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青春物語  作者: 髙林 将大
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第三話 学校


俺の通ってる学校はごく普通の高校で、かずきや泰希と同じ学校。ほんとは和真と大貴も同じ高校だったけど、俺と和真と大貴は前日オールのノー勉で受験に挑み、奇跡的に俺だけ受かってしまった。

昔から遅刻癖のある俺は朝は少し早めに起きて、朝ごはんを食べて優雅な朝を過ごすよう心がけていた。今日も優雅な朝を迎えるはずだったけど、いつも通り寝坊した。

急いで寝癖を直し制服に着替えて朝ごはんを食べる余裕もなく家を出た。慌ただしい朝だ。幸いにも学校までの距離は近くて、チャリで十五分くらい。いかに信号に捕まらず行けるかが朝の勝負である。特に大きい交差点の信号に捕まると遅刻が確定する。信号の少ない独自の最短ルートをチャリでギア六がギア一に感じるくらい立ち漕ぎでチャリを漕ぐ。

学校の前までくると大きな坂が待ち構えている。まるで楽しかった休日からだるい学校という現実を突きつけられているようで、この坂を登っている時はリュックが重たく感じる。

無論、勉強のしない俺のリュックの中には筆箱と一冊の文庫本しか入っていないが、今はきっとリュックの中には倦怠感も入ってるいだろう。息を切らしながらも登りきると、生徒指導部の先生が立つ校門が見える。

「あと二分だぞー」と毎度お馴染みの声が聞こえてくる。適当に挨拶して校門をすり抜けて、息を切らしながらチャリを止めたら靴を履き替えに行く。すれ違った顔見知りの先輩におはようございます!と声かけると、

「お、若林か。おはようー」と優しく返してくれた。

自慢ではないが帰宅部の割には野球部やラグビー部など運動部の顔見知りの先輩が多い。かずきつながりであったりするが、クラスでお笑い役な俺は自然と他クラスにも名前が広がり、今では先生も含め大体の生徒が俺の名前を知っている。靴を履き替えて教室へ急ぐ。

一年生は一番上の階なので、二段飛ばしで階段を駆け上がる。俺が階段を駆け上がる速さでスカートが捲れるんじゃないかってくらい短いスカートの女子を追い抜き、教室に入った。入ってすぐにかずきが居てなんだか慌ただしい様子で、

「おはよ豊! 机見てみ!」

おはようと返してかずきの言う通りに自分の席を探す。そういえば先週の金曜に席替えをしたのでどこだったかと探していると、泰希も慌ただしい様子で、

「早くこっち来いよ!」と泰希の方を見て思い出した。泰希の後ろで窓際の席になったんだ。俺の席の周りには人が群がっていた。なんの騒ぎだと思いながら席に向かうと、机の上をみておったまげた。色とりどりのお菓子がたくさん置いてあり、自分の目を疑い、何度も瞬きをした。きっとこの時の瞬きの速さで、俺の席の周りの女子の短いスカートはひらひらと揺れていたと思う。

これはJKのインスタでよく見る誕生日を迎えると机にお菓子を置くというお祝いの仕方で、まさか俺にもこんなお祝いがされるとは思わなかった。

「えー! どうしたのこれ! 泰希がくれたの?」

「俺らじゃねーよ! 豊が来る前の朝すごかったぞ。他のクラスの女子や、先輩がこれ若林くんの席にって何人か来てさ、お前ずるいわー。コアラのマーチくらいくれよ」

「まじかよ。ついに俺にもモテ期がきたかな。嬉しいな〜。っていうかなんでみんな俺の誕生日知ってるんだ?」

「多分インスタ見たんだろ。俺らが豊の誕生日のカウトダウンのストーリーを上げてただろ。あれ見て知ったんじゃないかな」

「まじか! 泰希ありがとな! おかげでモテモテだわ。」

「初めて友達の誕生日をストーリーで祝って後悔したよ。」

こんな嬉しいこともあるんだなと実感して写真も撮った。他クラスの女子や先輩からもらえたことが特に嬉しかった。チャイムが鳴り先生が入ってきたので席に着く。机の横にリュックを置いてお菓子を眺める。綺麗にラッピングされたロッテのチョコレート菓子やポテチに飴やグミ、ドーナツまであった。ドーナツが置いてあるなんてどーなつてるんだ。なんか寒気がした。俺は食わず嫌いで食べれないものが多いので食べれないグミや飴玉を泰希にあげた。

残りのお菓子をリュックの中にしまった。さっきまでの倦怠感は無くなっていて、代わりに優越感が入っている。

今日は忙しい朝から始まったな、と思いながら窓の外を見た。一番上の階なだけあって、グラウンドを見渡せたり、少し遠くにデカいビルが並ぶ名駅が見える。この窓際の景色が好きでずっと窓際の席になりたかった。

念願の窓際の席を手に入れ、誕生日も色々な人から祝ってもらえた嬉しさに浸りながら空を見ていた。雲一つない青い空。綺麗だなと思い見惚れてると、

「若林ー。先生の話聞いてたのかー?」

名前を呼ばれてドキっとした。

「え! あ、いや、聞いてました!」

「じゃあ先生はなんて言ってましたか」

担任は生徒指導部の早川で、古い考えばかりですぐ怒鳴る先生で、顔が細長くあだ名はスリッパ。さっきまで優越感に浸っていたのに優越感が緊張に変わった。

「えーっと……。すいません、聞いてませんでした」

「外見て黄昏てるんじゃねーぞー。これだから最近の若者は。ロマンチストだがなんか知らんがちゃんと聞いておけよー。最近この辺りでJKの痴漢被害が多発していて、危ないので一人で帰らず複数人で……」

スリッパが驚かしてきたが、気を取り直して外を見る。今日の朝は色々忙しかったなー。きっとこれが青春の一部なんだろう。なんだか楽しくて笑みがこぼれ出そうで少しニヤけていると冷めた視線を感じて前を見ると泰希が俺を見ていた。

「豊……一人で笑ってて気持ち悪いぞ」

「トッポ半分あげるから今のは無かったことにしてくれ。」

交渉成立してトッポを半分あげた。すると泰希が席を立ち

「一限は数学だな。ちょっと教科書取りに行く」と言ってロッカーに教科書を取りに行った。

月曜の一限はまさかの数学。優越感に浸っていて、週の始まりの一発目が数学だということを忘れていた。数学は苦手だ。計算の公式を覚えるのが苦手で数字を見ただけで気分が落ちる。気分が落ちたので、もう一度優越感に浸ろうとリュックの中を見ようとしたら、後ろから声をかけられ振り返るとトッポを咥えながらニヤニヤしているかずきがいた。一瞬で察した。

泰希が裏切りやがった。恥ずかしい。なんて言い訳しよう。きっとこれも青春の一部なんだろう。こうなったらとことん笑ってやろう。


――こんな学校が楽しかった。友達と何気ない事で笑っていたのが幸せだった。

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