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異世界興行CVW  作者: ぐりずりー
2/20

第一話 C・V・W

初めまして、ぐりずりーと申します。

小説初投稿です、プロレス好きでもそうじゃなくても、楽しめるアクション物としてお気楽に読んでいただければ幸いです。



 

◇第一話 CAT (キャット)  VALKYRIA (バルキュリア) WRESTLING(レスリング)

 

 

 今回も地方の小さな市民体育館がわたしたちの試合会場(せんじょう)です。

 所属選手14名プラス練習生4名、弱小団体のCVW(わたしたち)は、設営会社さんに頼むほどのお金はないので、全部自分達でやらないとなのです。

 明け方、というかまだ夜中、暗いうちから起き出して大急ぎで握ったおにぎりを、三時間の車移動中に頬張って、朝イチで会場入りしたら、まずはリングの組み立て。

 

 ――何が大変って、リングを支える鉄柱! これが一本百キロ近くもあって、二人で持ってもふらふらするのです!――


 リングとその周りの設営が終わったら、今度は観客席の椅子を並べ、次に物販用の売店を設置。午後の開場までに、寮で握ってきた残りのおにぎりを慌ただしく頬張って準備をします。

 開場と同時に来場客にパンフレットやブロマイド、Tシャツ、バッジなどのグッズを販売。売子はみんなで立つんだけど、一番人気はやっぱり千葉さんで、前には長い行列ができます。サインを頼まれたり、握手とツーショット撮影を頼まれたりして、和やかで良い雰囲気…… かくいうわたしも、ちょっとお客さんが並んでくれたりして、それがすごく嬉しいのです。

 

 試合はわたしが前座で一番最初。

 リングネームはそのまま「のの」。

 16歳、身長153㎝、体重42kg。

 

 リングコスチュームはプロレスラーらしくリングシューズや肘当て、膝当ては付けていますが、社長さんの強い意向で、旧型のスクール水着型コスにニーソックスで髪はツインテール縛りです。これらは商業的観点から「必須」なのだそうです。

 入場にはマントの代わりにお着替えタオルをまとい、試合の前に撮影タイムが設けられます。携帯やカメラを構えた観客の皆さんにポーズをとってアピールするのですが、恥ずかしいので何度やっても馴れません。でも社長さんは満面の笑みでご満悦みたいです。


 その後、試合が始まるのですが…… はい、今回も、負けました…… 二十戦連続の全敗記録を更新しちゃいました……………………。

 でも落ち込んでる暇はありません。自分の試合が終わったら、すぐにジャージに着替えて次の試合のセコンドに付きます。


 間もなくアカネちゃんの試合が始まります。

 

 アカネちゃん、本名「秋空茜」18歳、身長160㎝、体重52kg 。

 昔は男の子みたいなショートヘアだったけど、CVWに入ってから伸ばし始めて、今は長いポニーテールが特徴です。

 リングネーム「AKANE」 異名「(くれない)のダイナマイト」「バーニング・クラッシャー」

 

 家族ぐるみのお付き合い、わたしのお姉ちゃん的存在で、何より、千葉さんやプロレスに巡り合わせてくれた、わたしの恩人。プロレスに賭ける情熱は、誰よりも強いのです。

 

 ゴングが鳴ります。相手選手は大きくて、強そうです。アカネちゃんは平均的な体型だけど、女子レスラーの中では大きい方じゃないです。でも、パワーはCVW内で評価が高く、若手有望株なのです。

 序盤はアカネちゃんの攻撃が通じにくくて苦戦してたけど、相手のスタミナが切れてきた後半から、持ち前のパワーと瞬発力を発揮して、フィニッシュの「必殺AKANEラリアット」が炸裂して逆転勝ち!

 アカネちゃんは、コーナーロープに登って観客席に向かい、「奇跡の逆転ファイター‼︎」と叫んで会場を盛り上げてました。


 

 次の試合はラトさん。

 

 ラトさんはアカネちゃんより一つ年上ですが、入団時期が一緒の同期生なのです。

 大阪出身のダイナマイトバディ(!)可愛い関西弁とふんわり外跳ねショートボブの髪が特徴で、たこ焼きが大好き。

 本名「大河らと」さん、19歳、身長162㎝、体重55kg。

 リングネーム「タイガー・ラト」 異名「サブミッションの虎」「浪速のたこ焼き娘」「ジャベの阪急うめだ店」

 

 わたしとアカネちゃんとラトさん三人で、寮で相部屋生活をしています。

 ラトさんは、わたしの脳内にある関西弁の浪速っ娘というイメージ、「ボケとかツッコミの賑やかな人」を覆し、ご本人は至って穏やか、のんびりした女性でした。でも独特の間と感性はさすが大阪?を感じさせます。アカネちゃんと同じく、若手有望株と期待されていて、CVW選手でお胸が一番大きいのです。わたしなんて…… うん、それは置いておきます。

 

 対戦する相手は、これまた大きくて強そうな選手。どっしり重いパワータイプです。でもこういう相手にこそ、ラトさんの技が活きるのです。最初はやっぱり、力任せの打撃や強引な投げで攻めあぐねるラトさんでしたが、相手の攻撃を流して関節をとりに行き、何度も膝に集中してダメージを与え、最後は「たこ焼きローリング・クレイドル」からの「膝十字固め」、相手のギブアップで勝利しました。

 


 その後、他の先輩たちも試合が終わると、みんなで今日のメインイベントのセコンドに付きます。

 試合の最後を飾るのは、わたしの憧れ、CVWの誇るスーパースター、千葉さんです。

 

 

 本名「千葉英玲奈」さん、21歳、身長164㎝、体重54kg。

 リングネーム「エレガンス千葉」 異名「金色(こんじき)戦乙女(バルキュリア)」「Queen of the Wrestling」「一人CVW」などなど。

 白金(プラチナ)に近い長い金髪に美しいお顔立ちのハーフで、お父さんがアメリカ人なんだそうです。

 均整の取れた美しいプロポーション、大きいけど大きすぎない理想的なお胸、そして長いおみ脚。もう、全部が全部完璧(パーフェクト)超人なのです。プロレスだけじゃなくて、女性(ひと)としても憧れる、目標…… というには烏滸がましいけど、少しでも近づきたい、遥かなる頂き、それでも目指すべき最高峰なのです。

 

 対戦相手はパワーとスタミナのある重量級選手。

 ゴングと同時に両者組み合いロックアップ。力比べからの打撃、投げへとスピーディーに変化します。相手の投げ技から体勢を入れ替えて投げ返したり、ロープリバウンドからのスリングブレイドで投げ返す。

 そしてカウンターだけじゃなく、ロープやコーナーポストを使った空中殺法は、最も千葉さんらしい、華麗でダイナミックな技の連続なのです。全く途切れることのない技の連携は、いったいどれだけ練習すれば辿り着けるのだろう……。

 そして最後は、高難易度技のカナディアン・デストロイヤーで弱った相手に、千葉さんの代名詞、フィニッシュホールドのバタフライフローで圧巻の勝利。お客さんの興奮はいつまでも冷めやらず、声援が鳴り止みません。わたしもセコンドという立場を忘れて、一人の観客として魅入ってしまってました。




 


 全部の試合が終わり、お客さんがみんな帰ったのを確認して、設備のバラシ作業に移ります。

 長かった怒涛の一日の締め括りです。でも最後の最後、この積み込み作業が、実は肉体的に一番辛いのは考えない様にしています。

  

「アカネちゃん、今日の試合も、お客さん盛り上がってくれてたね」

「おまえの負け試合もすっかり定番で盛り上がったしな」

「うぅ〜……それは言わないでよ…… 」

「あたしらも、もっとデカい会場(ハコ)で試合してみたいよな〜、武道館とかさー。こないだの千葉さん、すげーよな〜、他団体の交流試合に呼ばれて国技館だもんな〜。なあ?ラト」

「せやな〜…… まぁウチらにはまだまだ先の話やけど」

「でもっ!…… わたしはともかく、アカネちゃんやラトさんなら、そんなに遠くないんじゃ……」

「おまえたち、無駄口叩いてないで手を動かせ、会場の閉館時間があるんだから、それまでに片付けてしまうぞ」

「あ、すみません千葉さん、えへへ」


 試合直後という意味では、メインイベンターの千葉さんが一番疲れているはずなのに、後輩への指示だけでなく、率先して一緒に片付けをしてくれるって、やっぱり凄い人です。


「のの、私と一緒にポストを運ぼう」

「はい!……でも、あの、わたしとじゃバランスが悪くて、千葉さんの方に負担が……」

「ぜんぜん大丈夫だ、むしろ重さは低い方にのし掛かってしまうんだ」


 自分の背の倍もあろうかというコーナーポストを二人がかりで運ぶんですが、背が低いわたしの方へ、斜めに傾いた鉄柱の重みが掛かかって、いつもヨロヨロしているのが危なっかしくて、千葉さんは見ていられなかったんだそうです。


「わたしに任せろ。ののは私をフォローしてくれるだけでいい」


 そう言って、千葉さんは鉄柱の先頭ではなく、前三分の一辺りを担ぎ、後ろが軽くなるように持ってくれて、わたしは支える程度の負担で済むようにしてくれました。……あぁ、千葉さんの優しさが身に染みます……。

 ふと思ったんですが、もしかして千葉さんは、一人でもこの鉄柱を持ち運べるのかもしれません。下手すると、わたしをぶら下げたまま運べるかも……なんて。

 


 鉄柱が終わったら鉄骨フレームやワイヤー、マット、キャンバスシートに体育マットなどなど、車へ積み込む作業を続けていきます。

 ようやく全てを終えた頃には、再び疲労困憊になるわたしたちなのでした。



 


 わたしたちは車の側で、お手製スポーツドリンクで一息つきながら、会場の管理人さんに挨拶に行った社長さんの帰りを待ちます。

 

「千葉さんはいいよな〜、他団体の交流試合に呼ばれたりすることもあるもんな〜」

「アカネも努力を続ければ、必ず大きな舞台に立てる。焦らず精進しろ」

「わたしがアカネちゃんと一緒に、初めて観に行った千葉さんの試合も、大きな会場で照明とかすごかったな〜」

「あ〜あれな、幸楽園ホール。CVWのベルトを懸けた BRMとのタイトルマッチ。燃えたな〜。あれでののもプロレスに目覚めてくれたからな〜、あたしの作戦勝ちだよな」


 ――なんですと⁉︎ あれは、わたしを引き込むための作戦だったのか。……うん、でも、感謝してます、はい。


「そうだったのか、それはお手柄だぞアカネ」


 千葉さんが優しく微笑む。アカネちゃんの「お手柄」の「成果」がわたし? なんて、畏れ多いことを考えて、慌てて話題を千葉さんの方へ戻します。

 

「でもほんと凄いです! CVW無差別級王座も設立以来不動ですし。わたしもいつか千葉さんみたいに強く、カッコよくなりたいです……」

「ののは、ちんまいから人一倍頑張らなアカンなぁ」


 ラトさんがわたしの頭をポンポン叩きながら笑う。 うぅ…… 身長はまだ、これから……だと思いたい、です。

 

「大丈夫だ、ののには光るものがある。私は応援してるぞ」 

「はひ、千葉さぁん……頑張りまひゅ……」


 はぅぅ…… 千葉さんがかけてくれた優しい言葉に思わずウルウルします。例え嘘でも嬉しい…………


「あーあ、もっと手っ取り早く、こう、スゲー感じでブワァーっと強くなれないかな〜」


 アカネちゃんの言葉に千葉さんが苦笑しながら、ゆっくり噛み締める様に答える。


「強くなるのに近道は無い。日々鍛錬を繰り返す、これしか無いんだ」


 そんなわたしたちを、さっきまで車の座席で眠ってた、黒猫の「副社長さん」が見つめていました。

 

 

翌日か翌々日に更新予定です。よろしくお願いします。明日のサブタイトルは「嵐の帰り道」です。

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