングで一緒にいた冒険者二名。


「……ちょっと待ってくれ。冒険者は何でも屋ではない。我々に護衛の人手を出せというのは筋違いだろう?」


不機嫌そうに反論したのはウルと親しい上級冒険者パーティーのリーダー、フルウ。彼はサッパリ前に進まない会議に嫌気が差し、気分転換がてらウルに同席してくれていた。


「そうなのかね? 冒険者と言えば迷宮探索だけでなく護衛から人探しまで何でもやってくれるイメージがあったのだが……」


若造の不躾な態度に気分を害した様子もなく、エックハルトは首を傾げる。


「それは探索だけじゃ食っていくのが難しい都市での話だ。エンデくんだりまで来ている連中は専ら探索専門だ。よほど特殊な事情でもない限り、探索以外の依頼を受けることはない」

「ほうほう。なるほど。私は普段商売でエンデを離れることも多く、その辺りの事情にはあまり詳しくなくてね。だが、冒険者と言えば荒事や索敵はお手のものだろう? やってできないことはないと思うのだが……」

「屋外と迷宮内とでは索敵一つとってもまた別のスキルが必要になってくるんですよ、エックハルト委員」


飄々と食い下がるエックハルトに、やんわりと訂正したのはやはり偶々ギルドを訪れていたレーツェル。彼女は今、主に祖父である犬ジイとギルド、カノーネの連絡役を担いエンデ内を忙しなく飛び回っていた。


「そもそも冒険者は魔物を避けて行動するのが基本です。それに迷宮には安全地帯セーフティーエリアが存在するので索敵役はせいぜいパーティーに一人か二人。足の遅い護衛対象を抱えながら長時間交代で周囲を警戒し続ける護衛には向いていないんですよ」

「ふむぅ……なるほど、そうか。となるとまいったな……」


丁寧に説明されて理解したのか、困った顔で薄い頭をかくエックハルト。その様子にフルウが怪訝そうに首を傾げた。


「そもそも商隊の護衛は傭兵の領分だろう。あいつらはどうした?」

「うむ。私もてっきり通常通り傭兵団が護衛してくれていると思っていたのだが、クラウス君が都市内の治安維持と防衛のために傭兵の派遣を渋っているらしくてね。商隊も彼と関係の薄い業者にも派遣を依頼しているのだが、絶対的に護衛の手が足りていないらしいのだよ」

「あのクソマッチョ……そうか、今は公安委員だったな」


クラウス公安委員と面識でもあるのかフルウがその名を聞いて顔を顰めた。


ウルの記憶では大手の人材派遣業を営む辣腕で、本人が元傭兵ということもありエンデの傭兵団のほとんどが彼の傘下にあったはずだ。


「クラウス君は今、都市内の治安維持と有事の際の指揮を任されていてね。防衛のために戦力を分散させたくないと言って困っているんだよ。いや、この情勢で迂闊に攻めてくる勢力などないとは思うのだが、万一に備えるのが防衛だと言われれば責任者として万全を期したい彼の気持ちも分からないではなし、無理は言えなくてね」

「……難しいところですね。市民の目に見える都市内に兵力を確保することで治安が維持されるという考え方もありますから」

「そうなんだよ」


エックハルトはウルの言葉に頷き、憂鬱そうに溜め息を吐いた。


そのまま暗くなりそうだった空気を切り替えるように、レーツェルが話題を変える。


「ギルドに相談しに来られた事情は分かりましたが、先ほど仰られていた“輸送を阻害する要因の排除”というのは?」

「ああ、うん。本当はそれを相談したくてね」


エックハルトは忘れていたと呑気に頷いて続ける。


「実際のところ、担当者も何とか最低限の護衛を雇って商隊を送ろうとしていたようなんだ。だが輸送途中で襲撃に遭い荷を奪われる事件が続いて、それでようやく護衛が不足しているという報告が私のところまで上がってきたんだよ」


報連相はしっかりしろといつも言っているのに困ったものだね、と愚痴るエックハルトの表情からは今一つ深刻さが伝わってこない。


「襲撃というと、皇帝派かオッペンハイム公派の妨害ですか? それとも周辺領主の略奪?」

「いや、どうもそうではなさそうだ」


レーツェルの懸念にエックハルトはゆっくりとかぶりを横に振って否定した。


「生き延びた者の話では襲撃者は獣人や卑民崩れのようだったということでね。恐らく国内情勢の悪化を受けて賊に身をやつした者たちの仕業ではないかということだ」

「……なるほど」


一通り事情の聞き取りを終えたレーツェルは頷きながらウルに『どうするの?』と言いたげな視線を向ける。


しかしそんな視線を向けられても、これはどう考えてもウルの領分ではない。エンデ独立や迷宮の分業化に関わる青写真を描いたのは確かに自分だが、だからと言って何でもかんでも話を振られても困るのだ。


ウルはこの場で一番の実力者であるフルウに視線を向ける──が、彼は彼で明後日の方を向いて目を合わせてくれない。


──今からでも職員呼んでこようかな……


そんな三人の視線のやり取りをどう誤解したのか、エックハルトはウルに縋るような視線を向けて言いつのる。


「何とかならんかね? もちろん冒険者ギルドも新体制の整備のために忙しいことは理解しているが、他に頼れる相手がおらんのだよ」

「あ~……」


ならないこともない。


実際のところ休みなく忙しく働いている冒険者はごく一部だ。


危険な迷宮内では集中力が切れると命取りになるため、休息をしっかりとり余裕をもったスケジュールで探索に臨んでいる冒険者の方が圧倒的に多い。普段より多少忙しなくしている今でも護衛のために割く人手がないかと言えば、そんなこともなかった。


また上級冒険者に至っては実りのない会議を繰り返すばかり。忙しくてできませんと断ってしまうのは簡単だが、本気で困っているエックハルトの姿を見るとそれを口にすることは憚られた。


「それに冒険者と言えばローグギルドとも繋がりが深いのだろう? 私たちから直接彼らに依頼するのは憚られるが、君たちの方から何とかうまく巻き込めんかね?」

「あ~……どうでしょう。あっちはあっちで、色々忙しく動いてるみたいなんでなんとも……」


ローグギルドは犬ジイに協力して街に紛れ込んだ他勢力の密偵のあぶり出しに奔走している筈。本来傭兵の領分である護衛にまで協力できる余力があるかは怪しいところだ。


ウルがどう答えたものか頭をかいていると、エックハルトに見えないようにレーツェルがそっと彼の脇をつつく。チラリ視線をやると、何か話したいことがありそうな表情でこちらを見ていた。


「……取り合えず、一旦話を預からせてください」


どちらともつかない彼女の曖昧な表情を受けて、一先ずウルは玉虫色の回答でその場を濁した。

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