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ひよっこ魔導技師、金の亡者を目指す~結局一番の才能は財力だよね~  作者: 廃くじら
第一章

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第11話

「ふむん。どうしたもんですかねぇ」

「なんつーか、微妙なラインなんだよなぁ……」

「ですねぇ」


自作消臭剤のサンプルをギルドとバイト先の素材買い取り所に持ち込んで一週間後。ウルはバイト先の会議室で、上司とギルドの担当受付の中年男性と三人で頭を悩ませていた。


事の発端は言うまでもなく、ウルが渡した消臭剤のサンプル。手渡した時こそ微妙な反応をされたが、実際に使ってみると現場での反応は意外に悪くなかった。


それまで皆、臭いに慣れていたのであまり気にしていなかったが、消臭剤のある場所とない場所とを出入りすると、やはり臭うのだと気づく。そして気づいてしまえば気になるし、本当に臭いがキツイ場所や、食事スペースにはあればいいなという話になる。特に斥候役や鑑定士は臭いに対する感度が鈍っていたことを危惧し、より強い興味を持っていた。


と、ここまではウルの狙い通りの反応。

無料で手に入るクズ素材を使ってギルドとバイト先に適量消臭剤を卸すことが出来れば、さしたる負担もなく、安定した収入を確保できる可能性が高い。


問題は、これが予期していなかった方々の琴線にまで響いてしまったこと。


「女性向け……まあ、考えてみれば当然の話ですよねぇ」


予期せぬ反応を示したのは女性の職員や冒険者。特に長時間不衛生な環境で活動し、体臭を気にせざるを得ない女性冒険者がこれに強い関心を示した。


彼女たちは普段、香水を使って体臭を誤魔化してきたが、香水に消臭効果はなく、体臭の強さによってはかえって臭いを引き立たせ逆効果になってしまうことがある。


そんなものだ、誰も気にしていない。これまではそう割り切って目を逸らしてきたが、いざその問題を解消できるかもしれない手段が見つかれば、彼女たちが食いつくのはごく自然な反応だった。


「それとどっから話が漏れたのか、娼婦連中も興味を持ってるらしい」


ウルの上司がその良し悪しを判断しかねる面持ちでうめく。


「それ多分、出入りしているうちの職員からですよ。使ってなかった瓶が一つ無くなってましたから」


担当受付が申し訳なさそうに頭をかいた。


「まあ、俺も使って広めてもらうために渡したんで、別に悪いことじゃないんですけどね」


三人は何とも微妙な表情で揃って溜息を吐いた。



作った消臭剤が想像以上にニーズがあり好評を得た──そこだけ切り取ってみれば、決して悪いことではないように思える。それで商売ができないかと考えていたウルにとってみれば特に。だが現実問題、ウルを含めたこの場にいる者たちの表情は決して良いものではない。──何故か?


「……これ、このまま広めたらそこそこ大口の商売になって、普通に商人が介入してきますよね」

「多分な」


ウルの独り言のような呟きに上司が肯定を返す。

ウルが喜べないでいるのはそれが原因だ。あまり大きなマーケットになってしまうと、本格的にこれを商売として取り扱う商人が出てきかねない。それこそ専属の魔導技師を引っ張ってくるか他所で加工して持ってくるか。


元々消臭剤そのものは他の都市では少量とは言え普通に流通しているし、ライセンスもくそもない。端的に言えばウルの手を離れて儲けられなくなってしまう。


大した商売じゃないから競争相手もいないだろうと考えていたのに、これではウルに何の旨味もない。


「ギルドとしてはクズ素材に使い道が増えたことはありがたいのですが……これを購入して経費として計上することになるだろうなと考えるとどうにも。値が吊り上がって女性冒険者の懐具合を圧迫するリスクも考慮しなければなりませんしね」

「うちも似たようなもんだな。多少収入でプラスはあるだろうが、全体から見れば微々たるもんだろ。それより、この匂い消しを値が吊り上がっても使わざるを得ない環境が作られたとしたら……どうなんだろうな?」

『う~ん……』


ギルドとそれに付随する素材買い取り業者の反応が渋い理由はもう少しだけ複雑だ。


商人が介入して商売として大きくなれば、これまで廃棄していたクズ素材にも値が付くようになる。それ自体はどちらにとっても歓迎すべきことだ。だがその場合、商人たちは目一杯利益を吸い上げようと値を吊り上げてくることが予想される。需給に応じた適当な値段に落ち着くのであればまだいい。だが、少しでもやり手の商人なら『悪臭は害でありマナー違反』という空気感を醸成し、多少高くても皆が消臭剤を購入せざるを得ない環境を作ってくるだろう。


そうなった場合、冒険者の街である迷宮都市エンデにとって、今回の件は果たしてプラスかマイナスか。


都市運営の中枢にも関与するギルド関係者として、彼らはこれをどう評価し処理すれば良いのか判断に迷っていた。


「……すいません。なんか、厄介事持ち込んじゃったみたいで」


軽い気持ちで製作し提案した商品がこんな事態をもたらしたことに、ウルは申し訳なさそうに頭を下げる。


「気にすんな。気づけなかったって意味じゃ、最初に話を聞いた俺らも同罪だ」

「そうですね。それにウルさんの件がなくとも、この手の話はいずれ発生したでしょうから」


上司と担当受付は気にするなとそれを否定するが、しかし場の空気は決して明るくはならなかった。


──どう考えればいいんだろうな……


ウルは頭の中で状況を整理する。


まずウルとしては自分が介入する余地がなくなるので、あまり大きな商売になって欲しくはない。だが、この様子だと自分一人で細々やっていこうとしても、いずれ話を聞きつけた商人が介入してくる可能性が高い。


ギルドや素材買い取り業者の立場からすると、消臭剤は悪いものではないしできれば使いたい。ただし冒険者や関係者の懐具合を圧迫しないよう、安価に必要最低限で。商人が介入してくれば素材買い取り代金が上がるというメリットはあるがそれは微々たるもの。リスクを考えれば商人の介入は極力避けたい。


──うん。つまり商人に介入して欲しくないって点ではみんな考えが一致してるんだ。


あくまで内々で、ひっそりと、手軽に使っていきたい。


だがニーズがあり、商売になるのなら商人が介入してこない理由がなく、またウルやギルドが嫌だと言ったところで止められるものではない。今すぐ彼らが消臭剤の存在を無かったことにしようとしても、遠からず商人は話を聞きつけて商売を始めてしまうだろう。


つまりもう止めようがない。


商人の介入を悪し様に言っているが、ひょっとしたら商人がニーズを良い方向に汲み取って三方良し──そこにもウルは入らないだろうが──の取引を成立させるかもしれない。ただ、そうならない可能性もあるというだけ。どう転んでも致命的なマズい展開になるほどの話ではないし、何ならこの程度の変化は日常的に起きている。自分たちがその当事者でなければ『そんな気にしなくていいんじゃない?』と流してしまう程度の話だ。


「ほどほどの値と商量の範囲で仕切ってくれる商人がいればいいんだが……」

「まぁ、仮にいたとしても直ぐ他の商人が介入してきて終わりでしょう。ほどほどなんて発想じゃ、本気で儲けようとする商人には対抗できっこない」

「だよなぁ」


上司が希望的観測を口にし、担当受付の冷静なツッコミにすぐ肩を落とす。


そんな希望的観測が成立するのは、塩などの値を安定させなければ生活に影響がでる必需品を国や領主が統制するケースぐらい。こんな消臭剤のような小さな商売に一々権力者が介入するはずがない。


──まあ、そもそもが小さな話だし、俺が儲けられないってのは業腹だけど、流れに任せて見守るってのも一つの手かな。どの道、俺じゃどうしようも…………んん?


その場の思考が『どうしようもないし大した問題でもないから流れに任せる』という方向に傾いた時、ふとウルの脳裏にある可能性が思い浮かぶ。それはまだ閃きに過ぎず、具体的な形となっていたわけではないが、あの人物ならひょっとして、と──


──コンコン


「ちょいと邪魔するぜ」


中の様子を監視していたかのようなタイミングで会議室のドアがノックされ、返事も待たずスルリとその人物は入ってくる。


「──犬ジイ?」

「何であなたが……」


大物の登場に担当受付が背筋を伸ばして立ち上がる。


そんな彼らの反応に特にもったいぶる様子もなく、スラムの顔役である老人はあっさりと言った。


「単刀直入に言うが、お前さんらが悩んでるその案件、俺に預けちゃくんねぇか?」

【今回の収支】

<収入>

 銀貨26枚

 ・バイト代(三日分)

<支出>

 銀貨23枚 銅貨4枚

 ・生活費(一週間分)

<収支>

 +銀貨2枚 銅貨6枚


<所持金>

(初期)金貨7枚 銀貨21枚 銅貨14枚

(最終)金貨7枚 銀貨23枚 銅貨20枚

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