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青春物語  作者: 髙林 将大
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第五話 君の名は


同じような毎日が過ぎていく。

朝起きて、学校行って、授業を受けて、みんなと笑って、外のベンチで泰希やかずき達と弁当を食べて、学校が終われば、バイトがある日はバイトをしてから、かずまやれおんや春日達と合流して遊んで、また笑って、十一時が近づけば家に帰れる。ご飯食べて、お風呂に入ってゲームして、ベッドで寝る。

幸せだけど、なにか物足りないような感じで刺激が欲しい。

普段の日々がガラッと変わるような、何かが起こるのを待ってた。心のどこかで何かを求めている。

毎日学校で笑って、友達と遊んでゲームする。これがずっと続けばいいと思うけど、どこかこの日々から抜け出したい気持ちがある。同じような毎日。どこか物足りない毎日。何かが起こるのを待ってる毎日。待っていても何も起こらない毎日。

そんな飽き飽きする変わらない毎日を、変える出来事の始まりの出来事と出会う。


アラームが鳴り響く部屋で静かに起きた。止めても止めても鳴るうるさいスヌーズのアラームを止めて時間を見て、目を疑った。急いで壁の時計の方を見てみる。

時計の針は九時を回っていた。今日は木曜日で学校である。急いで支度を始めようと起き上がったが、時計に目が入った。

俺がこんなに焦っているのに時計はステップを踏むように一秒一秒と秒針を進めてる。

今すぐその動く秒針を止めてくれ! なんて思いながら時計とにらめっこしていた。そんなことしてる暇はないと急いで着替えて準備をした。

慌ただしく玄関のドアを開けた瞬間、目の前に広がる青空に寝坊して焦っていた心がなぜか落ち着いた。

冬の空は夏の空よりもなんだか高い気がして、手を伸ばしても届かないような高い空。高い青空を見て何か諦めを感じた。

いつもならエレベーターで降りるけど、階段を使って降りた。俺の家は九階なので一階に着く頃には少し酔っていた。カゴが今にも外れそうな俺の愛車のママチャリを見て、今日はチャリの気分ではなかったのでチャリには乗らず、歩いて行くことにした。

眩しい空を見上げると綺麗な秋晴れで、いつもより空気が美味しく感じた。心が穏やかになり、すごく気持ちが良くて、すれ違うおばちゃんやおじちゃんに「今日の調子はどうですか? 世間話をしながら喫茶店のゆで卵でも食べませんか?」と調子こいて言ってしまいそうなくらい気分がよかった。よく近所の駅の周辺で演説していて嫌いな政治家のポスターにも気持ちよく挨拶をした。

空を見ていたら何本もの電線に気づいた。電線を目で追うと各家庭に繋がっていて「これをもしちょん切ったら、あの家は電気が使えなくなるのかー」なんてアホみたいな事を考えながら電線を追っていたら、電信棒と秋晴れの青空がすごく絵になっていて「ちょっと、電信棒の上に立つカラスさん、どいてください」なんてカメラマンになりきり数枚写真を撮った。周りから見たら「奇抜な行動をする制服を着た学生らしき人がいます」と通報するレベルであるなと自分の行いを恥ながら歩いていると、いつも遊ぶ公園が見えたので少し寄ってみることにした。

いつもは空が暗くなってから遊ぶ公園だけど、太陽が出て明るい公園はどこか懐かしくて夜とは違う公園があった。同じ公園のはずなのに、二つの顔を持っていた。自販機でお茶を買いベンチに座った。

あたりを見渡すと、犬の散歩をしている人や、滑り台で遊ぶ小さな子供を見守る若い主婦。俺らが騒ぎながら学校で授業を受けてる間に、ここでは静かな笑い声と平和があった。そんな静かな笑い声に耳を澄まし、平和に浸っていると少し暑くなってきた。屋根のあるベンチに移動しようとしたら、小さな画家の先着がいた。

小柄で髪の毛はロング。歳は一つ下くらいだ。小柄な彼女の顔よりもデカいスケッチブックで顔は見えないが中学生っぽい容姿に見える。その姿にはどこか懐かしさがあった。こんな時間に中学生が何してるんだろうと不思議に思い、早くスケッチブックをどかしてくれないかなと思っていた。彼女は何を描いているのかも気になる。そしてどこかで見た事あるような雰囲気があって思い出そうと、その子を見ていた。見ていたというよりは見惚れていたのかもしれない。思い出したいはずなのに、思い出せない。考えても思い出せそうにないので思い出そうとするのをやめた。その瞬間彼女がスケッチブックを下ろした。

彼女の顔を見て俺も目を疑った。

「さや……?」

目が合うとぺこりと会釈された。反応は少し遅れたが俺も会釈を返した。さやに似たあの小柄な姿……でもロングだし、歳も下に見えるのでもしかしたら人違いかもしれない。顔を見てから数秒の間で次々と色々な思考が頭の中で交差していて、情報量が多すぎて整理できなかった。俺がよっぽど驚いた顔をしていたからか、さやと思われる彼女が近づいてきた。やばいやばい、こっち来てる! 平然を装って話しかければいいのか? さやじゃなかったらどうしよう。スケッチブックを片手に近づいてくる。困惑しているとやがて目の前に来た。先に話しかけたのは俺だった。

「あ、あー! 今日は綺麗な秋晴れですよね〜……」

動揺しているのが丸わかりで、すごい恥ずかしい。冷や汗が額に滲んできているのがわかる。すると彼女が喋った。

「どうしたんですか? そんなに驚いていますが……」

声を聞いた瞬間涙が出そうになった。可愛らしい女の子の声は明らかにさやだった。

「大丈夫……ですか……?」

大丈夫なわけがない! 君はさやだろ! でもロングにしてるところは初めて見た。ほんとにさやなのか? さやらしき彼女、いやさやであろう彼女を直前にすると全く喋れなかった。心配そうに見つめてくる、さやであろう彼女。一度深呼吸をしてさやかどうか聞いてみる。

「き、君の名は…」

「……くす」

さやであろう彼女は一瞬戸惑いを見せたあと笑った。


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