ある冒険者の末路
命知らずな冒険者達が命懸けの探索と闘いが繰り広げられている地下迷宮――・・・地下17階付近。
ぐねぐねと曲がりくねった通路に、壊滅的なダメージを
受けた冒険者パーティーが絶望的な表情を浮かべながら固まっている。
6人いたメンバーも、地下17階付近に棲息している魔物達との戦闘で命を落とし、3名しか残ってはいない。
生存している3名の冒険者の中には、誰1人健全な者はいない。全員が満身創痍だ。
その中の1名は、致命傷の傷を負ったためか壁にもたれ掛かっている。
「お・・・俺の事は良い・・・さっさとはやく地上に出ろよ」
口元に鮫の様な笑みを浮かべながら、呻く様に告げる重傷の男性冒険者。
戦士系の装備服を纏っているが、ほとんどがボロボロである。
「何をふざけだ事を言っているんだ?、え、お前にはポーカーでの賭け金を払ってもらってないからな。その金を払ってくれるまで見捨てるつもりも、置いていくつもりもないよ、戦友」
戯けた口調でもう1人の男性冒険者が答える。その答えた男性冒険者も
重傷の男性冒険者とほぼ同じ戦士系の装備服だ。武器類は若干違うようだが。
その男性冒険者の表情からすれば賭け金うんぬんというレベルではないだろう。迷宮内で同じ死線を潜り抜けた者同士、そこには一般の人間にはない絆があるのだろう。
重傷の男性冒険者の側で、携帯用の痛み止め薬を使っていた
女性冒険者が男性冒険者に顔を向け、悲痛な表情を浮かべて頸を横に振る。
その女性冒険者は、司教系の装備服を纏っている。
「お前の傷は浅いってさ。安心しろ、戦友」
重傷の男性冒険者に動揺を悟られないように、無理に笑顔を浮かべる。
「へっ、まったく、あいかわらず嘘が下手だな・・・・、俺の今の状態からすれば、助かる可能性はないって事じゃないのか?、ヴィンセンティ?、リンダが今にも泣きそうな表情じゃないか」
掠れた声で告げる。
ヴィンセンティは男性冒険者、リンダは女性冒険者の名前であろう。
「だ・・大丈夫よっ、ただ、大切な化粧品を落として泣きそうになっているだけよ、ラーセン」
「お前が迷宮内で化粧している所なぞ、今まで観たことも聞いたこともないぞ?、え、おい」
重傷の男性冒険者は、ラーセンと言う名前なのだろう。弱々しい苦笑いを浮かべながら言う。
「しかし、蘇生魔法が使えたリーダーのハードキャッスル、俺達のパーティーで唯一帰還魔法が使えたエリザベス、そして僧侶と魔術師の魔法をようやくマスターしたレベッカ・・・アンデッドロードやア-クメイジ、ヘルファイターの大群団との戦闘で死にやがった」
痛み止めを打たれたためか、意識が朦朧としているのがわかる。
「大丈夫、彼等の分まで私が頑張れば良いだけよ」
無理に笑顔を浮かべながら、リンダが答える。
「魔力がスッカラカンなんだろ?、無理するなって。知らないと思っているのか?、それに痛み止めの薬も今ので最後だろ。傷薬も使い切ったんだろ?」
ラーセンが咳き込みながら言う。
「それでも、お前1人をこんな所に置いて地上に出れるはずがない。
地上に出るときは、お前も一緒だ。
――――それにその傷なら、一週間病院で入院すりゃあ、治療できる。
知っているか?、ここの国の看護婦は美人ぞろいなんだぜ?
そんな美人の看護婦に献身的な治療してくれるんだ。
上手くすれば、下半身の世話だってやってくれる」
「――――下半身うんぬんは、お前に譲るよ、俺には田舎に許嫁がいること知っているだろうが・・・」
「それと、下ネタはあたしがいない所でしてれるかしら?」
リンダが何処か呆れた声で言う。
「リンダが呆れ返っているぞ、ヴィンセンティ・
・・・糞・・・畜生・・・冗談なくして・・・そろそろ俺もやばい。痛み止めを打ってくれたから、それほど痛みはないんだが・・・・どうやら毒にも侵されてるみたいだ・・・」
皮肉な笑みを浮かべながら、床に唾を吐く。唾液にはどす黒い血が混じっている。
ヴィンセンティは歯ぎしりをする。毒消しも用意はしていたのだが、戦闘中に全て使い切っていた。
「とりあえず――――」
「よう、たしか葉巻持っていたよな?、悪いけど一本くれないか?」
ヴィンセンティは、溜息を一つ吐くと、懐から一本の葉巻を取り出し、重傷の男性冒険者の口に銜えさせると、葉巻に火をつける。
葉巻の赤い火口が闇の中で、ピクピク踊る。口から黒い血が垂れ始めていた
「悪いな。たしか最後の一本だったな」
ラーセンは、何処か満足そうな表情を浮かべる。
「俺は、お前らのパーティーに入れて最高だったぜ?。それに関しては間違いない。
で、なあ・・・これは俺からの最後の願いだ。俺はここでちょっと睡眠をとる。お前ら二人がいると、五月蠅くて寝れねぇんだよ。睡眠妨害だ」
弱々しい口調ながら、陽気な声で言う
「でも――!!」
悲痛な声でリンダが何か言おうとするが、ヴィンセンティがリンダの右肩に手を乗せて、静かに首を横に振った。
リンダは、ヴィンセンティの悲痛な表情を見て歯を噛みしめる。
「もうどうする事もできない」
――――表情がそう告げる。
ヴィンセンティも覚悟を決めたのだろう。最後まで背負ってでも地上に出るという希望を諦めたのだ。
「わかった。だが――――必ず追いかけてこいよ?、
地上に出たら、冒険者の酒場「トリヤ」に来い。
あの店で、俺とリンダはいるからな、ラーセン」
「なら、ついでに俺の食事も注文して待っていてくれ・・・オムライスに、焼きトウモロコシ、そしてトンカツだ」
「――――良くそれだけ食べるわね」
リンダが無理に笑みを浮かべながら言う。
「冒険者は・・・いつでも空腹なんだよ・・・。あ・・それともう一つ・・・俺の故郷にいる許嫁の・・・アンジェリナに手紙を届けてくれ・・・宿屋の俺の部屋に置いてある・・・」
「断る。そんな雑用はお断りだ。第一、なんで手紙を渡しにわざわざ、隣の大陸まで行かなきゃならないんだ?、そう言うことはお前自身が傷を治してから、郵便なり自分で届けるなりしろ」
ヴィンセンティが悲痛な表情を浮かべながらも、出来るだけ穏やかな口調で言う。
「・・・・そうだなぁ・・お前に何かに頼んだら何処かに捨てそうだ・・・
まずい・・本当に・・眠くなってきた・・・さっさと行ってくれ、戦友ども」
ラーセンが、咳き込みながら言う。
「――――わかった。いいな。必ず来いよ。ラーセン。よし、リンダ行くぞ」
「注文して待ってるわよ。ラーセン」
リンダとヴィンセンティがそう言うと、ゆっくりと重傷のラーセンから離れていく。ラーセンは、二人の後ろ姿が見えなくなったのを確認し、苦笑いを浮かべる。
「やれやれ・・・ようやく行きやがったか・・・ん・・・?」
薄暗い辺りを見渡しながら、にぃっと笑みを浮かべる。
「なんだ?、ハードキャッスル、エリザベス、レベッカ・・・・お前ら・・無事だったのかよ?、ん、迎えにきた?・・・・」
ラーセンの辺りには人の気配も、魔物の気配もない。恐らく幻覚を見ているのだろう。
「・・・・をいをい?、なんでアンジェリナがいるんだよ・・・・え?
お前も・・迎えに来たのかよ・・・・畜生・・・何奴も此奴も・・・・俺の睡眠・・・妨害・・しやがって・・・・おい・・・アンジェリナ・・・
お前の・・・作るオムライス・・・喰いてぇ・・・腹・・減ってるんだ・・・はや・・く・・外に・・出ようぜ・・・」
ラーセンは弱々しく、陽気に呟くと激しく咳き込みはじめ、口から葉巻を床に落とす。血の固まりを喉につまらせて痙攣し、息絶えた。
別のサイトで投稿している小説の内容を、ちょっとだけ変えて投稿しました。
駄文ですが、感想いだだければ嬉しいです。