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花束を抱えて  作者: 枇榔
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八.幸せの形

 弥生(やよい)の妊娠が分かってから、朝霧(あさぎり)家の両親と共に今後の予定を立てた。弥生の高校への妊娠報告は、朝霧家がしてくれる。弥生の母親が、妊娠初期の方が体調を崩しやすく、理解をしてくれる人がいるのといないのとでは全然違う、と、早めの報告を強く推してくれたのだ。女の体のことは、男にはわからない。弥生の母親がその辺をカバーしてくれることは、本当に助かる。高校の卒業式の後、親族や朝霧家の使用人やその家族、親しい友人達を招いて、式を挙げることに。出産を控えてお腹も大きくなるだろう弥生のために、ウエディングドレスはオーダーメイドで作ることになった。


 「ドレスの手配は、私に任せてね。」


 語尾にハートマークが三個ぐらいついている気がした。式場は、朝霧家が代々使っているところを、弥生の父親がすでにおさえてくれていて、弥生の母親と弥生で、式に関することを相談して色々進めているという。正直、ありがたい。俺はというと、学業を蔑ろににしてきたツケが一気に回ってきて、使ってこなかった頭を沸騰させるくらいフル回転させているため、式のことまで考える余裕がないのだ。弥生は、兄仕込みの経営学の知識があるから、その辺は任せて、とは言うが、何もわからないまま店を経営するのは嫌だし、弥生に任せっきりでは情けない。()()のツテで、経営に詳しい人を紹介してもらい、バイトはなるべく日中にシフト変更、バイト後はその人から経営にまつわるあれこれを教えてもらっている。バイト先の社長は、出世払いしてくれよ、と、店舗を準備してくれて、喧嘩しかしてこなかった俺みたいなやつにも、こんなに親身になってくれる人達がいるんだ、と、その有り難みを実感して目頭が熱くなる思いだ。


 秋はあっという間に過ぎ去り、冬を迎えた。徐々に、俺の頭は難しいことに動じなくなり、処理出来るようになっていった。弥生の体調は安定してきて、高校も休んだり早退したりすることがなくなり、理解のある教師や友達やクラスメイトに助けられながら、高校生活を満喫しているらしい。弥生の友達に紹介してもらった時は、俺の風貌や顔面を見て驚かれたが、練習中の"営業スマイル"を披露したら、なぜか弥生と共に大爆笑され、その後めちゃくちゃ祝福してくれた。


 姉貴は、時々弥生に会いに行き、様々なブライダルケアを施してくれているらしい。会うたびに肌艶が良くなっていく弥生を、直視できなくなっていく。


 年が明けると、秋が過ぎ去るよりももっと早く時が過ぎ去っていき、春の気配がそこかしこにやってきた。気づけば目の前には、高校の卒業式を無事に済ませた弥生が、ウエディングドレス姿で鏡の前に座っている。弥生の母親に任せて正解だった、よく似合っている。


 「紫郎(しろう)くん。」

 「…うん?」

 「私のこと、見えていますか?」

 「うん。」

 「涙で、全然見えなくて。」

 「…うん。」


 ベール越しに、涙が光って見える。こんなに光り輝いている弥生を見るのは、後にも先にも、もうないような気がしてしまう。


 「あっという間だったね、今日を迎えるまで。」

 「そうだな。まぁでも、なんとかなるもんだ。」

 「無事にお式が終わったら、いよいよお店の準備も大詰めだね。」

 「あぁ。」

 「本当にあっという間だったな…。」


 春の柔らかい日差しが、ブライズルームに差し込む。白い光に包まれて、さっきよりも弥生が光って見える。今度は、そのまま消えてしまいそうに見えて、思わず手を取った。弥生は、ハッとして俺を見上げ、言おうとした言葉を飲み込んだ。目を逸らさない弥生を見つめながら、胸が締め付けられる思いから逃げきれず、弥生を抱きしめた。


 「あ。」

 「ん?」

 「動いた、おなか。」

 「そうか。」

 「早く会いたいな。」

 「そうだな。」


 抱きしめた力を緩めて少し離れると、弥生は困り顔。片方のグローブを外して、俺の頬に触れる。そして、あまりにも自然に頬を伝っていた涙を拭って、にこりと微笑む。


 「紫郎くん。私今、怖いくらいに幸せだよ。」


 なぜか、はらはらと涙がこぼれて止まらない。言葉が出てこない。そんな俺を、今度は弥生が抱きしめる。抱きしめると言うより、包み込むと言う方が正しいような、本当に優しい抱擁。


 「私と結婚してくれて、ありがとう。」



――――――



 式は、盛大に行われた。神崎家は、会場に飾る花々やブーケを準備してくれて、花に囲まれているのが当たり前だった幼い頃の記憶と、親を誇りに思ってきた気持ちを、無くさないで今日まで来れたことを、心の底から嬉しく思った。


 全てを終わらせた頃には疲れがピークに達していて、朝霧家に向かう車の中で、二人は睡魔に身を任せた。


 弥生は、明日まで朝霧家で過ごす。明後日からは、一緒に暮らしていく。これからは、ずっと一緒だ。苦楽を共にしていく。


 あの日、花束を抱えて会いにきてくれたお前がいたから、今の俺達がいる。花を絶やさない生活を送っていこう。そしてお前を、お前達を、花のように大切に愛でていくよ。

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