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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第一章

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第12話

当面、投稿は休日に何話かまとめて行うことになりそうです。


あと、ブクマなど反応いただけますと、励みになりますので幸いです。

「ほれ、こいつは手付だ」


ウルが借りている家にやってきた犬ジイがテーブルの上にドサッと布袋を置く。恐る恐るその中身を見てみると白金貨が一〇枚。白金貨一枚が金貨一〇枚換算なので、金貨一〇〇枚分の収入がウルの手元に入ってきたことになる。これは一人前の職人が三か月間一日も休むことなく働き続けて得られる平均収入よりも多い額だ。


大金を前に硬直しているウルを気にすることなく、犬ジイは淡々と成立した取引について説明を続ける。


「あと顧問料──というか指導料だな。こいつは利益の一割がお前さんの取り分になる。集計の手間もあるんで、支払いは年一回にまとめさせてくれ。具体的には年末締めで、その三か月後までに支払いをする形になるから、最初の支払いは一年近く先になる。この手付はその間のツナギも兼ねてるが、足りないようなら俺が仮払いするから言ってくれ」

「あ、はい。いや、十分です。マジで」


視線を白金貨に固定したまま、壊れた人形のようにコクコクと頷く。


話はちゃんと聞いていたが、彼の脳の容量の半分以上は「この金どうしよう? ギルド口座にすぐ預けに行った方がいいよな」と臨時収入をどうするかに割かれていた。


──トントン


指がテーブルを叩く音に釣られ視線を上げると、目が「金」のマークになったウルに苦笑する犬ジイの顔。ウルは慌てて自分の頬を叩き、目の色を黒く戻し正気を取り繕った。


「話、いいか?」

「勿論です。どんとこいトーク」

「……ま、いいや。当面は定期的に指導や品質チェックをしてもらう必要があるが、製造が軌道に乗れば後は手を離して貰って構わない。不労所得を気取るもよし、改良やら効率化を図っていくのもお前さんの自由だ。当然、買い手も作り手も旨味がなくなりゃ手を引くだろうし、そのあたりのバランスはお前さんが自分で責任を持て」

「はい。──相談はさせてもらっていいんですよね?」


ウルの確認に犬ジイはニヤリと笑って頷いた。


「ああ。出来るなら俺にとっても利益の有る話であってほしいからな」




ウルたちが頭を悩ませていた消臭剤の製造販売について。


これは結局犬ジイの提案を丸々受け入れ、スラムを取り仕切るローグたちの管轄とすることとなった。


簡単に言えば、浮浪者やストリートチルドレンに消臭剤の製造を任せて仕事を与え、出来上がった製品については怖いお兄さんたちがバックについているお店や訪問販売員による専売方式。しかし値段は安価で据え置きだ。


ローグたち──というか犬ジイ──はこれを使って儲けようとは考えておらず、スラムの人間に仕事を与え、飲み屋や娼館に物を流すことで統制を強めるのが目的。裏稼業の人間がバックにいるとなれば、商人たちも余計なちょっかいはかけてこないだろうし、住民たちも敢えて他所から買おうとはしない。


ギルドや素材買い取り業者は雀の涙ほどの額ではあるが、これまで捨てていたクズ素材に値段が付くようになり、その利益で職場環境を改善できるというメリットがある。


ウルはスラムの人間に消臭剤の製造を指導し、品質管理を行うことで向こう一〇年間利益の一割に当たる顧問料を得られる。それが具体的にどの程度の額になるかは不明だが、手付として貰った白金貨一〇枚で既に十分すぎるほど元は取れているし、普通に考えてウルが一人でコツコツ製造販売するより得られる利益は上だろう。


三方どころか四方良し見事な裁定。この手の利益が絡む話がほとんど揉めることなくあっさり決着したのは、各方面への犬ジイの影響力あってこそだろうな、とウルは感心し、この爺さんにだけは逆らうまいと決意を固めた。




「何にせよ、金は慎重に使えよ。一度にまとまって入ってくると大金に感じるかもしれんが、使うとなりゃあっという間だ。特に今回は苦労したって実感がない分、半分あぶく銭みたいなもんだ。財布の紐は、普段よりずっと緩くなっちまってるだろうからな」


俺も昔は痛い目を見た、と犬ジイは目から金の色が抜けきらないウルに忠告する。


ウルはその言葉をもっともだと思い、白金貨の詰まった袋の紐をギュッと締め、この後すぐにギルド口座に預けてしまおうと決意した。


「……忠告、ありがとうございます」


実際問題、ウルの物欲を本気で満たそうと思えば白金貨一〇枚程度では全く足りない。魔道具作りはとにかく金がかかる。例えばウルの持つ魔導銃だって素材の代金だけでそれぐらいはかかっているのだ。魔導ゴーグルや各種加工道具まで含めれば、ウルの所持品の方が価値としてはずっと大きい。


魔導技師アーティフィサーとして更に上を目指そうと思えば金はいくらあっても足りないし、正直今回の収入程度、気を緩めれば一時間と持たず使い切ってしまう確信がウルにはあった。


大金を手に入れて改めて、金はいくらあっても足りないなと実感する。


「ま、商売の話はこれぐらいにしとこうか。当面は手先の器用な奴を集めて少量から作らせていく。レシピは単純だし、実演もしてもらったから問題ないとは思うが、サンプルが出来たら品質チェックをしてやってくれ。細かい話はまたそっからだ」

「はい」

「……うん。それで、だ──」


犬ジイがチラリとウルに右側に視線をやる。この家に入ってきて以降、鋼の意志力で努めてそれを無視していたが、とうとう我慢できなくなったらしい。


「あれは、どういうことだ?」


問う声が、少しだけ震えていたのはウルの気のせいではないだろう。


「え? 何が?」


きょとんと首を傾げる元凶を無視して、ウルは絞り出すような声で嘘偽りのない本心を告げた。


「それは、俺が、聞きたいです」

「…………そうか」


犬ジイは一瞬瞑目した後、何かを諦めた様子でうめく。事情を理解できたわけではあるまいが、少なくともウルも被害者であることは理解したらしい。


その上で、同情すべきか、祖父として謝罪か、あるいは憤慨すべきなのか、判断材料を持たない彼は一先ず諸々の感情を呑み込み、天井を仰いだ。


ウルはそんな彼の心模様をある程度正確に理解し、最悪の誤解を避けるにはまず何を伝えるべきか──部屋着姿でシレッとリビングに居座っているレーツェルを半眼で睨み、慎重に言葉を選び口を開いた。


「俺が把握してる限り、住んではいません」


そう言って、空き部屋となっていたはずのドアに視線をやる。


「ただ、秘密基地感覚で空き部屋に荷物を運び込んで、時々ふらりとやってきては飯をたかってきます」


元々ベッドは各部屋に備え付けられており、勝手に泊まっていることもあるようだが、敢えてそれは口にしなかった。


「逆に何か土産を持ち込むこともありますが、それに気を取られていると家の中に俺の物じゃない私物が増えています」


最初に食器類の持ち込みを見逃したのが失敗だった。


「……あと一応、この前の一件は謝罪を受けて、和解しました」

「そうだよ~」

「…………」


一応、公平に。フォローらしきものも入れたことで犬ジイの表情が僅かに緩む。隣で調子に乗っている馬鹿がいなければ、もっと素直にほころんでいたことだろう。


「ただ『手打ちにする』と言ったことが、どうして『勝手に家に出入りしていい』と翻訳されるのか……迂闊な発言だったかもしれないと、少し後悔しています」

「…………そうか」


犬ジイは目頭を揉みほぐし、絞り出すような声でうめく。


「…………そうか」


言葉を探そうとして──結局見つからなかったのか、二度繰り返す。


自分の潔白を訴えるため捉えようによってはキツメの発言となってしまったが、ウルに犬ジイを責める意図はなく、何なら彼に同情さえしていた。


祖父として、あるいは先日突き放した立場として、すまないと謝罪すべきか、それとも無関心を装うべきか。はたまた馬鹿な孫を叱りつけるべきか、かわいい孫娘が一人暮らしの男の家に出入りして無防備な姿を晒していることに憤慨し、嘆くべきなのか。


最後の立場をとられるのだけは御免被りたかったので、ウルは精一杯無実を主張した。物理的にレーツェルの方が強いことは既に証明されており、しかもウルにはその気が一切ない。見目が良いことは認めるが、祖父が目の前のこの人物だと知って積極的に手を出せるほどウルの胆は太くなかった。


「あ~……坊主」

「はい」


犬ジイはウルに視線を戻し、しばしジッと彼を見つめる。目だけでなく、その体格や腕の細さ、何なら言葉の端々からにじみ出ている保身の強さを見透かすように。


「…………任せた」

「何で!?」


常識と良識を以って、孫娘をこの家から引き離してくれるものと信じていたウルは目を剥いて悲鳴を上げる。


ウルの冷静な部分の脳は、『目の届かないところで孫娘にフラフラされるより、小心者で計算高い小僧に監視させた方がいい』と犬ジイが判断したのだろうと洞察していたが、それはそれとして裏切られたと悲鳴を上げた。


「一応、物を壊されて金が入用になるとか、何か困ったことがあれば俺に言え」

「いやいや──」

「あ~! 爺ちゃん失礼ね~。そんな迷惑なんてかけてないわよ」


現在進行形で既に困ってるんですが、というウルの言葉を遮って、レーツェルが能天気に頬を膨らませる。


一見何もわかっていなさそうに見えるが、これは擬態だ。ここ数日の付き合いで、ウルはこの少女の腹の色を理解しつつあった。


今のところ直接的な迷惑をかけられているわけではないが、犬ジイの孫娘という時点で気を遣うし何かあったらマズイ。出来ればこのタイミングで引き取ってほしかったのだが──


「──任せた」

「…………!」


そんな小心者ならかえって都合がいいと、犬ジイは念押しするように、色んな意味を込めたその言葉を繰り返した。

【今回の収支】

<収入>

 白金貨10枚 銀貨32枚

 ・顧問料手付金 白金貨10枚

 ・バイト代(四日分) 銀貨32枚

<支出>

 銀貨28枚 銅貨2枚

 ・生活費(九日分)

<収支>

 +白金貨10枚 銀貨3枚 銅貨8枚


<所持金>

(初期)金貨7枚 銀貨23枚 銅貨20枚

(最終)白金貨10枚 金貨7枚 銀貨26枚 銅貨28枚

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なぜラノベの男達は地雷ヒロインに甘いのか?
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