第二話 頭痛
目を覚ましたらお昼を過ぎて夕方になっていた。昨日の誕生日パーティーの後は次の日バイトがある泰希とかずきとは別れて、俺と和真と玲音と春日と大貴で俺の家でお泊まりをした。この中学の頃のメンバーでお泊まりはこれで何度目だったろうか。いつもはみんなでゲームだったり、漫画読んだりしていたけど、誕生日パーティーの後だったからか、小学生の頃の思い出から中学生までの思い出をみんなで語り明かした夜だった。昨日の余韻に浸りながら横になっていたら、和真と大貴が起きた。昨日は腹が裂けそうなくらい満腹だったのにお腹が空いてきた。
「腹減った」と呟いてみると和真が反応した。
「それなー。なんか食べたくね?」
常に懐が寒い俺らはできるだけお金を使わないようにコンビニで済ますことにした。春日と玲音を起こしてコンビニでカップラーメンやおにぎりなどを買い、公園で食べることにした。十月の中旬になって夜になると少し肌寒さを感じる。お湯の入ったカップラーメンの温もりが程よくて、カイロ代わりになっていた。
「十月もあと少しで終わるなー。最近時間が過ぎるのが早く感じるのは俺だけか?」
「いや玲音はおっさんだから時間が過ぎるの早く感じてるだけやろ」
中学の頃あまり関わりのなかった玲音の顔つきは四十代くらいのおっさんと言われても納得ができる。
「やめたれ。俺は逆に遅く感じるけどなー」
「豊は子供すぎるんだわ」
「おっさんに言われたらなんとも言えんな」
時間の流れというのはなんとも面白く、好きなものに夢中になっていると時間が過ぎるのが早く感じるが、授業中や嫌いな事に取り組んでいるときは時間が過ぎるのが遅く感じて、なんだか不平等な気がする。
公園のグラウンドのベンチに腰をかけ、さっき買ったおにぎりを頬張る。おにぎりの海苔が歯切れのいい音を立てた。
「コンビニのおにぎりの海苔ってなんでこんなうまいんやろうな」
「俺も家でおにぎり作ってもコンビニほど美味しく感じないな」
「和真の握るおにぎりかー。ちょっとなしだわ」
「ざけんな。おっさんに言われたくないわ」
「どっちが握ったおにぎりもなしだわ。」と春日が鋭く的確に突っ込んでくれた。
「まぁでもコンビニのおにぎりに手作りの温もりは感じないよな〜。愛情が込められてないというか……」
「豊お得意のロマンチスト出てます」
「おいおい。逆にナルシストならこれぐらい言えなきゃあかんやろ」
「なんでやねん。俺の握るおにぎりが一番美味いわ」
「大貴の握るおにぎりはまじで食いたくねーわ」
「なんでやねん。おっさんが握るのが一番食いたくねーわ」
「まぁまぁ。どんくりの背比べみたいなのはよそうよ」
「喋んな。和真の握ったやつも食いたくねーわ」
コンビニのおにぎりの、海苔が美味しいという話からこんなに話が盛り上がるとは思わなかった。
「そういえばさ、今度の給料日はどこ行く?」
「テキトーに栄でも行く?」
毎月給料日の日は必ずどこかへ行く。給料日だけは懐があたたかい。大袈裟に言うと普段は懐が寒すぎて保冷剤をポッケに入れてる感じだが、給料日の日だけは懐がカイロよりあたたかく感じる。カイロは言い過ぎたけどおばあちゃんたまにくれるお小遣いくらいの優しさの温もりくらいある。
「あー、でもさ次の給料日月曜日じゃね?学校あるじゃん」
「うわー。まじかよ。だるいな。和真は?なんか買うとか言ってなかったっけ」
「ナルシストは記憶が曖昧だな。スケボーのデッキ買いたいんだよね」
「お、和真さんニューデッキすか。俺も買おうかな」
和真と大貴はスケボーをやってて、毎月ステッカーやカラーコーンやらスケボーに関するものを買ってる。デッキはスケボーの中で一番お金がかかる部分らしいので和真は今月金欠確定だ。
「豊もまた始めてよー」
「えー。これから寒くなるしなー。和真がデッキ買うなら俺はギター用品でも買おうかな」
俺も過去に一度だけスケボーを買ってやってたけど、ある程度できるようになってからスケボーのタイヤが取れて萎えてやめた。
「和真と大貴がスケボーやってる時はいつも通りギターやるわ」
スケボーやる時は堤防に行くのだが、スケボーが壊れてからはギターをやっている。ギターを買ってまだ一年と少ししか経ってないがある程度弾けるようになった。
「玲音と春日はお小遣いで毎月足りてるの?」
「俺は足りてるよ。お金無くなっても親に言えば少しはくれるし」
「いいなー。玲音の家はお金にはそんなに困ってないもんね」
「俺も足りてるに。お前らと違ってちゃんと考えて使ってますからね」
「どこの方言使ってんだよ。貯金できるの羨ましいわ」
玲音と春日は部活に入っていて、バイトをやってないので月一のお小遣いで1ヶ月やりくりしている。俺や和真や大貴はお金がある時はある分だけ使ってしまうので、計画的に使う春日はすごいと思ってる。
「まぁまた貰った時に考えよう」
そんなこんなで十時を過ぎていたのでそろそろ解散する。毎日夜遅くまで遊んで、お金がある時は豪遊する。お金がない時はお金を使わずともそれなりに楽しくやっている。彼女はいないけど充実している。
「十時過ぎたし、そろそろ帰るか」
みんなチャリに乗って、自分の家の方向へ向かう。途中までは俺もみんなと一緒なので途中までついていく。
「帰ったら通話する?」
「明日学校だしちょっとだけにしよ」
「おっけー。じゃあ豊通話開いといてね」
「了解。じゃあ俺はそろそろこの辺で。じゃあね。気をつけてなー」
「じゃあなー」
俺もあっちの道で帰りたいな――中二の頃親が金銭トラブルで離婚した。母が姉と俺を引き取る事になり、母の職場から近いところに引っ越しをすることになった。学区が変わるので別の中学校に転校する事になる。俺はどうしてもあいつらと離れるのが嫌だった。勿論離れたといっても川を挟んだ先の学区なのですぐに会えるけど学校生活を共にできないことが嫌だった。この事で母と何度も言い合いになったけど、もう仕方ない事だ、決まった事だ、の一点張りで諦めがついた。仕方なく転校した学校では初めは辛かった。あいつらがいないからなにも楽しくないと思ってたけど、友達も次第にできて行って、なんやかんや思い出もたくさんできて楽しかった。ただ心残りなのは転校先で出会ったあの子――。
過去に辛いことがあっても今が楽しければなんでもいい。後先が辛くなろうがなんでも今が楽しければいいと思ってる。それで乗り越えてきた。充分今が楽しい。彼女はいないけど。そんなことを考えながら家に帰って、あいつらが荒らした部屋を片付け、お風呂に入って、グループ通話を開いた。すぐに和真と玲音が入ってきて、バトロワのゲームをやった。気づけば日付も変わり一時を回っていたので、ここら辺で通話は終わりにした。だけど今日夕方に起きたせいか、眠気が襲ってこないのでYouTubeを見たり、Twitterを見てたり、amazonを見てたら三時を過ぎた頃らへんに少し眠気が近づいたので寝る準備をする。
「明日も学校だな」
明日も将来に使わないような授業を六時間も受ける。今から寝ても四時間くらいしか寝れないから、朝起きても寝足りないと思うだろうな。押し寄せてくる倦怠感。
それを弾き飛ばすかのようにふと今日の面白かったことが脳内に浮かんだ。なんだかさっきまで倦怠感を感じてた自分までも笑えてきた。よし寝よう。毛布で足を隠して目を瞑った。何も考えずに寝る事に集中した。なんだか少し頭が痛くて、寝づらかったけど気づけば寝てた。この日から寝る前に変な頭痛を覚えた。