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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第六章

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第2話

「だから深層の管理は俺たちが──」

「ふざけんな!! 自分らで美味しいとこだけ持ってこうってのか!?」

「うるせぇよ!! 実力のある奴が下を管理すんのは当然のことだろうが! テメェらの到達階層どこだよ!?」

「今更そんな記録に何の意味があんだよ! これから運営にどう貢献できるかが問題なんだろうが!!」

「あんたら勝手なこと吠えてんじゃないよ。今話をしてるのは今後の管理体制であって縄張り決めじゃ──」

「うるせぇ、引っ込んでろオーガ女!!」

「そうだそうだ!! 偶々最初にいっちょかみしただけの連中がデカい面して仕切ってんじゃねぇよ!!」

「──あぁん? 上等だ……表出ろ粗〇ン野郎ども! その性病で爛れたイチモツ、二度と使い物にならなくしてやるっ!!」


ギルドの会議室で二〇名弱の冒険者たちが険悪な雰囲気で怒鳴り合っていた。装備や身のこなしからも分かるように彼らの大半は下層への到達経験がある上級冒険者であり、本気で暴れだしでもしたら周りの被害は甚大なものとなる。本来場を仕切るべきギルド職員たちも身の安全を図り、諦め顔で会議室の隅に退避していた。


「ただいまー。とりあえず評議会で三か月分の予算認めてもらいましたよ」

「お疲れ様」


そんな会議室に政庁で行われていた最高評議会からウルが帰還し、部屋の隅で喧々諤々たるやり取りを見守っていたエイダが出迎える。


「何か条件ついた?」

「いや特には。委員の方も自分たちの担当対応に忙しくてそれどころじゃないって感じっすね。ダムハイトの運用もあるから魔石関係はいくらあっても足りないし、当面は無条件に政府の方で買い取ってくれるってことになりました。まぁ初動対応が落ち着いたら、進捗だの成果だの色々口出しされるんじゃないですかね」

「それが三か月?」

「ええ。基幹部の機能移行の開始時期を最短三か月で報告してるんで」


ウルたちが話をしている“予算”とは、冒険者たちが採取してきた迷宮資源の買取りに関する予算のことだ。


現在エンデは帝国の内紛による情勢の不安定化に加え、エンデ独立により外部との商取引に大きな制限がかかった状態に置かれている。要は売り上げが落ちて在庫だけが膨らんでいく状態。これでは冒険者たちがいくら迷宮に潜って資源を持ち帰っても安く買い叩かれるか、下手をすれば買い取ってもらうことさえできない。これを放置すれば冒険者──特に経済的な余裕の薄い中堅以下の冒険者が暴動でも起こしかねない大問題だ。


これに対しウルたちは、ダブついた在庫を政府の予算で買い上げることで対応して欲しいと提案し、新政府から了承を得た。


一部の委員からは「冒険者を過剰に保護している」と反対意見が上がったが、今後の迷宮の管理や深層開拓、拡張の可能性を考えれば人手はいくらあっても足りない。今は無理をしてでも冒険者の雇用を維持すべきだと主張すれば、それ以上強くは反対されなかった。


ちなみに商人や職人たちも物の売り先がなくて困っているのは同じこと。委員たちも嘆願に来る支援者たちの救済策を打ち出さなければならなかったので、冒険者の救済策が先に提案されたのは渡りに船。反対したのはポーズというか茶番のようなものだった。


エイダだけでなく近くにいたギルド職員にも聞こえるように評議会でのやりとりを報告し終えたウルは、改めて目の前で繰り広げられている罵り合いに視線をやり半眼で呻く。


「──で、人が会議から疲れて戻ってきてみれば……アレは何ですか?」

「それは多分、会議──のつもりじゃないかしら?」


エイダも呆れを隠すことなく、今にも殺し合いを始めそうな上級冒険者たちの罵詈雑言に冷ややかな視線を向けた。




ここで現在のエンデにおける冒険者たちの動向について補足しておこう。


大前提として、冒険者の中でも迷宮の正体や現在進められている迷宮管理の分業化計画について知らされているのは、ギルドから能力と人格に問題なしと認められた一部の上級冒険者と、中堅以上の規模のクランの幹部のみとなっている。


それ以外の冒険者には「現在ギルドは新たな手法による効率的な迷宮開拓を検討している」とかなりぼかした情報だけが伝えられ、今後の迷宮管理体制についてはギルドと一部の冒険者のみで話し合いが行われていた。


一般の冒険者たちも、何か自分たちの知らないところで重要な話し合いが行われているということは察しており、そのことについて不満が出なかったわけではない。しかしその代わりというわけではないが、彼らには()()()()()のテストケースとしてギルドから迷宮内の魔物や資源の分布についてこれまでより格段に詳しい情報が提供されるようになっていた。


これは迷宮内の監視システムを活用したもので、これにオーク部族による増え過ぎた魔物の間引き、神殿騎士団による巡回・護衛を組み合わせることで、探索の安全性は格段に向上し、実入りも目に見えて増えた。独立や不安定な都市外の情勢など色々と気になることは多いが、ともかく稼げていれば文句はないのが冒険者という生き物だ。一般の冒険者たちは一先ず現状を好意的に受け入れていた。


むしろ問題なのは正しい情報が与えられた上級冒険者たちの方だ。


迷宮の正体や分業化計画について聞いた当初の反応は「ふ~ん?」と一様に鈍いものだったが、それがこれまで開拓不可能とされていた深層への進出に繋がると聞き、そこから得られる利益を理解した彼らは途端に目の色を変えた。いかに自分たちが計画に食い込み、有利な立場で今後の迷宮運営に関わるか血眼になって争い始めてしまったのだ。


実際に犬ジイがこれまでそのシステムを使って深層の稀少素材を大量にため込んでいたという事実──ダムハイト製造に使用したことから情報が漏れた──も余計に彼らの自制心を麻痺させた。


迷宮から深層の稀少素材が安定して採れるようになれば、エンデはその供給を材料に対外的な交渉を優位に進めることもできる。その為、エンデ上層部は迷宮の安定化のみならず、帝国との関係を軟着陸させエンデの地位を安定させるためにも一刻も早い新体制の発足を期待していたのだが……




「上級冒険者なんて言ったところで、世間的に見ればちょっと腕の良いならず者でしかないわけだし。普段真っ当な話し合いとか駆け引きをしたことがない連中ばっかりなわけよ。あんな頭に血が上ってちゃ、落としどころも何も考えてないんじゃないかしら」


溜め息を吐いてエイダ。


会議室の中央では、計画の発案者の一人としてカナンが場を仕切ろうとしてあたふたしているが、エイダは助けに入るつもりはなさそうだ。いや、ひょっとしたら既に助けに入って失敗した後なのかもしれない。中央から少し離れた場所では顔見知りの上級冒険者であるフルウがウンザリした様子で揉めている連中を眺めている。あれは彼らが疲れて動けなくなるのを待っているのかもしれない。


「誰か仕切れる人とかいないんですか? ロイドさんは──」

「少し前に死んだわ。今は安らかに眠らせてあげましょう」

「……そっすね」


死んだというのは比喩で、恐らくは死事のし過ぎでぶっ倒れたという意味だろう。【覚醒】呪文を使った完徹も六日目だったので、そろそろ倒れるとは思っていた。


「文句があるなら腕っぷしで決めろ──ってのは流石にマズいですよね?」

「もしそうするなら圧倒的な実力差を持った人間がいることが絶対条件ね。あそこにいる連中の戦闘力なんて似たり寄ったりだから、一度始めたら収拾がつかなくなるわよ」


エイダが指摘するまでもなく、彼らもその事態を避ける程度の自制心は残っているようでギリギリのところで踏みとどまっていた。


しかしこのままでは全く話し合いが進展しそうにない。実のところ新体制の腹案についてはウルからこの場の冒険者たちに最初に伝えられており、それに彼らが応じてさえくれれば来月にもシステム移行に着手できる見通しだった。評議会に伝えた三か月というのはかなり余裕を見た計画だったのだが……


「他に仕切れそうな人と言えば──犬ジイは? あの爺さんの言うことならみんな逆らえないでしょ?」

「あの人は基幹部の警護と街の外から入り込んだ密偵の排除に忙しくてそれどころじゃないわ。そうでなくても、あの人の威光頼りで強引に話を進めるのは今後のことを考えるとあまり上手くはないわね」

「……ま、そうですね」


エイダの言葉に溜め息を吐いて同意する。逆らえないことと素直に従うことは違う。この情勢下で身内に余計な不満を溜めさせたくはなかった。


「ついでに言うと、カノーネお姉さまもあのバカ兵器──ダムハイトだっけ? あれの整備やら都市の防衛対応で大忙しでそれどころじゃないわ。手が空いても基幹部の解析や調整が残ってるしね」


カノーネは彼女にしかできないことが多すぎて、こうした話し合いの場に参加する余裕は全くない。一応、彼女をサポートできる魔術師の応援も要請しているが、あちらも問題を抱えていてすぐには動けないらしく、エンデへの到着はいつになる事やら。


仲裁できる人間がいない以上、今後のことを考えれば今のうちに思う存分やり合っておいた方がいいのかもしれないが──


「頭数が多いってだけで何を偉そうに──!」

「到達階層がなんだ! 肝心なのは稼ぎ──!」

「るせぇ! 実力のねぇ奴がグダグダと──!」

「女に入れ込んで借金こさえた男が何を偉そうに──!!」

「テメェこそ風呂で病気もらって嫁さんに逃げられ──!」

「デタラメほざくな!! 病気は嫁の浮気相手が──!」


「…………」

「…………」

「…………それにしたって、放置したらしたで余計な禍根が生まれそうじゃないですか?」

「…………そうね」


結局その日は参加者の体力が夜中まで持ってしまい、何の生産性のないまま会議を終える。


あまりに脱線し過ぎて本線を見失った罵り合いに、ウルとエイダは「飲み物に下剤でも混ぜて一度大人しくさせようか」と真剣に検討した──が翌日、状況は意外なところか進展を見せることとなる。

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