-玖- 優しさ
病院を後にし、私達は神社に戻って来た。
「おや、二人共お帰りなさい」
「ああ」
「あっ、えっと、ただいまです」
自分の家以外でお帰りなさいを言われると少し照れくさかった。
圭さんは飲み物とお菓子を用意すると席を立つ。
燐さんは疲れたのか、何も言わず、そのまま奥の部屋へと行ってしまった。
一人取り残されてしまった私は取り敢えず座った。
「はぁー、疲れた」
付喪神探しで気が張っていたのだろう。一気に疲れが出た。
それに海斗の呪いが少しでも消えてくれたのが何より嬉しかったし、安心した。
今日の出来事を振り返っていると圭さんが戻って来た。
「お疲れでしたでしょう? どうぞ休まれてください」
圭さんはいつもの優しい笑顔でお茶とお菓子を出してくれた。
「ありがとうございます」
私は暖かいお茶をゆっくり口に含む。嚥下した瞬間、暖かさが全身に伝わり、疲れが徐々に取れていく。
「お菓子もどうぞ」
私は言われるまま、出されたお菓子の方に目を向ける。今度のお菓子は水羊羹だ。
私は水羊羹をスプーンで掬い、口に運ぶ。すると口の中に水羊羹がつるっと滑り込み、程良い甘さが口いっぱいに広がっていった。瑞々しく、尚且つ上品な味わいだった。
色々と疲れていた私にはピッタリな甘味だった。
私はあっと言う間に水羊羹食べてしまった。
「あの、ご馳走様です。とても美味しかったです」
「いえ、口に合って良かったです」
圭さんは空になったお皿をお盆の上に置き、下げる。そして湯呑みにお茶を注いでくれた。
「さて、私の方でも色々調べたのですが、貴女方と同じ体験をしたという情報がSNSの方で一件だけですが見つけました」
「本当ですか!?」
「はい。その方のお話を伺おうと思い、連絡を試みたのですが、あの時の出来事は思い出したくないからと断られてしまい、残念ですが断念致しました」
「……そうですか」
もしかしたらと期待していたが、断念という言葉に落胆が重く伸し掛った。
だが、その人の話したくないという言い分も分からなくもなかった。私ですら話すのに躊躇ったのだ。思い出したくもない出来事を口にするのは相当の苦痛であろう。話したくないのは当然だ。
「仕方、ないですよね」
落ち込む私に圭さんは言葉を続けた。
「ですが、あの廃校を管理している所に問い合わせをしたところ、廃校になる前に校長をしていた方と連絡が取れまして、事情を説明しましたら、あの廃校になった学校についてお話をしてくださると言ってくれたんです」
つまり、それは……───。
「……まだ解決策がある、という事ですね」
「はい。なので明日その元校長の所に向かって頂いても宜しいでしょうか?」
「はい!!」
まだ希望がある事に、落胆していた気持ちは何処かへと吹っ飛び、やる気が湧いて来た。
「では、また明日宜しくお願いしますね。燐には私が後でお伝えしておきます」
「はい」
私はしばらく圭さんと他愛無い話をした。その間も燐さんが姿を見せることはなかった。少し気になったが圭さん曰く、いつもの事らしい。
圭さんと話をしていると、いつの間にか夕方になっていた。
「すみません。遅くまでお邪魔して」
「いえいえ、私の方こそ、こんな遅くまで引き留めてしまい申し訳ありません。あれでしたら家までお送りしますよ?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ですが、お家の方がご心配になるのではないですか? 事件があった後ですし、遅くなると怒られたりされませんか?」
圭さんに言われ、少し考える。確かに、あれから親が帰りにうるさくなった。具体的な門限は言われなかったが、なるべく早く帰るように言われていた。
言葉を詰まらせている私を見て、圭さんは『やはり、お送りしますよ』と言ってくれたので、お言葉に甘える事にした。
「表の方で少し待っていてください。車を出しますので」
圭さんは車の鍵を持ち、駐車場へと向かって行った。
私は圭さんに言われた通り、正門側の本殿の方へ向かった。
しばらく待っていると車に乗っている圭さんの姿が見えた。
「お待たせしてすみません。さぁ、乗ってください」
私は圭さんに言われるまま、助っ席の方に乗り込んだ。
圭さんは私がシートベルトをしたのを確認すると車を発進させた。
「今日は燐と一緒に行動されてどうでしたか?」
「あっ、えっと……」
急に話を振られて言葉に詰まる。
そんな私の反応に圭さんは困った顔で微笑んた。
「悪い人ではないんですけど、口数が少ないのとあの仏頂面ですから、少し取っ付き難い印象があるんでしょうね。
でも、ああ見えて優しいんですよ。困っている人を見ると放っておけない方ですから」
圭さんの話を聞いて、今日一日一緒に行動した事を振り返ってみる。確かに、何だかんだ、海斗を助ける為に動いてくれてるし、海斗に憑いてる呪いも少しだけど浄化してくれた。
まだ燐さんの事は知らない事だらけだけど、少なくとも圭さんの言うように優しい人なのかもしれない。
「明日も燐と行動する事になると思いますが、頼られたら助けてくれますので、遠慮せずに頼られてくださいね。勿論、私の方も頼られても構わないですからね」
そう言って、圭さんは優しく微笑んだ。
そんな話をしていたら、いつの間にか家の前まで着いていた。
「あの、今日はありがとうございました」
「全然構いませんよ。では、また明日お会いしましょう」
「はい。圭さんも気を付けて」
圭さんは軽く会釈をして帰って行った。
私は圭さんの車が見えなくなると家の中に入ったのだった。




